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コロナなんでも電話相談
2年間の取り組みから見えてきたもの
-1万件超の相談をふまえた私たちの政策提言-


2022年6月14日(火)13:00~14:30

 私たちは、全国の諸団体、弁護士、司法書士、社会福祉士等のソーシャルワーカー、労働組合・支援団体関係者で、2020年4月から2カ月に1回のペースで電話相談会を開催し、約1万3000件の相談に応じてきました。
 低年金・無年金を補うための仕事を失った高齢者や長期失業者などからの相談も多く、債務や家庭内のトラブルなど複合的な問題を抱え、相談内容は深刻化しています。相談内容の報告と分析を踏まえ、私たちは参議院選挙を迎えるにあたり、国政主要政党に対して、政策提言を行います。

内容

1.なんでも電話相談の2年を振り返る~相談現場から
猪股 正さん(弁護士・埼玉)

2.2年間の「なんでも電話相談会」相談票入力データの分析                               
後藤 広史さん(立教大学教授)

3.労働分野の相談から見えてきたもの
仲野 智さん(全労連常任幹事)

4.1万件超の相談を踏まえた政策提言
小久保 哲郎さん(弁護士・大阪)



閲覧はこちらから


当日の配布資料(PDF)のダウンロードはこちらから


現在、生活保護利用者が自動車を保有することは厳しく制限されていますが、せっかく保有を認められても、通院等の保有を認めた目的以外の日常生活の利用を禁じるという理不尽な対応が横行しています。
今般、札幌市が、保有を認めた自動車を日常生活に利用することも許されるとの正当な見解を示したところ、厚生労働省が、不可解な事務連絡事務連絡書)を発出して札幌市に圧力をかけ、その見解を撤回令和4年5月12日付文書)させるという事件が起きました。

私たちは、厚生労働省に対し、以下の申入書を提出して事務連絡を撤回することなどを求める予定です。申入書の趣旨にご賛同いただける団体の方々は、記事末尾の賛同フォームから団体名、担当者名を入力してください。

また、保有を認められた自動車の日常生活上の利用を理不尽に制限された事例をご存じの方は、記事末尾の入力フォームから情報をお寄せください。

6月9日に予定している厚労省への申入れと記者会見の場での公表を考えているため、1次締切は6月7日とさせていただきます。(最終締切:6月末日
短い期間で恐縮ですが、ご協力をいただけると幸いです。




■厚生労働省宛て「保有を容認された自動車の利用を制限する事務連絡の撤回を求める申入書



2022年6月9日

厚生労働省社会・援護局保護課長 殿

生活保護問題対策全国会議
全国生活と健康を守る会連合会
北海道生活と健康を守る会連合会
一般社団法人つくろい東京ファンド
特定非営利活動法人DPI日本会議
きょうされん


保有を容認された自動車の利用を制限する
事務連絡の撤回を求める申入書


第1 申入れの趣旨
 私たちは、貴課に対し、令和4年5月10日付け事務連絡「生活保護制度上の自動車保有の取扱いについて(注意喚起)」を撤回するよう申し入れます。

第2 申入れの理由
 1 事実経過
(1)保有容認自動車の利用範囲についての札幌市の当初の回答
 札幌市長は、北海道生活と健康を守る会連合会(以下「道生連」といいます。)からの「車の保有を認めたが、使用を認めないという指導指示はやめること」という要望に対し、2022年1月26日付け「「2022年度札幌市予算要望書」について(回答)」の中で、「障害等を理由に自動車の保有を認められた場合は、保有する自動車を日常生活で利用することは、被保護者の自立助長、保有する資産の活用の観点から認められるものと考えております」と回答しました。この回答は、後述する生活保護法の趣旨に適合した至極正当な内容であり、私たちを含む関係者からも高く評価されていました。

 (2)上記回答が撤回されたこと
 ところが、札幌市は、2022年5月12日付けの札幌市保健福祉局総務部保護自立支援担当部長名による「「2022年度札幌市予算要望書」回答の一部訂正について」において、「当初回答の内容の一部について、生活保護の実施要領に沿うものではなく、誤解を招きかねない表現となっていたため」として、上記部分を削除すると道生連に対して連絡をしてきました。

 (3)貴課による事務連絡の存在
 急にこのような撤回がなされた背景を確認したところ、貴課が発出した令和4年5月10日付け事務連絡「生活保護制度上の自動車保有の取扱いについて(注意喚起)」(以下「本件事務連絡」といいます。)の存在が明らかになりました。
 本件事務連絡は、「通勤用自動車の保有、障害者が通院等のため自動車を必要としている場合等の自動車保有について、一定の要件を満たす場合に限って、通勤や通院等のための自動車の保有を認めているところです。一方で(中略)生活用品としての自動車は、単に日常生活の便利に用いられるのみであるならば、地域の普及率の如何にかかわらず、自動車の保有を認める段階には至っておりません」と述べた上で、「今般、ある自治体において、障害等を理由に通院のために自動車の保有を容認された者について、通院以外に日常生活に用いることが認められるような考えを示した事例が確認されたことから、改めて実施要領における自動車の保有の取扱いについてご留意いただき、引き続き、自動車の保有について適切な指導をお願いいたします」とし、「ある自治体」としながらも札幌市の回答を問題視する内容になっています。
 
2 本件事務連絡の問題点
 (1)本件事務連絡が論理的に成り立っていないこと
 本件事務連絡の趣旨は、「障害等を理由に通院のために自動車の保有を容認された者について、通院以外に日常生活に用いることが認められるような考えを示した事例」について、これが誤っていると各自治体に周知することにあると思われます。
 しかし、その前の段落で示された内容は、それを論理的に正当化する理由になっていません。
 「通勤用自動車の保有、障害者が通院等のため自動車を必要としている場合等の自動車保有について、一定の要件を満たす場合に限って、通勤や通院等のための自動車の保有を認めているところです。」という文章は、自動車の保有が容認されるのは、一定の要件を満たす場合に限られるという趣旨のものです。
 その次の文は、「一方で(中略)生活用品としての自動車は、単に日常生活の便利に用いられるのみであるならば、地域の普及率の如何にかかわらず、自動車の保有を認める段階には至っておりません」と述べ、生活用品としての自動車の保有は認められない、と述べるものです。
 上記の2文の内容は、これまで厚生労働省が示してきた立場ではありますが、これらの2文を組み合わせても、「通勤や通院等のために保有を認められた自動車を、その他の目的のために利用してはならない」と読むことはできません。なぜなら、前者は「保有が認められる場合が限られること」を述べているもので、保有が認められた後の使用範囲について述べるものではありません。後者についても、「生活用品としての自動車」は認められないというもので、これも「保有が認められる場合が限られること」という点を述べるに留まるものです。
 要するに、この2文からは、保有が認められた後の自動車の利用可能範囲がどこまでであるかを読み取ることはできないのです。

(2)実施要領において利用目的を制限している場合は限られていること
実施要領において、明示的に利用目的を制限しているのは、課長通知問第3の9-2「保護開始時において失業や傷病により就労を中断している場合の通勤用自動車の保有」だけです。
これは、「就労により保護から脱却することが確実に見込まれる者」について、6か月ないし1年の範囲で自動車の処分指導を行わないとするものです。この場合には、処分を保留する扱いなので自動車の使用を認めないとする一方、「公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住している者については、求職活動に必要な場合」には利用を認めるとしています。
その他に、このような利用範囲を制限する規定は存在していません。
この点、2022年5月20日の衆議院厚生労働委員会において、厚生労働省社会・援護局長は、事務次官通知「第3 資産の活用」を根拠として自動車の日常生活での利用を制限できる旨答弁しました
しかし、上記次官通知は、「最低生活の内容としてその所有又は利用を容認するに適しない資産は、次の場合を除き、原則として処分のうえ、最低限度の生活の維持のために活用させること」とするもので、例外的に保有を容認された資産の利用については何も述べていません。
障害や交通不便、事業用を理由として保有が容認される場合は、上記次官通知が例外的に資産の保有を認める「その資産が現実に最低限度の生活維持のために活用されており、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持及び自立の助長に実効があがっているもの」に当たるものであり、後述の生活保護法1条(最低生活保障)と同法4条1項(資産の活用)の趣旨からは、このような場合に保有を容認された資産を日常生活の用に供することは、本来、生活保護利用者の自由とされるべきです。とりわけ障害を理由として保有を認められた者に対して日常生活の利用を禁止する指導指示は、後述の移動の自由の保障の観点からして、法27条1項の「生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示」といえませんし、同条2項の「被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない」にも反するので到底許されません。

(3)別冊問答集で示された見解と整合しないこと
 また、生活保護手帳別冊問答集問3-20「他人名義の自動車利用」では、自動車の借用について論じる中で、「特段の緊急かつ妥当な理由が無いにもかかわらず、遊興等単なる利便のため度々使用すること」は認められないとしています。その理由として、「最低生活を保障する生活保護制度の運用として国民一般の生活水準、生活感情を考慮すれば、勤労の努力を怠り、遊興のため度々自動車を使用するという生活態度を容認することもまたなお不適当と判断されること」を挙げています。
 この見解は、「遊興等」に用いることについて問題視するものですが、そうではない生活上必要な利用についてまで排除するものにはなっていません。
 その点で、本件事務連絡で貴課が示した見解は、これまでの厚労省の立場と相違するものです。
 
3 保有容認自動車の日常生活利用を認める裁判例に反すること
 歩行に支障がある障害を持つ原告が、自動車の保有を理由として生活保護を廃止されたこと及び申請を却下されたことを争った大阪地裁平成25年4月19日判決(賃金と社会保障1591=1592号64頁)では、保有要件を満たした場合の自動車の利用目的を通院等に限定する実務運用について、「生活保護を利用する身体障害者がその保有する自動車を通院等以外の日常生活上の目的のために利用することは、被保護者の自立助長及びその保有する資産の活用という観点から、むしろ当然に認められる」と判示しています。
すなわち、保有する自動車を日常生活上の目的に利用することこそが、「被保護者の自立助長(生活保護法1条)」と「資産の活用(同法4条1項)」という法の趣旨にむしろ合致するという司法判断が明快に示されているのです。
これに対し、大阪高裁平成28年10月28日判決(平成27年(行コ)第151号)は、「原則として自動車を保有できない他の被保護者との公平性を欠くことになりかねない」ことを理由として、保有を認められた自動車を目的以外に使用してはならないと指導又は指示をすることができると判示しています。
しかし、まず、上記の判決は事業用自動車についてのものであることに留意する必要があります。事業用品として保有が認められる場合は、移動の困難さは要件とされていません。一方で、通勤や通院等のために保有が認められる場合は、障害等があることや公共交通機関の利用が困難な地域に住んでいることなど、自動車が無ければ日常の移動も困難であるケースが多く、保有目的以外の利用を認める必要性が高くなります。
また、大阪高裁判決の考え方に従うとするならば、生活の維持に必要な用件の場合には、自家用車をわざわざ家に置きに戻ったうえでタクシー等を利用しなければならないことになります。それは、「資産の活用(同法4条1項)」の趣旨に反しますし、生活水準をより苦しい方に引き下げて実現する「公平性」であり、少ない最低生活費から更に交通費を求められる事態をもたらすものであって、「最低生活保障(同法1条)」という法の目的に反することが明らかです。
 
4 障害者等の「移動の自由」(憲法22条1項・障害者権利条約20条)を侵害すること
 また、保有容認自動車の私用目的を制限することは、障害等をもつ被保護者の「移動の自由」を保障する観点からも問題があります。
 「移動の自由」は、「居住移転の自由」の一環として憲法22条1項で保障されている基本的人権であり、障害者権利条約20条にも謳われています。移動には、生活を維持するための活動ができるという面や、移動した場所で学習をしたり、表現活動を行ったり、選挙に投票したりすることができるようになるなど他の自由を行使することを補助する面など様々な側面があります。
 障害等を理由として自動車の保有を認められたということは、自動車が無ければ通院等ができないと判断されたということです。自動車がなければ通院等ができないということは、日常生活上の移動全般ができないということです。そのような方について、通院等以外に自動車の利用を禁じることは、「日常生活上、移動するな」と命じているに等しく、上記のように重要な役割を有している「移動の自由」の侵害にほかなりません。
 障害等を持つ方に「移動の自由」を保障する観点からも、保有容認自動車の利用の制限は許されません。
 
