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2016(平成28)年4月25日


大阪市の生活保護費プリカ支給断念をふまえ
吉村市長発言の危険性を指摘する声明
 
  

生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾 藤 廣 喜


1 はじめに
 大阪市は,本年4月14日,昨年4月からモデル事業として実施していたプリペイドカード(以下,「プリカ」という。)による生活保護費の支給(以下,「本事業」という。)を今年3月末をもって終え,本格実施を断念することを明らかにした。当会は,他の160団体とともに,昨年3月5日,大阪市に対し,「プリペイドカードによる生活保護費支給のモデル事業撤回を求める要望書」を提出し,本事業の実施に強く反対していたところであり ,今般の大阪市の事業断念そのものについては,当然のこととはいえ歓迎する。しかし,各種報道によれば,同市の吉村洋文市長は,会見で,「本当は原則カード支給にしたいが,法律上強制はできない。国の制度を変えないと普及は難しい。利用者アンケートの結果を検証して国に制度変更を要望したい。」などと述べたという。この吉村市長の発言は,本事業の違法性や問題点を全く理解しない発言であって到底容認できない。

2 本事業の問題点1~生存権(憲法25条)・プライバシー権(憲法13条)侵害等
 生活保護法31条が金銭給付を原則とした趣旨は,生活保護費の使途は自由であることを確認した福岡高等裁判所平成10年10月19日判決(最高裁第三小法廷平成16年3月16日判決によって確定)が判示したとおり,生活保護制度の目的が,憲法25条の生存権保障を具体化し,人間の尊厳にふさわしい生活を保障することにあり,そのような生活の根本は,自らの生き方ないし生活を自ら決するところにあるからである。
 しかし,プリカが使える店は非常に限られていて選択の範囲が著しく狭められるだけでなく,化学物質過敏症等のアレルギーや糖尿病等の疾病をもつため特定の店舗等を通じてしか安全な食材等を入手できない人にとっては生命や健康さえ危険にさらされる。また,生活保護の実施機関が,プリカの利用履歴を把握し,生活保護利用者の生活全般を管理支配することは,生活保護利用者のプライバシー権・自己決定権(憲法13条)の著しい侵害である。
 なお,「保護費をパチンコ等に費消する人の支援」が本事業導入の理由の一つに挙げられていたが,ギャンブルやアルコール依存症の問題は,きめ細やかで根気強い専門的な治療や支援なくして解消できるものではなく,プリカで強制管理すれば解決するというような問題ではない。

3 本事業の問題点2~大手カード会社による国家的規模の貧困ビジネスの始まり
 そもそも大阪市は,2013年9月の時点では,本事業に消極的な姿勢を明確にしていたにもかかわらず ,橋下徹前市長が,三井住友カードと富士通総研の提案を採用して,「日本初」の本事業が開始された経緯がある。提案企業は,児童手当や災害手当等の各種給付年間100億ドル以上がプリカ支給されている米国を模範に,大阪市を皮切りに全国の自治体への展開を進め,公的給付全般についての利用拡大を目指す野心を露わにしている 。生活保護でプリカ支給が原則とされれば,同様に税金が財源(の一部)となっている,老齢年金,障害年金,児童手当,児童扶養手当等の公的給付も,プリカ支給されるようになることは決して杞憂ではない。大手カード会社が,福祉給付を利潤の源として食い物にする国家的規模の貧困ビジネスの始まりである。

4 吉村市長発言の危険性
 仮に,吉村市長が,生活保護法31条の金銭給付原則を改正すれば本事業が許されることになると考えているとすれば大きな間違いであり,それは,生存権(憲法25条)やプライバシー権(憲法13条)の根幹を否定する極めて危険な発想であると言わなければならない。また,福祉給付を利潤の源として大手カード会社に売り渡す,自治体の首長としてあるまじき姿勢であると言わなければならない。
 当会は,吉村市長が国に対する軽率な提言や要望を行うことのないよう予め強く要望するとともに,大阪市が,かかる軽挙に出ることのないよう,他の心ある諸団体と連携しつつ,その動静を注視していく決意を表明するものである。
 


 3月5日(木)13時から、当会は大阪市に対してプリペイドカードによる生活保護費支給のモデル事業撤回を求める要望の申し入れを行いました。
 支援者、生活保護利用当事者、依存症専門の精神保健福祉士、元ケースワーカー、弁護士が、それぞれの立場から発言し、この事業の問題を多層的に浮き彫りにできました。多くのマスコミの取材があり、記者も皆さん真剣に聞きいってくれてました。
 以下のとおり、申し入れについてご報告します。

※要望書の内容については、こちらをご覧ください。
http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-231.html

要望書を手渡す尾藤弁護士
大阪市の担当者に要望書を手渡す尾藤代表

要望書の説明をする小久保弁護士
概要を説明する小久保事務局長

取材するマスコミ



■ 申し入れ参加者からの発言および大阪市とのやりとり

大口耕吉郎さん(全大阪生活と健康を守る会)
 1月26日に大阪市の生活保護課と協議に基づく話し合いをした。生活保護世帯含め80人が参加し、うち40分間でプリペイドカードについて協議。一斉に、保護利用者が反対の意見を述べた。その意見を紹介する。

●よく利用する安売り量販チェーン店ではカードを取り扱っていない。カードを使う店は割高で、カードを使っていない店で買い物ができず不安だ。
● 一日あたりの利用金額を設定されたら、安いときにまとめ買いをすることができない。
 年寄りはカードは使えない。馴染みの店で買い物をする。
● 足の悪いから、近所でしか買い物しない。 
● 市は、支出の適正化を理由にするが、生活保護世帯はお金の管理ができないとでも言うのか。

 CWが指導するというが、その人が支給された保護費の中で、きちんとお金を使っていれば、これはこうだあれはこうだと内容をとやかくいう必要はないという判決もある。市長はそれをわかっているのか。
 全市的に広げる予定というが、海外での報道で、大阪市全体がカード化したら、生活扶助費の1%として年間10億円くらいを企業が儲ける試算がされている。企業のためにやっているとしか思えない。撤回を求めたい。

小野史絵さん(大阪精神保健福祉士協会会員)
 精神科のソーシャルワーカーをしている。日常業務として、ギャンブル、アルコール依存症の支援。要望書でも「依存症の対策にならない」としているが、依存において金銭管理が有効に働くこともあるが、前提として本人の自発的な意思と専門家による慎重なアセスメントが必要。本人の自己決定を欠いては支援にならない。
 依存症からの回復には専門家の支援は欠かせないが、管理は支援になり得ない。それが支援になるというなら、それなりの科学的根拠が必要である。一律に管理することでアセスメントができるとは思えない。一律管理は本人の自主性や主体性を奪い、支援者が責任の肩代わりをすることになる。そういう観点からも、プリカ支給には反対。

越前和夫さん(釜ヶ崎医療連絡会議、生活保護利用当事者)
 東成で生活保護を利用して14年。釜ヶ崎で相談を受けている。
 西成の現状だが、コンビニで物を買うと儲かるのは企業。相談を受ける中で、保護費をもらったらまず米を10㎏買うように助言している。保護費を落としても、米があれば何とか食べていける。しかし、コンビニでは、そういう米10㎏も扱っていない。自分も西成で昼食100円のおかずですませるが、一食200~300円でご飯にする人多い。安売りスーパーで買うよりずっと安い。コンビニで買うと一食500円になる。
 その残りのお金でお酒を飲む人もいるかも知れない。飲むなとは言えない。けじめだけつけておいて、家賃をちゃんと払えばずっと住めると助言している。プリカになると、そういう風に200円や300円でご飯が食べられなくなる。そういう人が西成にたくさんいる。

生田武志さん(野宿者ネットワーク)
 この事業が公表されたとき、しばらく理解できなかった。生活保護利用者は自分でお金を管理できない、という主張が特に理解できない。ほとんどの利用者は、自分で金銭管理して生活をしている。
 中には依存症の方がいるというのも事実だ。しかし、生活保護利用者は、仕事ができない状態であることが多く、労働の生き甲斐がなくなる。スティグマにより地域社会でも暮らしにくい。親族も血縁が切れている。といったように、社縁・血縁・地縁が切れている。
 その中でお酒に頼ったりパチンコが(悪い)友達になったりして、依存症になる人がいる。そこで、自分たちは生活保護利用者の集まりを開くなど、社会的な関係の構築をしている。個別の支援がないと解決しない。
 大阪市の生活保護行政で最も大きな問題は、ケースワーカー(以下「CW」と表記)が少なすぎること。圧倒的に足りていない。本来ケースワーカーは生活保護利用者とじっくり話しをして、地域や血縁との縁を結ぶのが大きな仕事。しかし、それができていない。自分たちは、CWを増やすことを要望してきたが、それは対処しないのに、このようなプリカ支給を導入している。

中山直和さん(元生活保護CW)
 生活保護行政の現場は、ともかく人手が足りない。厚労省からは基準より500人も足りないと年々指摘されている。CWの実態はめまぐるしく、精神的に追い詰められて病気になる人もたくさんいる。
 本来、生活支援が必要な人との関係は、家庭訪問や話をすることにより、その人の自発的な方向を引き出すことだが、実態はそうではなく、そのようなことができる条件を大阪市が崩している。それなのに、このような管理的なプリカを導入することは、まったく逆行している。
 高齢者、ギャンブル、過度の飲酒への支援が目的というが、誰も、それが目的につながるとは思っていない。そういう客観的合理的な説明も職場ではされていない。プリカ問題の取扱についてのCW向けの研修の話を聞いたが、VISAの社員が話をしておりCWがVISAの下請けをするような印象だったとのこと。なんのためのCWなのか。このような制度はするべきではない。
 報道で5件しか希望がないとのことだが、今後2000件の希望者を出すために、CWに強制圧力がかかるのではないかと、現場では心配している。

