5月30日14時30分から開催された緊急記者会見の動画です。



2012(平成24)年5月30日

扶養義務と生活保護制度の関係の正しい理解と冷静な議論のために
 


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(A4一枚にまとめた概略版もあります! こちらから

第1 はじめに
 人気お笑いタレントの母親の生活保護受給を週刊誌が報じたことを契機に,生活保護制度と制度利用者全体に対する大バッシングが起こっている。
そこでは,扶養義務者による扶養が生活保護適用の前提条件であり,タレントの母親が生活保護を受けていたことが不正受給であるかのような論評が見られるが,現行生活保護法上,扶養は保護の要件ではない。息子であるタレントの対応に対する道義的評価については価値観が分かれるところかもしれないが,本件が不正受給の問題でないことは明かである。
 また,扶養が保護の要件となっていない現行法を非難する主張に応えて,小宮山厚生労働大臣が,「親族側に扶養が困難な理由を証明する義務を課す」という事実上扶養を生活保護利用の要件とする法改正を検討する考えを示す事態にまで発展している。
 しかし,生活保護利用者の息子が人気タレントとなって多額の収入を得るに至るという,極めて例外的な事例を根拠に,現在改正の在り方を関係審議会に諮問中の厚生労働大臣が,法改正にまで言及すること自体,軽率のそしりを免れない。そもそも,扶養が保護の要件とされていないのには理由があるのであり,これは先進諸外国にも共通しているところである。扶養を保護の要件とすることは,救貧法時代の前近代社会に回帰する大「改正」であり,ただでさえ「スティグマ(恥の烙印)」が強くて利用しにくい生活保護制度をほとんど利用できないものとし,餓死・孤立死・自殺の増加を招くことが必至である。
 まずは,民法上の扶養義務の範囲と程度はどのようになっているのか,現行生活保護制度における扶養義務の取扱いはどのようになっているのか,先進諸外国の制度はどうなのかについて,正確な理解をした上で,報道や議論をしていただきたく,本書面を発表する次第である。

第2 民法上の扶養義務者の範囲と程度について
1 民法上の扶養義務者の範囲  
~三親等内の親族が扶養義務を負うのは極めて例外的な場合である。


扶養義務の根拠条文である民法752条には「夫婦は同居し,互いに協 力し扶助しなければならない。」,同法877条1項には,「直系血族及び兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務がある。」,同条2項には「家庭裁判所は,特別の事情があるときは,前項に規定する場合の外,三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。」と定められている。
同法877条1項に定められた直系血族と兄弟姉妹が絶対的扶養義務者と呼ばれているのに対し,同条2項に定められた三親等内の親族は相対的扶養義務者と呼ばれ,家庭裁判所が「特別の事情」があると認めた例外的な場合だけ扶養義務を負うものとされている。
判例上も,三親等内の親族に扶養義務を認めるのは,それを相当とされる程度の経済的対価を得ている場合,高度の道義的恩恵を得ている場合,同居者である場合等に,できる限り限定して解されている(新版注釈民法(25)771頁)。

2 求められる扶養の程度  
~強い扶養義務を負うのは,夫婦と未成熟の子に対する親だけである。
~兄弟姉妹や成人した子の老親に対する扶養義務は,「義務者がその者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせたうえでなお余裕があれば援助する義務」にとどまる。
~具体的な扶養の方法程度は,まずは当事者の協議で決める。
~協議が調わないときは家庭裁判所が決めるが,個別ケースに応じて様々な事情を考慮するので一律機械的にはじき出されるものではない。


 求められる扶養の程度について,民法上の通説は次のように解している。

① 夫婦間及び親の未成熟の子に対する関係…生活保持義務関係
 生活保持義務とは,扶養義務者が文化的な最低限度の生活水準を維持した上で余力があれば自身と同程度の生活を保障する義務である。

② ①を除く直系血族及び兄弟姉妹…生活扶助義務関係
 生活扶助義務とは,扶養義務者と同居の家族がその者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせた上でなお余裕があれば援助する義務である。
 つまり,強い扶養義務を負うのは,夫婦と未成熟の子に対する親だけで あり,兄弟姉妹同士,成人した子の老親に対する義務(今回のタレントの事例),親の成人した子に対する義務は,「義務者がその者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせたうえでなお余裕があれば援助する義務」にとどまる。
そして,民法879条は,「扶養の程度又は方法について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議することができないときは,扶養権利者の需要,扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して,家庭裁判所が,これを定める」と規定している。つまり,親族間の援助に関することであるから,具体的な扶養の程度又は方法の決定にあたっては,国家による介入は控え,まずは当事者間の協議に委ねて,その意思を尊重することとしている。
 協議が調わない場合には家庭裁判所がこれを定めるが,その場合には,権利者の需要(困窮度),義務者の資力だけでなく,権利者の落ち度,扶養に関する合意(当事者の意思),両者の関係の強弱・濃淡,当該地域の扶養慣行,社会保障制度の利用状況や利用可能性等を総合考慮して決するものとされており,機械的・一律に金額が算定されるようなものではない(前掲796頁)。