5 最後に
 貴課の発出した本件事務連絡は、札幌市を事実上名指ししたもので、札幌市が道生連に対して行った回答を撤回した背景には貴課の介入があることは明らかです。このような介入は、実施機関における自主的な判断への不当な圧力であると言わざるを得ません。
 以上の申入れを踏まえ、貴課において、本件事務連絡を直ちに撤回するよう強く求める次第です。
以 上






■札幌市宛て「撤回された回答の維持を求める申入書



2022年6月9日

札幌市長 殿

生活保護問題対策全国会議
全国生活と健康を守る会連合会
北海道生活と健康を守る会連合会
一般社団法人つくろい東京ファンド
特定非営利活動法人DPI日本会議
きょうされん


撤回された回答の維持を求める申入書


第1 申入れの趣旨
 私たちは、貴殿に対し、2022年1月26日付け「「2022年度札幌市予算要望書」について(回答)」の中で示された「障害等を理由に自動車の保有を認められた場合は、保有する自動車を日常生活で利用することは、被保護者の自立助長、保有する資産の活用の観点から認められるものと考えております」との回答を維持するよう申し入れます。

第2 申入れの理由
 1 事実経過
(1)保有容認自動車の利用範囲についての札幌市の当初の回答
 貴職は、北海道生活と健康を守る会連合会(以下「道生連」といいます。)からの「車の保有を認めたが、使用を認めないという指導指示はやめること」という要望に対し、2022年1月26日付け「「2022年度札幌市予算要望書」について(回答)」の中で、「障害等を理由に自動車の保有を認められた場合は、保有する自動車を日常生活で利用することは、被保護者の自立助長、保有する資産の活用の観点から認められるものと考えております」と回答しました。この回答は、後述する生活保護法の趣旨に適合した至極正当な内容であり、私たちを含む関係者からも高く評価されていました。

 (2)上記回答が撤回されたこと
 ところが、貴市は、2022年5月12日付けの札幌市保健福祉局総務部保護自立支援担当部長名による「「2022年度札幌市予算要望書」回答の一部訂正について」において、「当初回答の内容の一部について、生活保護の実施要領に沿うものではなく、誤解を招きかねない表現となっていたため」として、上記部分を削除すると道生連に対して連絡をしてきました。

 (3)厚労省保護課による事務連絡の存在
 急にこのような撤回がなされた背景を確認したところ、厚生労働省社会・援護局保護課長が発出した令和4年5月10日付け事務連絡「生活保護制度上の自動車保有の取扱いについて(注意喚起)」(以下「本件事務連絡」といいます。)の存在が明らかになりました。
 本件事務連絡は、「通勤用自動車の保有、障害者が通院等のため自動車を必要としている場合等の自動車保有について、一定の要件を満たす場合に限って、通勤や通院等のための自動車の保有を認めているところです。一方で(中略)生活用品としての自動車は、単に日常生活の便利に用いられるのみであるならば、地域の普及率の如何にかかわらず、自動車の保有を認める段階には至っておりません」と述べた上で、「今般、ある自治体において、障害等を理由に通院のために自動車の保有を容認された者について、通院以外に日常生活に用いることが認められるような考えを示した事例が確認されたことから、改めて実施要領における自動車の保有の取扱いについてご留意いただき、引き続き、自動車の保有について適切な指導をお願いいたします」とし、「ある自治体」としながらも貴市の回答を問題視する内容になっています。
 
2 本件事務連絡の問題点
 (1)本件事務連絡が論理的に成り立っていないこと
 本件事務連絡の趣旨は、「障害等を理由に通院のために自動車の保有を容認された者について、通院以外に日常生活に用いることが認められるような考えを示した事例」について、これが誤っていると各自治体に周知することにあると思われます。
 しかし、その前の段落で示された内容は、それを論理的に正当化する理由になっていません。
 「通勤用自動車の保有、障害者が通院等のため自動車を必要としている場合等の自動車保有について、一定の要件を満たす場合に限って、通勤や通院等のための自動車の保有を認めているところです。」という文章は、自動車の保有が容認されるのは、一定の要件を満たす場合に限られるという趣旨のものです。
 その次の文は、「一方で(中略)生活用品としての自動車は、単に日常生活の便利に用いられるのみであるならば、地域の普及率の如何にかかわらず、自動車の保有を認める段階には至っておりません」と述べ、生活用品としての自動車の保有は認められない、と述べるものです。
 上記の2文の内容は、これまで厚生労働省が示してきた立場ではありますが、これらの2文を組み合わせても、「通勤や通院等のために保有を認められた自動車を、その他の目的のために利用してはならない」と読むことはできません。なぜなら、前者は「保有が認められる場合が限られること」を述べているもので、保有が認められた後の使用範囲について述べるものではありません。後者についても、「生活用品としての自動車」は認められないというもので、これも「保有が認められる場合が限られること」という点を述べるに留まるものです。
 要するに、この2文からは、保有が認められた後の自動車の利用可能範囲がどこまでであるかを読み取ることはできないのです。

(2)実施要領において利用目的を制限している場合は限られていること
実施要領において、明示的に利用目的を制限しているのは、課長通知問第3の9-2「保護開始時において失業や傷病により就労を中断している場合の通勤用自動車の保有」だけです。
これは、「就労により保護から脱却することが確実に見込まれる者」について、6か月ないし1年の範囲で自動車の処分指導を行わないとするものです。この場合には、処分を保留する扱いなので自動車の使用を認めないとする一方、「公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住している者については、求職活動に必要な場合」には利用を認めるとしています。
その他に、このような利用範囲を制限する規定は存在していません。
この点、2022年5月20日の衆議院厚生労働委員会において、厚生労働省社会・援護局長は、事務次官通知「第3 資産の活用」を根拠として自動車の日常生活での利用を制限できる旨答弁しました
しかし、上記次官通知は、「最低生活の内容としてその所有又は利用を容認するに適しない資産は、次の場合を除き、原則として処分のうえ、最低限度の生活の維持のために活用させること」とするもので、例外的に保有を容認された資産の利用については何も述べていません。
障害や交通不便、事業用を理由として保有が容認される場合は、上記次官通知が例外的に資産の保有を認める「その資産が現実に最低限度の生活維持のために活用されており、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持及び自立の助長に実効があがっているもの」に当たるものであり、後述の生活保護法1条(最低生活保障)と同法4条1項(資産の活用)の趣旨からは、このような場合に保有を容認された資産を日常生活の用に供することは、本来、生活保護利用者の自由とされるべきです。とりわけ障害を理由として保有を認められた者に対して日常生活の利用を禁止する指導指示は、後述の移動の自由の保障の観点からして、法27条1項の「生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示」といえませんし、同条2項の「被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない」にも反するので到底許されません。

(3)別冊問答集で示された見解と整合しないこと
 また、生活保護手帳別冊問答集問3-20「他人名義の自動車利用」では、自動車の借用について論じる中で、「特段の緊急かつ妥当な理由が無いにもかかわらず、遊興等単なる利便のため度々使用すること」は認められないとしています。その理由として、「最低生活を保障する生活保護制度の運用として国民一般の生活水準、生活感情を考慮すれば、勤労の努力を怠り、遊興のため度々自動車を使用するという生活態度を容認することもまたなお不適当と判断されること」を挙げています。
 この見解は、「遊興等」に用いることについて問題視するものですが、そうではない生活上必要な利用についてまで排除するものにはなっていません。
 その点で、本件事務連絡で厚労省保護課が示した見解は、これまでの厚労省の立場と相違するものです。

 3 保有容認自動車の日常生活利用を認める裁判例に反すること
 歩行に支障がある障害を持つ原告が、自動車の保有を理由として生活保護を廃止されたこと及び申請を却下されたことを争った大阪地裁平成25年4月19日判決(賃金と社会保障1591=1592号64頁)では、保有要件を満たした場合の自動車の利用目的を通院等に限定する実務運用について、「生活保護を利用する身体障害者がその保有する自動車を通院等以外の日常生活上の目的のために利用することは、被保護者の自立助長及びその保有する資産の活用という観点から、むしろ当然に認められる」と判示しています。
すなわち、保有する自動車を日常生活上の目的に利用することこそが、「被保護者の自立助長(生活保護法1条)」と「資産の活用(同法4条1項)」という法の趣旨にむしろ合致するという司法判断が明快に示されているのです。
これに対し、大阪高裁平成28年10月28日判決(平成27年(行コ)第151号)は、「原則として自動車を保有できない他の被保護者との公平性を欠くことになりかねない」ことを理由として、保有を認められた自動車を目的以外に使用してはならないと指導又は指示をすることができると判示しています。
しかし、まず、上記の判決は事業用自動車についてのものであることに留意する必要があります。事業用品として保有が認められる場合は、移動の困難さは要件とされていません。一方で、通勤や通院等のために保有が認められる場合は、障害等があることや公共交通機関の利用が困難な地域に住んでいることなど、自動車が無ければ日常の移動も困難であるケースが多く、保有目的以外の利用を認める必要性が高くなります。
また、大阪高裁判決の考え方に従うとするならば、生活の維持に必要な用件の場合には、自家用車をわざわざ家に置きに戻ったうえでタクシー等を利用しなければならないことになります。それは、「資産の活用(同法4条1項)」の趣旨に反しますし、生活水準をより苦しい方に引き下げて実現する「公平性」であり、少ない最低生活費から更に交通費を求められる事態をもたらすものであって、「最低生活保障(同法1条)」という法の目的に反することが明らかです。

 4 障害者等の「移動の自由」(憲法22条1項・障害者権利条約20条)を侵害すること
 また、保有容認自動車の私用目的を制限することは、障害等をもつ被保護者の「移動の自由」を保障する観点からも問題があります。
 「移動の自由」は、「居住移転の自由」の一環として憲法22条1項で保障されている基本的人権ですが、移動には、生活を維持するための活動ができるという面や、移動した場所で学習をしたり、表現活動を行ったり、選挙に投票したりすることができるようになるなど他の自由を行使することを補助する面など様々な側面があります。。
 障害等を理由として自動車の保有を認められたということは、自動車が無ければ通院等ができないと判断されたということです。自動車がなければ通院等ができないということは、日常生活上の移動全般ができないということです。そのような方について、通院等以外に自動車の利用を禁じることは、「日常生活上、移動するな」と命じているに等しく、上記のように重要な役割を有している「移動の自由」の侵害にほかなりません。
 障害等を持つ方に「移動の自由」を保障する観点からも、保有容認自動車の利用の制限は許されません。

 5 最後に
 厚労省保護課の発出した本件事務連絡は、貴市を事実上名指ししたもので、貴市が道生連に対して行った回答を撤回した背景には厚労省保護課の介入があることは明らかです。このような介入は、実施機関における自主的な判断への不当な圧力であると言わざるを得ません。
 以上の申入れを踏まえ、貴市において、2022年1月26日付け「2022年度札幌市予算要望書」について(回答)」において示した正当な見解を維持するよう強く求める次第です。

以 上






【団体賛同入力フォーム】
上記の申入書に賛同していただける団体の方々は、以下のフォームから団体名・ご担当者名等を入力してください(申入れ時に団体名のみ公表させていただきます。)。



問題事例入力フォーム】
生活保護を利用しながら保有を認められた自動車について、日常生活上の利用を禁じられた問題事例をご存じの方は、以下のフォームから詳細を入力してください(申入れ時に内容を編集して公表させていただく場合があります)。




生活保護問題対策全国会議とつくろい東京ファンドは、杉並区に対し、以下のとおりの「再度の抗議・要請書」を提出しました。

2022年2月4日提出についてはこちらから 「抗議・要請書」



2022年5月9日


杉並区長 田中良 殿
杉並区保健福祉部部長 殿
杉並区保健福祉部杉並福祉事務所荻窪事務所所長 殿

一般社団法人つくろい東京ファンド
生活保護問題対策全国会議




再度の抗議・要請書



 2021年7月、貴区の杉並福祉事務所荻窪事務所を訪れ、生活保護を申請した50代の男性(Aさんとします)が、親族への扶養照会を拒否する意向を示した申出書を持参し、口頭でも80代の両親に照会をしないでほしいと職員に訴えたにもかかわらず、職員が申出書の受け取りを拒否し、後日、扶養照会を強行されるという事案(以下、「本事案」と略す)が発生しました。
 私たち2団体は、Aさんに対する貴区の対応が区民の人権と尊厳を著しく損なうものであり、扶養照会に関する厚生労働省や東京都の運用方針にも反するものであるとして、本年2月4日、Aさんや複数の杉並区区議会議員とともに荻窪事務所の窓口を訪れ、「抗議・要請書」を提出。Aさんを交えた話し合いの場を本年2月末までに設定し、Aさんに直接、謝罪をすること等を求めました。
 私たちは本事案の経緯を知る荻窪事務所の所長との面談を要望しましたが、貴区は「まん延防止等重点措置」が発出されていることを口実に話し合いの場を持つことは難しいと回答してきました。しかし、同措置の期間が終了した3月21日以降も動きがなかったため、Aさんから依頼を受けた樋脇岳区議が保健福祉部長を通じて所長との面談の設定を要望したところ、4月27日、所長の部下から樋脇区議に「『会いません』との伝言を承っています」との返答が伝えられました。