ここで、小久保弁護士が大阪市に質問。
小久保:応募状況は?CWに募集を強制するのか。
大阪市:強制はできない。やってはいけない。
小久保:2000世帯が目標?
大阪市:それに達しなくても目標達成でない、ということではない。随時募集はする。
小久保:3000円とのことだが。
(注:モデル事業参加者へ3000円の謝礼が予定されている件について)
大阪市:まだ決まっていない。アンケートをして協力してくれる方には相当の謝礼。具体的な内容は決まっていない。収入認定にはならない。
小久保:カード会社のお金で、(生活保護利用者の)プライバシーを買うのでは?
大阪市:本日は要望書を受け取るだけ。内容はまた後日…
小久保:せっかくなので内容についても。2013年9月4日の時点では、電子マネー支給すべきという市民の声に対して、利用できる店舗が少ないなどの課題があるので否定的、という見解だったが、ここはどういう形でクリアされたのか。
大阪市:当時はそういう電子マネー化しべきという声があって、課題があるということだったが、それはクリアされたということで今回導入することに。当時と今では規模が違う。
小久保:(プリカを使える)加盟店が増えたということか。何店舗から何店舗に増えたのか。
大阪市:(黙)小久保:今現在、加盟店が何店舗あるか把握していないのか。
大阪市:今日は協議や質問を受ける用意ができていない。今後、要望書にもとづき調整したい。

尾藤廣喜(弁護士、当会代表代表幹事)
 プリカ支給の問題点は要望書に記載されているとおりである。
 いろいろな問題点が指摘されている中で、本当に問題点を受け止めて、問題の所在について分析をして欲しい。特に当事者がどのような不利益を受けるのか、どんな問題が生じるのか真剣に受け止めなければならない
 我々は生活保護法31条に違反していると考えている。
 「今日は要望書を受け取るだけ」との対応をしているが、真剣に検討し、そして撤回して欲しい。

大口さん
 今日の要望書に対しては、書面回答を求める。


 大阪市が、昨年末にプリペイドカードによる生活保護費支給のモデル事業を、今年4月から実施する旨発表しました。
 しかし、このモデル事業は、生活扶助費の金銭給付の原則に反し、生活保護利用者のプライバシー権等を侵害するなど、様々な問題点があります。
 生活保護問題対策全国会議では、大阪市に対して以下のモデル事業の撤回を求める旨の要望書への団体賛同を求めたところ、本日までに160団体から賛同をいただきました。賛同いただいた団体の皆さま、ありがとうございます。

3月5日、大阪市に対して申し入れと記者会見を行いました。
申し入れの内容は、別途ご報告します。


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平成27年3月5日


プリペイドカードによる生活保護費支給の
モデル事業撤回を求める要望書


大阪市長 橋 下  徹 殿
生活保護問題対策全国会議
他160団体(計161団体)


第1 要望の趣旨
 貴市は,2014年12月26日,全国で初めてプリペイドカードによる生活保護費の支給をモデル事業(以下「本モデル事業」という。)として2015年4月から実施する旨発表した。しかし,本モデル事業には,以下指摘する様々な問題点があり,到底容認できないので,速やかに撤回し,実施することのないよう要望する。

第2 要望の理由
1 金銭給付の原則(生活保護法31条1項)に違反する

 救護法(施行令7条)が金銭給付と現物給付の併用を規定していたのに対して,現行生活保護法31条1項が「生活扶助は,金銭給付によって行うものとする」と規定して,特に金銭給付主義を原則的に採用したのは,経済統制が大幅に解除された今日においては,金銭給付により各人の自由購入に任せることが適当であるが故とされている(小山進次郎「改訂増補・生活保護法の解釈と運用」442頁)。
 しかし,プリペイドカード(いわゆる電子マネー)は,「その金額に応ずる対価を得て電磁的に記録された情報であって,その記録者との契約関係に基づき一定の範囲で金銭債務の弁済としての効力を有するもの」であって1,金銭(貨幣)そのものではないから,プリペイドカードによる支給が「金銭給付」にあたらないことは明らかである。
 また,生活保護法31条1項但し書は,「これによることができないとき」(施設等において寝具等の物品を貸与する場合等),「これによることが適当でないとき」(物品を一括大量購入することが非常に有利である場合とか,一般には入手し難い物品を給与する場合等),「その他保護の目的を達するために必要があるとき」(被保護者の性状,給付するものの性質等からみて現物給付でないと保護の目的を達しがたい場合)には現物給付によることができる旨規定しているが,一般的に生活扶助費をプリペイドカードによって給付する本モデル事業は,これらの例外的場合にあたらない。そもそも「現物給付」とは,「衣料,食糧その他生活必需品の給貸与及び移送,理髪,入浴又は被服修理等を行うこと,介護等の役務の提供」(前掲小山444頁)など,特定の物品の給貸与又は特定のサービスの提供であるとされている。プリペイドカードの提供は,このいずれにも該当しないから,「現物給付」としても許されないことが明らかである。
 そうすると,プリペイドカードによる生活扶助費の支給は,金銭給付の原則を定めた生活保護法31条1項に真っ向から違反することが明らかである。これはプリペイドカードが「金銭給付」にも「現物給付」にもあたり得ないことから一義的に導かれる結論であって,生活保護利用者の承諾を得られたからといって,その違法性が治癒されるという性格のものではない2。厚生労働省は,生活保護利用者の承諾があれば民法482条が規定する代物弁済として許されるとの見解を示している模様であるが,かかる解釈は生活保護法31条1項の趣旨を没却するものであって到底許されない。
 自民党などは,生活扶助・住宅扶助等の現物給付化の法改正案を提案しているが3,本モデル事業は,本来法改正をしなければなし得ないことを,法改正を行うことのないまま強行しようとするものであって,法令遵守精神の欠如もはなはだしいものと言わざるを得ない。

1 杉浦宣彦・片岡義広「電子マネーの将来とその法的基盤」
2 日本弁護士連合会2015年2月27日付「生活保護費をプリペイドカードで支給するモデル事業の中止を求める会長声明」
3 自民党政調生活保護に関するPT平成24年11月20日「生活保護法改正PT案のポイント」


2 プライバシー権・自己決定権(憲法13条)の侵害である
 中嶋訴訟・福岡高等裁判所平成10年10月19日判決は,「憲法25条の生存権保障を具体化するものとしての生活保護制度は,被保護者に人間の尊厳にふさわしい生活を保障することを目的としているものであるところ,人間の尊厳にふさわしい生活の根本は,人が自らの生き方ないし生活を自ら決するところにあるのであるから,被保護者は収入認定された収入はもとより,支給された保護費についても,最低限度の生活保障及び自立助長といった生活保護法の目的から逸脱しない限り,これを自由に使用することができるものというべきである。」としている4
 ところが,保護費がプリペイドカードによって支給されることになると,生活保護利用者がいつ,どこで,何を購入したのか,食生活から趣味嗜好に至る日常生活のすべてが福祉事務所に把握され,生活全般を管理・支配され得ることにつながる。これは,上記の判例に反するのみならず,生活保護利用者のプライバシー権・自己決定権(憲法13条)に対する著しい侵害である。
 なお,本モデル事業は,被保護者の「申し出」を得て行うものとされていることから,貴市は,プライバシー権等の放棄がなされていると主張するかもしれない。しかし,後述のとおり,プリペイドカードによる保護費の支給は生活保護利用者にとって不便不利益なだけであって何らの利益にもつながらない以上,任意かつ真摯な「申し出」が生活保護利用者の側から自発的に行われることは想定し難い。異論をはさまない生活保護利用者をケースワーカーが選別して,その圧倒的な力関係の差を利用し,「申し出」に名を借りた事実上の強制が行われることが容易に想定されるところである。

4 最高裁平成16年3月16日判決・判時1854号48頁も「同法は,世帯主等に当該世帯の合理的な運営をゆだねているものと解するのが相当」として追認。
 
3 被保護者の日常生活に著しい不便・危険が生じる
 プリペイドカードは,通貨とは異なり,当該カードの加盟店でしか利用できない。生活保護利用者それぞれの地域で利用している馴染みの小規模な商店や食堂などでは利用できない事態が多々起こりえる。特に,生活保護利用者がアレルギー(化学物質過敏症等を含む),糖尿病等の疾病や障害をもつ場合,例えば,アレルギーのため無農薬・無添加の食材を購入するなど,疾病・障害特性に合わせ,細心の注意を払って食材,衣服,洗剤などの生活用品を選択,利用することで,かろうじて生命,健康を維持する者が多い。そして,こうした生活用品は,特定の店舗,市場,生産者等を通じてしか購入できない場合が多いため,本モデル事業導入により生活用品購入の選択肢が狭められることになれば,こうした生活保護利用者の生命や健康の安全を即時かつ直接脅かすことになる。
このように本モデル事業は,生活保護利用者の日常生活に著しい不便や危険を生じさせるものである。
 この点,貴市自身が,2013年9月4日の時点においては,「本市におきましても保護費の電子マネー化やクレジットカード払いが可能かどうかの検討を行いましたが,購入先が限定され,近隣の小規模店舗では使用できない可能性があることなどの課題があると考えています。」としていたにもかかわらず5,わずか1年で認識を180度転換させ本モデル事業の実施に踏み切ったことは不可解というほかない。