3 扶養義務を過度に強調することは現代社会に合わない
 そもそも,民法が親族扶養を定めていること自体,その根拠は明確でないとされている(新版注釈民法(25)726頁)。
 一応,親族共同生活体という観念上の存在が法的に承認され,その限度で生活共同の義務が認められているものと考えられているが,「無縁社会」とまでいわれる現在,この「親族共同生活体」という観念がますます実体を欠くものとなっていることは明らかである。すなわち,そもそも,民法上の扶養義務を強調すること自体,現代社会の実態と合わないともいえる。
 「近時,少子化,核家族化とともに兄弟姉妹の数も少なく,これらの者が成人した後隣居生活をすることは稀であり,それぞれ離れて独立の生活を送っている場合には交流も少なくなる」ことから,兄弟姉妹については,三親等内の親族同様,「特別の事情」がある場合に家庭裁判所の審判によって扶養義務を負わせるようにすべきとの見解もある(同前771頁)。
 後述のように,先進諸国では,別居の兄弟姉妹はもちろん,別居の成人親子間において扶養義務を課す例はまれであることからしても,立法論としては,兄弟姉妹については扶養義務を廃止することも十分に検討に値する。
 また,裁判所職員総合研究所監修のテキストは,「民法の認める親族的扶養の範囲は,近代法に類例をみないほど広範であり,特に現実的共同生活をしない親族にまで扶養義務を課していることを考えると,私的扶養優先の原則の適用に際しては,特に慎重な考慮を払うとともに公的扶助を整備強化することによってその補充性を緩和し,できるだけ私的扶養の機会を少なくすることが望ましい。」(司法協会編『親族法相続法講義案(6訂補訂版)』195頁)と述べているが,後に述べる先進諸外国の制度との対比からも真っ当な方向性といえる。

第3 扶養義務と生活保護との関係について
1 扶養義務者による扶養は保護の要件ではない  

 保護の要件について定めた生活保護法4条1項の規定は,「保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と定めている。これに対し,生活保護法4条2項は,「民法に定める扶養義務者の扶養は保護に優先して行われるものとする」と定め,あえて「要件として」という文言を使っていない。
 「扶養が保護に優先する」とは,保護受給者に対して実際に扶養援助(仕送り等)が行われた場合は収入認定し
て,その援助の金額の分だけ保護費を減額するという意味であり,扶養義務者による扶養は保護の前提条件とはさ
れていない。
 この点は,厚生労働省も,自公政権時代の2008年に「扶養が保護の要件であるかのごとく説明を行い,その結果,保護の申請を諦めさせるようなことがあれば,これも申請権の侵害にあたるおそれがあるので留意されたい。」との通知を発出している(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知「生活保護法による
保護の実施要領の取扱いについて」第9の2(『生活保護手帳2011年度版』288頁))。

2 扶養を保護の要件とするのは前近代社会への回帰  
~旧救護法・旧生活保護法は「イエ(家)制度」を守るため扶養を保護の要件としていたが,現行生活保護法は,先進諸国の例にならい,扶養を保護の要件から外した。


 1929年制定の救護法では,扶養義務者に扶養能力があるときは,まずは扶養義務者が扶養しなければならないとして,扶養が保護の要件とされていた。その趣旨は,家族制度・隣保制度が前提とされていたので,もし民法の認める扶養義務に対して何ら考慮を払わず,国家,公共団体が救護したとすれば,家制度はたちまち破壊され,救護は濫救となり弊害が続出することにあるとされていた(新版注釈民法(25)756頁)。
 そして,1946年制定の旧生活保護法でも,「扶養義務者が扶養をなしうる者」は実際に扶養援助がなされていなくても保護の要件を欠くとされていたが,1950年制定の現行生活保護法ではこの欠格条項は撤廃されたのである。
 現行生活保護法制定当時の厚生省保護課長であった小山進次郎は,その趣旨を次のように説明している。
 「生活保護法による保護と民法上の扶養との関係については,旧法は,これを保護を受ける資格に関連させて規定したが,新法においては,これを避け,単に民法上の扶養が生活保護に優先して行わるべきだという建前を規定するに止めた。一般に公的扶助と私法的扶養との関係については,これを関係づける方法に三つの型がある。 一の型は,私法的扶養によってカバーされる領域を公的扶助の関与外に置き,前者の履行を刑罰によって担保しようとするものである。第二の型は,私法的扶養によって扶養を受け得る筈の条件のある者に公的扶助を受ける資格を与えないものである。第三の型は,公的扶助に優先して私法的扶養が事実上行われることを期待しつゝも,これを成法上の問題とすることなく,単に事実上扶養が行われたときにこれを被扶助者の収入として取り扱うものである。而して,先進国の制度は,概ねこの配列の順序で段階的に発展してきているが,旧法は第二の類型に,新法は第三の類型に属するものと見ることができるであろう。」(小山進次郎『改訂増補生活保護法の解釈と運用』119頁)

