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 2020年2月、八尾市で生活保護を利用している母子が餓死するという痛ましい事件が起きました。
 調査団を結成して調査を重ね、2021年2月16日、同市に対して、「母子餓死事件をふまえて生活保護行政の改善を求める要望書」を提出したところ、八尾市からは、同年3月31日付で簡素な回答書が届きました。
 また、大阪府も八尾市に対する事務監査を実施し、これを受けて八尾市は、3月25日、大阪府に報告書を提出しています。

■令和3年2月25日付 大阪府の八尾市に対する「生活保護法施行事務監査の結果について(令和2年度)
■令和3年3月25日付 八尾市の大阪府に対する「令和2年度 生活保護法施行事務監査の措置結果について(報告)
安否確認マニュアル・辞退チェックシート

 私たちは、こうした書面を検討したうえで、2021年7月28日朝、八尾市役所の門前でチラシを配布するとともに、改めて「生活保護行政に関する意見書」を提出し、意見交換を行いました。
 意見交換において、八尾市側は、事件については内部で十分に検証していると言いながら、「確認できる事実関係を整理した書面は今つくっているところで、いつ完成するかは明確には言えない」と述べるなど、事実解明に消極的な態度に終始しました。残念ながら、事件を真摯に分析し反省する姿勢は全く見られず、このままでは第二、第三の悲劇が起きかねません。
 
■チラシ「二度と悲劇を起こさないためにもケースワーカーの増員が必要です!




2021年7月28日


母子餓死事件を踏まえた生活保護行政に関する意見書


八尾市長 大松 桂右 殿
       

八尾市母子餓死事件調査団
共同代表 井上 英夫(金沢大学名誉教授)
同    尾藤 廣喜(生活保護問題対策全国会議代表幹事)
同    矢部あづさ(八尾社会保障推進協議会会長)
 
(連絡先)530‐0047大阪市北区西天満3-14-16 西天満パークビル3号館7階
あかり法律事務所 電話06(6363)3310 FAX06(6363)3320
事務局 弁護士 小久保 哲郎



 2020年2月,貴市で生活保護を利用していた女性(当時57歳)及び同居の長男(当時24歳)が居室内において死体で発見された件(以下,「本件餓死事件」といいます。)について,当調査団が本年2月16日付で提出した要望書に対して,貴市からは令和3年3月31日付回答書による回答をいただきました。また,大阪府が貴市に対して令和3年2月25日付で通知した「生活保護法施行事務監査の結果について」に対して,貴市は,大阪府に対し,令和3年3月25日付で「令和2年度 生活保護法施行事務監査の措置結果について(報告)」を提出しました。
 当調査団は,これらの書面を検討しましたが,貴市の対応策は,本件餓死事件についての真摯な分析と反省を欠いたまま,的外れで表面的な弥縫策を列記するにとどまっています。本件のような餓死事件が発生するという事態の深刻さに対する自覚がないため,本質的な改善策とは程遠いものと言わざるを得ません。
 以下,問題点を具体的に指摘しますので,改めてご検討のうえ,対応方法について,本年8月末日までに書面にて,ご回答いただけますよう,お願い致します。


第1 本件餓死事件の事実関係解明と検証委員会設置について
1 当調査団の要望内容
 「貴市において発生した母子餓死事件の事実関係を徹底的に解明し,再発防止策を提言することを目的とした,学識経験者及び当事者等の第三者による検証委員会を設置してください。」

2 貴市の回答内容
 「内部で当該事案の事実確認を行うとともに,民生委員・児童委員と協力しながら安否確認マニュアルを作成し,組織としてしっかり対応しながら,職員自らも主体的に業務改善に取り組んでいるところであり,第三者委員会の立ち上げについては,考えておりません。」

3 評価
(1)  本件餓死事件についての真摯な反省と分析を欠いていること
 そもそも貴市は,事件発覚当初から「個人情報」を盾として本件餓死事件の事実関係の解明に消極的で,当調査団が要望書を提出した当初から,第三者による検証委員会の設置はしない旨断言するなど,事件を真摯に反省した上で再発防止策を構築するという姿勢が全く見られません。
 当調査団は,要望書において,本件餓死事件の問題点として,①長男がいるのに母親単身世帯としての保護費しか支給していなかったこと,②厚労省が示す目安の4倍である月2万円もの保護費の返還をさせていたこと,③2カ月にわたり保護費を受け取りに来なかったのに安否確認を怠ったこと,④安易かつ杜撰な「失踪」を理由とする保護廃止決定を行ったことを指摘しました。
 しかし,当調査団への回答書や大阪府への報告書を見ても,上記の諸点を問題であると自覚した上での具体的な改善策の記載は全く存在せず,大阪府への報告書では,「実施機関としての対応の統一化」「ケース診断会議による組織的検討」「訪問調査活動の充実強化及び組織的進行管理」といった表面的な対応策が列記されるにとどまっています。
 本質的な反省を欠いたまま形式を整えることに汲々としていることからすれば,様々な書類の作成や形式的な診断会議が増えることによって,より一層実質的なケースワークが行えなくなるリスクさえあります。

(2)  全く的外れの「安否確認マニュアル」
 唯一上記③に対する具体策として策定された「安否確認マニュアル」は,「安否確認が取れない事態が発生した場合」に,「可能な範囲で被保護者宅の室内及び居宅の様子を窺う」,「電気メーター,ガス使用量,水道メーターをそれぞれ確認し,記録する」,「現在の状況を迅速に査察指導員に報告し,今後の対応を協議する。」等の“言わずもがな”のごく当たり前の事柄を何度も重複しながら9ページにもわたって列記する内容となっています。
 本来,安否確認を行わなければならないような深刻な事態に陥らないために日常的にどのような支援をする必要があったのかという点こそ,反省し解明しなければならないことのはずです。こうした基本的視点を欠いたまま,「安否確認マニュアル」を策定したことをもって「組織としてしっかり対応」している旨強調するのは,「最悪の死亡事例さえ回避できればよい」という前提に立っているものであり,的外れの対応というほかありません。

第2 実施体制について
1 当調査団の要望内容
 「ケースワーカーの人員を増やして「標準数」を満たすとともに,福祉専門職採用を進め,外部の専門家による研修を充実させるなどして,その専門性を強化してください。」

2 貴市の回答内容
 「生活保護制度の適正な運営を図るためにも,実施体制を整備することの必要性は十分に認識しておりますが,未だ現業員は社会福祉法に定める標準数に比して著しく不足している状況となっており,現業員の増員等については,検討してまいりたいと考えております。
 また,現業員等の研修については,さらなる充実や改善を図るため,その内容や方法等を検討して参ります。」

3 評価
(1) 却って悪化している実施体制~1人あたり133世帯、大阪府内最悪の配置数
 貴市におけるケースワーカーの人員配置については,大阪府の監査でも,平成27年には27人,平成28年と平成29年には23人,平成30年には25人,令和元年には27人の人員不足を指摘されていましたが,令和2年も27人が不足しています。
 府の監査でも,毎年,訪問計画に沿った訪問頻度が確保されていない事例,長期未訪問の事例等が指摘され,訪問実績等に何らかの問題があると判断されたケースの割合(訪問問題率)は,令和元年度で47.9パーセントに及びます。また,令和2年度の監査でも,「今回の監査において,是正改善が必要であると認められた事項については,実施体制の未整備が少なからず影響しているものと思われ,このことは,現業員及び査察指導員に対し過度の負担を強いることとなり,結果として効果的な指導援助ができず,ケースワークの停滞を招くことになります。」と指摘されているところです。
 都市部のケースワーカー一人当たりの担当ケース数の「標準数」は80世帯ですが,貴市のそれは,「標準数」を大きく上回るだけでなく,平成24年4月の120世帯から令和2年4月の128世帯へと悪化していました。これは、大阪府内の自治体で最悪の配置数です。他の中核市も、豊中市(116世帯)、高槻市(106世帯)、寝屋川市(101世帯)、東大阪市(110世帯)と、決して褒められるべき配置数ではありませんが、その中でも八尾市の担当世帯数の多さが突出していることが分かります(2020年度大阪社保協自治体キャラバン資料130頁)。
 今般の母子餓死事件をふまえて、さすがに人員増加が図られることが期待されていましたが、蓋を開けてみると、令和3年4月においては133世帯と更に悪化し、大阪府内最悪の配置数を更新している始末です。

