印刷版(PDF) のダウンロードはこちらから click! 大阪市の4区で生活保護利用者の顔写真付きの「確認カード」の作成・交付が事実上強要されていることが発覚しました。私たちは、本日、この「確認カード」の問題点を指摘するとともに事実関係について質問する公開質問状を大阪市に提出しました(4区には郵送執行)。(回答期限:2017年8月末日)
2017年8月8日
「本人確認カード」に関する公開質問状
大阪市長 吉村 洋文 殿
同市浪速区長 榊 正文 殿
同市福島区長 大谷 常一 殿
同市東住吉区長 上田 正敏 殿
同市港区長 筋原 章博 殿
生活保護問題対策全国会議,全大阪生活と健康を守る会連合会,大阪府保険医協会,大阪府歯科保険医協会,大阪民主医療機関連合会,自由法曹団大阪支部,反貧困ネットワーク大阪,引き下げアカン!大阪の会(生活保護基準引き下げ違憲大阪訴訟を支える会),近畿生活保護支援法律家ネットワーク,野宿者ネットワーク,なにわユニオン,ユニオンぼちぼち,大阪子どもの貧困アクショングループ(CPAO),特定非営利活動法人ジョイフルさつき,全国生活と健康を守る会連合会,アルバイト・派遣・パート非正規等労働組合(略称/あぱけん神戸),個人社会福祉士事務所フリーダム,有限会社おとくに福祉研究所,きょうと福祉倶楽部,NPO法人多重債務による自死をなくす会コアセンター・コスモス,夜まわり三鷹,生存権がみえる会,全国「精神病」者集団,特定非営利活動法人 出発のなかまの会,「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラム実行委員会,怒っているぞ!障害者切りすて!全国ネットワーク,兵庫県精神障害者連絡会,NPO法人ささしまサポートセンター,全京都生活と健康を守る会連合会,生活保護支援九州・沖縄ネットワーク(以上30団体)
第1 はじめに 今般,貴市の浪速区,福島区,東住吉区において,生活保護担当職員が,生活保護利用者に対し,申請時等に写真撮影を行った上で,顔写真付きの「確認カード」なるもの(以下「確認カード」といいます。)を作成・交付していることが判明しました(その後,港区においても「確認カード」の作成・交付がなされていることが分かりました。)。この点について,以下のとおり,意見を申し述べるとともに,質問及び資料提供の要請をいたします。
ご多忙中にお手数をおかけして恐縮ですが,2017年8月末日までに本書末尾記載の連絡先あてにご回答いただきますようお願いいたします。なお,回答内容については,申入れ団体のHP等で公開する場合がありますので,予めご承知おき願います。
第2 「本人確認カード」の問題点1 生活保護行政において「確認カード」による本人確認が全く不要であること 貴市は,顔写真付きの「確認カード」の必要性について,「窓口での保護費の支払い時などに本人確認に活用することにより,保護費の誤支給や不正受給(なりすまし)を防止すると共に,保護費の支給日の混雑緩和にも活用することで実施機関の事務の軽減に寄与する」旨説明しています。
しかしながら,まず,「誤支給」というのは,職員側の事務ミスによって保護費の袋や医療券を間違えて別の生活保護利用者に渡してしまう場合なので,そもそも「確認カード」によって防止できるものではありません。
次に,「なりすまし」による不正受給ですが,そもそも,当該生活保護利用者と面識のある職員が窓口にいて発覚するリスクが相当あるのに,わざわざ他人になりすまして保護費や医療券を取りに来る者がいるとは考えられません。
生活保護費の支給は原則口座振込みとされており,窓口支給とされるのは極めて例外的な場合です(口座振込みの手続が間に合わない新規ケースや保護費からの返還金があるケースなど)。窓口での生活保護費の支給に際しては,通常,本人と直接面識のある担当ケースワーカー等が対応をするため,「確認カード」による本人確認の必要性は全くありません。
また,医療機関の受診については,定期的継続的に同一の医療機関に受診する場合には,本人に医療券が交付されることはなく,生活保護利用者のかかりつけの医療機関と福祉事務所が直接やり取りをします。生活保護利用者のかかりつけの病院に別人がなりすまして行けば,医師等に発覚するので,そのようなことは考えられません。突発的単発的な受診の場合には,通常,生活保護利用者がケースワーカー等に事前に電話等で相談のうえ,窓口では生年月日等で本人確認をして医療券を渡してもらいます。先にも述べたとおり,窓口で当該生活保護利用者と面識のある職員に見破られるリスクがあるのに,わざわざ他人になりすまして医療機関を受診しようとする者はいません。したがって,医療券の発行にあたっての不正受給(なりすまし)も考えられません。
事務処理の迅速化による「混雑緩和」についても,一般に行われている生年月日,住所等の通常本人しか知り得ない個人情報の聴取による確認と「確認カード」による本人確認とで,所要時間にさしたる差が生じるとも考えられません。
以上のとおり,生活保護費の支給や医療券の発行の際の,誤支給,不正受給(なりすまし)を防止するためにも,窓口の「混雑緩和」のためにも,「確認カード」によって本人確認をする必要は全くありません。
私たちが知る限り,全国的にもこのような「確認カード」を作成しているのは,貴市の4区だけです。生活保護制度が始まって以来今日に至るまで,他の地域において特段問題が生じていないことからしても,「確認カード」が無用の長物であることは明らかです。
2 生活保護に対するスティグマを強め,保護申請を萎縮させること 私たちの調査によれば,貴市浪速区では,まだ生活保護の受給が決まっていない生活保護申請時に面談室において,写真撮影を行っているようです。また,生活保護利用中の者については,来庁者が行き来する場所の壁に立たせて写真を撮影しているようです。上記のとおり,必要性がないのにわざわざ「確認カード」を作成・交付するのは何のためなのでしょうか?