 すなわち,1950年の段階で,私法的扶養を強調することは封建的で時代錯誤であるから,現行制度のように改めたものを,現代において扶養を生活保護の要件とすることは,60年以上も前の前近代的時代に逆行することになる。

3 扶養義務を果たさない扶養義務者に対する費用徴収  
 生活保護法77条1項は,「被保護者に対して民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるときは,その義務の範囲内において,保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は,その費用の全部又は一部を,その者から徴収することができる。」と定めている。そして,同条2項は,「前項の場合において,扶養義務者の負担すべき額について,保護の実施機関と扶養義務者の間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,保護の実施機関の申立により家庭裁判所が,これを定める。」と定めている。
 このように,生活保護法は,扶養義務者が真に富裕であるにもかかわらず援助しないケースでは,扶養義務者から費用を徴取できるとの規定をおいている。したがって,現行法でも,明らかに多額の収入や資産を有しているが扶養を行わない扶養義務者に対しては,この規定を利用して費用徴収をすることができる。しかし,この規定を一般に広く適用することは,事実上扶養を保護の要件にするのと類似の効果を招き,後に述べる弊害をもたらす危険があるので望ましくない。
 報道によれば,今回のお笑いタレントのケースでは,高収入を得るようになってから福祉事務所と協議のうえ仕送り額を決めて仕送りをし,今年に入ってから増額もしたということである。タレントの年収と仕送り額によっては,道義上その金額の妥当性が問題になる可能性はあるが,前述のとおり,成人した子の老親に対する扶養義務は比較的弱い義務であり,具体的な扶養の金額は,当事者の意思も含めた様々な事情を総合考慮して決すべきものなので,額の当否を一概に判断するのは困難である。
 いずれにせよ,福祉事務所と協議のうえ仕送り額が決められ,そのとおりの仕送りがなされていたということからすれば,少なくともタレントの母親の生活保護受給が「不正受給」にあたるものでないことは明らかである。

4 生活保護実務上の扶養義務の取り扱い  
(1)違法な水際作戦の常套手段 ~後を絶たない餓死事件
 前述のとおり,本来,扶養は保護の要件ではないが,現場では,保護の要件であるかのように説明して申請を断念させる「水際作戦」の常套手段とされている。
 日弁連が2006年に実施した全国一斉生活保護110番の結果では,違法な水際作戦の可能性が高いと判断された118件のうち,「扶養義務者に扶養してもらいなさい」という対応が49件と最も多かった。
 古くは,1987年1月,札幌市白石区の3人の子どもを持つ母親が,再三福祉事務所に保護を申請したにもかかわらず,福祉事務所が,「働けば何とか自活できるはず」「離婚した前夫(子の父)の扶養の意思の有無を書面にしてもらえ」などと主張して,保護申請として処理せず,放置した結果,「餓死」したという,余りにも有名な事件がある。
 また,「保護行政の優等生」「厚生労働省の直轄地」と言われた北九州市において,2005年から3年連続で生活保護をめぐる餓死事件が発生したが,2007年の餓死事件は,生活保護の辞退を強要された52歳の男性が「おにぎり食べたい」という日記を残して死亡したためマスコミでも大きく報道された。このうち,2005年に北九州市八幡東区で起きた孤独死事件は,生前,生活保護の申請に何度も福祉事務所を訪れた被害者に,福祉事務所の担当者が,兄弟姉妹による扶養の可能性がないか確認してから来るようにと違法に追い返したことが原因であった。また,2006年の北九州市門司区での餓死事件も,福祉事務所の担当者が,子どもに養ってもらうようにとして違法に申請を拒絶したことが原因で起きた。
 扶養義務を利用した追い返しは,水際作戦の常套手段となっており,少なくない餓死事件も引き起こしているのである。

(2)扶養照会自体が保護申請上の大きなハードルになっている  
 現行生活保護実務上,生活保護の申請があると福祉事務所は,直系血族(親子)と兄弟姉妹に対して,扶養が可能か否かについての照会文書(扶養照会)を送付する。扶養が可能であるとの回答が返ってくれば,具体的に幾らの仕送りが可能であるかの協議を行い,実際に仕送りがされた額を収入認定し,その分の保護費を減額するが,そうでない場合には,当該世帯の最低生活費を支給することになる。
 しかし,それでも扶養照会の存在は,保護申請をためらわせる大きなハードルになっている。
 疎遠になっている親・兄弟姉妹に,生活保護を利用するほど困窮しているという“恥”を知らせたくないというプライドや意地から,生活保護の利用を拒絶し,過酷なホームレス生活を続けている人なども少なくない。