ケースワーカー数被保護世帯数1人当たり世帯数
平成28年4月475,657120
平成29年4月475,714121
平成30年4月465,744124
平成31年4月455,797128
令和2年4月465,905128
令和3年4月45(実質)5,987133


 専門職である社会福祉士については3名から7名に増員されたことは評価できますが,肝心の担当世帯数がより悪化しているようでは,専門職が専門性を発揮して充実したケースワークを行う前提条件を欠くと言わざるを得ません。第1で述べたとおり,形式的な書類作成や会議の業務が増えることとなれば,より一層ケースワークの崩壊が進むことが危惧されます。

(2) 求められる,首長をはじめとする貴市幹部の決断
 「実施体制を整備することの必要性は十分に認識しており,従前から人事担当課等に対しては現業員等の増員を強く要求してまいりました。」等の大阪府に対する報告内容も合わせ検討すると,貴市生活保護部局としては増員の必要性を十分に認識しつつも,人事担当部局の理解が得られず増員に至っていない状況がうかがえます。
 その意味では,貴市生活保護部局だけの責任ではなく,首長をはじめとする貴市幹部の理解と決断が強く求められるところです。

(3) 職員研修について
 大阪府への報告書には,「職場研修を抜本的に拡充し,現業員,査察指導員,管理職全ての職員に対して,生活保護法の制度改正及びその内容,様々な援助困難ケースへの対応経過,関係部署の業務内容等から月1回テーマを決めた上で,研修を実施します。」と記載されていることからすると,基本的に講師も含めて職場内での研修実施を想定されているようです。
 しかし,本件餓死事件に表れた貴市の対応から見ると,貴市職員が生活保護制度や保護の実施要領等に関する十分な理解をしていると評価することは困難であり,内部研修のみでは限界があると考えられます。
 法の基本理念や争訟の具体例,他の自治体における運用事例なども踏まえた外部講師による研修を行うことが強く望まれます。面談時にも申し上げたとおり,当調査団としては,研修内容の検討や講師の派遣等について協力する用意がありますので,ぜひご相談ください。

第3 組織的検討体制の確立
1 当調査団の要望内容
 「被保護者の安否不明等の重大事態が発生した場合や,保護の停廃止等の重要な判断を行う場合には,組織内で情報共有し,適時にケース診断会議を開催できるよう,組織的な検討体制を確立してください。」

2 貴市の回答内容
 「特に複雑困難な問題を有するケースについての援助方針や措置内容等について検討審査を要する場合や,安否不明など緊急的な対応が求められる場合等において,組織的な情報共有を図り,管理職を含め係長以上の職員が出席するケース診断会議等に諮り,速やかに具体的対応について,組織的検討を行う体制を確立します。」

3 評価
 組織的検討を行う体制を確立する姿勢を示されたこと自体は一歩前進ではあります。しかし,第1及び第2で指摘したとおり,本件餓死事件に関する真摯な反省を欠いたまま,人員体制はむしろ悪化し,管理職を含めて専門性を確保するための研修が担保されていない状況では,形式的な会議が増えて新たな業務負担となったり,会議をしても正しい方針が出せずにむしろ組織的に迷走を深めるおそれがあります。
 組織的検討も,人員体制の改善と専門性の確保と車の両輪で行わなければ,効果がないことが明らかであり,後者の点の改善策を緊急に講じることが求められています。

第4 辞退廃止の乱発を止めること
1 当調査団の要望内容
 「本来,極めて例外的にしか認められない辞退廃止の乱発を直ちに改めるとともに,稼働年齢層に対して保護の適用を抑制する姿勢を速やかに是正してください。」

2 貴市の回答内容
 「保護受給中の者から辞退届が提出された場合には,(略)辞退届が任意かつ真摯な意思に基づく有効なものかを確認するとともに,自立の目途を十分に聴取し,保護を廃止することで直ちに急迫した状況に陥ることのないよう留意し,組織的検討の上,決定を行っております。」

3 評価
(1) 辞退廃止の異常な多さについての振り返りと反省を欠いていること
 当調査団が要望書で問題を指摘したのは,貴市における保護廃止総数に占める「親類縁者の引取り」「他市転出」「辞退」の件数と割合の異常な多さです。これらは,いずれも要保護性の消滅が確認できていない場合であり,特に辞退廃止の異常な多さは,貴市職員側から不適切な辞退の働きかけが行われていることが強く疑われるのであり,こうした実務運用の問題の重大性に対する振り返りと反省を欠いたままでは,不適切な運用が改善されるとは到底考えられません。

(2) 全く改善されていない不適切な「辞退チェックシート」
 貴市は,「辞退チェックシート」を「改善」したとしていますが,上記のとおり,問題の本質を理解していないため,新シートも以下のとおり問題だらけです。
・そもそも「架電」による確認を可としている。
・肝心の「辞退理由」の確認がない。
・保護を継続利用する権利があることの教示をすることとされていない。
・最低生活費と今後の収入見込みの具体的金額を記入し,教示することとなっていない。保護廃止後の生活の見通しについても,その具体的内容を記載する欄がない。
 これでは,以前からの不適切な辞退廃止を温存強化することとなる恐れがあると言わざるを得ません。
 
以 上






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2020年2月、八尾市で生活保護を利用している母子が餓死死体で発見されるという痛ましい事件が起こりましたが、私たちは、弁護士、研究者、元ケースワーカー、支援者等で調査団を結成し、調査を重ねてきました。

その結果、八尾市は、①母子が同居していることを認識しながら母親一人の保護費しか支給していなかったこと、②その保護費から更に毎月2万円の返還金を徴収していたこと、③2019年12月と1月の2回にわたって保護費を受け取りに来なかったのに徹底した安否確認を行わなかったこと、④単に本人と連絡が取れないことをもって「失踪」との理由で保護廃止したこと、⑤同市では「親類縁者の引取り」「辞退」による保護廃止が異常に多いことなど、保護の実施機関としてあるまじき違法・不当な対応が多々存在することが明らかになりました。

そこで、私たちは、「第三者による検証委員会の設置」等を求めて、八尾市に要望書を提出しました。




2021年2月16日


八尾市母子餓死事件を踏まえて
生活保護行政の改善を求める要望書


八尾市長 大松 桂右 殿
       

八尾市母子餓死事件調査団
共同代表 井上 英夫(金沢大学名誉教授)
同    尾藤 廣喜(生活保護問題対策全国会議代表幹事)
同    矢部あづさ(八尾社会保障推進協議会会長)


 
(連絡先)530‐0047大阪市北区西天満3-14-16 西天満パークビル3号館7階
あかり法律事務所 電話06(6363)3310 FAX06(6363)3320
事務局 弁護士 小久保 哲郎