本来,申請保護の原則がとられている生活保護においては,申請権の保障は極めて重要であり,「申請保護の原則を生かすためには,一般の国民から見て申請がしやすいように保護の実施機関側でも工夫すべきであ」るとされています((小山進次郎「改訂増補 生活保護法の解釋と運用」165頁)。
仮に,「確認カード」の作成・提示を義務付け,それがなされない限り保護費の支給や医療券の交付を行わないとすれば,法的根拠なく保護請求権を制限するものであって明らかに違法です。したがって,かかる制度が許容されうるのは,あくまでも当事者の真摯な同意がある場合に限られます。
しかし,生活保護申請時において,申請者は,保護決定がなされるかどうかによって今後の生活,ひいては生命・健康が大きく影響される立場にあります。このような立場にある申請者が,写真撮影の同意を求められた場合,保護決定への影響を恐れ,これを拒否することは極めて困難です。
また,確認カードの作成について,医療券の交付や生活保護費の支給の際に必要であるとの説明がなされていた場合,生活保護利用者にとってこれらの交付・支給が生存のために必要不可欠であることから,カードの作成や,写真の撮影を,拒否することは極めて困難です。
したがって,写真撮影が形式的には当事者の同意のもとに行われているとしても,それは事実上の強制によるものと言わざるを得ません。
刑事訴訟法218条2項は,「身体の拘束を受けている被疑者の…写真を撮影するには,被疑者を裸にしない限り,前項の令状によることを要しない」と規定しており,警察に逮捕・勾留された被疑者は写真を撮影されます。生活保護を申請する者の顔写真の撮影を事実上強制することは,生活保護を利用する者を犯罪者のように扱うものです。
このように,法律上の根拠も,実質的な必要性もないのに,顔写真を撮影され,管理番号で管理された「確認カード」の携帯や提示を事実上強制されることは,通常,少なからぬ不快感・屈辱感を与えるものであり,生活保護に対するスティグマ(「恥の意識」「偏見」)を強め,保護申請を萎縮させる効果があると考えられます。
3 個人情報保護条例上の問題 貴市個人情報保護条例6条1項は,「実施機関は,個人情報を収集しようとするときは,個人情報を取り扱う事務の目的を明確にし,当該明確にされた事務の目的の達成に必要な範囲内で,適正かつ公正な手段により収集しなければならない。」と規定しています。
1で述べたとおり,「確認カード」の事務目的に合理性はなく「明確」とはいえませんし,仮に事務目的が明確であるとしても,生活保護の利用が決まっていない申請段階の者の写真を撮影することは「事務の目的の達成に必要な範囲内」を逸脱していることが明らかです。
仮に,生活保護利用者本人に作成交付された「確認カード」以外に予備の写真や画像データを保管したり,「確認カード」の写しをケース記録に編綴するなどして,「生活保護利用者の容ぼう」という個人情報を「収集」しているとすれば,個人情報保護条例に違反する違法行為であると言わざるを得ません。
4 肖像権侵害の問題 個人の私生活上の自由の一つとして,承諾なしにみだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由(いわゆる肖像権)を有するところ,貴市による確認カード作成のための写真撮影は,形式的な同意の下に行われていたとしても,この自由を侵害している恐れがあります。
2で述べたとおり,申請者や生活保護利用者が写真撮影を拒否することが困難な立場にあることから,形式的な同意があったとしても,それは任意かつ真摯な同意とはいえない場合が多いと考えられます。そして,前述のとおり,「確認カード」の必要性がないことも合わせて考えると,写真撮影を正当化する理由も乏しく,肖像権の侵害にあたる恐れがあります。
5 別の目的(生活保護利用者に対する尾行調査等への利用目的)で利用される危険性 貴市においては,各区に警察官OBが配置され,不正受給が疑われる生活保護利用者の尾行や張り込みが行われているところ,保管されている顔写真が,こうした活動の際の「面割り」写真として利用されているのではないか,私たちは危惧を抱いています。
万一仮に,現にこうした使い方がされているとすれば,個人情報保護条例上明らかに違法であるだけでなく,極めて重大な人権侵害であると言わざるを得ません。
第3 要望事項1 「確認カード」は有害無益なものですので直ちに制度を廃止してください。