5 大阪市HP『お寄せいただいた「市民の声」』「福祉平成25年7月」

4 巨大企業による国家的貧困ビジネスの始まりである 本モデル事業は,三井住友カードと富士通総研が提案してきた事業を貴市が採用したものである。モデル事業の協定先である上記2社とVisa,NTTデータは,「米国では既に児童手当や災害手当といった各種給付がVisaプリペイドによって給付」されており,「2012年には年間100億ドル以上がプリペイドカードにより給付」されているとして,「今回のモデル事業を通じ,大阪市同様に全国の自治体への展開を進め,(略)政府の日本再興戦略における具体策の一つである,公的分野での電子決済の利用拡大を含むキャッシュレス決済の普及を目指」すとしている。上記4社は,200万人の生活保護利用者を新たな巨大市場として獲得することを皮切りとして,さらにはアメリカのように児童手当その他の公的給付についてもプリペイドカードによる支給を実現することによって,爆発的に市場を拡大していくことを目論んでいるのである。その目的は,もちろん巨額の手数料収入を得ることによる利潤の追求である。アメリカでのSNAP(旧フードスタンプ。補足的栄養支援プログラム)が助けているのは,困窮したワーキングプアでも失業者でも,零細農家でもなく,売上げが入る大手食品業界と,偏った食事が生む病気が需要を押し上げる製薬業界,カード事業を請け負う金融業界の三者であるという報告もある(堤未果「㈱貧困大国アメリカ」11頁)。
 本モデル事業によって,既に述べたとおり,生活保護利用者が利益を得ることがないだけでなく,貴市をはじめとする自治体も何ら支出を減らすことはできず,むしろ委託手数料等の支出を増やすことにつながりかねない。利益を得るのは大手カード会社だけであり,まさに国家的規模で福祉給付を利潤の源として食い物にする貧困ビジネスの始まりである。

5 プリペイドカードの支給はアルコールやギャンブル依存症の対策にはならない
 貴市は,本モデル事業実施の理由として,「ギャンブルや過度な飲酒等に生活費を費消し,自立に向けた生活設計を立てることが困難な方等への支援」をあげている。
 しかし,プリペイドカードを支給して使途を把握し,不適切な使途があれば問い質して叱責したからといって,アルコールやギャンブルの問題が解消・解決するというような簡単な話ではない。依存症は病気なのであるから,当事者に寄り添った支援を通じて信頼関係をつくり,専門クリニックへの通院や自助グループへの通所などにつなげ,当事者自身が自分で自分の生活を日々コントロールしていく力を身に着けていくための,地道で息の長い援助が不可欠であり,そのためには,恒常的に400名規模の人員不足が生じているケースワーカーの大量増員と専門性の向上こそが必要である。本モデル事業は,生活保護利用者に対する地域社会のスティグマ(偏見)と生活保護利用者の抑圧感を助長し,社会的に排除された生活保護利用者がいっそうギャンブルなどへの依存を強めることが強く懸念される。なお,そもそも本モデル事業は,単身者で約8万円の保護費のうち一部(3万円)のみをプリペイドカード支給するというものであり,残りの現金5万円で飲酒やギャンブルをすれば把握のしようがないのであるから,保護費の使途を把握してギャンブルなどを抑止するという説明自体が論理破綻している。
 したがって,本モデル事業の本質は,当事者に対する支援を名目・隠れ蓑にしながら,真の目的は,生活保護利用者を管理支配して制度利用から締め出すことによって自治体の保護費を減らすことにあることが明らかである。

6 生活保護利用者だけでなく地域の小規模商店や児童手当・年金等の公的給付受給者にとっても死活問題である
 3で述べたとおり,プリペイドカードが加盟店でしか使えないということは,加盟店契約をしていない地域の小規模な商店や食堂等の側から見れば,大切な顧客を大規模チェーン店等に奪われ,経営の基盤を脅かされることを意味している。特に,生活保護利用者が多く住む地域では,顧客を奪われて廃業を迫られる小規模店も少なからず出てくる一方,大手のコンビニやスーパーのチェーン店が出店数や規模を拡大することが予想される。これは地域コミュニティの衰退にも,つながる問題である。
 また,橋下市長は,会見で,「本来ならば全員,一定額についてはカード利用にしたほうがよい」旨述べており,将来的には希望者だけではなく生活保護利用者全員についてプリペイドカードによる支給を行うことを示唆している。また,同市長は,「生活保護制度の財源が税であることから,支出について適正さが求められることの一環として,受給者にこれくらいの負担を負ってもらっても然るべきである」旨も述べている。その理屈からすれば,生活保護に限らず,児童手当,児童扶養手当,老齢年金,障害年金などの税を財源とする公的給付については,すべてプリペイドカードによって支給することが一貫していることになる。実際,4で述べたとおり,三井住友カード等の発案企業は,そのようなアメリカ型の社会の実現を望んでいるのであり,これは決して杞憂とは言えない。
 したがって,本モデル事業は,この国で暮らすすべての人にとって対岸の火事ではありえないのであり,その意味からも現段階において撤回されることが強く求められる。

以 上


【賛同団体】
全国クレサラ・生活再建問題対策協議会/特定非営利活動法人 大阪医療ソーシャルワーカー協会/一般社団法人日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会/ホームレス法的支援者交流会/ホームレス総合相談ネットワーク/認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい/全国生活保護裁判連絡会/日本自治体労働組合総連合/NPO法人かごしまホームレス生活者支えあう会/NPO法人やどかりサポート鹿児島/一般社団法人つくろい東京ファンド/野宿者ネットワーク/生存権裁判を支える愛媛の会/生存権裁判を支えるとくしまの会/生活保護基準引下げ反対埼玉連絡会/東北生活保護利用支援ネットワーク/東海生活保護利用支援ネットワーク/近畿生活保護支援法律家ネットワーク/反貧困ネットワーク/反貧困ネットワーク大阪/反貧困ネットワーク京都/反貧困ネット長野/反貧困ネットワークあいち/反貧困ネットワーク埼玉/反貧困ネット北海道/大阪子どもの貧困アクショングループ/きょうと福祉倶楽部/首都圏青年ユニオン/樹花舎/総合社会福祉研究所/NPOカインドネス名古屋支部/福井県社会保障推進協議会/北大阪総合法律事務所/25条を守る会 ぽぽろ/怒っているぞ!障害者切りすて!ネットワーク関西/ビッグイシューかごしまサポーターズ/精神障害者カワセミの会/死刑廃止・タンポポの会/関西合同労働組合/木津川ダルク/NPO法人くまもと支援の会/長野県民主医療機関連合会/反貧困陽だまりネット/関西非正規等労働組合(ユニオンぼちぼち)/きょうと夜まわりの会/特定非営利活動法人いっぽいっぽの会/さまりたんプログラム/マッド・プライド・ジャパン/ユニオン未来/特定非営利活動法人ひとりネット/権力とマスコミの横暴を正し人権を守る国民の会in入間/北九州市社会保障推進協議会/沖縄クレサラ・貧困被害をなくす会/便利屋・社会福祉相談処「ゆいの家」/特定非営利活動法人ほっとポット/日本福音ルーテル教会・喜望の家/自立生活センターたいとう/なかまユニオン なかまおおさか分会/特定非営利活動法人ジョイフルさつき/全国障害者問題研究会京都支部/NPO法人神戸の冬を支える会/北海道労働組合総連合/東京多摩借地借家人組合/ふぁみりあ・浜松/平和・民主・革新の日本をめざす福井の会/ゆにおん同愛会/泉州☆精神障害者俱楽部「青い鳥」/年金者組合大阪府本部/生活総合支援ネットワーク佐賀(通称「絆ネット」)/釜ヶ崎医療連絡会議/奈良自治労連/枚方市職員労働組合/愛媛・人間らしく生きたい裁判弁護団/釜ヶ崎キリスト教協友会/東京多摩借地借家人組合/自立生活センターHANDS世田谷/全国「精神病」者集団/怒っているぞ!障害者切りすて!全国ネットワーク/関西学生アルバイトユニオン準備会議/健康よろずプラザ/日本LGBT障害者患者運動連絡会/監視社会を拒否する会/愛媛県保険医協会/京都自治体労働組合総連合/大阪自治労連/大阪衛星都市職員労働組合連合会/みさと協立病院患者会ポレポレの会/自治労連福井県事務所/大阪いちょうの会/みやぎ青葉の会/生活保障支援ボランティアの会/公益社団法人やどかりの里/埼玉障害者市民ネットワーク/NPO法人近畿地域活性ネットワーク/釜ヶ崎公民権運動/風をおこす女の会/反貧困連絡会/自治労連秋田県本部/秋田県公務公共一般労組/派遣労働ネットワーク・関西/日本バプテスト連盟ホームレス支援特別委員会/NPO法人ささしまサポートセンター/京都府職員労働組合連合/特定非営利活動法人長居公園元気ネット/大阪精神保健福祉士協会/全国公的扶助研究会/NPO法人 日本障害者協議会/板橋生活と健康を守る会/NPO労働と人権サポートセンター・大阪/野宿者のための静岡パトロール/NPO法人くまもと支援の会/働く女性の全国センター(ACW2)/あざみの会/生活保護改悪に反対する人々の会/全国生活と健康を守る会連合会/東京都生活と健康を守る会連合会/全京都生活と健康を守る会連合会/久御山生活と健康を守る会/奈良県生活と健康を守る会連合会/兵庫県生活と健康を守る会連合会/滋賀県生活と健康を守る会連合会/全大阪生活と健康を守る会連合会/住之江生活と健康を守る会/住吉生活と健康を守る会/浪速生活と健康を守る会/西成生活と健康を守る会/港生活と健康を守る会/大正生活と健康を守る会/此花生活と健康を守る会/西淀川生活と健康を守る会/東淀川生活と健康を守る会/淀川生活と健康を守る会/北生活と健康を守る会/旭生活と健康を守る会/城東生活と健康を守る会/東成生活と健康を守る会/鶴見生活と健康を守る会/都島生活と健康を守る会/平野生活と健康を守る会/生野生活と健康を守る会/東住吉生活と健康を守る会/豊中生活と健康を守る会/吹田生活と健康を守る会/茨木生活と健康を守る会/摂津生活と健康を守る会/門真・守口生活と健康を守る会/大東生活と健康を守る会/枚方・交野生活と健康を守る会/寝屋川生活と健康を守る会/堺市生活と健康を守る会/泉大津生活と健康を守る会/貝塚生活と健康を守る会/岸和田生活と健康を守る会/泉南生活と健康を守る会/東大阪生活と健康を守る会/八尾生活と健康を守る会/柏原生活と健康を守る会/松原生活と健康を守る会/富田林生活と健康を守る会/羽曳野・藤井寺生活と健康を守る会(以上、160団体)