第1 要望の趣旨
1 貴市において発生した母子餓死事件の事実関係を徹底的に解明し、再発防止策を提言することを目的とした、学識経験者及び当事者等の第三者による検証委員会を設置してください。

2 ケースワーカーの人員を増やして「標準数」を満たすとともに、福祉専門職採用を進め、外部の専門家による研修を充実させるなどして、その専門性を強化してください。

3 被保護者の安否不明等の重大事態が発生した場合や、保護の停廃止等の重要な判断を行う場合には、組織内で情報共有し、適時にケース診断会議を開催できるよう、組織的な検討体制を確立してください。

4 本来、極めて例外的にしか認められない辞退廃止の乱発を直ちに改めるとともに、稼働年齢層に対して保護の適用を抑制する姿勢を速やかに是正してください。

第2 要望の理由
1 はじめに
2020年2月22日、貴市において、生活保護を利用していた母親(57)と長男(24)が餓死死体で発見された事件(以下、「本件」という。)について、私たちは、公開質問状を2回発出(2020年9月7日付、同年10月23日付)し、貴市より回答を頂くなどして、調査と検討を重ねてきました。
 その結果、私たちは、本件における貴市の対応には極めて重大な問題が多々見受けられ、それは貴市における生活保護行政の構造的な問題に起因していると考えるに至りました。以下順に指摘します(事実認定の根拠は別紙時系列表の№)。

2 本件における貴市対応の問題点
(1) 長男がいるのに母親単身世帯としての保護費しか支給していなかったこと
 貴市は、2018年11月、長男が木工製作所で働き始め、長男が祖母宅に転出したとして長男を「世帯員削除」した後は、母親単身世帯として保護を適用してきました(12、13)。
 しかし、祖母が「孫と暮らしたことは一度もない」と述べていること(8)、母や長男の友人も「母と長男は常に一緒に行動していた。長男が祖母宅に行ったとは考えられない」と述べていること(6,7)、2019年5月ころ、公園で寝泊まりしていた母子が母の友人宅に宿泊したこと(19~21)、同月ころ、長男の友人に長男からラインがあった後、母からお金を貸してほしいという電話があったこと(22)、同年6月10日、洋服が汚れた母子が市役所を訪れたこと(23)、同年秋頃まで母子が母の友人宅に食事やお風呂の提供を受けに来ていたこと(34、35)、母子が自宅で餓死死体で発見されたこと(51)などからすれば、長男が「世帯員削除」された後も母子は常に一緒に暮らしていたものと考えられます。
 そうすると、長男が2019年1月に仕事を辞めた後は(15)、母親単身の保護費だけで母子2人が生活してきたことになります。母子は家賃5万5000円の物件に居住していましたが、2018年暮れからは3万9000円の単身基準の住宅扶助費しか支給されず(14)、生活扶助費も単身基準の7万6310円しか支給されていませんでした(2人世帯の12万3490円との差額は4万7180円)。
 母子は、3月26日と5月9日には、料金滞納によって水道の停水措置を受け、5月末には家賃滞納によって前住居を追い出されてホームレス状態となります(16~19)。住宅扶助も含めて一人分の保護費で二人が生活しなければならなかったことからすれば、これらの支払滞納は当然の帰結といえます。
 また、“就労に伴う祖母宅への転出”を理由に「世帯員削除」されていた長男が、2016年春には所持金21円、2018年夏には所持金115円で母親宅で同居しており、母子での保護を再開していること(8、11)、2019年6月10日、母子が一緒に市役所を訪れたこと(23)などからすれば、貴市は、二人が同居していることを容易に認識し得たはずです。のみならず、長男や母親が祖母や長男の友人に「住民票だけ祖母宅に移すよう市から言われた」と語っていたこと(6、7)、母子が長男の保護再開を求めたところ、貴市担当者から「これ以上かばい切れない。何度も見逃すことはできないから生活保護から外れたままでいて欲しい」と言われたと長男の友人に語っていたこと(9)、2019年6月10日のやり取りの際、貴市係長が「長男が母のもとで暮らし働いても収入は申告しないだろう」と考えたこと(23)などからすれば、貴市は、二人が同居していることを知りながら、故意に長男がいないものと扱っていたものと考えられます。
 二人が同居していることを把握していれば、当然二人分の保護費を支給すべき義務が貴市にはあります。貴市は、その義務を果たさず、二人をホームレス状態に追いやったのです。

(2) 月2万円(目安の4倍)もの保護費の返還をさせていたこと
 2019年6月10日、洋服が汚れた母子が突然市役所を訪れました(23)。この時、母子は前住居を追い出されホームレス状態となって公園で野宿しており、自殺を試みたと母の友人に話したり、長男の友人に金銭支援を求めて断られていたことからしても(18~22)、貴市に救いを求めて来庁したものと考えられます。ところが、貴市は、母子に対し、2018年暮れに使い込んだ転居費用約20万円の一括返還という不可能なことを求め、結果的に月2万円の分割払いを約束させます(23)。
 いわゆる不正受給による徴収金を本人の申し出に基づいて徴収する場合であっても、その額は「被保護者が最低限度の生活を維持することができる範囲」でなければならず(生活保護法78条の2第1項、同法施行規則22条の4第2項)、厚生労働省は、その目安額について単身の場合は月5000円としています(平成30年10月1日付課長通知)。その4倍に及ぶ2万円を徴収し続ければ、「最低限度の生活を維持すること」は到底できませんので、貴市の対応は明らかに違法です。
 貴市は、2019年7月5日、最後の住居に転居した後も母親一人世帯として保護を再開し、保護費を窓口払いとして、毎月2万円を返還させ続けました(24、25、28)。一人分の保護費で母子二人が生活していたことを貴市が把握していたと考えられることからすれば、さらに2万円も返還させれば母子の生活が破綻に追い込まれることが容易に想像できるはずです。貴市の対応は、住民の生存権保障を職責とする保護の実施機関として、あるまじき対応と言わざるを得ません。
 実際、母子は、保護再開後間もない8月5日には水道料金を滞納し、督促を受け始め(32)、11月にも停水予告通知を投函されるなど水道局からたびたびの督促を受けるに至っています(36~38)。生活の展望を抱けない母子が誰にも助けを求めることができない日々の積み重ねの中で、絶望の淵に陥っていったことが想像に難くありません。

(3) 2か月にわたり保護費を取りに来なかったのに安否確認を怠ったこと
 2019年12月26日、1月分の保護費の支給日に母親は保護費を取りに来ませんでした。この日、保護費を取りに来なかった人のうち最後まで連絡がつかなかったのは当該世帯だけだったのに、貴市は、居室に立ち入るなどして安否確認を行うことをしませんでした(39、40)。
 2020年2月5日、2月分の保護費の支給日にも保護費を取りに来なかったのに、貴市は、同月10日になって自宅を訪問したものの、無施錠の居室内に立ち入ることもなく、連絡票を投函しただけで帰りました(46~48)。
 生存の命綱である保護費を取りに来ないことは異常事態であり、年末年始の閉庁期間に入る前でもあることからすれば、福祉事務所を挙げて生存確認の努力をするのが通常の対応です。とりわけ、貴市が当該世帯に最低生活費を相当下回る生活を強いていたことからすれば、最悪の事態が生じているという危機感を抱いてしかるべきです。
 ところが、貴市は、1か月以上にわたって安否を確認しないまま放置し続けたのであり、もはや「保護の実施機関」の体をなしていないと言わざるを得ません。
 2020年1月8日、水道局から停水予告書の投函があり(41)、同月15日には水道が止められます(43)。母親は、このころ、病院で処方された薬を大量服薬し、「急性薬物中毒」で死亡しています(51、52)。母親が、かつて友人に自殺未遂の経験を訴えていたことからしても(21)、前途に絶望しての自死と考えるのが自然です。長男は、それからしばらくして隣のベッドで低体温症で死亡しています(51)。自死した母親の遺体を前に、なすすべもなく、食べる物も飲む物もなく、20代の若者が生きる力を失って死に至ったのです。
 貴市の違法・不適切な対応の積み重ねが母子を死に追いやったといっても過言ではありません。