第4 先進諸外国の扶養義務の範囲と生活保護(公的扶助)制度との関係 
1 イギリス  

(1)扶養義務者の範囲
配偶者間(事実婚を含む)及び未成熟子(16歳未満)に対する親。いずれも同居が前提。
(2)扶養義務と公的扶助との関係
 上記のとおり同居が前提であるので,世帯の問題として把握されることになり,そもそも「優先」関係すら問題にならない。
 成人した子の老親に対する扶養義務もないので,今回のお笑いタレントのようなケースは問題になりえず,イギリス人に説明しても何が問題なのかさえ理解できないであろう。

2 ドイツ  
(1)扶養義務者の範囲
 配偶者間,親子間及びその他家計を同一にする同居者。但し,高齢者,障害者に対する扶養義務は,年10万ユーロ(約1200万円)を超える収入がある親又は子。
 高齢者や障害児を持つ世帯の貧困が社会問題となり、2003年に導入された「基本生計保障」制度において子と親の資産を合算した場合の保有限度を10万ユーロと高く設定することによって、事実上扶養義務の範囲を狭め、上記課題の解消を図った。
(2)扶養義務と公的扶助との関係
 同居していない扶養義務者から実際に扶養が行われれば収入認定の対象となる。日本と同様,扶養は保護の要件ではなく,優先関係にあると言える。
 同居していない扶養義務者が扶養を行わない場合,扶養請求権を実施機関に移転させて償還請求をすることができるが(日本の生活保護法77条と類似の規定),扶養権利者本人(未成年者は除く)が請求を望まない場合は例外とされている。すなわち,扶養を求めるかどうかを一義的には保護申請者に委ねており,実施機関は,当事者の意に反して扶養義務者に対する償還請求をすることはできない。

3 スウェーデン  
(1)民法上の扶養義務者の範囲
 配偶者間(事実婚(Sanbo)含む)及び未成熟子(18歳未満)に対する親。
(2)扶養義務と公的扶助との関係
 イギリス同様世帯の問題であり,扶養の優先関係すら問題にならない。
 高齢者が,生計援助(生活保護)の申請を行う場合,子ども夫婦と同居している場合であっても,高齢者自身の生活費と家賃(高齢者一人の分)が援助の要否判定の基礎となり,子どもに親の扶養(金銭面・介護面とも)をする義務を課すことはない。ましてや,同居していない子どもに扶養義務を課すことなどあり得ない。
 したがって,今回のお笑いタレントのようなケースが問題になることはあり得ない。なお,スウェーデンでは,最低保障年金があり,年金額が低い場合は住宅手当などが加算される仕組みになっているため,高齢者が生計援助(生活保護)を受ける必要性があるケース自体がごく稀である。

4 フランス  
(1)扶養義務者の範囲
 夫婦間と未成年(事実上 25 歳未満)の子どもに対する親
(2)扶養義務と公的扶助の関係
 イギリス,スウェーデン同様,優先関係すら問題にならない。

第5 扶養義務の強調は餓死・孤立死を招く

 小宮山大臣が言及した「扶養義務者に扶養困難な理由の証明義務を課す」とか,一部で主張されているように福祉事務所の調査権限を強化し,扶養義務者の資産も含めて金融機関に回答義務を課すような法改正がなされれば,どうなるであろうか。
   生活に困窮した人が,福祉事務所に生活保護の申請に行くと,親兄弟すべての資産や収入が強制的に明らかにされ,申請者本人が望まなくても,親兄弟は無理な仕送りを迫られることになるであろう。これはほとんどの場合,親兄弟にとって歓迎せざることであって,親族関係は,むしろ決定的に悪化し破壊されるであろう。
   あるいは,福祉事務所の窓口では,25年前の札幌市白石区での餓死事件のように,申請者に対し,「扶養義務者の扶養できない旨の証明書」をもらってくるようにと述べて追い返す水際作戦が横行するであろうが,法改正がなされれば,これは合法として容認され,餓死・孤独死・自殺事件が頻発することになるであろう。
そもそも,生活に困窮している人は,親族もまた困窮していることが多い上,さまざまな葛藤の中で親族間の交際が途絶えていることも多い。先に述べたとおり,現状でさえ,扶養照会の存在を理由に保護申請をためらう人が多数存在するのに,扶養が前提条件とされれば,前記のような親族間での軋轢をおそれて申請を断念する人は飛躍的に増大することは間違いがない。
日本の生活保護利用率は1.6%に過ぎず,現状でも先進諸国の中では異常な低さである(ドイツ9.7%,イギリス9.3%,フランス5.7%)。この状況に加えて,さらに間口を狭める制度改革がなされれば,確実に餓死・孤立死・自殺が増える。
これは,緩慢なる死刑である。しかも,死刑囚ですら糧食を保障されているのに,それさえ奪うという意味では死刑よりも残虐な刑罰である。何人もそのような刑罰を受けるいわれはないし,何人もそのような刑罰を科す権限はない。制度改革を進めた政治家や報道機関は,死者に対してどのような責任がとれるのか,冷静になって慎重に検討することが今,求められている。
かつて,2006年3月4日,大阪市立大学における日独ホームレス問題国際シンポジウムにおいて,前ドイツ連邦副議長であるアイティエ・フォルマー氏は,冒頭「その社会の質は,最も弱き人がどう扱われるかによって決定される」と挨拶され,「貧困者への施策を国政の最も重要な施策として位置づけ,国政を運用してきた」ことを強調された。
日本においても,政治と報道にどのような「貧困政策」を盛り込むのかが,その「質」のあり方とともに問われている。
                                            以 上