大阪市生活保護行政問題調査団は、5月29日に以下のとおりの要望書を大阪市に対して提出しました。
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〈要望書の内容〉
第1 要望の趣旨

第2 要望の理由
1 はじめに ~ なぜ調査団活動を行ったのか ~
(1)大阪の生活保護行政は全国に大きな影響がある
(2)全国唯一の保護世帯数減少とそれを支える大阪独自方式

2 稼働年齢層等の生活保護からの排除問題
(1)稼働年齢層の異常な減少
(2)「申請時のガイドライン」の問題点
(3)「連絡票」「相談受付票」の問題点

3 扶養義務の強化問題
(1)「仕送り額(月額)の『めやす』」の問題点
(2)扶養照会の問題点

4 介護扶助等の利用抑制と自己負担強要問題
(1)生活保護利用者が非利用者よりも低サービスに甘んじさせられていること
(2)支給されるべき介護扶助費を支給せず自己負担を強要されること
(3)支払わされた自己負担金は全額遡って返還すべきである

5 「不正受給対策」に名を借りた管理・支配体制の強化問題
(1)警察官OB配置による福祉事務所の性格の変質
(2)不正受給(法78条)のずさんな認定
(3)監視カメラの設置等による威嚇

6 実施体制上の問題
(1)脆弱な実施体制に対して繰り返される厚労省の指摘
(2)400人規模の恒常的な人員不足
(3)全国平均を下回る資格取得率(専門性の欠如)
(4) 任期付き雇用など身分の不安定


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2014(平成26)年5月29日

大阪市の生活保護行政の真の適正化を求める要望書


大阪市長 橋 下  徹 殿
大阪市生活保護行政問題調査団
団 長  井 上 英 夫

第1 要望の趣旨
1 生活保護法27条等に違反する「保護申請時における就労にかかる助言指導のガイドライン」,保護申請権を侵害する「連絡票」及び「相談受付票」は,速やかに廃止されたい。
2 扶養の事実上の強制につながる「生活保護受給者に対する仕送り額の『めやす』」は,速やかに廃止し,生活歴等から扶養の可能性が期待できない者(抽象的扶養義務者)に対する扶養照会は厳に行わないよう徹底されたい。
3 医療及び介護に関して,生活保護利用者に対してのみ安価なサービスの利用を求めたり,介護扶助や各種一時扶助等の制度上認められている給付を行わず自己負担を求めることのないよう徹底されたい。また,今般の調査で判明した介護扶助費を自己負担させた133件を含む問題事例については,全額遡及して保護費を支給されたい。
4 社会福祉主事の資格を有しない警察官OBの福祉事務所配置を止め,法78条の適用は「不正の意図」が認定できる事例に限定するよう徹底するとともに,各福祉事務所の相談ブース内に設置された監視カメラ,録音禁止の張り紙等を速やかに撤去するよう指導されたい。
5 任期付ケースワーカーを正規雇用するとともに,社会福祉法が求める標準数(80対1)を充足するようケースワーカー及び査察指導員を大量増員し400人規模の恒常的な人員不足を解消されたい。また,同法が求める社会福祉主事任用資格の取得率を100%にするとともに,社会福祉士等の専門職採用を積極的に行い,福祉専門職としてのスキルを発揮できる人事政策に転換されたい。


第2 要望の理由
1 はじめに ~ なぜ調査団活動を行ったのか ~
(1)大阪の生活保護行政は全国に大きな影響がある

 2008(平成20)年秋のリーマンショック以降,全国的にも生活保護利用者が激増したが,大阪市においても,その傾向は顕著であり,全国で最も高い保護率(平成24年度で5.7%)となっている。大阪市は,2009(平成21)年9月以降,生活保護行政について全市的な検討を行い,国に対し要望を行ってきたが,2012(平成24)年7月には,「生活保護制度の抜本的改革にかかる提案」を発表し,稼働可能な者を生活保護の対象から外すこと,医療費・介護費の自己負担制を導入することなど,保護費削減を目的とした過激な改革提言を行った。
 2013(平成25)年12月,制度発足以降初の生活保護法の大「改正」がなされたが,そこでは,調査権限の強化,後発医薬品の使用促進,返還金と保護費の相殺など,大阪市の提案が数多く盛り込まれている。このように,大阪市の生活保護行政の動向は,全国に大きな影響を与えており,一地方の問題として軽視することはできない。
(2)全国唯一の保護世帯数減少とそれを支える大阪独自方式
 大阪市の被保護世帯数と保護率は年々増え続けていたが,2012(平成24)年度(11万8744世帯,5.71%)をピークに完全に減少局面に転じている。平成25年7月の被保護世帯数は対前年同月比99.9%の11万8449世帯であり,大阪市以外の政令市はいずれも被保護世帯数を増やしている中(平均102.5%),極めて特異な動向を示している。そして,同月以降も着実に減少傾向は続いており,2013(平成25)年12月時点で被保護世帯数11万8161世帯,保護率5.62%となっている。2012(平成24)年度の生活保護決算は22年ぶりのマイナス(対前年比24億円減)であり,2014(平成26)年度の同予算は2年連続のマイナス(同前23億円減)である。
 これは,大阪市が,国による法「改正」を待つことなく独自の方式を導入することによって,①稼働年齢層の生活保護からの排除,②扶養義務の強化,③介護費の一部自己負担,④過度の不正受給対策などを強行していることに原因があることが強く疑われた。そして,その背景には,⑤ケースワーカーの人数と専門性の不足という実施体制上の問題があるとうかがわれた。こうした問題点を放置したまま,闇雲に生活保護の適用を絞り込むことが続けば,ここ大阪で,餓死・孤立死・自死等が頻発することになりかねない。また,大阪独自の方式が全国に波及することによって,そうした悲劇が全国的に拡大することにもなりかねない。
 そこで,当調査団は,上記①ないし⑤の視点から調査を行った。その結果,以下述べる通り,明らかに違法であるか,少なくとも生活保護法等の精神に反する不当な運用がまま見られ,現実に少なくない被害事例が発生していることが判明したので,要望の趣旨記載のとおりの要望を行うものである。

2 稼働年齢層等の生活保護からの排除問題
(1)稼働年齢層の異常な減少

 大阪市においても高齢世帯は,2013(平成25)年9月時点で58,105世帯と対前年同月比で104.5%と2531世帯も増加している。にもかかわらず,前記のとおり,全体として減少しているのは,稼働年齢層世帯(正確には,高齢世帯以外の母子,障がい・疾病,その他世帯)が59,086世帯と対前年同月比で95.1%と3003世帯も減少しているからである。
 そして,その背景には次の大阪独自の取り組みがあると考えられる。
(2)「申請時のガイドライン」の問題点
ア 内容

 大阪市は,2011(平成23)年1月17日,生活保護担当課長事務連絡「保護申請時における就労にかかる助言指導のガイドライン」(以下,「申請時のガイドライン」という。)を発出した。その内容は,稼働能力があるとみなされた生活保護を申請する者に対して,「一週間に一度,求職活動状況報告書を提出すること」などを求める「助言指導書」を交付して,積極的な求職活動を行求め,努力が不十分とみなせば,14日の法定期間内の判断を延期し,最終的には申請を却下するというものである。
イ 違法性
① 生活保護法4条違反