 私たちはこれまで生活保護行政の改善を求めて、さまざまな地方自治体に申し入れをおこなってきましたが、担当者との面談自体を拒否されたのは極めて異例であり、貴区の対応は極めて不誠実です。
職員により不当な対応をされた区民が有権者の代表である区議を通して、責任者である管理職との話し合いを求めているにもかかわらず、対話を拒否し続けるのは民主主義を否定する行為に他なりません。
 貴区は本事案についての区議会での質疑で、Aさんへの対応は適切であったと答弁していますが、本当にそのように考えているのなら、Aさんご本人と面談をすることに何の問題もないはずです。Aさんと会って事実関係を確認することで、区議会での説明と矛盾が生じ、不都合な事実を認めざるをえなくなることを怖れているのでしょうか。

 私たちは地方自治体としてあるまじき貴区の対応に厳重に抗議するとともに、改めて、本事案に関して責任を持つ貴区の管理職が私たち及びAさんとの面談の機会を設定することを強く求めます。

 なお、本年2月4日に「抗議・要請書」を提出した際、私たちは貴区公式サイトでの生活保護制度の紹介ページにおいて、親族による扶養が「前提」「要件」であるとの誤った記載があることを指摘する資料も提出しました。
 4月1日に貴区が問題のページの記載を変更し、生活保護と親族扶養の関係について「前提」「要件」との文言を削除したのは、私たちの指摘を受け止めたものだと推察されますが、これまでの貴区の扶養照会の運用が誤った制度認識に基づき、違法に運用されていたのではないか、という疑念は深まるばかりです。貴区の扶養照会の運用について検証する第三者委員会の設置も要請します。



印刷版(PDF)のダウンロードはこちらから


2021年春、申請者が扶養照会を拒否している場合には、その意向を尊重する方向で運用が改善されました。

これを受け、生活保護問題対策全国会議とつくろい東京ファンドは、「扶養照会に関する申出書」を作成しました。

http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-401.html

私たちの知る限り、この「申出書」の提出によってほぼ100%扶養照会を止めることができていましたが、昨年、東京都杉並区がこの「申出書」の受け取りを拒否し、80代の両親に扶養照会を強行していたことがわかりました。

そこで、私たちは、2022年2月4日、杉並区に対し、以下のとおりの「抗議・要請書」を提出しました。





2022年2月4日


杉並区長 田中良殿
 杉並区保健福祉部杉並福祉事務所所長殿


一般社団法人つくろい東京ファンド
生活保護問題対策全国会議



抗議・要請書

 
 私たちは、すべての人の健康で文化的な生活を保障するため、生活保護を利用しやすくするための制度の拡充や運用の改善を求めて活動している団体です。

生活保護利用の最大の阻害要因となってきた扶養照会について、厚生労働省は昨年3月30日、「要保護者が扶養照会を拒んでいる場合等においては、その理由について特に丁寧に聞き取りを行い、照会の対象となる扶養義務者が『扶養義務履行が期待できない者』に該当するか否かという観点から検討を行うべきである」という通知を発出しました。
 親族への照会の範囲を「扶養義務履行が期待できる者」に限定した上で、要保護者の意向を尊重することを明確にしたこの通知を受けて、私たち2団体は、生活保護の申請者が照会を拒否したい場合、拒否の意思とその理由を書面で表明することができるチェック式の申出書式(「扶養照会に関する申出書」及び「添付シート」。以下、「申出書」と略す)を作成し、それらの書式のPDFをネットで公開しました。
 この「申出書」は全国各地で活用されており、福祉事務所の現場の職員からも「所内で、申請者の親族に関する事情を共有する上でも助かっている」という歓迎の声が寄せられています。

 しかし、昨年7月、杉並区在住の50代男性が杉並区杉並福祉事務所荻窪事務所に生活保護の申請に訪れた際、地方在住で「老々介護」の状態にある80代の両親に心配をかけたくないという思いから、自らダウンロードして記入した「申出書」を提出しようとしたところ、職員から受け取りを拒否されるという事態が発生しました。
男性に対応した複数の職員は「受け取っちゃいけないと言われているので受け取れません」、「これを受け取らなきゃいけないという法律はありません。どうしても受け取らせようというのなら、手続きは進められません」、「できないものはできない」等と発言しており、職員のミスではなく事務所の方針として「申出書」の受け取りを拒否したことは明確です。

このような方針は、扶養照会を拒否するという要保護者の正当な意思表明を敵視するとともに、保護申請権の侵害であることは明白です。
受け取りを要望し続けている限り、申請手続きが進められないと言われた男性は、「申出書」の提出を断念せざるをえませんでした。
男性は生活保護の申請後や決定後も、口頭で扶養照会を拒否したいという意向を伝えましたが、福祉事務所は高齢の両親への扶養照会を強行しました。

厚生労働省は「生活保護手帳別冊問答集」で上記の通り、「扶養照会を拒んでいる場合」の対応方針を示しており、「概ね70歳以上の高齢者」も「扶養義務履行が期待できない者」の類例の1つとして例示されています。
東京都は以前より「生活保護運用事例集」において、「扶養照会を行うことを事前に要保護者に説明し、了承を得ることが好ましい」とした上で、「要保護者が扶養照会を強く拒否する場合は、理由を確認し、照会を一旦保留し理解を得る」との方針を示しています。
扶養照会拒否の意思を示した書類の受け取りを拒否したこと、口頭で拒否の意思を職員が確認したにもかかわらず、80代の両親に照会を強行したことは、扶養照会の運用に関する国や東京都が示している方針にも幾重にも背くものです。
「生活保護を利用したいなら、権利を主張するな」と言わんばかりの貴区の男性に対する一連の対応は、区民の人権と尊厳を著しく損なうものであり、決して許されるものではありません。
私たちは、貴区の対応に厳重に抗議するとともに下記の通り、要請します。

1. 被害にあった男性ご本人も交えた話し合いの場を本年2月末までに設定し、男性に直接、謝罪をすること。
2. 昨年4月以降、扶養照会を拒否する意向を書面や口頭で表明した要保護者に対して、区がどのような対応をおこなってきたのかを全て調査し、検証・公開すること。
3. 厚生労働省や東京都が示している扶養照会に関する対応方針を福祉事務所の全職員に周知徹底すること。
4. 今後、要保護者が扶養照会を拒否する意思を表明する書類を提出した場合(郵送・FAX送信を含む)、必ず受理すること。いったん提出された書類については、取り下げを求めないこと。書面で拒否の意向が示されたにもかかわらず、照会を実施する場合はその理由を書面で本人に示すこと。
5. 貴区における過去3年間の扶養照会実績(生活保護の申請件数、決定件数、扶養照会の実施及び実施しないと決めた件数、実際に金銭的/精神的援助につながったそれぞれの件数等)を公開すること。
6. 貴区で使用する生活保護申請書の親族の氏名・住所を記載する欄に、申請者がそれぞれの親族への照会を承諾しているか否かをチェックできる項目を設けること。

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 私たちは、昨年10月19日、「生活保護におけるケースワーク業務の外部委託化に反対し、正規公務員ケースワーカーの増員と専門性確保等を求める意見書(案)」を公表して賛同を募るとともに、ケースワーク業務の外部委託事業を行ってきた東京都中野区の状況に関して調査を重ねてきました。

 本日、中野区に対し「生活保護行政の改善を求める要望書」を提出し、東京都と厚労省に対し同区への特別監査を要請するとともに、上記意見書を正式に公表しました。意見書に賛同いただいた方々に、この場を借りて感謝申し上げます。




2021年8月27日


中野区の生活保護行政の改善を求める要望書


中野区長 酒井 直人 様

生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾藤 廣喜

(連絡先)530-0047 大阪市北区西天満3-14-16西天満パークビル 3号館 7階
あかり法律事務所  電話 06(6363)3310 FAX06(6363)3320
事務局 弁護士 小久保哲郎



第1 要望の趣旨
 当会議は、中野区(以下、「貴区」という。)において現在実施されている「中野区高齢者居宅介護支援事業」(以下、「本件事業」という。)について、その実態を明らかにするため、公開質問状(2021年4月2日付、同年5月17日付)に対する貴区からの回答(同年4月28日付 3中健援第642号)及び情報公開請求(同年5月14日付)に対する開示資料(同年5月31日付 3中健援第1127号, 第1040号, 第1116号)をもとに、調査と検討を重ねてきた。また、同年7月9日には貴区との意見交換を実施した。
 その結果、本件事業の制度・運用において、各種法令違反が認められ、それが生活保護利用者の人権侵害を招くなど極めて重大な問題があることが判明した。また、その背景には貴区における生活保護行政の構造的な問題が存在すると考えられる。
 そこで、当会議は、貴区に対し、以下の要望事項に沿い、具体的な改善に向けた取組みを早急に実施することを要望する。

〔要望事項〕
① 本件事業を速やかに廃止すること。
② 本件事業の受託団体に対する事務・会計監査を実施すること。
③ 諸問題の検証のために第三者委員会を設置すること。
④ 福祉事務所の人員体制の適正化(ケースワーカー、査察指導員の充足)のため、スケジュールを示した人員整備計画を策定すること。


第2 要望の理由
1 本件事業の概要
(1)事業の目的
 本件事業は、「保護開始後、一年以上経過し、かつ、安定的な生活状況にある高齢者世帯のケース管理の一部を、高齢者の処遇に専門的なノウハウや実績をもった事業者に委託する」 として、同区における生活保護高齢者世帯の総数の45%にあたる1650世帯(以下、「対象世帯」という。)のケースワーク業務を委託する目的で実施されている。

(2)事業の実施体制
 貴区は、本事業の実施にあたり福祉事務所内に専門の係(生活援護課高齢者保護係)を設けて、同係に区職員である査察指導員1名、地区担当員(ケースワーカー)5名を配置し、別に委託先職員14名(責任者1名、主任2名、専門員11名)を置いている(図1)。

図1 中野区高齢者居宅介護支援事業のイメージ図



 社会福祉法(昭和26年法律第45号。以下「社会福祉法」という。)第16条第2項による標準数では、生活保護世帯80世帯に現業員(区職員のケースワーカー)を1名配置することとしている。しかし、貴区の高齢者保護係の職員ケースワーカーは1650世帯に対して5名しかおらず、区職員1名に生活保護世帯330世帯を担当させている
 実際のケースワーク業務は受託事業者の職員である「中野区高齢者ケースワーク専門員」11名(以下、「専門員」という。)がおこなっている。委託事業の「専門員」は、1人あたり150世帯を担当し、被保護者の相談対応、家庭訪問、ケース記録の作成、保護の変更決定の起案(保護決定調書の作成)、カンファレンス参加などといった本来は区の職員ケースワーカーが担うべき仕事の大部分を業務として実施している 。
 委託事業の「主任」(1〜2名)の業務内容は、訪問・記録の進捗状況の管理や、業務実績管理、専門員が起案した変更・確認文書の確認、専門員の相談、指導であり、いわゆる「査察指導員」(SV)の代替的な役割を果たしている。また、「責任者」(1名)は事業の統括役である。

(3)事業の経過、受託先
 貴区は、本件事業を2010(平成22)年度から現在まで10年以上実施している。開始当初は対象世帯500世帯程度・総事業費3200万円であったが、徐々に世帯数・事業費が拡大し、2014年度からは現在と同じ1650世帯・総事業費約7500万円(2019年度決算:74,937,499円)となっている。
 貴区は、本件事業の実施にあたり国・東京都の補助金を利用している。現在、「生活困窮者就労準備支援事業費等補助金」における生活保護適正実施推進事業「居宅介護支援点検等の充実」事業として補助率3/4(2019年度決算:18,734,000円)が貴区に交付されている。