(4) 安易かつ杜撰な保護廃止決定を行ったこと
 ところが、貴市は、2月10日に自宅を訪問し応答がなかったことだけを根拠として、2月18日には「失踪」を理由として、1月分の保護費を取りに来ていないことから1月1日に遡って保護を廃止しています(貴市令和2年10月14日付回答書第1の11項)。1カ月半にわたって安否確認を怠りながら、保護廃止だけは1週間で迅速に行ったのです。
 しかし、そもそも「失踪」という保護廃止理由はありません。本件であり得るとすれば、「転出」による生活保護法19条1項の実施責任消滅ですが、その判断をするためには、これまで居住事実があった以上、その居住事実がなくなったことを具体的根拠をもって積極的に確認する必要があります。2019年6月10日の市議会において、貴市地域福祉部長は、「ケースワーカー等から必要な連絡をしても、連絡が取れない状況が続いて、保護費を受け取れない状況」と答弁していますが、このような状況だけで保護を廃止することは明らかに違法です。
 また、上記理由で保護を廃止し得るのは、居住事実がなくなった時からであって、「保護費を受け取りに来なかった日」に遡及する理由もありません。

(5) 小括
 以上見てきたとおり、本件に表れた貴市の対応には違法又は著しく不当な点が多々認められます。その検証を怠り、小手先の対処に終始すれば、いずれ同種の悲劇が起きかねません。学識経験者等の第三者による検証委員会を設置して、事実関係の徹底解明と再発防止策を策定することが必要不可欠です。

3 貴市における生活保護行政の構造的問題
(1) ケースワーカーの人員不足と専門性の欠如
 都市部のケースワーカー一人当たりの担当ケース数の「標準数」は80ケースですが、貴市のそれは、「標準数」を大きく上回るだけでなく、平成24年4月の120から令和2年4月の128へと悪化しています。大阪府による監査でも、平成27年には27人、平成28年と平成29年には23人、平成30年には25人、令和元年には27人の人員不足を指摘されています。
 また、ケースワーカー46人のうち社会福祉士資格取得者はわずか3名(6.5%)、臨床心理士資格取得者は1名(2.2%)に過ぎず、査察指導員に至っては6名のうち福祉関係の資格を有している者は皆無です。全国平均では社会福祉士の資格取得率が13.1%であること(厚生労働省「平成28年福祉事務所人員体制調査)からしても低すぎます。
本件の経緯や公開質問状に対する貴市の回答内容を見ても、その対応の遅さや杜撰さ、生活保護法や保護の実施要領に関する基礎的な理解不足等の専門性の欠如が如実に伺えます。その意味では、ケースワーカー個人の責任というよりは、福祉事務所全体の実施体制の脆弱さに、本件が発生した根本原因があると言えます。
 ケースワーカーの人員増加と充実した研修や福祉専門職採用の推進による専門性の確保が必要です。
 とりわけ、専門性と的確な指導力のある査察指導員の養成は急務と思われます。また、生活保護実務に関する貴市における研修は、内部の職員を講師とした「保護の実施要領研究」「面接相談について」が各2回行われているだけです。外部の大学教員や弁護士等による憲法・生活保護法の理念、争訟事例もふまえた保護の実施要領のあるべき運用方法に関する研修や、社会福祉、精神保健等の専門家(研究者や実務者)による障害や依存症等への理解を深める研修等を行うべきです。

(2) 組織的検討体制の欠如
「1月分、2月分の保護費を受け取りに来なかったことに対する対応について、担当ケースワーカー・査察指導員だけでなく、福祉事務所内で情報を共有し、組織的検討を行ったのはいつで、どのような検討を行いましたか」という私たちの質問に対し、貴市が、「この度の結果については、非常に重く受け止め、組織的に情報共有し、迅速かつ的確に対応してまいりたいと考えております」(令和2年11月4日回答書10-2)と回答していることからすれば、本件では、保護廃止に至るまで一度も福祉事務所内での情報共有や組織的検討が行われていないようです。しかし、2カ月にわたって保護費を受け取りに来ない世帯に対して保護廃止をするに至るまで、一度もケース診断会議を開かないなどというのは、福祉事務所としてあり得ない対応です。
 大阪府による監査でも、平成28年度から令和元年度まで、例外なく毎年、組織的検討が確認できないことや組織的検討が不十分であることなど、組織の運営管理の問題点が指摘されています。この指摘に対する対応策として、貴市は、毎年「査察指導員又は管理職等との協議」や「監督職以上の職員を含む複数職員での対応」という小手先の改善策を回答するにとどまっており、本来必要な「ケース診断会議の開催」という改善策を講じていません。
 被保護者の安否不明等の重大事態が発生した場合や、保護の停廃止等の重要な判断を行う場合には、組織内で情報共有し、適時にケース診断会議を開催できるよう、組織的な検討体制を確立する必要があります。

(3) 稼働年齢層に対する排斥的な対応
 貴市における被保護世帯の平成27年度から令和元年度にかけての世帯構成の変化を見ると、母子世帯は、661世帯(11.7%)から484世帯(8.2%)へ177世帯(3.5%)減少し、その他世帯は、772世帯(13.6%)から731世帯(12.4%)へ41世帯(1.2%)減少しています。このように、貴市においては、稼働年齢層の世帯構成割合が一貫して減少しており、特に母子世帯の減少傾向は顕著です。
 また、貴市の平成28年度の「生活保護実施方針及び事業計画書」(平成28年度~令和2年度)では、「死亡」、「辞退」、「他管内への転出」の3つで保護廃止の7~8割を占めることや、特に「辞退」と「他管内転出」の件数が多いことの指摘がされています。

廃止数親類縁者の引取他市転出辞退割合計
H30年643304.7%284.4%16024.9%33.9%
H31年685273.9%334.8%12117.7%26.4%
R1年634193.0%345.4%8613.6%21.9%


 過去3年間の保護廃止総数に占める「親類縁者の引取り」「他市転出」「辞退」の件数と割合は、上記のとおり2~3割と高い割合を示しています。これらはいずれも未だ要保護状態にあることが疑われる廃止事由ですが、特に辞退廃止の件数の多さは異常であり、分類の存在自体が異例である「親類縁者の引取」の件数の多さも異常です。大阪府の監査でも、辞退廃止にあたり自立の目途について確認されていない事例や組織的判断が確認できない事例、辞退届を徴収していない事例(平成28年度、平成29年度)、増収や就労を開始した者から収入申告書等を徴収することなく辞退届を受理している事例、要否判定により廃止とすべきところを廃止とせず辞退廃止としている事例、働き手の転入により廃止となるケースにおいて辞退届を徴収している事例(平成30年度)等、不適切な辞退廃止の事例が繰り返し指摘されています。
 こうした経過から見ると、貴市においては、稼働年齢層について真に要保護性が消滅したか確認することのないまま、「親類縁者の引取り」「他市転出」「辞退」等を理由に安易に保護を廃止していることが強く疑われます(この点は、検証委員会で、上記廃止理由の年齢構成をさらに調査・確認するなどして分析を深めることが望まれます。)。
 本件においても、貴市が、就労の不安定な長男について、就労後の収入額やその継続の有無等について確認することなく、祖母宅に転出したものとして繰り返し世帯員削除(長男の保護を廃止)しているのは、こうした貴市の不適切な運用の表れであると理解することができます。
 本来、極めて例外的にしか生じ得ない辞退廃止が異常に多いのは、大阪府の監査でも繰り返し指摘されているとおり、実施要領に反する運用が常態化しているからであり、速やかに是正することが求められます。
 また、コロナ禍で稼働年齢層の要保護者が増えていることからしても、本件にも表れているような稼働年齢層に対して保護の適用を抑制する貴市の姿勢もまた、速やかに是正することが必要です。
以 上