 生活保護法4条が求める稼働能力の活用がされているかどうかの判断は,「その具体的な生活環境の中で実際にその稼働能力を活用できる場があるかどうか」という観点から(林訴訟の名古屋地裁平成8年10月30日判決),単に「年齢や医学的な面からの評価だけではなく,そのものの有している資格,生活歴・職歴等」を前提として,「育児や介護の必要性などその者の就労を阻害する要因を踏まえて行う」べきものとされている(厚生労働省の社会・援護局長通知第4)。そして,特に申請段階においては,面接のための交通費等もままならないこともあることから,求職活動等は「一般的な社会的規範に照らして不十分な又は難のあるもの」であってもよく,「最低限度必要とされる程度の努力を行う意思」が認められれば良いというのが確立した裁判例である(東京高裁平成24年7月18日判決,大阪地裁平成25年10月31日判決)。
  したがって,求職活動状況報告書の提出の有無や求職活動や面接の件数等の形式的な理由のみで稼働能力活用の有無を判断することは,生活保護法4条に違反する。
② 生活保護法27条,27条の2違反
 法27条の指導指示は,保護開始後の「被保護者」に対して行うものであって,保護開始前の申請者に対して行うことはできない。申請者に対して行うことができるのは,法27条の2による「助言」だけであり,それは「要保護者から求めがあったとき」に「要保護者からの相談に応じ」て行うものである。
 にもかかわらず,申請時のガイドラインによる「助言指導書」は,「求職活動報告書」の提出や一定回数以上の求職活動や面接といった具体的行為を行うよう指導し,「これに従わないときは」申請の却下等の制裁を予定している点において,助言の範囲を超えた事実上の指導指示であり,法27条及び27条の2に違反する。この点は,厚生労働省も,「ハローワークでの具体的な求職活動の指導等は,保護の開始決定前には認められていない」から「不適切」であると指摘をするに至っている(平成25年12月10日自治体向け説明会)。
ウ 問題事例の発生
① 浪速区・37歳男性
10月25日(2013年) 1回目の申請
11月14日 「熱心に求職活動を行い,継続的かつ自立を目指した仕事に就くこと」等と記載した助言指導書を交付される。
 手持ち金なく買い置きの米のみ1日1食で体調不良の中,ハローワーク等で求職活動(5日,6件)を行い,面接も1社受けるが,「少ない」と言われる。
11月22日 稼働能力不活用として申請却下(28日目)
11月26日 再申請(弁護士同行)
11月28日 所持金11円で食べるに事欠く状態であるため貸付を求めるが1日500円分しか貸付されず。体調すぐれない中,求職活動を継続し,たびたび報告するも「検討中」を繰り返す。
12月2日  代理人弁護士より抗議申入書を提出
12月13日  保護開始決定(17日目)
 →後日,医療機関でパニック障害・外出恐怖症と診断され,療養専念となる。
②大正区・30代男性
「一週間にハローワークへ三回以上行き,一社以上会社の面接を受けること」などと記載された「助言指導書」を交付されて署名を求められた。なお,同区は,平成24年度実施方針において,独自のフローチャートを作成し,「1週間にハローワークへ3回以上求人検索を行・・っていること」「1週間に1社以上,ハローワークから紹介を受けた会社の面接を受けていること」という通常達成不可能な「求職活動基準」を定めている。
(3)「連絡票」「相談受付票」の問題点
ア 内容

 厚生労働省が,平成23年度の監査に際して,「保健福祉センターが独自に作成した『連絡票』と題する書面を面接相談の際に使用,住宅賃貸借契約書や預貯金通帳など,申請行為の成立に際して必要がないものの提出を求めている」と指摘したのに対し,大阪市は,「現場感覚とはかけ離れた内容」とあからさまな反発を示している。
 また,浪速区が相談受付時に使用している「相談受付票」と題する書面には,「生活保護制度の説明だけを聞きたい」「生活保護制度以外の説明を聞きたい」のチェック欄のみがあり,肝心の「生活保護を申請したい」というチェック欄がない。
イ 違法性
 本来,生活保護の申請は,口頭でも可能なのであり,実施機関には窓口を訪れた者の申請意思を確認し,申請を援助すべき義務がある。申請の前提として書類の提出を求めたり,申請意思の確認を意図的に怠ることは申請権(法7条)の侵害であって違法である。なお,今般の法「改正」によっても,この扱いは変わらないというのが政府答弁,附帯決議であり,むしろ,新施行規則1条2項は,「保護の実施機関は,・・・申請者が申請する意思を表明しているときは,当該申請が速やかに行われるよう必要な援助を行わなければならない」との規定を新設している。
ウ 問題事例の発生
(ア)厚労省監査での指摘事項
①鶴見区(平成22年度)
「本来相談者が提出義務を負わない診断書等の提出を求め,申請は,後日これらの書類が提出された時点で受理する扱い」とするなど,相談者が提出義務を負わない資料の提出を事実上申請の要件とし,このため申請が遅延していることから申請権の侵害が認められると指摘。
②住之江区(平成24年度)
 相談に来た者に相談段階で「診断書」の提出を求めているのは不適切と指摘。
③ 住吉区(平成21年度)
 保護の申請前なのに相談者に対して何らかの指導指示をしている事例,次回申請時に持参する書類を示し,書類が揃わないと申請を受理していないと思われる事例,DVケースなのに夫に養育料の請求を指示した事例,高額家賃は保護申請できないと説明した事例,居住地がなければ保護申請できないと説明した事例
(イ)調査団による2014年5月9日ホットラインに寄せられた事例
① 中央区(聴覚障害をもつ60代女性)
 家賃6万円のUR住宅に単身で生活。障害年金が受けられず,借金で生活してきたが,もう無理と4月に生活保護の申請に行ったところ,家賃が42000円以下でないとだめだと言われた。
② 西成区(野宿状態の69歳男性)
 長く野宿生活を続けてきたが,もう年で疲れたので生活保護を利用したい。福祉事務所に行くが,家がなければ生活保護申請できないと言われた。待機施設もいっぱいだと断られた。

3 扶養義務の強化問題
(1)「仕送り額(月額)の『めやす』」の問題点
ア いわゆる「めやす」の内容

 大阪市は,2013(平成25)年11月8日,「生活保護受給者に対する仕送り額の『めやす』」(以下「めやす」という。)を策定した。その内容は,扶養義務者を生活保持義務関係と生活扶助義務関係に分けたうえ,それぞれ,年収に応じた仕送り額の具体的金額の目安幅を市独自に設けたものである。
イ 違法・不当性
 生活保護と私的扶養の関係について,生活保護法上扶養は保護に優先する旨規定されているところ(法4条2項),これは,扶養は保護の要件ではなく,現実に扶養が行われた場合には収入認定の対象となるという意味において,事実上,扶養は保護に優先するに過ぎないことを明らかにした規定であると解されている。しかしながら,「めやす」が運用されれば,扶養義務者は,年収のみを基準に機械的に「めやす」で定められた一定額の仕送りを求められ,法4条2項の趣旨に反し,扶養を事実上強制される被害事例が発生する可能性が極めて高い。
(2)扶養照会の問題点
ア 行われている扶養照会の実態

 生活扶助義務関係にある扶養義務者に対し,要保護者の生活歴等から扶養の可能性が期待できないものとして取り扱うべき事案であるにもかかわらず,扶養義務者全員に対し,一律に扶養照会を行っている。
イ 違法・不当性
要保護者の生活歴等から扶養義務の履行が期待できない者については,通知上も直接照会を行わなくてよい扱いとされているところである(課長通知・問(第5の2)答)。にもかかわらず,このような者に対してまで,一律に扶養照会を行うことになると,扶養義務者たる親族に迷惑がかかることを危惧して保護申請を断念するケースが増加し,事実上扶養が保護の要件化されると共に,要保護者の申請権を侵害する結果を招くこととなる。
ウ 問題事例の発生
① 35年間音信不通の扶養義務者に対する扶養照会(住之江区)
 ドメスティック・バイオレンス事案によって離婚,別居に至り,以降,35年間にわたって音信不通であった保護申請者の子らや,保護申請者の別居当時,まだ出生していない孫らに対し扶養照会をおこなった。
② 生活保護利用者等に対する扶養照会(住之江区)
 脳梗塞の後遺症で働けなくなった60歳の男性(妻と2人世帯)が保護開始申請をしたところ,扶養義務者を全てリストアップさせられ,年金生活者や生活保護利用者を含む高齢の兄弟姉妹全員に対し,扶養照会を行うといわれている。
③ 全親族一律の扶養照会(都島区)
 現在35歳の息子は10年前からうつを発症し就労できず,ずっと自分たちが面倒を見てきた。以前,都島区役所に生活保護の相談に行ったら「援助ができるだろう。」「親類全部調べることになる。」と言われ保護申請を諦めた。現在は淀川区に住んでいるが,もうこれ以上の支援は限界。
④ 扶養照会に対する不安(淀川区)
 扶養義務者をすべて書き出すよう求められて書類を渡されている。この間の芸能人バッシング,市職員の親族の保護受給をめぐる報道を目の当たりにして不安を感じており,保護申請を取り下げようかと思案している。