*同補助金事業は、「居宅介護支援(ケアプラン)点検」等の充実として、介護扶助の適正化を主な目的とした趣旨の事業である。貴区事業の実態は高齢者世帯へのケースワーク業務全般の単なる委託であり、事業実態と補助金の趣旨に相当の乖離がある点も問題である。

 本件事業は、開始当初から現在まですべて同じ事業者(特定非営利活動法人新宿ホームレス支援機構(以下、「新宿ホームレス支援機構」または「受託事業者」という。))が受託している。業者選定は、2010年度は指名競争入札、2011〜2013年度は業者指定による随意契約、2014年度以降は企画提案公募型事業者選定(プロポーザル)により行われているが、受託団体はすべて新宿ホームレス支援機構である。

*なお、2021年度は、2020年12月17日に中野区健康福祉部の部内履行評価委員会において、2020年度上半期の履行状況が「良好である」と結論を得たことから、継続して同事業者に委託実施されている。

2 本件事業の問題点(総論)
 貴区の本件事業は、生活保護のケースワーク業務のすべてを受託事業者に外部委託するものであり、その帰結として、保護の決定及び実施についてまで受託事業者に丸投げするものとなっている。
 その結果、本件事業には、①生活保護法、社会福祉法等の各種法令違反(又はその疑い)が認められるとともに、②生活保護利用者に対する人権侵害や委託先職員のワーキングプア化と事業者による中抜きの疑い等の実際上の問題が生じるに至っている。
 以下、詳述する。

3 本件事業の法令上の問題点
(1)訪問調査業務をすべて丸投げ(社会福祉法第15条第4項違反・保護の実施要領違反)
 生活保護業務における訪問調査活動は、生活状況等を実地に把握することで保護を適正に実施し、生活保護利用者に的確な援助を行うための現業事務の基本とされている。「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号厚生省社会局長通知。以下、「(局)」という)第12の1の(2)のア(家庭訪問)によれば、現業員(ケースワーカー)は、年間訪問計画を策定して、「世帯の状況に応じて必要な回数、少なくとも1年に2回以上訪問すること」とされている。
 
 当初、情報公開された資料によると、高齢者保護係のケースワーカー(正規職員5名)の家庭訪問の総実績は、2019年度全体で30件、2020年度全体で15件であることが判明した 。また、聞き取り内容によると(2021年6月3日)、そのすべてが訪問計画外の臨時訪問であり、計画に基づく訪問件数は2年間を通して0件であった。
 ところが、7月9日の貴区との意見交換時になって、貴区から、上記の件数には同行訪問が入っていないので正確な件数ではないとの指摘があったため、改めて同行訪問を入れた件数の開示を求めたところ、家庭訪問の実績は、2019年度全体で129件(うち、CW単独30件、専門員との同行99件)、2020年度全体で103件(うち、CW単独15件、専門員との同行88件)であるとのことであった。

 いずれにせよ、同係のケースワーカー(正規職員5名)が1650世帯を担当していることからすると、保護の実施要領によれば、本来、年3300回(=1650世帯×2回)の定期家庭訪問が必要となる。にもかかわらず、2019年度は129件(うち単独訪問30件)、2020年度は103件(うち単独訪問は15件)しか訪問していないというのだから、本来の訪問計画数を基準にすると、2019年度は3.9%(単独訪問のみならば0.9%)、2020年度は3.1%(同前0.45%)しか実施していないことになる

 しかも、今回、貴区に対して過去の訪問実績に関する資料を開示請求等で確認したところ、貴区は、被保護世帯の居住地に赴いて実施する「家庭訪問」の回数だけでなく、家庭訪問をしたが会えずに置いて帰った「不在連絡票」を見た被保護者が、来所したり電話をかけてきた場合も訪問実績に含めて算定しているという驚きの事実が判明した(これは高齢者保護係ではなく、中野区福祉事務所全体の対応であるという)。
 当然であるが、「来所面接」や「電話」は、「家庭訪問」ではない。いたずらに訪問実績を水増しする悪質な方法であり、早急に是正すべきである。

*公開質問状(2021年4月2日付)で高齢者保護係のケースワーカー(区職員)の年間訪問計画及び年間訪問実績を尋ねたところ、貴区の回答は「いずれも未集計」というものであった(2021年4月28日付 3中健援第642号)。内容を確認したところ、「ケースワーカー(区職員)は年間訪問計画を策定していない」との回答があった(2021年6月3日)。実際に中野区は平成29年度の厚生労働省監査 、平成28年度の東京都による指導検査 において「年間訪問計画が策定されていない」として、監査指摘・勧告を受けている。
 保護の実施要領(局第12の1)において、訪問の実施にあたって年間訪問計画の策定は義務づけられており、このような運用は明らかに不適切である。なお、ケースワーカーである区職員が訪問計画を策定して、その計画に基づいた訪問を委託先職員に実施させていた場合、労働者派遣法に抵触する違反行為(偽装請負)となるおそれが高い(職員(発注者)による委託先への作業指示とみなされる)。

 今回確認できたのは、2019年度からの直近2年間であったが、貴区は上記の運用を事業開始当初(2010年度)から行っていたと述べており、10年以上に渡って生活保護世帯の家庭実態をケースワーカーの区職員が直接把握することなしに、受託事業者に丸投げして放置していたこととなる。これらは前掲の保護の実施要領上、明らかに不適切な取扱いである。
 のみならず、「現業を行う所員」が、福祉事務所長の指揮監督のもと、家庭訪問等を行い、生活保護世帯の状況を把握して保護の必要の有無・種類を判断することを規定した社会福祉法違反第15条第4項に違反している

*計画による訪問調査の例外として「自立支援プログラムの利用により必要な状況確認ができる場合、その報告や連絡を3回目(特定の高齢者世帯は2回目)以上の家庭訪問とみなすことができる」(局第12の1の(2)のア)規定がある。上記規定はあくまでケースワーカー(職員)による初回1回以上の年度内訪問を前提としており、貴区のように家庭訪問をすべて委託業者に丸投げすることを容認する規定ではない。

 そして、本件事業において委託される業務内容は大変広く、訪問調査業務のみならず、ケースワーク業務全般に及んでいる。
 本件事業の業務には、「生活保護受給者の求めに応じ、相談・助言を行う事務(生活保護法第27条の2に係る事務)」が含まれているが、通常のケースワーク業務のほとんどがこの第27条の2に位置づけられる。訪問や面談により生活保護利用者の状況を把握する相談・助言行為などが想定されるが、利用者の状況次第では相談・助言にとどまらず必要に応じて生活保護の給付をおこなうことになる。たとえば、生活保護利用者から体調不良の申し出があった場合、医療機関の受診の必要性があれば、それを助言し医療券を発行して医療扶助を決定することとなる。このように、生活保護ケースワーク業務と保護の決定・実施に係る事務は、一体的・シームレス(切れ目のない)なものであり、相談・助言行為と保護の決定・実施行為を明確に線引きすることは困難である。
 そのため、本件事業においては、ケースワーク業務全般が外部委託されたことの必然的な結果として、次項で見るとおり、保護事務の根幹である保護の決定・実施行為までも受託事業者が行うこととなっているのである。

(2)保護の決定業務を実質的に委託(生活保護法第19条第4項違反)
 生活保護法(昭和25年法律第144号。以下、「生活保護法」という。)第19条第4項は、保護の実施機関は「保護の決定及び実施に関する事務の全部又は一部を、その管理に属する行政庁に限り、委任することができる」と規定しており、保護の決定又は実施に関する、いわゆる公権力の行使に当たる業務について、民間事業者への外部委託を行うことを禁じている。このことは、厚生労働省も最近の通知(「保護の実施機関における業務負担軽減に向けた方策について」(令和3年3月31日厚生労働省社会・援護局保護課事務連絡)2-(1)外部委託の考え方)で改めて確認しているところである。
 本件事業の委託仕様書において、「生活保護業務のうち、決定を伴わない業務のすべてとする」(「高齢者居宅介護支援業務委託仕様書」5-(2) 業務分担の基本的な考え方)として、委託する業務から保護決定に係る業務を除外しているのは、貴区が上記法令を認識していることの表れであると考えられる。

図2 中野区作成資料:事務分担の基本的な考え方


出所:「高齢者居宅介護支援事業手順書(2020/4/1 Ver.2020-1)」 :3頁


 しかし、貴区が作成した資料によれば、「保護の決定」は「区」であるが、「保護の実施」は「事業者」になっており、この点において既に、「保護の決定又は実施に関わる業務」を民間事業者へ委託することを禁じた生活保護法第19条第4項に違反している
 また、貴区は、形式上、「保護の決定」に係る業務を「区」が行なっているとしているが、実際は以下に見るとおり、これらの業務も民間業者に委託している。
 すなわち、委託事業の専門員(委託先職員)の業務は家庭訪問のみならず、ケース記録作成や保護の変更に関する起案文書(保護決定調書等)の作成にまで及ぶ。

*本件事業の業務報告 によると、専門員は、平成31年度は1624世帯に2回以上の家庭訪問を実施(令和2年度は1621世帯に1回以上 の家庭訪問を実施)している。ただし、この訪問は実施要領に基づく計画に基づく訪問調査にはあたらない。また、端末による事務を各年度1万件以上処理している(詳細は下表)。



出所:各年度高齢者居宅介護支援事業業務報告


 上記資料に「一時扶助」、「収入認定」、「基準変更」と記載のあるとおり、これらの端末による事務処理業務は、明らかに保護の変更決定・実施に直結する業務であり、委託先職員がこれらの業務を行っていることは、生活保護法第19条第4項に違反する。
 
 ところで、この法令違反(保護の決定・実施に係る業務の委託)を糊塗するために貴区が編み出した手法が「起案の案」、「補助業務」である(次頁・図3 中野区方式)。

図3 中野区方式



 図3のとおり、貴区は、「保護の決定に係る業務」について、委託先職員が「案の作成」を行うが、「決定」する業務は区が担っているので、委託先職員は保護の決定業務は行っていないと主張している。具体的な業務のフロー図、分担表が図4である。

図4 中野区が業務手順書で定める「事務処理の原則・基本的考え方」



出所:「高齢者居宅介護支援事業手順書(2020/4/1 Ver.2020-1)」:4,8頁


 このフロー図及び分担表から、委託業者の専門員は、保護の決定に必要な書類(収入申告書、資産申告書等)を徴収し、内容をケース記録に記載し、保護費を算定し、入力処理を行い、保護決定調書の作成を行っていることがわかる。
 これらの業務は、保護の決定を行うために不可欠な一連の作業であり、このままでは法令違反とみなされる。そこで、貴区は、「訪問面談内容の記録(ケース記録)作成は専門員が行っているが、これはケース記録ではなく『ケース記録案』(『起案の案』)である。その後ケースワーカーが確認して押印した際に『起案の案』が『起案』に変わる。」と主張する。そして、専門員が保護費の算定、データ入力処理、決定調書の作成を行なっているが、これは「補助作業」であるという。
 また、専門員による一連の作業を、最初にチェック(内容確認)する業務は、受託事業者の「主任」が行っており、これは本来は区職員の査察指導員の業務である(このことから貴区はケースワーク業務のみならず、査察指導業務も外部委託していると言える)。
 ケースワーカーの役割は「ケース記録内容、保護費算定内容確認、起案」とあるが、実態としては、書類に印鑑を押しているだけにすぎない。むしろ、ハンコを押しているだけの区職員ケースワーカーの「業務」は、「補助業務」であるとさえ言えない。
 以上のとおり、「起案の案」、「補助業務」という貴区の主張は、詭弁、ごまかしにすぎず、実態としては保護の決定・実施に係る業務を委託先の「専門員」が担っているのは明らかである。このような方便が罷り通れば、役所の業務は公権力の行使にあたる場合であろうと、最後に職員がハンコを押しさえすれば、すべて委託可能となってしまう。
 中野区方式は、貴区が関係法令を意識していたからこそ編み出した手法であり、法令違反のみならず、公権力の行使に当たる業務の外部委託を禁じた趣旨を意図的に潜脱していると考えざるをえない。