八尾市要望書
八尾市要望書
八尾市要望書





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八尾市から餓死事件に関する公開質問状に対する回答が届きましたが、不十分なので再質問状を送付しました。

八尾市からは令和2年11月4日付で回答がありました。
                          


2020年10月23日


八尾市の母子餓死事件及び
生活保護行政に関する公開質問状(2)


八尾市長 大松 桂右 殿
       

八尾市母子餓死事件調査団
共同代表 井上 英夫(金沢大学名誉教授)
同    尾藤 廣喜(生活保護問題対策全国会議代表幹事)
同    矢部あづさ(八尾社会保障推進協議会会長)


 
(連絡先)530‐0047大阪市北区西天満3-14-16 西天満パークビル3号館7階
あかり法律事務所 電話06(6363)3310 FAX06(6363)3320
事務局 弁護士 小久保 哲郎


本年2月22日,貴市において起きた,無職の母親(54)と長男(24)が餓死死体で発見されるという痛ましい事件について,9月7日付でお送りした公開質問状に対し,貴市より,10月14日付でご回答をいただきました。ご多忙中にご回答をいただいたことに感謝申し上げます。
ただ,回答が可能と思われるのに回答がなかった点,回答内容自体に矛盾等があると思われる点について,以下のとおり,重ねて質問させていただきます。
御多忙中にお手数をおかけして恐縮ですが,2020年10月30日までに上記の連絡先宛に書面でご回答いただけますようお願い致します
 なお,本公開質問状及び貴市のご回答ご対応内容についても,すべて公開いたしますので,予めご承知おき願います。

第1 貴市で発生した母子餓死事件の事実経過について
9 2019年12月26日,1月分の生活保護費を受け取りに来なかった後の家庭訪問の際,「異臭もなく,緊急性を感じられなかったことから無断での立ち入りを行わなかったものです」との回答ですが,「1月分の保護費を受け取りに来なかったこと」,「訪問しても応答がないこと」自体からは緊急性を感じなかったということでしょうか。八尾市としては,「外部まで異臭が漂う状態に至って初めて緊急性を感じる」と理解してよいでしょうか。

10 2020年2月10日,家庭訪問した際,解錠されていたということですが,声掛けをしながら室内立ち入りをしなかったのは何故でしょうか。

10-2 1月分,2月分の保護費を受け取りに来なかったことに対する対応について,担当ケースワーカー・査察指導員だけでなく,福祉事務所内で情報を共有し,組織的検討を最初に行ったのはいつで,どのような検討を行いましたか。

11 「失踪」廃止の法的根拠は,「法第19条1項に規定する管内の現在地を有するとは認められなくなったこと」ということですが,当該世帯に対しては,法19条1項1号の「居住地」保護ではなく,同条項2号の「現在地」保護を実施していたという理解なのでしょうか。
  また,廃止の法的根拠を法19条1項の実施責任の消滅に求めながら,廃止時期については受け取られなかった1月分の保護費発生時に遡っており,廃止理由と整合していないのは何故ですか。

第2 貴市における生活保護行政全般について
貴市における過去5年間の以下のデータをご提供ください。
(下線部についても漏れなくご回答ください)
1 生活保護行政全般
⑪ 申請から14日以内に決定した件数,30日以内に決定した件数,それ以上
要した件数

 特に下線を付して漏れなく回答を求めたにもかかわらず,回答がありませんでした。しかし,開示いただいた各年度の「生活保護実施方針及び事業計画書」には,法定期間内処理の遅延件数と遅延理由ごとの件数調査があることを前提とした記載が例年なされています。
 法定期間内処理の遅延件数と遅延理由ごとの件数でもかまいませんので,ご回答ください。

⑭ 廃止理由の内訳及び内訳別件数
「その他」が異常に多いのは何故か。「その他」にはどのような事由がある
のかと,それぞれの件数(特に「その他」中の「辞退」の件数)。

 同様に下線を付して漏れない回答を求めたにもかかわらず,「その他」にどのような事由があるかを回答いただいたのみで,それぞれの件数(特に「辞退」の件数)についてはご回答いただけませんでした。
 しかし,開示いただいた各年度の「生活保護実施方針及び事業計画書」において,廃止事由としては「辞退」「他管内への転出」の件数が多い旨の記載が例年なされていることから,少なくともこれらの件数調査はあるはずです。また,大阪府監査でも例年のように「保護廃止の適切な取扱い」(特に辞退廃止)について指摘を受け,貴市からこれに対応する措置結果の報告を踏まえて実施方針及び事業計画においても「保護廃止の適切な取扱い」が掲げられていることからしても,廃止事由ごとの件数調査は最低限なされているはずです。
①「その他」の中の廃止事由ごとの件数の推移を可能な限り具体的にご回答ください。万一仮に件数調査がなされていないのであれば,実施方針に「保護廃止の適切な取扱い」を掲げながら,件数調査を行っていない理由をご回答ください。
②辞退にかかる面談時に作成することとしている「チェックシート」(毎年の大阪府監査に対する報告書で言及)の書式を開示してください。また,辞退届の書式を作成していたら開示してください。

3 貴市において作成している文書資料類
以下の資料類があれば,過去5年分について,開示,ご提供ください。

③ 各種自立支援プログラムの実施要領等書面。
④ 「失踪」廃止を含む保護廃止に至る手順等を定めたプログラム等があれば当該書面
 これらの書面の有無をご回答のうえ,あれば写しを交付してください。
 令和2年度生活保護実施方針及び事業計画書6頁記載の「被保護者の居住確認が取れなくなった場合の確認項目」に関する書類を開示してください。併せて,NHKで報道されていた「安否確認マニュアル」も開示してください。

4 追加質問
 平成30年度大阪府監査の2項で,「穴埋めとして実態のない一時扶助を支給した上で、法63条を適用し分割にて返還を求めている事例」が指摘されていますが,実態のない一時扶助を支給する法的根拠は何ですか。

以 上


八尾市への公開質問状(2)(2020年10月23日付)[PDF]

八尾市長からの回答文書(2020年11月4日付)
公開質問状(2)に対する回答文書[PDF]




八尾市長からの回答文書(2020年10月14日付)

公開質問に対する回答文書[PDF]
生活保護法施行事務監査資料(平成28年度~令和元年度)[PDF]
生活保護実施方針及び事業計画書(平成28年度~令和2年度)[PDF]



八尾市への公開質問状(2020年9月7日付)

2020年9月7日付公開質問状



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八尾市長に対し、「八尾市の母子餓死事件と生活保護行政に関する公開質問状」を出しました。




2020年9月7日


八尾市の母子餓死事件及び生活保護行政に関する
公開質問状


八尾市長 大松 桂右 殿
       
八尾市母子餓死事件調査団
共同代表 井上 英夫(金沢大学名誉教授)
同    尾藤 廣喜(生活保護問題対策全国会議代表幹事)
同    矢部あづさ(八尾社会保障推進協議会会長)
 