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=どうなる?生活保護=
       緊急記者会見のお知らせ

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「生活保護」についての話題が連日報道されています。
さて、いったい「生活保護」の何が問題なのでしょうか。
 芸能人の親族が生活保護を利用していたこと?
 生活保護費が増大していること?
 生活保護制度の運用? それとも制度の内容?
頭を整理しながら、みなさんと一緒に考えたいと思います。
関心のあるみなさまはぜひ、お越しください。

 ★日時・・2012年5月30日(水) 
      14時開場 14時30分開始
 ★場所・・サニー貸会議室 401号
        東京都千代田区内神田3-4-11 
        サニー南神田ビル
        電話 03-5207-5300
  
サニー


 <参加予定者> 林 治 (弁護士)・後閑一博(司法書士)
         稲葉剛(もやい代表)・藤田孝典(ほっとプラス代表)
         生活保護利用当事者ほか

・・・・・・主催:生活保護問題対策全国会議・・・・・・・・
  (連絡先) 大阪市北区西天満3-14-16 西天満パークビル3号館 7F
        あかり法律事務所 弁護士 小久保哲郎
        電話 06-6363-3310


記者会見告知書 →印刷用はこちらから

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生活保護制度に関する冷静な報道と議論を求める緊急声明


              生活保護問題対策全国会議 代表幹事 弁護士 尾藤廣喜
              全国生活保護裁判連絡会  代表委員  小 川 政 亮


1 人気お笑いタレントの母親が生活保護を受給していることを女性週刊誌が報じたことを契機に生活保護に対する異常なバッシングが続いている。
 今回の一連の報道は、あまりに感情的で、実態を十分に踏まえることなく、浮足立った便乗報道合戦になっている。「不正受給が横行している」、「働くより生活保護をもらった方が楽で得」「不良外国人が日本の制度を壊す」、果ては視聴者から自分の知っている生活保護受給者の行状についての「通報」を募る番組まである。一連の報道の特徴は、なぜ扶養が生活保護制度上保護の要件とされていないのかという点についての正確な理解(注1)を欠いたまま、極めてレアケースである高額所得の息子としての道義的問題をすりかえ、あたかも制度全般や制度利用者全般に問題があるかのごとき報道がなされている点にある。

 つまり、①本来、生活保護法上、扶養義務者の扶養は、保護利用の要件とはされていないこと、②成人に達した子どもの親に対する扶養義務は、「その者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせた上で、余裕があれば援助する義務」にすぎないこと、③しかも、その場合の扶養の程度、内容は、あくまでも話し合い合意をもととするものであること、④もし、扶養の程度、内容が、扶養義務の「社会的地位にふさわしい生活を成り立たせ」ることを前提としても、なお著しく少ないと判断される場合には、福祉事務所が、家庭裁判所に扶養義務者の扶養を求める手続きが、生活保護法77条に定められていることなどの扶養の在り方に関する正しい議論がなされないまま、一方的に「不正受給」が行なわれているかのごとき追及と報道がなされているのである。
 また、そこでは、①雇用の崩壊と高齢化の進展が深刻であるのに雇用保険や年金等の他の社会保障制度が極めて脆弱であるという社会の構造からして、生活保護利用者が増えるという今日の事態はて当然のことであること、②生活保護制度利用者が増えたといっても利用率は1.6%に過ぎず、先進諸国(ドイツ9.7%、イギリス9.3%、フランス5.7%)に比べてむしろ異常に低いこと,③「不正受給」は、金額ベースで0.4%弱で推移しているのに対して、捕捉率(生活保護利用資格のある人のうち現に利用している人の割合)は2~3割に過ぎず,むしろ必要な人に行きわたっていないこと(漏給)が大きな問題であることなど,生活保護制度利用者増加の原因となる事実が置き去りにされている。(注2)
 さらに、今回の一連の報道は、厳しい雇用情勢の中での就労努力や病気の治療など、個々が抱えた課題に真摯に向き合っている人、あるいは、苦しい中で、さまざまな事情から親族の援助を受けられず、「孤立」を余儀なくされている高齢の利用者など多くの生活保護利用者の心と名誉を深く傷つけている。