(3)社会福祉主事資格のない委託先職員(社会福祉法第15条6項及び第19条違反)
 社会福祉法(昭和26年法律第45号。以下、「社会福祉法」という。)第15条第1項は、福祉事務所には、「指導監督を行う所員」(=査察指導員、SV)と「現業を行う所員」(=ケースワーカー)を置かなければならないと規定し、同条第6項は、上記の「所員は、社会福祉主事でなければならない」と規定している。社会福祉主事の職務については、同法第18条第4項に「生活保護法(を含めた福祉六法)に関する事務を行うことを職務とする」との規定がある。これらの規定により、生活保護の事務を行う現業員(ケースワーカー)は、社会福祉主事の資格を保持していなければならない。
 社会福祉主事の資格については、同法第19条により「都道府県知事又は市町村長の補助機関である職員として、年齢二十年以上の者であつて、人格が高潔で、思慮が円熟し、社会福祉の増進に熱意があり、かつ、次の各号(省略)のいずれかに該当するもののうちから任用しなければならない」と規定されている。すなわち、社会福祉主事は「都道府県知事又は市町村長の補助機関である職員」であることが前提の任用資格であり、必要な要件を満たす自治体職員を現業員などの職務に置くことではじめて「社会福祉主事」を名乗ることができる。
 この点、公開質問状(2021年4月2日付)において、本件事業に従事する委託先職員の資格要件及び各資格取得者の人数を尋ねたところ、貴区は、「社会福祉主事2名、社会福祉士4名、精神保健福祉士0名(数字は2020年度のもの)」と回答した(2021年4月28日付 3中健援第642号)。上記のとおり、福祉事務所の職員ではない委託先職員を社会福祉主事とすることはできないにもかかわらず、委託先職員を社会福祉主事として生活保護に関する事務を行わせているならば、社会福祉法第15条第6項及び第19条に違反している

(4)偽装請負の可能性(労働者派遣法違反)
 本件事業において疑われるのが、発注者(自治体職員)から委託先職員に直接の指揮命令が行われるいわゆる「偽装請負」である。偽装請負は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号。以下「労働者派遣法」という。)に抵触する違法行為であるが、偽装請負(違法な労働者派遣事業)に該当せず、適正な請負事業と判断されるためには、①当該労働者の作業の遂行について、当該事業主が直接指揮監督のすべてを行うこと、②当該事業を自己の業務として相手方から独立して処理することが必要とされている(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」。
 生活保護ケースワーク業務の一部を委託する場合、委託先の職員に対して直接、福祉事務所が業務指示を行うことが不適切(偽装請負)であることは、国(厚生労働省保護課)も注意喚起しているところである 。
 したがって、本件事業においても、委託先職員の業務は貴区から独立して処理する必要があり、貴区の職員が委託先職員に直接の作業指示を行うことは禁じられている。
 しかしながら、本件事業に関して貴区(高齢者保護係長、ケースワーカー5名)と事業責任者及び主任が出席する「高齢者居宅介護支援運営会議」の議事録を確認したところ、以下のような記載が見受けられた。


出所:令和2年度 第1回高齢者居宅介護支援運営会議議事録
(令和2年5月26日実施)


 同運営会議は、2020年度第1回目の開催であり、議題1で「CWと専門員それぞれの役割について」が挙げられている。ここで、「CWの役割は、専門員への指示、援助、連携をとること」と確認され、高齢者保護係の職員(ケースワーカー)が専門員に対して直接の指揮命令を行うことが当然の前提とされている。この会議録が生活援護課の課長まで供覧決裁されていることからすれば(決裁日:2020年6月2日)、貴区は、区職員による受託事業者への直接の指揮命令を組織的に認識、認容していたといえる。
 前項において、本件事業が、保護の決定・実施に係る業務を委託業者に丸投げする点において生活保護法及び社会福祉法に違反することを指摘したが、それを回避するために、区職員が保護の決定・実施を主導的に行い、現場で区職員と委託先職員が連携しようとすれば、区職員から委託先の専門員に対して指揮命令が生じる偽装請負(労働者派遣法違反)とならざるをえないのである。
 生活保護ケースワークの外部委託については、厚生労働省も現在検討をしているが、令和3年3月31日に発出された通知(「保護の実施機関における業務負担軽減に向けた方策について」(令和3年3月31日厚生労働省社会・援護局保護課事務連絡)2-(1)外部委託の考え方)において、「現行法において、保護の決定又は実施に関わる、いわゆる公権力の行使に当たる業務について、民間事業者への外部委託を行うことは認められない」と明記し、委託可能な業務、すなわち公権力の行使に当たらない業務として、生活保護法に明記された「被保護者就労支援事業」(生活保護法第55条の7)及び「被保護者健康管理支援事業」(生活保護法第55条の8)、また「通知書類等に係る封入緘や発送の事務」、「保護費の返還金等に係る収納事務」(いわゆるコンビニ収納)を示している。貴区の本件事業がいずれにも該当せず、上記の範囲を著しく逸脱した業務であることは明らかである。

4 本件事業の実際上の問題点
(1)受託事業者の専門員による違法対応・人権侵害
 本件事業における委託先職員(専門員)による違法対応、人権侵害事例も報告されている 。
 本件事業の対象者である70代男性Aさんは、月々の保護費から少しずつ貯金をしており、自費にて中野区内で転居を行った。転居先を家庭訪問した専門員から財産の状況について確認されたため、Aさんが申告したところ、専門員は、貴区が以前に支給したアパートの更新料について、「Aさんはお金があるようだから更新料は返還してください」と述べた。その後、Aさん宅には支給済みの更新料(約10万円)の金額がマイナスで計上され、「保護変更の理由」欄に「更新料の返還」と記載された「一時扶助決定通知書」が送付された。同通知書には、区職員の名前とともに専門員の名前も記載されていた。また、納付書とともに同封されていた、保護費の返還と納付期限までの支払いを求める送付状には専門員の名前だけが記載されていた。
 上記事案は、明らかに生活保護法第56条(不利益変更の禁止)に違反する対応である。そのため、貴区も、支給済みの住宅更新料の返還を求めた福祉事務所の事実把握に誤認があり誤って返還請求をしたとして、返還請求を取り消し、本人には担当課長から謝罪を行っている 。
 本件については、Aさん宅に訪問し、資産状況を確認し、更新料の返還を指示する行為をすべて委託先職員が行っており、これは明らかに保護の決定及び実施に係る業務である。委託仕様書では「保護費の返還・徴収に係る事務」は「区が実施する業務」としているが、実態が仕様書と乖離していることは明らかである。
 これらの一連の行為が、専門員の独断で行われたのであれば、保護の決定・実施に係る業務の委託を禁じた生活保護法第19条第4項違反であり、高齢者保護係の職員(ケースワーカーや査察指導員など)の指導のもとで委託先職員が実施したのであれば偽装請負(労働者法及び労働省告示第37号の違反)となる。いずれにせよ法令違反事例であり、本事例に限らずこのような専門員の指導行為や業務運用は常態化していることが強く疑われる。
 そのほかにも専門員がAさんに対し、「そんなにお金があるのだったら、特別定額給付金も要らないのでは?」と言い、Aさんは自分が給付金を受け取ってよいのか、悩んでしまったと報告されている。
 特別定額給付金は、周知のとおり、新型コロナウイルス感染症による緊急経済対策として、2020年に実施された日本政府による施策の一環であり、原則として住民基本台帳に記載されている給付対象者1人につき10万円が支給される給付金である。これは生活保護利用の有無に関係なく等しく全世帯に給付される制度であり、生活保護における収入として認定されないことも通知されている 。専門員の発言は、通知に違反する運用であるとともに、生活保護利用者を差別する発言であり、生活保護の業務に従事している者として明らかに不適切な人権侵害である。

*同年7月9日に実施した貴区との意見交換の場において、上記事案について、貴区は、「更新料の返還」の扱いについては事実に相違なく、ケースワーカーおよび査察指導員の判断ミスであったと説明した。ただし、「特別定額給付金」の事案については、委託先職員らに「このような説明をしたか?」と尋ねたが名乗り出た職員はいなかったことを根拠に事実を否定した。しかし、事実確認は当該発言をした専門員に対して直接行うべきであり、Aさんが殊更に作り話をする動機もない。

(2)委託先職員の「官製ワーキングプア」化と受託事業者の不適切な収益構造
 本件事業は、単年度約7500万円で委託発注している事業である。中野区「歳出予算明細書」によると、令和3年度の本件事業にかかる積算内訳は次のとおりである。

出所:中野区 歳出予算明細書(令和3年度当初一般会計)


 総予算(75,625,000円)のうち、①リーダー職員(6,200,000円)、②主任(4,700,000円)、③生活保護専門員(@4,300,000円×12人=51,600,000円)として人件費計62,500,000円が事業総額の83%を占め、残り1割が④諸経費(①~③×10%)、ほか1割が⑤消費税(①~④×10%)である。本件事業は、業務に必要な執務場所・物品等の大部分を区が提供しており 、人的労働力の提供という性質が非常に強い委託事業となっている。
 なお、本件事業の事業者選定(2017年度)にあたって、貴区が事業の予算取りの目的で「新宿ホームレス支援機構」に提出を求めた見積書(別添)についても、区の予算内訳と同内容となっている(次資料)。



*新宿ホームレス支援機構が作成した上記の「見積書」は、貴区の浦野区議が2020年秋に本件事業について生活保護課に尋ねたところ、同課の課長から提出されたものの提供を受けたもの。今回、当会議が情報公開請求を行なったところ、同文書については「不存在」との回答であった 。当時の生活保護課長に確認したところ、同文書は確かに浦野区議に提出を行なったものであるが、その後すぐに「破棄」したため、「不存在」と回答したとのことであった(2021年6月10日確認)。

 上記の委託事業費の予算内訳は、消費増税の影響などを除いて毎年同内容であり、今回確認した2017年度~2021年度の5年間の歳出予算書はすべて「①~③委託人件費」、「④諸経費(①~③×10%)」、「⑤消費税(①~④×8又は10%)」で構成されている(すなわち本件事業はほぼ事業従事者の人件費で構成されている)。
 一方で、本件事業の受託事業者である新宿ホームレス支援機構の事業報告書・決算報告書(平成29年度、31年度) を確認すると(「事業別損益の状況」)、本件事業の平成29年度の経常収益が事業収益74,250,000円であるのに対して、経常費用は人件費28,418,680円のみであり、経常増減額(=法人の利益)が45,831,320円となっている。平成31年度では経常収益が事業収益74,937,499円、経常費用は人件費28,431,855円のみであり、経常増減額が46,505,644円である。
 本件事業者の決算報告書のとおりであるならば、総事業費約7500万円のうち、人件費は実際には約2800万円しか支出されておらず、約4500万円が法人の純利益となっている。もしこれが実態であれば、委託事業に従事している専門員を年収200万円程度のワーキングプア状態にとどめることによって、受託事業者が多額の「中抜き」(搾取)を行っていることになるそして、それは、本来支出する必要のない多額の税金を受託事業者に支給していることをも意味する。

*NPO法人の会計ルールを示した『NPO法人会計基準ハンドブック』 によると、「事業別損益の状況」を作成するに際しては、「明らかに特定の事業に係るものは各事業に計上し、明らかに管理部門に係る費用として特定できるものは管理費として、管理部門に計上する。事業費と管理費 を容易には判断できない場合は、合理的な按分の方法により各事業及び管理部門に割り振る」とされている(同書:38)。
 本事業の場合、事業責任者である「①リーダー職員(6,200,000円)」あるいは「④諸経費(①~③×10%:6,250,000円)」は、管理費として管理部門に割り振って算入できる可能性はあるが、合計しても15,950,000円(消費税10%含む)である。残りの人件費(61,930,000円)は、委託先の執務場所(中野区生活援護課内)でフルタイムで事業に従事する「②主任(4,700,000円)」、「③生活保護専門員(@4,300,000円×12人=51,600,000円)」の見積分であり、これらの人件費は明らかに特定事業に係るものであるため、管理部門に算定することはできない(もし管理部門に計上していた場合、不適切な会計処理といえる)。

 なお、新宿ホームレス支援機構の決算報告書に記載された内容が、同団体が提出した「見積書」、区が積算した「歳出予算額」と大きく乖離している点については、貴区の浦野区議が2020年11月27日中野区議会本会議(第4回定例会)において質問しており、岩浅英樹健康福祉部長が以下のように答弁している(同議事録より)。

○健康福祉部長(岩浅英樹) 
法人の事業報告書につきましては、今後確認をしてまいりたいと考えております。


 その後、浦野区議が2021年3月1日予算特別委員会で確認状況を質問したところ、中村生活保護担当課長(当時)から以下のように答弁があった(同議事録より)。

○中村生活保護担当課長 専門員の処遇等につきまして、委託先、NPO法人に資料の提出を求めました。資料の提出はございましたが、不明な点がございましたので、理事長に説明を求めておりまして、現在日程調整中でございます。