(連絡先)530‐0047大阪市北区西天満3-14-16 西天満パークビル3号館7階
あかり法律事務所 電話06(6363)3310 FAX06(6363)3320
事務局 弁護士 小久保 哲郎

 本年2月22日,貴市において,無職の母親(54)と長男(24)が餓死死体で発見されるという痛ましい事件が起きました。母親は(一時は長男も)生活保護を利用していたにもかかわらず,2019年12月26日と2020年2月5日の支給日に生活保護費を取りに来庁することなく,水道の給水が停止され,民間事業者であるケアマネージャーによって遺体が発見されるという経過は極めて異常です。
 そこで,私たちは,こうした悲劇を二度と起こさないためには,なぜこのような事件が起きたのか,その背景と原因を明らかにする必要があると考え,生活保護などの貧困問題に取り組む民間団体や個人で本調査団を結成しました。
 つきましては,今般,上記の母子餓死事件について以下のとおり,質問および資料提供の要請をいたします。御多忙中にお手数をおかけして恐縮ですが,2020年9月30日までに上記の連絡先宛に書面でご回答いただけますようお願い致します。(いただいた回答をふまえて意見交換の場をお持ちいただきたいと考えております。)
 なお,本公開質問状及び貴市のご回答ご対応内容はすべて公開いたしますので,予めご承知おき願います。
 
第1 貴市で発生した母子餓死事件の事実経過について
1 当調査団の調査によると,貴市で発生した母子餓死事件の事実経過は別紙時系列表のとおりです。
別紙時系列表記載の事実経緯に誤りがあれば,具体的にご指摘ください。

2 新聞報道及び本年6月10日の貴市議会議事録によると,2019年7月5日以前にも母子が生活保護を利用していたこと,過去にも何回か長男を生活保護から外したことが推測されます。貴市における母子の生活保護の利用状況を明らかにして下さい。また,いつ,どのような理由で長男を生活保護から外しましたか。また,その間の長男の生活実態をどのように把握していましたか。

3 2019年3月,5月の料金滞納による給水停止や,同月末の家賃滞納による退去の原因はどのように把握していましたか。母子2人が母親だけの生活保護費で生活していたことが原因となっていたのではありませんか。

4 母親が,同年7月5日,最後の居住地へ転居した際,貴市は転居費用を支給したのですか。

5 上記転居直前,母子が公園で寝泊まりしているところを警察に保護されたことが生活保護利用の契機であったのなら,なぜ母子2人ではなく母親だけの単身世帯として生活保護を再開し,転居費用を支給したのですか。長男の居所,収入についてはどのように聞き取り,把握しておられましたか。

6 生活保護再開後,貴市では母親から毎月2万円の返還金の回収を始めたということですが,何の費用の返還金だったのですか。また,返還決定にあたっての生活保護法上の根拠条文は何条ですか。また,何を根拠に毎月2万円という返還金額を決めたのですか。厚労省が示す返還金の目安額(単身世帯5000円,複数世帯1万円)に照らしても高すぎるとは考えませんでしたか。

7 生活保護再開後,母親一人の生活保護費で母子2人が生活していたと考えられますが,その事実は把握していましたか。把握していないとすれば,この間,長男はどこでどのように生活しているか,母親に質問しましたか。貴市ではどのように認識していましたか。

8 保護再開後,母親は来庁して生活保護費を受領していたとのことですが,支給日に遅れて来庁することはありましたか。来庁した際に,最低生活費より月2万円低い生活費でどのように生活しているか,問題は起きていないか,聞き取りや話し合いをしましたか。

9 同年12月26日,1月分の生活保護費の受け取りに来庁しなかったということですが,生活保護費以外に収入の当てがなく,年始年末を過ごすための預貯金があるはずもない(同年7月に保護再開されたばかりで月2万円の返還を行っていれば預貯金する余裕などないと考えます)母親がこれを受け取りに来ないというのは異常事態です。年末年始を挟むこともあり,不測の事態をも想定して,連絡票投函に留まらず家主・警察等とも調整するなどして住居に踏み込んで安否確認するのが,母親の生活と生存を守る立場である福祉事務所の通常の対応と考えられます。なぜ,そのような対応をとらなかったのですか。
 また,年内最終の開庁日である翌12月27日には何らかの対応をとられましたか。とらなかったとすれば,その理由も教えてください。
本年6月10日の貴市議会での議事録では,法28条の立入調査権について地域福祉部長は,「住居の中に立ち入る権限まであるものではないと認識しております」と答弁されていますがその根拠をお示し下さい。

10 2020年2月5日,2月分の生活保護費の受取に来庁しなかった際にも,上記同様の安否確認の対応をとらず,2月10日になって自宅訪問して投函するにとどめたのは何故ですか。

11 同年2月18日,1月1日に遡及して「失踪」を理由に保護廃止したということですが,生活保護法上「失踪」という廃止理由はありません。本年6月10日の貴市議会議事録では,地域福祉部長は,「保護をしている場合に,ケースワーカー等から必要な連絡をしても,連絡がとれない状況が続いて,保護費を受け取られない状況」と答弁していますが,その根拠をお示し下さい。保護廃止の法律上の根拠は生活保護法何条ですか。また「失踪」を理由とした保護廃止をするにあたって,失踪の事実をどのように確認しましたか。
 仮に「転出」による実施責任の消滅(法19条)ということであれば,「転出」の事実を具体的にどのようにして確認したのですか。
また,保護廃止日を「1月1日」とした根拠は何ですか。

第2 貴市における生活保護行政全般について
貴市における過去5年間の以下のデータをご提供ください。
(下線部についても漏れなくご回答ください)
1 生活保護行政全般
① 保護費総額
② 被保護世帯数
③ 被保護人員数
④ 保護率(③÷市人口)
⑤ 高齢,障害・傷病,母子,その他世帯の各割合
⑥ 相談件数
⑦ 申請件数
⑧ 申請率(⑦÷⑥)
⑨ 開始件数
⑩ 開始率(⑨÷⑥)
⑪ 申請から14日以内に決定した件数,30日以内に決定した件数,それ以上
要した件数
⑫ 文書による指導指示件数,それに基づく停廃止処分の件数
⑬ 廃止件数
⑭ 廃止理由の内訳及び内訳別件数
「その他」が異常に多いのは何故か。「その他」にはどのような事由がある
のかと,それぞれの件数(特に「その他」中の「辞退」の件数)。

2 職員体制について
① 生活保護査察指導員,同ケースワーカーの各人数
② ①のうち社会福祉主事,社会福祉士,精神保健福祉士,臨床心理士の各資格取得者の人数
③ ①の年齢別,在職年数別人数の内訳,平均在職年数,平均年齢
④ ケースワーカー一人あたりの持ちケース数
⑤ 貴市職員全体の男女比率と貴市の生活保護担当部署職員の男女比率
⑥ 生活保護担当部署職員に対して実施した研修の具体的な内容

3 貴市において作成している文書資料類
以下の資料類があれば,過去5年分について,開示,ご提供ください。
① 生活保護実務運用のための年度別生活保護運営方針または計画書面
② 府の監査における指摘事項書面及び府に対する回答書面
③ 各種自立支援プログラムの実施要領等書面。
④ 「失踪」廃止を含む保護廃止に至る手順等を定めたプログラム等があれば当該書面