2 ところで、今回のタレントバッシングの中心となった世耕弘成議員と片山さつき議員は、自民党の「生活保護に関するプロジェクトチーム」の座長とメンバーである。
 そして、同党が2012年4月9日に発表した生活保護制度に関する政策は、
  ①生活保護給付水準の10%引き下げ、
  ②自治体による医療機関の指定、重複処方の厳格なチェック、ジェネリック薬の使用義務の法制化などによる医療費の抑制、
 ③食費や被服費などの生活扶助、住宅扶助、教育扶助等の現物給付化、
 ④稼働層を対象とした生活保護期間「有期制」の導入
などが並び、憲法25条に基づき、住民の生存権を保障する最後のセイフティーネットとしての生活保護制度を確立するという視点を全く欠いた、財政抑制のみが先行した施策となっている。
 かつて、小泉政権下においては、毎年2200億円社会保障費を削減するなどの徹底した給付抑制策を推進し、その行きつく先が、「保護行政の優等生」「厚生労働省の直轄地」と言われた北九州市における3年連続の餓死事件の発生であった。今回の自民党の生活保護制度に関する政策には、こうした施策が日本の貧困を拡大させたとして強い批判を招き、政権交代に結びついたことに対する反省のかけらも見られない。
 さらに問題なのは、社会保障・税一体改革特別委員会において、自民党の生活保護に関する政策について、現政権の野田首相が「4か3.5くらいは同じ」と述べ、小宮山厚生労働大臣が「自民党の提起も踏まえて、どう引き下げていくのか議論したい」と述べていることである。
 そこには、「国民の生活が第一」という政権交代時のスローガンをどう実現していくか、また、「コンクリートから人へ」の視点に基づき、貧困の深刻化の中で、この国の最低生活水準をどう底上げしていくのかという姿勢が全く見られない。
 そもそも、生活保護基準については、2011年2月から社会保障審議会の生活保護基準部会において、学識経験者らによる専門的な検討が進められているのであり、小宮山大臣の発言は、同部会に対して外部から露骨な政治的圧力をかけるものであって部会委員らの真摯な努力を冒涜するものと言わなければならない。
 そのうえ、小宮山大臣は、「親族側に扶養が困難な理由を証明する義務」を課すと事実上扶養を生活保護利用の要件とする法改正を検討する考えまで示している。しかし、今回のタレントの例外的な事例を契機に、制度の本来的在り方を検討することなく、法改正を行うということ自体が乱暴極まりない。
 また、生活困窮者の中には、DV被害者や虐待経験者も少なくなく、「無縁社会」とも言われる現代社会において、家族との関係が希薄化・悪化・断絶している人がほとんどである。
 かつて、札幌市白石区で25年前に発生した母親餓死事件は、まさに、保護申請に際して、この扶養をできない証明を求められたことが原因となって発生した事件であった。
 かかる点を直視することなく、法改正を行えば、ただでさえ利用しにくい生活保護制度がほとんど利用できなくなり、「餓死」「孤立死」などの深刻な事態を招くことが明らかである。小宮山大臣は、国民の生活保障に責任をもつ厚生労働大臣として、マスコミに対して冷静な対応を呼びかけるべき立場にありながら、混乱に翻弄されて軽率にも理不尽な法改正にまで言及しており、その職責に反していると言わざるを得ない。

3 今年に入ってから全国で「餓死」「凍死」「孤立死」が相次いでいるが,目下の経済状況下で、雇用や他の社会保障制度の現状を改めることなく、放置したままで生活保護制度のみを切り縮めれば、餓死者・自殺者が続発し、犯罪も増え社会不安を招くことが目に見えている。
 今求められているのは、生活保護制度が置かれている客観的な状況を把握し、制度利用者の実態に目を向け、その声に耳を傾けながら、冷静にあるべき方向性を議論することである。
 当会は,報道関係各位に対しては、正確な情報に基づく冷静な報道を心掛けていただくようお願いするとともに、民主党政権に対しては、今一度政権交代時の「国民の生活が第一」の原点に戻った政権運営を期待し、自民党に対しては、今回の生活保護制度に関する政策の根本的見直しを求め、本緊急声明を発表する次第である。


注1:生活保護制度における扶養義務の取扱いについての詳細については、別に発表する見解を参照されたい。

注2:詳細は、当会ほか59団体の2011年11月9日付「利用者数の増加ではなく貧困の拡大が問題である~生活保護利用者「過去最多」にあたっての見解~」を参照されたい。