 今回当会議が、議会答弁後の確認状況について尋ねたところ(2021年6月10日確認)、中村生活保護担当課長(当時)から「3月下旬にNPO法人から決算報告書の記載について説明を受けた。会計士の助言に従って支給実態とは異なる記載をしているようであったため、2021年度分からはしっかりわかるように記載するように助言しておいた」との回答があった。また、2020年度までの事業経費の支出状況の具体的な確認や資料の任意提出の実施については、「中野区は公契約条例などの法的根拠がないので、そこまですることができないと思った」との回答であった。
 この回答は、3月1日議会の答弁内容(NPO法人に資料の提出を求めた)とも食い違うが、そもそも区が委託している事業について「公契約条例がなければ、委託先に事業経費の状況を確認することができない」ということはありえない。
 実際、貴区が事業者と契約している事業委託契約書の「高齢者居宅介護支援業務委託仕様書」には、次の記載がある。


出所:高齢者居宅介護支援業務委託仕様書(令和2年度)

 上記のとおり、貴区は事業の受託者(=NPO)に対して、事務・会計監査を実施する権限を有している。
 そもそも、NPO法人の弁解どおり、見積書の内容に沿う人件費を支給しているのであれば、決算報告書上もそのとおりに計上すればよいのであって敢えて人件費を過少に計上するよう会計士が助言する理由が全く不明である。弁解自体が疑わしい以上、会計士からの聴取や人件費の支給状況に関する資料の提供を受けることで、上記弁解が真実であるのか確認するのが当然である。そして、確認の結果、上記弁解が虚偽であることが判明すれば、そのような業者に長年事業を委託してきたこと自体の正当性が厳しく顧みられるべきこととなる。
 前述した貴区の一連の対応は、区議会で指摘された事業の会計上の疑義について、みずから事実を明らかにしようという真摯な態度がまったく感じられない議会軽視の対応であるだけでなく、不透明な公金の支出について隠ぺいを図ろうとしていると受け取れられてもやむを得ない
 なお、2020年11月27日に区議会本会議で事業経費に係る疑義が寄せられたにもかかわらず、貴区は、2020年12月17日に区健康福祉部の部内履行評価委員会を開催し、2020年度上半期の履行状況が「良好である」との結論を得て、2021年度の事業継続を決めている。
 また、以下は参考であるが、新宿ホームレス支援機構は、厚労省からの受託事業(ホームレスの方の技能講習事業)において、委託費の不正(水増し請求)を指摘され、現在、国から多額の返還請求を受けている(東京新聞 2020年5月18日記事 )。
 以上から、貴区は委託先の同団体の決算報告書に記載された事業経費の疑義について、早急に事務・会計監査を実施し、事業における経費等の支出実態を明らかにすべきである。

5 法令違反の本件事業を生んだ貴区の行政体質
(1)職員削減ありきの政策
 本件事業実施にあたり貴区が作成した起案・決裁文書である「令和3年度高齢者居宅介護支援事業の実施について」には、次のような記載がある。

出所:「令和3年度高齢者居宅介護支援事業の実施について」
(02中健援第5797号)

 生活保護の現業員(ケースワーカー)は、社会福祉法第16条第2項によって生活保護世帯80世帯に1名を配置することとされており、また指導監督を行う所員(査察指導員)は通達 によって現業員7名につき1名を配置することとされている。これら現業員、査察指導員は社会福祉主事(区の職員)でなければならず、委託先職員に替えることはできない。
 しかしながら、貴区の事業実施に係る決裁文書の記載では、「区職員25名(査察4名ケースワーカー21名)の配置が必要なところ、事業実施によって、区職員の配置が6名(査察1名、ケースワーカー5名)で業務の実施が可能」と記載されており、これはなんら法的根拠のあるものではない。職員削減ありきで、生活保護高齢者世帯への生活保護業務を受託事業者に丸投げしようという貴区の本音が滲みでた表現であり、このような目的をもった事業を、国の補助金を用いて実施していることは甚だ不適切である。

(2)厳しい人員体制
 上記のような違法性の高い事業を現在に至るまで継続している背景には、貴区の特異な人員体制における事情があるものと推察される。
 2020年7月1日時点において、貴区の現業員配置数は、社会福祉法第16条第2項に定める標準数84名に対して、配置数73名と不足数は11名とされている。しかしながら、2017年7月1日時点における不足数は24名に及んでいたことに照らしても、この配置人員数は見かけ上のものであり、実態はより深刻である。
 すなわち、貴区は、2017年度に実施された厚生労働省監査において「生活保護制度の適正な運営のための基本的な事項に多くの問題が認められる」と指摘されたことを契機に、2018年11月からケースワーク業務の完全分業化体制を敷いている。
 いわゆる区内五つの地区を担当する「西部係・北部係・中部係・東部係・南部係」、施設保護世帯を担当する「施設保護係」、本件事業を管轄する「高齢者保護係」といった保護世帯を担当する係とはべつに、新たに移送費などの一時扶助のみを処理する「給付第一係」、収入申告の事務処理や債権管理の専任担当をする「給付第二係」、医療券の発出や重複受診の是正など医療・介護扶助に係る事務を担う「医療・介護係」、保護の新規申請世帯に対する開始時調査のみを行う「新規・調査係」を設けたのである。
 通常であれば「給付第一係」以下、担当世帯をもたない福祉事務所の職員は、社会福祉法第15条第1項第2号の定める「現業を行う所員」(ケースワーカー)ではなく、同条同項第3号の定める「事務を行う所員」(所の庶務をつかさどる)とみなされるが、貴区は、これらの職員をすべてケースワーカーや査察指導員として算定しているため、見かけ上の配置数が水増しされる。実際のところ、世帯・地区を担当して訪問面接や生活支援に取り組むケースワーカーは42名(2020年7月1日時点)しかおらず、その担当しているケースワーカーの1人当たりの担当世帯数は159.6世帯(平均)となっており、標準数の2倍である。分業化による事務軽減があったとしても、このような状況では十分なケースワークができるはずがない。このような手法は、他の福祉事務所では見られないものである。
 貴区においては、大規模な職員削減をはかるため、退職者不補充や委託化・民営化を推し進めてきた経緯がある。2001(平成13)年4月時点で3,073人いた職員は、2014(平成26)年度に2000人にまで削減されており、2020年4月時点でも2,084人である。本件事業が導入された2010(平成22)年は上記の行財政改革に基づく職員削減のただなかであり、そのような人員削減圧力のなかでの対応として本件事業が生み出されたことは想像にかたくない。
 しかしながら、だからといって違法・不適切な事業の継続が是認されるものでは当然ない。本件事業を廃止すれば、その7500万円の予算だけでも、相当数の正規職員を直接雇用することができる。今般、本件事業の問題点が明るみに出たことを契機として、職員削減政策そのものを根本的に見直し、早急に人員体制の整備を行うことが切に求められている。

6 本事業への現時点での貴区の対応
 2021年7月9日に、貴区と実施した意見交換の場において、各種法令違反の疑いが認められるとの当会議の指摘に対して、貴区は「法令違反は一切ない」との回答であった。しかしながら、これまでの指摘から、「偽装請負などの疑惑を抱かせる側面はあった」と述べ、2021年7月1日時点で、本件事業に関する要綱、手順書等を修正したとの回答があった。
 主な変更点は次の2点である。

(1)専門員の名称変更
 委託先職員の呼称を、「高齢者ケースワーク専門員」から「高齢者援護専門員」に修正している。

○変更前

出所:「高齢者居宅介護支援事業手順書(2020/4/1 Ver.2020-1)」:15頁


○2021年7月1日付変更後

出所:「高齢者居宅介護支援事業手順書(2021/7/1 Ver.2021-1)」:16頁


 上記のとおり、専門員の「呼び方」のみ変更したものの「業務内容」はまったく変わっていない。「ケースワークの外部委託」という批判を避けるために「ケースワーク」という箇所のみ削ったと推察されるが、小手先の対応であり、当会議が指摘した各種法令違反の根本的解決には全くなっていない。

(2)「ケース記録」を「記録」に名称変更
 本件事業においては、生活保護世帯への訪問や保護費の算定業務を専門員が実質的に担っており、その業務の一貫として「ケース記録」を専門員が直接記載していることはすでに述べた。保護費の算定、変更決定などの「保護の決定・実施に関する業務」についても、専門員が担っていたが、生活保護法違反との批判を避けるために、専門員は「ケース記録」の「起案の案」を作成していると貴区はこれまで主張していた。
 そして、貴区は、2021年7月1日付で「手順書等」の「ケース記録」の記載をすべて「記録」に変更修正している。

○変更前


出所:「高齢者居宅介護支援事業手順書(2020/4/1 Ver.2020-1)」:7,8頁


○2021年7月1日付変更後


出所:「高齢者居宅介護支援事業手順書(2021/7/1 Ver.2021-1)」:8,9頁


上記のとおり、「ケース記録」からただの「記録」に「呼び方」のみ変更しているが、「業務内容」はまったく変わっていない。先と同様に小手先の対応に過ぎず、当会議が指摘した各種法令違反の根本的な解決には全くなっていない。

以上


○参考資料(一覧)【別添資料の該当箇所ページ番号】
1. 「令和3年度高齢者居宅介護支援事業の実施について」(02中健援第5797号)【1〜4頁】
2. 「高齢者居宅介護支援業務委託仕様書」(令和3年度)【5〜10頁】
3. 「高齢者居宅介護支援業務委託」契約の履行評価表(2020年12月17日実施)【11〜12頁】
4. 「令和3年度 中野区高齢者居宅介護支援事業 実施体制」【13頁】
5. 「中野区福祉事務所 月別訪問実績(高齢者保護係担当分)」【14頁】
6. 「平成29年度生活保護法施行事務監査の結果について」(平成30年2月21日社援発0221第3号厚生労働省社会・援護局長通知)【15〜17頁】
7. 「生活保護法施行事務に係る指導検査の結果について」(平成29年3月31日28福保生保第860号東京都福祉保健局長通知)【18〜19頁】
8. 「高齢者居宅介護支援事業手順書(2020/4/1 Ver.2020-1)」(一部抜粋)【20〜24頁】
9. 「平成31年度(令和元年度) 高齢者居宅介護支援事業業務報告」【25頁】
10. 「令和2年度 高齢者居宅介護支援事業業務報告」【26頁】
11. 「保護の実施機関における業務負担軽減に向けた方策について」(令和3年3月31日厚生労働省社会・援護局保護課事務連絡)(一部抜粋)【27〜29頁】
12. 「令和2年度 第1回高齢者居宅介護支援運営会議議事録」(令和2年5月26日実施)【31頁】
13. 「中野区 歳出予算明細書」(令和3年度当初一般会計)【32頁】
14. 「新宿ホームレス支援機構」に提出を求めた見積書【33頁】
15. 「区政情報一部公開決定通知書」(令和3年5月31日3中健援第1040号中野区長通知)【34頁】
16. 新宿ホームレス支援機構の事業報告書・決算報告書(平成29年度、31年度)(一部抜粋)【35〜40頁】

○公開質問状(2021年4月2日付、同年5月17日付)及び回答。
公開質問状(2021年4月2日付)
「東京都中野区ケースワーク業務に関する公開質問状について(回答)」(2021年4月28日付 3中健援第642号)
抗議兼再度の公開質問状(2021年5月17日付)





 中野区の生活保護行政の改善を求める要望書


 上記要望書【別添資料】1


 上記要望書【別添資料】2


 [厚生労働省] 東京都中野区の生活保護行政に関する特別監査等求める要望書


 [東京都] 東京都中野区の生活保護行政に関する特別監査等を求める要望書


【その他参考資料】
 令和元年の地方からの提案等に関する対応方針(令和元年12月23日閣議決定)


 保護の実施機関における業務負担軽減に向けた方策について(厚生労働省社会・援護局保護課・事務連絡令和 3年3月31日)