4 介護扶助等の利用抑制と自己負担強要問題
(1)生活保護利用者が非利用者よりも低サービスに甘んじさせられていること
ア 大阪市の現状

 大阪市では,生活保護利用者が医師から薬を処方される際にジェネリック(後発)医薬品を使用するよう強制されたり,ケアマネージャーが必要と判断して購入しようとした福祉用具について,区役所が一番安いものに変更するよう求めるといった事態が生じている。
イ 違法・不当性
 生活保護法52条1項は,医療扶助について「国民健康保険の診療方針及び診療報酬の例による」とし,同法54条の2第4項は,これを介護扶助についても準用している。これは,医療扶助・介護扶助は命や健康に直接に関わる基幹的ニーズに対応する扶助であるため,他の一般人と同様の給付水準を保障し,生活保護利用者も最適保障水準の医療・介護が受けられるようにする趣旨であり,そのための方法として現物給付を採用している。
にもかかわらず,利用者の意思に反して後発医薬品の使用を強制したり,ケアマネージャーが専門的見地から必要と判断した福祉用具につき安価な商品に変更するよう求めることは,生活保護利用者に限って劣位な扱いを持ち込むものであり,最適水準の医療・介護を保障した生活保護法52条・同法54条の2に反する。
ウ 問題事例の発生
① 生野区・60代単身女性
区役所から薬をジェネリック品に変更するよう強く求められている。障害年金受給に診断書が必要だが,自己負担で取得するようにも言われている。
② 区は不明
要介護5の方が風呂に入りたいと這って風呂場で一人でしゃがむなどしていたため,シャワーチェアが必要とケースワーカーに相談したところ,安価のチェアにしてほしいと言われ,最終的には自己負担にするよう言われた。ケースワーカーにどうしてもシャワーチェアが必要と訴えたら「要介護5で動けないんだからいらんやろ」と言われた。
③ 住吉区
 ウォシュレット付ポータブルトイレの購入を申請するとウォッシュレットが却下された。本人には必要だから申請したのに贅沢品としてみなされているのはおかしい。
④ 西成区
ポータブルトイレの給付は認められないと言われた。福祉用具購入については安いものにするように指示されることが多い。
(2) 支給されるべき介護扶助費を支給せず自己負担を強要されること
ア 大阪市の現状

 2013年9月25日,大阪社保協生野区役所キャラバンにおいて,同区担当者が「被保護者で福祉用具購入の場合は,本人が真に用具を必要としているかどうか,自分で負担ができないかどうかという2点について確認をしている。」「介護の部分だけではなく,いろんな部分で自己負担を求めることはある。」などと説明した。これが発端となり,大阪市が調査したところ,2013年4月から11月までの8ヶ月間で,生活保護利用者が介護保険を利用して福祉用具(主に入浴・排泄関係)を購入したり住宅を改修した場合に,本来介護扶助として支給されるはずの1割部分を生活保護利用者に自己負担させている事例が,大阪市内で133件あることが判明した。
 大阪市は,2013年8月に発表した「生活保護の適正化に向けて」において,「保護費の適正化を図るために,医療機関等への受診や介護サービスを受ける際に自己負担を導入することが効果的である」と明言していること,生野区は平成25年の「生活保護業務実施方針」において「一時扶助(特に移送費・治療材料費・紙おむつ等)の申請を受理する際には,被保護者自身による自弁が真に不可能なのかどうか可能な限り確認・・する。」と明記していること,上記133件の介護扶助自己負担事例は大阪市27区のうち24区において見られることからすると,大阪市全体が組織的・意識的に医療扶助・介護扶助等の自己負担を推進していることが明らかである。
イ 違法性
 先に述べたとおり,医療扶助・介護扶助は命や健康に直接に関わる基幹的ニーズに対応する扶助であることから,生活保護利用者も非利用者と同じ最適水準の医療・介護を受ける権利が保障されている。そのために,介護保険でまかなわれない1割の自己負担部分を支給するのが介護扶助である。こうした介護扶助費やその他の一時扶助費を支給せず,自己負担させることは,当該生活保護利用者が「健康で文化的な最低限度の生活」を下回る生活を余儀なくされることを意味し,明らかに違憲・違法である。法「改正」を提言するにとどまらず,違法な自己負担を実務運用において組織的に強行するのは,法の実施機関としてあるまじき蛮行と言わざるを得ない。
ウ 問題事例の発生
① 生野区
 ポータブルトイレの購入代金と住宅改修の一部負担金について,ケースワーカーから「住宅改修と福祉用具購入について支払余力がある方には負担をおねがいしている」と言われたので,利用者に確認し,介護保険1割分の自己負担をしてもらった。
② 阿倍野区
 福祉ベッドを自費で負担するように求められた。
③ 西成区
 浴室椅子の購入時に1割負担を出せない,自己負担をするようにと言われた。
④ 浪速区
 往診や訪問歯科のプランについて必要性を強く問われるが,ケースワーカーはご本人の状態を全く把握しておらず,ただ単に必要ないと言われることに対して怒りを持っている。
手すり設置の住宅改修が自己負担となった。少ない保護費で食事をきりつめて対応されており,大変だと感じた。
⑤ 生野区
住宅改修や福祉用具の1割負担分について,原則自己負担が必要であり,自己負担ができない場合はその理由が必要と言われる。そのため,生活保護開始時に提出している生保開始届を毎回提出している。同じ書類を記入,提出しなければならず,手間と時間の負担増である。
⑥ 西成区・72歳男性(要介護3)
 脳梗塞の後遺症で右上下肢マヒがあり,歩行や段差の上り下りが困難。ケアマネが室内と共同トイレの移動用に手すりをとりつけ,玄関にスロープを設置しようとしたところ,ケースワーカーが共同スペースの手すりの設置を認めず,スロープのみの設置となった。その後もケースワーカーから杖や歩行器の利用ではダメな理由を記載した資料の提出を求められ,提出する。見積もり(改修費78,000円)を提出した際,ケースワーカーがケアマネに対し「上からの指示で,本人の生活保護の残金があれば,そこから1割負担(7,800円)を出してくれ」と述べ,1割自己負担を前提条件として住宅改修が許可された。 
(3)支払わされた自己負担金は全額遡って返還すべきである
 役所は,生活保護費の不払いがあり不払いが誤りだったとしても2か月を超えて遡って返還することには応じないことが多い。その理由としては,①最低生活費の認定変更を必要とするような事項については利用者に届出義務が課せられていること,②一旦決定された行政処分をいつまでも不確定にしておくことは妥当でないこと,また行政処分の不服申立期間が60日間とされていること,③生活保護の扶助費は生活困窮に直接的に対処する給付であることが挙げられている(別冊問答集2013年度版問13-2)。
 しかし,1割負担分を介護扶助として支給せずに自己負担させることは,役所自身が引き起こした明白な違法行為であり,届出をしない責任を利用者に転嫁するのは筋違いである。また,違法な行政行為に安定の要請などないし,2ヶ月間不服の申立てがないことや支払われるべき保護費が支払われずとも生活を維持できたことを理由に違法行為の誤りが正当化され,是正の必要がなくなるわけでもない。
 過去の審査請求や裁判を通じて処分庁が2ヶ月を超えて返還した事案もあり,2ヶ月を超える遡及を拒む理由はない。大阪市は,本来支給すべきであった保護費を全額遡って支給すべきである。
① 現実には得ていない収入を収入認定して生活保護費を減額した点を違法とした秋田県知事裁決平成21年7月9日を受けて,処分庁は2ヶ月を超えて生活保護費を返還した。
② 処分庁が同居家族による介護について家族介護料を計上し忘れて支給しなかった点について,福岡県知事裁決平成21年12月25日は「遡及する時期は(2ヶ月が)原則であると解されます。しかしながら,不作為など特別な事情がある場合は,・・・(2ヶ月分)を超えて遡及することも考慮されるべきであると思料されます」と述べて,2ヶ月分の遡及しか認めなかった処分庁の処分を取り消した。
③ 大阪市も,精神障害2級の原告に対して,手帳申請時に福祉事務所が自ら検診書を発行して障害の程度を把握していたにもかかわらず障害者加算が漏れていた事案で,平成14年の提訴後,原告の主張を認めて1年分の遡及支給を認めたことがある。