※生活保護基準(支給金額)についてはこちらを是非お読みください。
市民生活の岩盤である生活保護基準の引下げに反対する意見書~低きに合わせるのは本末転倒!~

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2012年5月28日

担当職員の事情聴取にあたっての要望書

札幌市白石区長 殿

                    全国「餓死」「孤立死」問題調査団
                       団 長  井 上 英 夫  


 去る本年5月16日の懇談の席に置いて、改めて受付面接を担当した2名の職員に対する事情聴取を行い、その結果をご連絡いただくことになりました。
 当該聴取にあたっては、下記具体的質問事項を踏まえて実施していただきたく、聴取結果については、6月末日までに書面でご回答いただきますようお願いします。



第1 聴取日時、所要時間、聴取担当職員の氏名及び役職を明らかにされたい。


第2 下記の具体的質問を担当者にされたい。

1 両担当者について
① 職歴。職員としての福祉現場へのこれまでの配置歴(福祉事務所での面接員、地区担当員、福祉関係職場などでの経歴等)。

② 社会福祉主事の資格の有無。その他、社会福祉士等の資格の有無。

③ 当該相談や相談者について記憶があるか。

2 平成22年6月1日の面接について
① 平成21年10月に「体調不良により」退職とあるが、具体的にどのように体調不良 であるか聞いたか。聞いたとすればどのように述べていたか。
  聞かなかったとすればなぜ聞かなかったか。本人の健康状態の把握は重要であるとは今も考えないか(記憶がないと答えた場合も回答されたい。以下「同前」と表記する)。

② その後「採用が決まり、働くも4日程度で解雇」となった原因・理由について聞いたか。聞いたとすればどのように述べていたか。
  聞かなかったとすればなぜ聞かなかったか。仕事が続かなかった理由は今後の稼働可能性を判断する上で重要であるとは今も考えないか(同前)。

③ 「主名義の生命保険(住友生命)」について、解約返戻金の有無金額など具体的内容を聞いたか。聞いたとすればどのように述べていたか。
  聞かなかったとすればなぜ聞かなかったか。保有資産の具体的状況は、相談者の今後の生計維持の可能性を判断する上で重要であるとは今も考えないか(同前)。

④ 既に「婦人服の会社を面接、返事待ちの状況」であるのに、あえて「今後も継続して求職活動をするよう助言した」のはなぜか。

⑤ 「妹は知的障害により・・現在は稼働していない」とあるが、妹の福祉サービスの活用についてどのような配慮をしたか。していないとすれば、それはなぜか。

⑥ 「高額家賃について教示」とは具体的に何をどのように教示したのか。(仮に「保護受給後、住宅扶助基準額との差額は生活扶助費から自己負担してもらうことになる」との説明をしたとの回答であれば、)なぜ申請書も受け付けておらず、保護開始の見込みもない者に対してわざわざ受給後のことを説明したのか。

⑦ 「保護の要件である、懸命なる求職活動を伝えた」とは具体的に何をどのように伝えたのか。表現方法も含めて詳細に再現されたい。(仮に「保護受給後、求職活動をしてもらうことになる」との説明をしたとの回答であれば、)なぜ申請書も受け付けておらず、保護開始の見込みもない者に対してわざわざ受給後のことを説明したのか。また、なぜ「保護受給後、懸命なる求職活動が必要となることを伝えた」などと記載せず、「保護の要件である、」という表記をしたのか。

⑧ 「懸命なる求職活動」は「保護の要件」であると理解していたのか。どのような意味で「保護の要件」なのか。「懸命なる」との用語は法文にも通知文にもないが、このような表現をなぜ採用したのか。

⑨ 「関係書類教示」をどのような理由で行ったのか。どのような書類を関係書類として列記し、具体的にどのように教示したのか。

⑩ 誰でも申請権があり、相談者が今申請することもできること、申請に関係書類の提出は必要のないこと、保護は原則として申請によって開始すること、申請があれば原則として14日以内に要否判定のうえ書面をもって決定することなどについて、明確に説明したか。各項目について説明の有無を回答されたい。
  仮に説明しなかったとすれば、なぜ説明しなかったのか個別に回答されたい。上記の点を具体的に説明しなければ、真に申請意思を確認したことにならないとは今も考えないか(同前)。

⑪ 生活困窮を訴えられているのに、預貯金・現金の保有状況、ライフラインの停止・滞納状況、国保等の滞納状況について聴取確認しなかったのはなぜか。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

3 平成23年4月1日の相談について
① 相談にあたり、前回の面接記録を読んだか。

② ハローワークの教育訓練給付金は月額幾らであるか確認したか。

③ 4月8日の同給付金の支給後の支給予定を確認したか。確認したとすれば、どのように聞いたか。
確認していないとすればなぜか。かかる事項を確認しなければ、今後の相談者の生計維持可能性を把握し的確な助言を行うことができないとは、今も考えないか(同前)。