2 各区において保管している生活保護利用者の顔写真を当事者に返却するとともに,容ぼう情報を廃棄してください。
第4 質問事項1 「確認カード」の作成・交付の経緯について (1) 生活保護費の窓口支給や医療券の交付に際して,「人違い」による誤支給や「なりすまし」による不正受給が発生したことはありますか。ある場合は,その詳細(時期,具体的内容等)をすべて明らかにしてください。
(2) 「確認カード」を作成・交付していない行政区において,窓口での本人確認はどのような方法で行っているか,明らかにしてください。
(3) なぜ顔写真付きの確認カードを作成・交付することになったのか,その具体的な経緯(誰がいつ発案したか等)を明らかにしてください。
(4) 貴市において現在までに「確認カード」の作成・交付を行っている行政区について,その①導入開始時期,②導入の経緯,③年度ごとの交付率(カード交付枚数÷生活保護利用者数)を明らかにしてください。
(5) あるいは今後確認カードの導入を予定している区があれば,その具体的経緯と予定時期を明らかにしてください。
(6) 「確認カード」の作成・交付を現に行い,または,今後導入を予定している区における直近の生活保護利用者数と,口座振込みでなく窓口で保護費を支給している者の数を明らかにしてください。
2 各区の「確認カード」の運用について (1) 「確認カード」を作成・交付している各行政区において,①「確認カード」の作成・交付は任意であるか,強制であるか,②「確認カード」の作成を求められたが,これを拒否した保護申請者または利用者がいるのか(いる場合はその人数)を,それぞれ明らかにしてください。
強制である場合には,それが正当化される根拠を併せてお答えください。
任意である場合には,同意を撤回し,「確認カード」の利用を拒否することは当然許されるものと解されますが,そのような理解でよいかお答えください。
(2) 「確認カード」を作成・交付している各行政区において,窓口での保護費の支給や医療券の交付の際に「確認カード」の提示がない場合,①保護費の支給や医療券の交付を行わないものとされているのか,②現に保護費の支給や医療券の交付が行われなかった事例があるのか,明らかにしてください。仮に保護費の不支給等があり得るとする場合には,それが正当化される根拠も併せてお答えください。
(3) 仮に,上記(1)において強制ではなく,上記(2)において「確認カード」がなくても保護費の支給等がなされるとすれば,そのような説明を「確認カード」作成前に生活保護利用者に対して明確に行っていますか。行っていないとすればなぜですか。
(4) 「確認カード」を作成・交付している各行政区において,生活保護開始決定前の申請者の写真撮影を行っているかどうか,写真撮影を行っている場合は,なぜ申請者についても写真撮影を行うのか明らかにしてください。また,申請者に対し,写真撮影をする理由や撮影に応じなかった場合どうなるのかについて,どのような説明をしていますか。
3 写真撮影後の写真データ等の保存・処分方法について (1) 複数枚プリントアウトされる機器で撮影される場合に利用されなかった写真や,デジタルカメラで撮影された場合の画像データについては,速やかに廃棄していますか。仮に,保管している場合には,その具体的な保管方法と保管している理由を回答してください。
(2) 上記(1)のような,画像データや予備の写真を保管する以外の方法(例えば「確認カード」の写しをケース記録に貼付または編綴する等)によって,生活保護利用者の容ぼう情報を保管していることはありますか。仮に,保管している場合には,その具体的な保管方法と保管している理由を回答してください。
(3)「確認カード」を作成・交付している各行政区において,保管している予備の写真や画像データを張り込み・尾行等の不正受給対策に活用している事例はないか,明らかにしてください。また,万一にもそのような活用をしないよう周知徹底すべきと考えますが,かかる予定はあるか,明らかにしてください。
(連絡先)
〒530-0047 大阪市北区西天満3丁目14番16号 西天満パークビル3号館7階
あかり法律事務所 電話06-6363-3310 fax06-6363-3320
生活保護問題対策全国会議 事務局長 弁護士 小久保 哲郎
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