5 「不正受給対策」に名を借りた管理・支配体制の強化問題
(1)警察官OB配置による福祉事務所の性格の変質
ア 大阪市の現状

 現在,大阪市では,全27区に不正受給調査専任チームが結成され,適正化担当係長1名,大阪市OB職員1名,警察官OB1名の3人で構成されている。不正受給調査専任チームは,刑事告訴・告発等の法的手段を視野に入れた重点的調査を実施している。他に各区に安全管理担当の警察官OBが雇用され,大阪市全体で54名の警察官OBが配置されて年間1億3600万円の人件費が計上されている。
 しかし,悪質な不正受給事案はそう多くある訳でない。そのため,警察官OBは,日常的には福祉事務所内での立ち番や巡回をして来訪者を監視したり,ケースワーカーの面接や家庭訪問の業務に同席・同行している。また,不正受給とは何の関係もない生活保護利用者の日常生活上の行動を尾行や張り込みの手法で監視している。
イ 違法性・不当性
 社会福祉法15条6項は,福祉事務所において「現業を行う所員」については,「社会福祉主事でなければならない。」と規定し,また,同法19条は,社会福祉主事の資格につき,「人格が高潔で,思慮が円熟し,社会福祉の増進に熱意があり」かつ,社会福祉に関する科目を修めて大学を卒業した者等の要件を規定している。
 他方,警察法第2条第1項は,「警察は,…犯罪の予防,鎮圧及び捜査,被疑者の逮捕…その他公共の安全と秩序の維持に当たる事をもってその責務とする。」と規定し,警察行政と社会福祉行政とは,その目的,性格を全く異にしている。
したがって,社会福祉主事の資格を有しない警察官OBが,ケースワーカーの面接や家庭訪問に同席・同行して現業業務につくことは,生活保護法21条,社会福祉法15条に違反し,違法である。
 また,不正受給とは何の関係もない日常生活上の行動を尾行や張り込みの手法で監視することは,目的と手段との間の相当性を欠き,プライバシー権(憲法13条)を侵害するものと言わざるを得ない。
 本来,ケースワーク業務は「信頼」を基礎とする対人援助であるが,若く経験の乏しいケースワーカーが,警察官OBと日常的に交流することによって,疑ってかかる姿勢や威圧的な態度を身につけ,福祉事務所の性格そのものを変質させつつある。なお,平成21年度から同25年度にかけて,大阪市における法27条に基づく指導指示書の発行枚数は,470枚から4354枚(うち就労指導にかかるものは38枚から937枚)へ,指導指示違反による廃止件数は,90件から504件(うち就労指導にかかるものは38件から159件)へと劇的に増加しており,ここにも福祉事務所が生活保護利用者の生活全般への支配・管理を強めている様子が見て取れる。
ウ 問題事例の発生
① 大正区・50代男性
 息子の乗用車を借りて通院などしていたところを見つかり「警告」を受けた後,産気づいた妹を病院に連れて行くところを駐車場前で張り込みをしていた警察官OBに再度見つかり,指導指示違反を理由として保護を廃止された。
② 某区
 信頼関係を結ぶのが難しい当事者のところに警察官OBと一緒に家庭訪問したところ,部屋中を探索的に見たり,威圧的な態度をとるため,却って関係が悪化し揉めた。
(2)不正受給(法78条)のずさんな認定
ア 大阪市の現状

 近年の大阪市各区の生活保護法施行事務監査資料によれば,徴収金額が数百円,数千円と極めて低額であるにもかかわらず法78条(不正受給)返還決定が出されている事例が多数見受けられた。また,当調査団が住吉,東成,都島,鶴見,平野,淀川,住之江,住吉の8区の監査資料を分析したところ,返還額3万円未満のものが23.5%あり,10万円以下は実に87.3%を占めた。これらの中には,課税調査によって稼働収入についての本人申告額との間の僅かな齟齬が発覚した場合や,金融機関調査によって本人も忘れていた休眠口座が発見された場合など,本来,不正受給と扱うべきではない事案が多数含まれていることが推測される。
 また,平成25年度西成区に対する指導監査講評に,「高校生のアルバイト収入についても,未申告のアルバイト収入が判明した場合については,法第63条ではなく,法78条を適用するように徹底をお願いします。」とあるように,個別の「不正の意図」を認定しないまま法78条を適用するという誤った運用が少なからず見受けられる。
イ 問題点
 本来,法78条返還決定に際しては,「不正の意図」を認定する必要があり,「不正の意図」が認定できない場合には,法63条を適用しなければならない。
 法78条返還決定がされると,今般の生活保護法「改正」によって,1.4倍の加算徴収が可能となること(法78条1項~3項),非免責債権とされること(法78条4項),保護金品からの徴収(天引き)が可能であること(法78条の2),重くなった罰則が適用され得ること(法85条)など,法63条返還と法的効果が大きく異なり,保護受給者は厳しい不利益を被ることとなるので,従来以上に慎重な認定がなされる必要がある。
また,法78条返還決定の件数及び徴収額が過大に計上されると,誤った統計により不正受給件数が増えたと判断され,生活保護利用者に対する無用の偏見を生み,制度改悪にもつながるのであって,かかる統計の悪影響も無視できない。
ウ 問題事例の発生
① 鶴見区・母子世帯
  高校生の長男のアルバイト収入につき,法78条返還決定がされたが,子どもがアルバイトをした場合の取扱についての説明が全くなく,母親はこのアルバイト代について収入申告が必要であるとは認識がなかった。母親が審査請求をすると,「不正受給の意図があったということを立証できない」として法78条に基づく処分は撤回され,法63条に基づく返還処理がなされた。
② 大正区・母子家庭
高校生の娘がアルバイトしていることを母親は知らなかったが,課税調査で2年前のアルバイトが発覚し,「警告1回」とされた。以後,娘は収入申告していたが,翌年の課税調査で警告前1年分の収入が発覚したとして生活保護を廃止された。同区では,2度目の不正受給発覚の場合は保護を廃止する旨の独自のフローチャートを作成しており,これが形式的に適用されたものと思われる。
③ 平成23年度淀川区の監査資料
  単身高齢者世帯・徴収決定額270円,単身傷病者世帯・徴収決定額2000円,単身高齢者世帯・徴収決定額2750円等,少額の徴収額の事例が多数ある。このような少額事例は,各年度,各区でも多々見受けられる。
(3)監視カメラの設置等による威嚇
ア 大阪市の現状

 現在,大阪市では,浪速区,西成区等の各福祉事務所の相談ブース内で,監視カメラが設置されている。浪速区等では,相談ブース内に,録音禁止の張り紙が貼られている。
 また,淀川区では,生活保護を利用するすべての世帯に対して,「適正な保護費の受給に協力してください!」「淀川区においては,過去1年間で生活保護の不正受給で4名の逮捕者がでています」などと記載された威嚇的な内容のチラシが配布された。
イ 違法性・不当性
 相談ブース内の様子を監視カメラで撮影することは,プライバシー権,肖像権の侵害となる。監視カメラの設置は,保護申請者にとって,生活保護の申請に対する無言の圧力となり,録音禁止等の張り紙等と相まって,相談ブース内が威圧的な雰囲気となり,安心して申請や相談ができない状況となっていると言わざるを得ない。かかる状況は,保護申請者の申請に対する抑止にもなりかねない。
 本調査団の調査結果にもあるとおり,いわゆる水際作成により,違法に申請権が侵害されるケースが後を絶たない。しかし,事後的にそれを確認し,是正しようとしても,職員側は事実を否認するのが通常であることから,違法行為の証拠化のためにやりとりを録音しておく必要性は高い。さらに,生活保護申請支援を行う弁護士に対し,「侮蔑的な発言を行った」として言いがかりをつける事例もあり,申請者・支援者の自衛の意味でも録音は不可欠なものと言わざるを得ない。そもそも,保護申請者及び申請同行者が,対面して話している担当職員とのやりとりを録音することは,法的に全く問題のないことであり,これを禁止する法的根拠はない。
 また,淀川区のように、すべての生活保護利用世帯を不正受給予備軍のようにみなす威嚇的な内容のチラシを配布することは、いたずらに保護利用者を萎縮させることにつながり、市民の生存権を保障する生活保護制度の精神にもとるものである。