以 上


八尾市
八尾市


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 全国「餓死」「孤立死」問題調査団が札幌市白石区に要望していた、餓死された姉妹のうち、3度も生活保護課を訪れた姉に対する応対について担当職員への事情聴取をふくむ要望事項に対し、白石区が2012年6月28日付けで回答しました。

担当職員への事情聴取にあたっての要望事項



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以下は、調査団が要望していた具体的質問事項と、白石区による担当職員への事情聴取の内容です。

平成22年6月1日(1回目)の面接時について
・調査団が要望した具体的質問事項                    ・

平成21年10月に「体調不良により」退職とあるが、具体的にどのように体調不良であるか聞いたか。聞いたとすればどのように述べていたか。
 聞かなかったとすればなぜ聞かなかったか。本人の健康状態の把握は重要であるとは今も考えないか(記憶がないと答えた場合も回答されたい。以下「同前」と表記する)。

その後「採用が決まり、働くも4日程度で解雇」となった原因・理由について聞いたか。聞いたとすればどのように述べていたか。
 聞かなかったとすればなぜ聞かなかったか。仕事が続かなかった理由は今後の稼働可能性を判断する上で重要であるとは今も考えないか(同前)。

「主名義の生命保険(住友生命)」について、解約返戻金の有無金額など具体的内容を聞いたか。聞いたとすればどのように述べていたか。
 聞かなかったとすればなぜ聞かなかったか。保有資産の具体的状況は、相談者の今後の生計維持の可能性を判断する上で重要であるとは今も考えないか(同前)。

既に「婦人服の会社を面接、返事待ちの状況」であるのに、あえて「今後も継続して求職活動をするよう助言した」のはなぜか。

「妹は知的障害により・・現在は稼働していない」とあるが、妹の福祉サービスの活用についてどのような配慮をしたか。していないとすれば、それはなぜか。

「高額家賃について教示」とは具体的に何をどのように教示したのか。(仮に「保護受給後、住宅扶助基準額との差額は生活扶助費から自己負担してもらうことになる」との説明をしたとの回答であれば、)なぜ申請書も受け付けておらず、保護開始の見込みもない者に対してわざわざ受給後のことを説明したのか。

「保護の要件である、懸命なる求職活動を伝えた」とは具体的に何をどのように伝えたのか。表現方法も含めて詳細に再現されたい。(仮に「保護受給後、求職活動をしてもらうことになる」との説明をしたとの回答であれば、)なぜ申請書も受け付けておらず、保護開始の見込みもない者に対してわざわざ受給後のことを説明したのか。また、なぜ「保護受給後、懸命なる求職活動が必要となることを伝えた」などと記載せず、「保護の要件である、」という表記をしたのか。

「懸命なる求職活動」は「保護の要件」であると理解していたのか。どのような意味で「保護の要件」なのか。「懸命なる」との用語は法文にも通知文にもないが、このような表現をなぜ採用したのか。

「関係書類教示」をどのような理由で行ったのか。どのような書類を関係書類として列記し、具体的にどのように教示したのか。

誰でも申請権があり、相談者が今申請することもできること、申請に関係書類の提出は必要のないこと、保護は原則として申請によって開始すること、申請があれば原則として14日以内に要否判定のうえ書面をもって決定することなどについて、明確に説明したか。各項目について説明の有無を回答されたい。
 仮に説明しなかったとすれば、なぜ説明しなかったのか個別に回答されたい。上記の点を具体的に説明しなければ、真に申請意思を確認したことにならないとは今も考えないか(同前)。

生活困窮を訴えられているのに、預貯金・現金の保有状況、ライフラインの停止・滞納状況、国保等の滞納状況について聴取確認しなかったのはなぜか。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

*白石区による担当職員への聴取内容                   * 
【相談者の状況把握】
・受付票記載のとおり確認したと思うが、記憶はかなり曖昧である。
・雇用保険については、離職証明が届き次第申請を行えば受給可能であるとの申立てがあったと記憶している。
・生命保険の解約返戻金については、確認したかどうか記憶していない。

【他法他施策の活用等についての助言】
・受付票記載の雇用保険、障害年金、健康保険については確認したと思うが、他の施策について確認、助言をしたかどうかについては記憶していない。

【生活保護制度の仕組みについての説明】
明確には記憶していないが、通常の面接業務の仕方から以下のとおり説明を行ったと思う。
・保護のしおりを使用して、制度の仕組みについて説明を行った。
・求職活動については、保護のしおりに基づいて説明を行っており、申請権を侵害するような説明は行っていない。
・高額家賃については、基準家賃について教示し、保護受給後に転居していただく場合があることを説明した。 


【保護申請意思の確認】
・明確には記憶していないが、通常このような生活状況であれば申請の意思を確認している。
・明確には記憶していないが、受付票に記載されているとおり相談者から後日関係書類を持参したいとの話があったものと思う。
・関係書類がなくても申請が可能であることを教示したかどうかについては記憶していない。
・後日関係書類を持参したいとの申立てがあったことから、強く申請を勧めることはしていないと記憶している。
・要保護状態にあると認識していたかどうかについては記憶していない。
・関係書類については、持参書類一覧の該当項目をチェックし交付しているが、どのような書類を教示したかについては記憶していない。
・相談者が当日申請しなかった理由については不明。

【その他】
・説明に使用した保護のしおりについては、持ち帰っていないと記憶している。
・手持金の具体的な額、ライフラインの状況、国保の加入状況について未聴取である理由については記憶していない。


平成23年4月1日(2回目)の面接時について
・調査団が要望した具体的質問事項                    ・

相談にあたり、前回の面接記録を読んだか。

ハローワークの教育訓練給付金は月額幾らであるか確認したか。

4月8日の同給付金の支給後の支給予定を確認したか。確認したとすれば、どのように聞いたか。
 確認していないとすればなぜか。かかる事項を確認しなければ、今後の相談者の生計維持可能性を把握し的確な助言を行うことができないとは、今も考えないか(同前)。

公共料金の滞納を聞いているが、その具体的内容や金額について確認したか。確認したとすれば、どのように聞いたか。
 確認していないとすればなぜか。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

国保「未加入」の理由を聞いたか。聞いたとすればどのように述べていたか。
聞いていないとすればなぜ聞かなかったのか。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

支給された「非常用パン」の1食あたりのカロリー数はいくらか。一人当たり1日1食分のみを支給した根拠は何か。それで十分であると今も考えているか。

生活保護申請に至らない相談者に対して「非常用パン」を支給する例は年間何件程度か。そもそも前例はあるか。希有な例であるとすれば、何故にそのような希有な判断をしたのか。相談者の困窮状態が切迫性を認識していたからではないか。

*白石区による担当職員への聴取内容                   *
【相談者の状況把握】
・受付票記載のとおり確認したと思うが、記憶はかなり曖昧である。
・雇用保険については、離職証明が届き次第申請を行えば受給可能であるとの申立てがあったと記憶している。
・生命保険の解約返戻金については、確認したかどうか記憶していない。

【他法他施策の活用等についての助言】
・受付票記載の雇用保険、障害年金、健康保険については確認したと思うが、他の施策について確認、助言をしたかどうかについては記憶していない。

【生活保護制度の仕組みについての説明】
明確には記憶していないが、通常の面接業務の仕方から以下のとおり説明を行ったと思う。
・保護のしおりを使用して、制度の仕組みについて説明を行った。
・求職活動については、保護のしおりに基づいて説明を行っており、申請権を侵害するような説明は行っていない。
・高額家賃については、基準家賃について教示し、保護受給後に転居していただく場合があることを説明した。 