 中野区福祉事務所 月別訪問実績(高齢者保護係担当分)1


 中野区福祉事務所 月別訪問実績(高齢者保護係担当分)2


 中野区生活保護課高齢者保護係座席配置


 中野区A氏関係書類





2021年8月27日


生活保護におけるケースワーク業務の外部委託化に
反対し、正規公務員ケースワーカーの増員と
専門性確保等を求める意見書


生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾 藤 廣 喜


【目次】
第1 意見の趣旨
第2 意見の理由
1 はじめに
2 「地方公共団体等の意見」は根拠にならない
3 「福祉事務所の実施体制についての調査結果」も根拠にならない
4 外部委託化は生活保護法の基本原理(国家責任の原理)に反する
5 ケースワーク業務の外部委託化の可否と条件
(1) ケースワーク業務の外部委託化は必然的に「偽装請負」となる
(2) ケースワーク業務の外部委託が許され得る条件
6 ケースワーク業務の外部委託化は官製ワーキングプアの増産をもたらす
(1) はじめに
(2) 政策推進者の本音は福祉予算の削減
(3) 外部委託、非常勤化「先進都市」の実態
7 あるべき改革の方向性
(1) 正規公務員であるケースワーカーの増員と専門職採用の推進
(2) 調査事務、徴収事務の簡素化による事務負担の軽減


第1 意見の趣旨
1 「生活保護におけるケースワーク業務」の外部委託化は、生活保護法の基本原理である「国家責任」の原理に反し、必然的に偽装請負と官製ワーキングプアを生み出すものであるから、反対する。
2 ケースワーカーの業務過多と専門性欠如という問題への対応は、正規公務員ケースワーカーの増員と専門職採用等による専門性の確保、調査事務・徴収事務等の簡素化や効率的な生活保護システムの開発による負担軽減によって行うべきである。


第2 意見の理由
1 はじめに
 政府は、2019(令和元)年12月23日、閣議決定「令和元年の地方からの提案等に関する対応方針」において、「生活保護におけるケースワーク業務の外部委託化」について、次のとおりの方針を示した。

・福祉事務所の実施体制に関する調査結果や地方公共団体等の意見を踏まえつつ、現行制度で外部委託が可能な業務の範囲について令和2年度中に整理した上で、必要な措置を講ずる。
・現行制度で外部委託が困難な業務については、地方公共団体等の意見を踏まえつつ、外部委託を可能とすることについて検討し、令和3年度中に結論を得る。その結果について必要な措置を講ずる。

 ここには、「現行制度で外部委託が可能な業務」については、「令和2年度中」に「必要な措置を講」じ、法改正を要する業務についても、外部委託を可能とする方向で検討し、「令和3年度中に結論を得る」という、外部委託に対して積極的な方針が示されている。
 しかしながら、上記閣議決定が根拠として挙げる「福祉事務所の実施体制に関する調査結果」や「地方公共団体等の意見」は、必ずしも外部委託化の推進を根拠づける内容ではない。そもそも、ケースワーク業務の外部委託化は、生活保護法の基本原理である「国家責任の原理」に反し、必然的に偽装請負を生み出す点において、法的に許され得るものではない。
もともと、行政の「民間委託」(外部委託)は、2000(平成12)年ごろから、行政のコスト削減とサービスの質向上を目指すという名目によって導入されるようになった。しかし、このような掛け声とは裏腹に、現実には、コストの削減が労働者の非正規化や低賃金化をもたらすとともに、専門性の欠如や職務権限を持たないことによる業務のたらいまわし、機械的処理などにより、むしろサービスの質の低下をもたらすとの指摘がなされて久しい。
 そして、コロナ禍の下、感染予防、医療・介護や雇用の保障、居住権保障、そして生活保護など、本来「公的責任」において保障すべき組織や機能が、「外部委託」・「民営化」・「統廃合」などによって、大きく後退しており、さまざまな形で機能不全を起こしていることが明らかになっている。
 今必要とされていることは、財政削減を目的とした「外部委託」や「非正規化」の推進でなく、「公的責任」の明確化・「専門性」の強化・「正規公務員」の増員であると言える。
以下、詳述する。

2 「地方公共団体等の意見」は根拠にならない
 厚生労働省は、令和元年度生活保護担当指導職員ブロック会議の事前アンケートにおいて、各自治体に対し、「ケースワーク業務の一部を外部委託することや、非常勤職員が行うことについてどのように考えますか?」を照会した。その結果は、「賛成」が55(44.0%)、「反対」が33(26.4%)、「その他」が37(29.6%)であり、これが「ケースワーク業務の外部委託化」について多くの自治体が賛成していることの根拠とされる可能性がある。
 しかし、上記の質問は、ケースワーク業務の一部を「外部委託すること」と「非常勤職員が行うこと」という全く異なる2つの事項を一つの質問で問うている。これは、アンケート調査で行ってはならない、典型的なダブルバーレル質問である。
 そこで、ブロック会議資料を、「外部委託すること」と「非常勤職員が行うこと」の各賛否に分けて、詳細に検討すると、後者(非常勤職員の活用)については、賛成28(22.4%)、反対29(23.2%)、その他68(54.4%)と賛否が拮抗しているが、前者(外部委託化)については、賛成9(7.2%)、反対56(44.8%)、その他60(48.0%)と反対が賛成の6倍以上に達している 。
 すなわち、その内容を詳細に検討すれば、多くの自治体が、「ケースワーク業務の外部委託化」に賛成していることの根拠にならないだけでなく、むしろ、反対していることを裏付ける内容となっているのである。厚生労働省の上記事前アンケートの取り方と発表の仕方は、「ケースワーク業務の外部委託化」という結論に誘導するため、恣意的になされていると言わざるを得ない。

3 「福祉事務所の実施体制についての調査結果」も根拠にならない
 日本ソーシャルワーク教育学校連名(ソ教連)は、厚生労働省の委託を受けて、「福祉事務所における生活保護業務の実施体制に関する調査研究事業」を実施し、2020年3月、その「実施報告書」を発表した。
 この調査は、①生活保護業務を14区分に分解し、さらにそれらを130区分に再分解して、現業員、事務職員(正規職)、嘱託職員(非正規職)等のうち誰がその業務を担っているのかについて、全国の福祉事務所(回収数858か所)にアンケート調査するとともに、②指定都市5か所、中核市3か所、一般市4か所にヒアリング調査をしたものである。
上記①の調査から分かるのは、ほとんどの業務を現業員(ケースワーカー)が担っていること、単純な事務作業に限って福祉事務所内部の事務職員や嘱託職員が担っている場合が少なくないことだけである。また、上記②の調査から分かるのは、現在外部委託されている事業のほとんどが、「そもそも現業員が担うことを想定していない業務(例えば学習支援事業、就労準備支援事業、就労訓練事業、求人開拓業務)」であることくらいである 。
 したがって、この調査をもって、家庭訪問、面接、生活指導等の現業(ケースワーク)事務の外部委託の必要性が根拠づけられているとは到底いえない。

4 外部委託化は生活保護法の基本原理(国家責任の原理)に反する
(1)国家責任の原理(生活保護法1条)
 生活保護法1条は、「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」と規定する。
 その趣旨について、法案審議時の逐条説明は、「日本国憲法第二十五條に定められている国民の権利は、……国家権力の積極的な関與によって実現を保障されるべき権利」であり、「右の憲法の精神からして国民の最低限度の生活の保障は、当然に国の責務であり、そのための行政事務は国家事務でなければならない。」としている 。
 この「国家責任」の原理は、憲法25条から直接導かれる生活保護法の根本原理である。

(2)「国」から「実施機関」への権限の委任(生活保護法19条1項)
 生活保護法19条1項は、「都道府県知事、市長及び福祉事務所を管理する町村長」を「保護の実施機関」と位置付けている。
 その趣旨について、同法制定時の厚生省保護課長小山進次郎は、「本法の保護は、法第1条に明瞭に規定する通り、国がその責任においてなすべきものではあるが、実際上において国が直接にその直轄の出先機関を設けて行うことは、……種々の不便、不合理があって容易になし得るものではな」いので、「保護の具体的な決定、実施の権限のすべてを都道府県知事、市長及び福祉事務所を管理する町村長をして、国の機関として委任しその事務を執行、処理させることとしたものである。」 と説明している。
 すなわち、まず、法19条1項は、国が都道府県知事等(保護の実施機関)に保護に関する事務を委任することを定めている。

(3)「実施機関」から「福祉事務所長」への権限の委任(生活保護法19条4項)
 次に、生活保護法19条4項は、「保護の実施機関」が、「保護の決定及び実施に関する事務の全部又は一部を、その管理に属する行政庁に限り、委任することができる。」と規定している。
 その趣旨について、小山は、「福祉事務所において行われるところの本法関係の現業業務と、保護の決定、実施の権限との行使とを有機的に一致させ、もつて本法の実施、運営の効率的能率化を期し、その円滑、適正を計るということ」と説明している 。小山は、別の個所でも、「(保護の実施機関が、)その職責である保護の決定、実施を能率的、効果的に行うためには、保護に関する現業事務を行う福祉事務所と一元的にすることが既に縷々述べて来た通り絶対的に必要」であり、「これが委任について特に第4項を設けて明確に規定されたのである。」と述べている。そして、法19条4項について、「本項は規定の形式が簡単であるに比して、その意義、効果は極めて大である。」 、「本法の保護の決定、実施についての実際的運営は、この法第19条第4項の委任の規定によってなされるものと云っても過言ではないのであって、本項は極めて重要な意義を有する」と、繰り返しその重要性を指摘している 。
 ここで重要なことは、「保護の決定及び実施」という保護事務の根幹部分と、「家庭訪問、指導指示、生活相談、各種調査」といった「現業業務」とを、表裏一体の不可分なもの(いわば「パッケージ」)として、一元的に福祉事務所に担わせることが「絶対的に必要」と、その重要性が強調されている点である。
 それは、「最低生活保障」と「自立助長」という法の目的を達成する、適正な保護の決定及び実施を行うためには、上記の日常的な現業業務を通じて被保護世帯の生活実態や生活上の需要(ニーズ)の変化を把握し、これを適時に「保護の決定及び実施」に反映させていくことが必要不可欠だからである。すなわち、全生活に関わる生活保護の8つの扶助を適正に実施し、障害者加算等の加算、冷暖房器具などの一時扶助、実施機関限りでできる50以上の特別基準を活用して、「必要即応の原則(生活保護法9条)」を具体化するためには、家庭訪問や面接によって被保護世帯の生活に直接触れ、これを迅速に保護の決定及び実施に結びつけることが必要なのである。

(4)実施機関が福祉事務所長に委任すべき事項と復委任の是非
 小山は、「福祉事務所長等に対する保護の決定、実施の権限の委任は、前述した通り福祉事務所の機能が真に発揮されることを目的としてなされるものであるから、その委任事項も福祉事務所等が事務の執行、現業の処理を通じて一貫して円滑になしうるようにその全部に及ぶべきであって、……都道府県知事又は市町村長は、管下全部の福祉事務所長等に対して、保護の決定、実施に関する事務の全部を、換言すれば、対象的にも又内容的にも一切の留保をせずに委任すべきである。……一定の事項に限ってその決定、実施の権限を留保するが如きは、何らの実益もなく、徒に事務手続を倍加し、行政系統をみだすばかりである。」と指摘し 、保護の実施機関は、一切の留保をつけずすべての保護に関する事務を丸ごと福祉事務所長に委任すべき旨強調している。
 また、小山は、次のとおり、福祉事務所長が委任された事務を第三者に復委任することは許されないことを明確に指摘している。
「委任は、本来職務権限を有する者が特に他の者にその権限を移転せしめる行為であるから、受任者は、自らその委任された事務を執行、処理すべき義務を負担するのであって、これを更に第三者に復委任することはできないというべきである。」 。
委任を受けた福祉事務所長等はその範囲の事務に関する限り、排他的、独占的にこれを処理する権限を有することとなり、内部におけると、外部に対するとを問わず自己の名と責任とにおいてこれを処理することができ、又処理すべき義務を負うこととなる。」 。
 ここでも、先に述べたとおり、円滑・適正な保護の実施のためには、保護の決定及び実施に関する事務と現業事務をパッケージとして一元的に福祉事務所長に担わせる必要がある、という考え方が貫かれているのである。