6 実施体制上の問題
(1) 脆弱な実施体制に対して繰り返される厚労省の指摘

 例年の厚生労働省による生活保護法施行事務監査において,管内実施機関に対する指導の徹底,的確な訪問活動,実施体制の整備等の是正又は改善の措置を講ずること等について,繰り返し指摘を受けている。法定受託事務として生活保護法を実施している大阪市は,生活保護法第23条,地方自治法第245条の4にもとづいて是正又は改善の措置を講ずることが求められており,是正又は改善措置を講じたとの報告を行っている。しかし,是正又は改善の効果は見られず,毎年同様の指摘を受け続けているばかりか,現状はむしろ悪化しているといわざるをえない。
 実際,当調査団が調査対象とした7区すべてにおいて,大阪市本庁監査における文書指摘率は年々悪化の一途をたどっている。平成20年度から25年度にかけて最も指摘率の高い淀川区では44.0%から74.6%に,最も指摘率の低い生野区でも22.9%から41.5%に悪化している。いずれの区においても,「訪問調査活動の活発化を図り,生活実態の把握に努めること」との指摘が繰り返されており,「年に1回のみの訪問や家庭内面接がなされていないものが多数を占めた」(平成24年度大阪市監査実施方針),「現業経験の浅いケースワーカー及び査察指導員が多いことから保護の実施上基本的な事項について問題が見られ」た(平成25年度大阪市監査実施方針)等の指摘も少なくない。
実施要領の「生活保護実施の態度」は,「実態を把握し,事実に基づいて必要な保護を行うこと」,「彼保護者の立場を理解し,そのよき相談相手となること」を求めている。就労支援や様々な生活問題に対する自立支援も,さらには不正受給の未然防止も,日常的な訪問調査活動抜きで,できるはずがない。日常的な訪問調査は,あらゆるケースワーク活動の基盤となるものである。
 こうした大阪市の実施体制上の問題点は,以下述べるとおり,①400人規模の恒常的な人員不足,②ケースワーカーの専門性の欠如,③任期付き雇用など身分の不安定という構造的問題に起因しており,これまで検討してきた大阪市の生活保護行政が抱える諸問題の根底をなしている。
(2) 400人規模の恒常的な人員不足
 ケースワーカー(現業員)の配置数は社会福祉法第16条に定める標準数(都市部で80対1)に基づくものでなければならない。しかし,平成25年度生活保護法施行事務監査において,現業員は全ての実施機関において,査察指導員は11の実施機関において,いずれも標準数を充足していないことが指摘された。現業員の不足数は,西成区の145人をはじめとして全市で481人にのぼり,現業員の不足数は全国一となっている。大阪市は,平成22年度から23年度にかけて115人の増員を図ったが,なお恒常的に400人以上の不足数が生じて充足率は7割前後にとどまっており,不足数は増加傾向にある。
 その対応策として,大阪市は,平成16年よりケースワーカーを「一般担当」と「高齢担当」にわけ,平成23年4月時点では,一般担当(737名)は60対1,高齢担当(173名)は380対1とする独自の配置基準を採用している。高齢ケースには安否確認を担当する高齢嘱託(226名)を288対1で置き,ケースワーカーは事務処理に専心することとなっているが,若手がケースワークの経験を積めず,担当する生活保護利用者からは相談しても対応してくれないという苦情が絶えない。
 そのため,淀川区は,「CWの配置基準を早急に厚労省基準に戻していただきたい。CWの精神的・体力的負担増による病気欠席が多いのも大阪市独自の配置基準が起因しているものと判断する」(同区の平成23年度監査結果)として,大阪市の方針を厳しく批判し,市の方針に反して一般担当と高齢担当の仕分けをしていない。しかし,その淀川区も,平成24年度厚生労働省監査において,訪問調査に問題のある事例が62ケース中で56件指摘され,その他の諸事項も含めると指摘率100%という惨憺たる結果である。
結局,400人を越える恒常的な人員不足という構造を是正しない限り問題状況は改善されないことは明らかである。
(3) 全国平均を下回る資格取得率(専門性の欠如)
 社会福祉法第15条第6項において,現業員及び査察指導員は,社会福祉主事でなければならないと規定されている。
全国的な社会福祉主事の資格取得率は,査察指導員においては74.6%,現業員においては74.2%となっているが(「平成21年福祉事務所現況調査による),大阪市における現業員の資格取得率は,近年の監査資料によると,高い実施機関で61.4%(淀川区・平成24年度),低い実施機関は28.9%(住吉区・平成21年度)であり,8区平均では51.6%にとどまり,全国平均と比べても著しい低さであった。平成25年度生活保護法施行事務監査においても,「社会福祉主事資格を有しない査察指導員及び現業員が全ての実施機関で認められた」とし,資格取得に努めるよう是正又は改善の措置を講ずるよう指摘されている。社会福祉士,精神保健福祉士等の国家資格に至っては,当調査団の資料請求に対してデータの開示さえない。
 また,現業員や査察指導員は,生活保護法のみならず他法他施策を熟知し,支援技術や知識などについては経験を通して蓄積しなければならないが,大阪市においては,経験年数3年未満の経験の浅い職員が8区平均で61.9%を占めている(東成区と鶴見区では80%を超えている)。
 大阪市において,現業員による様々な人権侵害事例が発生しているのは,無資格者が多く,かつ職員の経験年数が浅いことと無関係ではない。法が求めるように速やかに有資格者比率を高め,福祉専門職として長年勤務して経験を蓄積できる人事政策に転換する必要がある。
(4) 任期付き雇用など身分の不安定
 大阪市においては,正規職員の配置を怠り,任期つきや嘱託職員を低賃金で一時的に雇用して,その場をしのぐことが長年続いている。特に任期(3年)付きケースワーカーを平成22年度に212名大量採用し,全ケースワーカーの4分の1近くを占めるに至っている。
 「地方公共団体の一般職の任期付き職員の採用に関する法律」では,本来,任期付職員の採用は,①一定期間内に終了することが見込まれる業務,②一定期間内に限り業務量の増加が見込まれる業務に限られているが,先に述べたとおり400人規模の恒常的人員不足がある大阪市においてこうした要件が満たされていないことは明らかである。また,3年の任期では,せっかく仕事を覚えたころに退職を余儀なくされる点において,本来専門性を有すべきケースワーカーの職責に反する。さらに,任期付きケースワーカーは正規職員と全く同じ業務に従事するにもかかわらず,その月給は約15万円から増えたとはいえ約17万円にとどまっており待遇の格差は著しく大きい。
 そのため優秀な職員ほど任期の満了を待たずに他のより待遇のよい職を見つけて中途退職する事例も少なくなく,業務に支障をきたす事態が生じている。特に,任期付きケースワーカーについては速やかに正規職員化し,非正規職員についは雇用の安定化と賃金などの労働条件の改善を早急に図るべきである。

以上
                      


調査団呼びかけ01


調査団呼びかけ02

募集チラシ(PDF)のダウンロードはこちらから。 click!

 大阪市の生活保護行政では、保護予算の増大を問題視し、貧困の拡大という原因に目を向けることなく、生活保護を利用できる人や利用している人たちに対する様々な違法対応が確認されています。その動きは、「改正」生活保護法の施行を前にして到底看過できない事態にあります(政令市の中で生活保護利用世帯を減少させているのは、大阪市だけ!)。

 こうした違法対応について分析し、あるべき生活保護行政を実現するための調査活動を行い、さらに、大阪市の違法運用が他地域に波及することを抑止する意味で「大阪市生活保護行政問題全国調査団」実行委員会を結成されました。調査団は大阪市役所及び区役所との交渉までに様々な聞き取りや調査、事例集約活動などを実施し、それらの具体的な事例に基づく大阪市およびいくつかの区役所との交渉・懇談、そして市民集会を企画しています。

 大阪市は人口260万人という全国第二の政令都市であり問題を解決するためには大きな力が必要です。交渉への参加が多ければ多いほど、大阪市に対して大きな働きかけができます。あなたの参加をお待ちしています。

 ■ 24区のうち特に生活保護行政が厳しく、具体的な事例が報告された行政区・実施機関数か所に交渉を行う予定です。
 ■ 同時に本庁に対しても実施します。

【主催】大阪市生活保護行政問題全国調査団実行委員会
 連絡先普門法律事務所 大阪市北区天神橋3丁目3番3号南森町イシカワビル7階
    電話06-6354-1616 FAX06-6354-1617

 ★ Facebookにて随時、情報発信をしていきますので、ご覧ください!


《調査団活動スケジュール》

 5月28日(水) 

◆ 午前  学習会

(大阪市の生活保護行政の概要、問題点の学習と調査についての意思統一)
 [会場] 大阪府保険医協会M&Dホール 
アクセス
 [時間] 10時~(9時30分受付) 
     お弁当を用意しますので、弁当代(500円)をご負担下さい。

◆ 午後  調査先区役所との交渉
 調査先:生野区、淀川区、大正区、住之江区 

◆ 夜間  「大阪市の生活保護行政を考える市民集会 ~区役所交渉で何がわかったのか(仮)」

 [会場] エル・おおさか 南ホール 
アクセス 
 [時間] 18時30分~


 5月29日(木) 

◆ 午前  調査先区役所との交渉
 調査先:西成区、浪速区

◆ 午後  大阪市本庁交渉、記者会見(予定)
 ※場所は調整中



★このような点が、特に問題と考えています!

保護申請時にかかる就労指導ガイドライン

 働く能力があるとみなした申請者に対して積極的な求職活動を「助言指導」し、努力が不十分と判断した場合には申請を却下するガイドラインを形式的に適用し、稼働年齢層を排除しています。


扶養義務の強要
年収に応じた仕送り額の「めやす」に基づいて仕送りを求めたり、全く音信不通であった親族に一方的に扶養できるかどうかを質す文書を送付したりしています。

介護扶助について自弁を強要
介護保険で福祉用具購入や住宅改修する際、介護扶助として給付されるべき1割負担分を利用者に自弁(自己負担)させたり、自弁できるか確認したりしています。昨年3月~11月で133件が発覚しました(大阪市調査)。

不正受給キャンペーンと 警察官OB配置  実際には不正受給に該当しないものを不正受給扱いにしたり、区役所などでことさらに不正受給のことを強調することで生活保護利用者や申請者を萎縮させています。

ケースワーカーの実施体制問題
福祉事務所で生活保護行政を担当する職員について、人員不足、専門性の欠如、不安定・低待遇の非正規公務員の増加など、質量ともに劣化しており、不当対応の原因の一つになっています。



調査団の交渉行動には、関心のある方ならどなたでもご参加いただけます!(特に資格は必要ありません)
参加してみようと思う方は、以下の方法でお申し込み下さい。


①大阪社保協にFAXで申し込み(FAX 06-6357-0846)

大阪市生活保護行政問題全国調査団のFacebookにメッセージ

【参加申し込み事項】
・氏名(ふりがな)
・職種         
・所属・団体名(あれば)                  
・連絡先電話番号                 
・fax番号                   

参加される行動○をつけてください。
 5月28日午前学習会・28日午後区役所交渉・28日夜「市民集会」
 5月29日大阪区役所交渉・市役所交渉
※区役所交渉に参加される方は、参加希望の区もお願いします。
  淀川・西成・大正・住之江・生野・浪速 



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入会は、こちらから入会申込書をダウンロード(クリックしてください) の上、事務局までFAXをお願いします。

年会費
○弁護士・司法書士 5,000円
○団体      5,000円
○一般      2,000円
(生活保護利用者、それに準じる所得の方は1,000円)

会費・寄付のお振り込みは以下の口座までご送金下さい。
 りそな銀行 柏原支店
 普通 0096268
 生活保護問題対策全国会議

問い合わせ先


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  弁護士 小久保 哲郎
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