【保護申請意思の確認】
・明確には記憶していないが、通常このような生活状況であれば申請の意思を確認している。
・明確には記憶していないが、受付票に記載されているとおり相談者から後日関係書類を持参したいとの話があったものと思う。
・関係書類がなくても申請が可能であることを教示したかどうかについては記憶していない。
・後日関係書類を持参したいとの申立てがあったことから、強く申請を勧めることはしていないと記憶している。
・要保護状態にあると認識していたかどうかについては記憶していない。
・関係書類については、持参書類一覧の該当項目をチェックし交付しているが、どのような書類を教示したかについては記憶していない。
・相談者が当日申請しなかった理由については不明。

【その他】
・説明に使用した保護のしおりについては、持ち帰っていないと記憶している。
・手持金の具体的な額、ライフラインの状況、国保の加入状況について未聴取である理由については記憶していない。

確認内容(平成24年5月30日)
【相談者の状況把握】
・訓練給付金、年金、手持金、食糧、ライフラインの状況、国保加入状況について、受付票記載のとおり確認したが、記載内容以上のことについては記憶していない。
・給付金については、手違いがあり、1週間後に2ヶ月分がまとめて給付されるとの申立てがあったと記憶している。
・健康状態については、確認したかどうか記憶していない。
・どのような相談ですかとの問いかけに対し、相談者からは、「生活保護の相談ではなく、給付金が支給されるまでの1週間の生活について相談したい。」との趣旨の申立て(正確な表現については記憶がなく不明)があったと記憶している。

【他法他施策の活用等についての助言】
・訓練給付金、障害年金の活用状況について確認し、社協の貸し付けについて言及したが、他の施策について、利用状況の確認、助言をした記憶はない。

【生活保護制度の仕組みについての説明】
・生活保護の相談ではないとの申立てがあったことから、あらためて仕組みの説明は行っていないと記憶している。
・保護のしおりの交付は行っていないと記憶している。
・決定までに一定の日数を要する旨の説明をした経緯については記憶になく不明。

【保護申請意思の確認】
・生活保護の相談ではないとの申立てがあり、非常食の提供の提案の前に、生活保護ではなく1週間の生活の相談であることを再度認識(正確な表現については記憶がなく不明)したと記憶している。

【その他】
・1回目の面接受付票を確認し面接を行ったと記憶している。
・1週間後の給付金と2週間後の障害年金を合わせて30数万円の収入が見込まれたが、給付金が支給されるまでの1週間の生活に困窮していたことから、可能な対応として非常食の提供について提案した。提供個数については、現物を確認してもらったうえで、相談者に決めていただいたと記憶している(これ以上の詳細については、記憶になく不明)。


平成23年6月30日(3回目)の面接時について
・調査団が要望した具体的質問事項                    ・

姉が受けていた職業訓練はいつ終了し、給付金の受領はいつ幾らが最終であるか確認したか。確認したとすれば、どのように聞いたか。
 確認していないとすれば何故か。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

手持ち金の具体的金額を確認したか。確認したとすれば、どのように聞いたか。
 確認していないとすれば何故か。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

「妹が体調を崩し仕事に行けない状態」になったという点につき、どのように体調を崩し、なぜ姉が仕事に行けなくなったのか、その具体的内容を聴取したか。確認したとすれば、どのように聞いたか。
 確認していないとすれば何故か。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

「家賃・公共料金の滞納」の具体的内容について聴取したか。確認したとすれば、どのように聞いたか。
 確認していないとすれば何故か。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

「能力・資産の活用等生活保護制度全般について説明」とは具体的にどのような説明を行ったのか。

「高額家賃について教示」とは具体的に何をどのように教示したのか。(仮に「保護受給後、住宅扶助基準額との差額は生活扶助費から自己負担してもらうことになる」との説明をしたとの回答であれば、)なぜ申請書も受け付けておらず、保護開始の見込みもない者に対してわざわざ受給後のことを説明したのか。

「保護の要件である、懸命なる求職活動を伝えた」とは具体的に何をどのように伝えたのか。表現方法も含めて詳細に再現されたい。(仮に「保護受給後、求職活動をしてもらうことになる」との説明をしたとの回答であれば、)なぜ申請書も受け付けておらず、保護開始の見込みもない者に対してわざわざ受給後のことを説明したのか。また、なぜ「保護受給後、懸命なる求職活動が必要となることを伝えた」などと記載せず、「保護の要件である、」という表記をしたのか。

国保「未加入」の理由を聞いたか。聞いたとすればどのように述べていたか。
 聞いていないとすればなぜ聞かなかったのか。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

誰でも申請権があり、相談者が今申請することもできること、申請に関係書類の提出は必要のないこと、保護は原則として申請によって開始すること、申請があれば原則として14日以内に要否判定のうえ書面をもって決定することなどについて、明確に説明したか。各項目について説明の有無を回答されたい。
 仮に説明しなかったとすれば、なぜ説明しなかったのか個別に回答されたい。上記の点を具体的に説明しなければ、真に申請意思を確認したことにならないとは今も考えないか(同前)。
 そうでないのであれば、なぜ「生活して行けない」として生活保護の相談に訪れた者が「申請意思は示さず退室」したのか、その合理的理由を説明されたい。また、その理由につき姉に確認したか。
 確認しなかったとすれば何故か。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

「次回関係書類をもって相談したい」とは本人の言葉なのか。「次回」とは具体的時期を念頭に置いていたのか、時期の確認を行ったか。行っていないのならばなぜ行わなかったのか。
「関係書類をもって相談したい」というのは本人の意思であったのか。相談するよう指導したのか。
 関係書類を教示したと考えられるが、どんなものであるのか具体的に列記されたい。また「いつまでに」という時期を示しているのか。示していないのであればなぜなのかその理由を説明されたい。

*白石区による担当職員への聴取内容                   *

【相談者の状況把握】
・受付票記載のとおり確認したと思うが、記憶はかなり曖昧である。
・健康状態については、確認したかどうか記憶していない。

【他法他施策の活用等についての助言】
・受付票記載の訓練給付、障害年金、健康保険については確認したと思うが、他の施策について確認、助言をしたかどうかについては記憶していない。

【生活保護制度の仕組みについての説明】
明確には記憶していないが、通常の面接業務の仕方から以下とおり説明したと思う。
・保護のしおりを使用して、制度の仕組みについて説明を行った。
・求職活動については、保護のしおりに基づいて説明を行っており、申請権を侵害するような説明は行っていない。
・高額家賃については、基準家賃について説明し、保護受給後に転居していただく場合があることを説明した。

【保護申請意思の確認】
・明確には記憶していないが、通常このような生活状況であれば申請の意思を確認している。
・明確には記憶していないが、申請の意思を確認するに際して、申請があれば保護適用となる可能性があるとの説明は行っていないと思う。
・明確には記憶していないが、受付票に記載のあるとおり相談者から後日関係書類を持参したいとの話があったものと思う。
・関係書類がなくても申請が可能であることを教示したかどうかについては記憶していない。
・後日関係書類を持参したいとの申立てがあったことから、強く申請を勧めることはしていないと記憶している。
・要保護状態にあると認識していたと記憶している。
・関係書類については、持参書類一覧の該当項目をチェックし交付しているが、どのような書類を教示したかについては記憶していない。
・相談者が当日申請しなかった理由については不明

【その他】
・1、2回目の面接受付票を確認し面接を行ったと記憶している。
・説明に使用した保護のしおりについては、持ち帰っていないと記憶している。
・手持金の具体的な額、ライフラインの状況(滞納分支払後の状況)について未聴取である理由については記憶していない。



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