(5)誰が保護に関する事務を担うのか
 生活保護法21条は、「社会福祉法に定める社会福祉主事は、この法律の施行について、都道府県知事又は市町村長の事務の執行を補助するものとする。」と規定する。
 社会福祉法15条1項は、福祉事務所に「指導監督を行う所員」(いわゆる査察指導員(SV))と「現業を行う所員」(いわゆるケースワーカー)を置かなければならないとし、同条6項は、それらの所員は、「社会福祉主事でなければならない。」と規定している。そして、同条4項は、「現業を行う所員」が、家庭訪問、面接、資産、環境等の調査、保護その他の措置の必要の有無及び種類の判断、生活指導等の事務(いわゆるケースワーク)をつかさどる旨定めている。
 同法19条は、「社会福祉主事は、都道府県知事又は市町村長の補助機関である職員とし、年齢二十年以上の者であって、人格が高潔で思慮が円熟し、社会福祉の増進に熱意があり、かつ、次の各号のいずれかに該当するもののうちから任用しなければならない。」と規定し、生活保護の現業事務について、一定の質(専門性)を備えた地方公共団体の専任有給吏員に担わせることとしている。また、同法16条は、所員1人あたりの担当世帯数の「標準数」を都市部で80世帯、郡部で65世帯と定め、所員の量の確保も求めている 。
 その趣旨について、小山は、そもそも保護事務は、「その具体的処理を掌る補助職員の判断、認定、意見等に依拠することが極めて多く、その判断の如何は国民の生存権に直接影響することでもあるから、かかる生活保護の実務に当る補助職員は、これに相応しいところの一定水準以上の学識と経験を有する者でなければならないこととし、これらの者をして生活保護事務に専念、習熟させ」るものとしたこと 、「生活保護法の実施について有効、適正にしようとするならば、この専任の職員が質的に専門的な技術を持っている者であるべきなので、……これが一歩をすすめて、専門社会福祉事業職員設置という世界の趨勢に応ずる社会福祉主事の設置にまで発展してきた」ことを指摘している 。


(6)小括
 以上見てきたとおり、現行生活保護法は、保護に関する事務全体をパッケージとして福祉事務所長に委任し、その現場の最前線の現業については、十分な人員と専門性を備えた有給公務員である社会福祉主事に担わせることによって、国が市民の生存権を保障するという国家責任の原理を完遂しようとしている。その眼目は、保護の決定及び実施という保護事務の根幹部分と、家庭訪問、面接、調査、生活指導等の現業事務を、表裏一体の不可分なものとして、専門性のある有給公務員が一元的に担うことで、国家による生存権保障を実現しようとする点にある。
 先に述べたとおり、保護に関する事務の一部を都道府県知事等の保護の実施機関が留保することさえ許されないことからすれば、その事務の一部を民間団体や民間企業に外部委託することなど到底許されない。仮に、保護事務の外部委託を可能とする法改正が行われるとすれば、それは、現行生活保護法の根幹をなす「国家責任の原理」を掘り崩し、憲法25条の生存権保障を後退させるものとして、社会保障に関する権利の漸進的実現についての法的義務を定める国連社会権規約2条1項、9条等に違反し、違法であると解される。

5 ケースワーク業務の外部委託の可否と条件
(1)ケースワーク業務の外部委託は必然的に「偽装請負」となる
 いわゆる「偽装請負」(労働者派遣事業)に該当せず、適正な請負事業と判断されるためには、
① 当該労働者の労働力を当該事業主が自ら直接利用すること、すなわち、当該労働者の作業の遂行について、当該事業主が直接指揮監督のすべてを行うこと、
② 当該事業を自己の業務として相手方から独立して処理すること、すなわち、当該業務が当該事業主の業務として、その有する能力に基づき自己の責任の下に処理されること
が必要である(昭和61年労働省告示第37号) 。
 4で述べたところからすると、ケースワーク業務を外部委託するには、保護の決定及び実施に関する事務と現業事務をパッケージとして福祉事務所長に委任した趣旨を害さないことが大前提とされなければならない。
 そのためには、日常的に担当ケースワーカーと外部委託先が緊密に意思疎通することが必要不可欠であり、その過程で、ケースワーカーが委託先職員に対して指揮命令を行う場面が当然生じ得る。これでは上記①及び②の条件を満たさないこととなり、ケースワーク業務(特に、家庭訪問、面接、生活指導などの現業事務の根幹部分)の外部委託は必然的に「偽装請負」にならざるを得ない。
 この点からも、ケースワーク業務の外部委託は許されないこととなる。

(2)ケースワーク業務の外部委託が許され得る条件
 上述のとおり、保護に関する事務をパッケージとして福祉事務所長に委任した趣旨が害されないのであれば、ケースワーク業務の外部委託も許されることとなるが、その条件としては、かろうじて次のようなものが考えられる。
①適正な保護の決定及び実施は担保された上で、委託先において独立して実施できる上乗せのサービス
 現在も既に一部の自治体で行われている、子どもの学習支援、就労支援、社会保険労務士等に委託しての障害年金等の受給手続きなどは、これにあたり得る。
②裁量の余地のない純粋な事務作業
 例えば、戸籍等を取り寄せての扶養義務者調査、課税調査、扶養義務者や金融機関等に対する照会書面の発送作業などは、これにあたり得る。しかし、こうした高度にセンシティブなプライバシー情報を取り扱う作業について、福祉事務所内部において専任の嘱託職員を雇用するのではなく、わざわざ業者の選定や管理の負担が生じる外部の民間業者に委託することは個人情報保護の観点から問題がある 。
 したがって、保護のしおりやポスターの印刷などプライバシー侵害の余地のない事務作業以外は、外部委託を許すべきではない。

6 ケースワーク業務の外部委託化は官製ワーキングプアの増産をもたらす
(1)はじめに
 自治体アンケート等で外部委託化に賛成する理由としては、「ケースワーカーの業務負担を軽減し、質の高いケースワークに専念できる」というものが多い。一方、支援者や当事者の立場からは、「3科目主事」と揶揄され、福祉的専門性も熱意も持ち合わせず、単に高圧的な現在のケースワーカーよりは、民間の専門職にケースワークを任せた方が「今よりまし」ではないか、という声(「よりまし」論)も聞かれる。
 しかし、ケースワーク業務の外部委託化を推進しているのは、自民党と大阪府等の一部自治体であり、その「真の狙い」を見極めれば、上記のような考えは、「甘い」と言わざるを得ない。

(2)政策推進者の本音は福祉予算の削減
 まず、自民党は、2012年4月に発表した「『生活保護制度』見直しの具体策」において、「生活保護給付水準の10%引き下げ」、「医療扶助を大幅に抑制」、「現金給付から現物給付へ」といった提言とともに、「ケースワーカーを民間に委託し、ケースワーカーを稼働層支援に集中させること」を提言した。この政策に通底するのは徹底した「保護費削減策」である。
 また、2017年12月に開催された「生活保護制度に関する国と地方の協議」において、松井一郎大阪府知事は、上記の自民党提案を具体化し、常勤職員で換算していたケースワーカー標準数を非常勤や外部委託で代用可とするよう提案をした。その際の資料(8頁)では、高齢世帯への訪問回数を年2回から1回に減らすことで、現在36名のケースワーカーの平均担当世帯数を126世帯から156世帯に増やしても、なお7名が余分となるので、これを半分の給料で外部委託すれば14名の人員を稼働世帯層に集中投入できる、という門真市を例にあげたシミュレーションが示されている。
 このような外部委託化推進者の本音を見ると、外部委託化されてもケースワーカーの負担は何ら軽減されず、正規公務員の削減と引き換えに外部委託化による官製ワーキングプアが量産されることが必至である 。

(3)外部委託、非常勤化「先進都市」の実態
 既に外部委託化等が進んでいる以下の実例を見ると、上記のような懸念が決して杞憂ではないことが明らかである。
 ア 外部委託化の例(東京都中野区)
 東京都中野区では、「高齢者居宅介護支援事業」として、被保護高齢者世帯(約1600世帯)の訪問業務の一部をNPO法人に業務委託し、14名の委託職員が福祉事務所に配置されている(1職員当たり114世帯)。同事業の実施要綱によれば、委託事業の内容は、「居住の実態等の状況を把握するため訪問する」(家庭訪問)や「資産、収入状況、扶養義務者の調査」、「生活保護に係る事務処理の支援」とあるが、先にも述べたとおり、本来これらの事務は、福祉事務所長の指揮監督を受けて、現業員 (ケースワーカー)が執り行うものであり(社会福祉法15条4)、外部委託は法的にも認められていない。また、調査等業務において福祉事務所から委託職員に業務指示がある場合は、労働者派遣法に違反する「偽装請負」となる可能性が高い(実際の生活保護現場において、柔軟で機動的なケースワークや連携支援を福祉事務所の直接の業務指示なしに行うことは不可能に近い)。
 他方、中野区は東京23区でもっともケースワーカーの人員体制が悪い区であり、標準定数83人配置すべきところ、57人しか配置されていない(充足率67%、26人も不足。2018年4月時点)。外部委託は、ケースワーカーの人員不足解消の役には全く立っていない(詳細は、本日付「中野区の生活保護行政の改善を求める意見書」参照)。
イ 非常勤職員化の例(大阪市)
 大阪市では、2000年より高齢者世帯については、380世帯(現在は280世帯)に対してケースワーカーは1人の配置とし、訪問嘱託員2-3名が家庭訪問をする実施体制をとった。これにより、ケースワーカーは、本来1,482人配置すべきところ1,009人しか配置されず(充足率68%、423人も不足)、高齢者世帯以外の世帯も含めて、ケースワーカー1人当たりの担当世帯は、標準数80を大幅に上回る114世帯となっている(2018年)。
 高齢者世帯において、ケースワーカーが面接・訪問を行わないため、適切なアセスメントができず、必要な支援が実施できていない。訪問嘱託員が、訪問先で一時扶助などの相談を受けても、「私はケースワーカーではないので分からない」「ケースワーカーに伝えます」という対応になってしまっている。結局、利用者にとって、実質的にケースワーカー不在という状態となり、支援の後退が明らかである。
 現状は非常勤職員という形態であるため、雇用や職員配置の責任や市民とのトラブル等の場合に対応する責任は大阪市にある。しかし、非常勤職員が行っている家庭訪問などが外部委託化されれば、大阪市はその責任を直接問われなくなってしまう恐れがあり、ケースワークの形骸化は一層、進むと言わざるを得ない 。

7 あるべき改善の方向性
 現に生じているケースワーカーの人員と専門性の不足から来る業務過多や不適切なケースワークを解消するためには、業務の外部委託ではなく、以下の方策を講じるべきである。
(1)正規公務員であるケースワーカーの増員と専門職採用の推進
 ケースワーカーが業務過多となっているのは、社会福祉法が定める標準数(1人あたり都市部80世帯、郡部65世帯)を大幅に超える世帯数を担当していることに起因している。法制定時の理念どおり、有給公務員(正規職)のケースワーカーを当然の前提として、法的拘束力のない「標準数」を拘束力のある「法定数」に戻すとともに、担当世帯数の上限をまずは都市部60世帯、郡部40世帯程度に下げることが必要である。
 また、ケースワーカーの専門性が欠如している現状は、「専門社会福祉事業職員設置という世界の趨勢に応ずる社会福祉主事」という現行法制定時の法の理念が実現していないのであるから、社会福祉士等の資格保持者や福祉職経験者の専門職採用を進めるとともに、現職者に対しては研修を通じた資格取得の援助を行うことが必要である 。

(2)調査事務、徴収事務の簡素化による事務負担の軽減
 ケースワーカーの業務過多の原因は、広範で厳密に過ぎる調査事務、徴収事務にも起因しているので、効率的な業務のために簡素化が必要な事務を洗い出し、事務負担の軽減を図る必要がある。例えば、次のような対応が考えられる。
① 年1回の「資産申告書」の一律徴収(2015年度より実施)を見直し、金銭管理が困難な入院・入所者等に限定して実施する。
② 扶養照会は、生活保持義務関係にあっても「扶養の期待可能性のある扶養義務者」に限って行えばよいこととし、他の実施機関や市町村への間接照会についての規定は削除すること。
③ 福祉事務所の過誤払いや、休眠口座の預金など悪意でない少額の不申告資産・収入については徴収免除可能とする。
 また、全国の福祉事務所が使用している生活保護システムは、およそ30数年前から保護費の算定を主な目的として、各自治体が個別に開発したり、既成のソフトを使用したりしてきた。AIの活用が叫ばれる今日、多くの福祉事務所が使用する生活保護システムは陳腐化しており、非効率的である。ケースワーク業務を効率化するために国が責任をもって生活保護システムの改修に取り組むべきである。

以 上



 生活保護におけるケースワーク業務の外部委託化に反対し、
正規公務員ケースワーカーの増員と専門性確保等を求める意見書




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