④ 公共料金の滞納を聞いているが、その具体的内容や金額について確認したか。確認したとすれば、どのように聞いたか。
  確認していないとすればなぜか。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

⑤ 国保「未加入」の理由を聞いたか。聞いたとすればどのように述べていたか。
聞いていないとすればなぜ聞かなかったのか。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

⑥ 支給された「非常用パン」の1食あたりのカロリー数はいくらか。一人当たり1日1食分のみを支給した根拠は何か。それで十分であると今も考えているか。

⑦ 生活保護申請に至らない相談者に対して「非常用パン」を支給する例は年間何件程度か。そもそも前例はあるか。希有な例であるとすれば、何故にそのような希有な判断をしたのか。相談者の困窮状態が切迫性を認識していたからではないか。

4 平成23年6月30日の相談について
① 姉が受けていた職業訓練はいつ終了し、給付金の受領はいつ幾らが最終であるか確認したか。確認したとすれば、どのように聞いたか。
 確認していないとすれば何故か。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

② 手持ち金の具体的金額を確認したか。確認したとすれば、どのように聞いたか。
 確認していないとすれば何故か。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

③「妹が体調を崩し仕事に行けない状態」になったという点につき、どのように体調を崩し、なぜ姉が仕事に行けなくなったのか、その具体的内容を聴取したか。確認したとすれば、どのように聞いたか。
 確認していないとすれば何故か。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

④「家賃・公共料金の滞納」の具体的内容について聴取したか。確認したとすれば、どのように聞いたか。
 確認していないとすれば何故か。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

⑤「能力・資産の活用等生活保護制度全般について説明」とは具体的にどのような説明を行ったのか。

⑥「高額家賃について教示」とは具体的に何をどのように教示したのか。(仮に「保護受給後、住宅扶助基準額との差額は生活扶助費から自己負担してもらうことになる」との説明をしたとの回答であれば、)なぜ申請書も受け付けておらず、保護開始の見込みもない者に対してわざわざ受給後のことを説明したのか。

⑧「保護の要件である、懸命なる求職活動を伝えた」とは具体的に何をどのように伝えたのか。表現方法も含めて詳細に再現されたい。(仮に「保護受給後、求職活動をしてもらうことになる」との説明をしたとの回答であれば、)なぜ申請書も受け付けておらず、保護開始の見込みもない者に対してわざわざ受給後のことを説明したのか。また、なぜ「保護受給後、懸命なる求職活動が必要となることを伝えた」などと記載せず、「保護の要件である、」という表記をしたのか。

⑨ 国保「未加入」の理由を聞いたか。聞いたとすればどのように述べていたか。
  聞いていないとすればなぜ聞かなかったのか。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

⑩ 誰でも申請権があり、相談者が今申請することもできること、申請に関係書類の提出は必要のないこと、保護は原則として申請によって開始すること、申請があれば原則として14日以内に要否判定のうえ書面をもって決定することなどについて、明確に説明したか。各項目について説明の有無を回答されたい。
  仮に説明しなかったとすれば、なぜ説明しなかったのか個別に回答されたい。上記の点を具体的に説明しなければ、真に申請意思を確認したことにならないとは今も考えないか(同前)。
  そうでないのであれば、なぜ「生活して行けない」として生活保護の相談に訪れた者が「申請意思は示さず退室」したのか、その合理的理由を説明されたい。また、その理由につき姉に確認したか。
  確認しなかったとすれば何故か。かかる事項の確認が重要であるとは今も考えないか(同前)。

⑪「次回関係書類をもって相談したい」とは本人の言葉なのか。「次回」とは具体的時期を念頭に置いていたのか、時期の確認を行ったか。行っていないのならばなぜ行わなかったのか。
 「関係書類をもって相談したい」というのは本人の意思であったのか。相談するよう指導したのか。
  関係書類を教示したと考えられるが、どんなものであるのか具体的に列記されたい。また「いつまでに」という時期を示しているのか。示していないのであればなぜなのかその理由を説明されたい。

5 両担当者に対して
① 3回の相談後、状況確認のために連絡をとったか。
  連絡をとらなかったとすれば、生活がしていけているか心配にならなかったか。心配にならなかったとすれば何故か。心配になったとすれば何故連絡をとらなかったのか。

② 姉妹が「餓死」「孤立死」したことについて、どのように受け止めているか。担当職員としての対応に反省すべき点はないか。あるとすればどのような点か。ないとすれば何故そのように考えるか。

以上


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2012(平成24)年5月17日

白石区姉妹餓死事件をふまえて生活保護行政の改善を求める要望書


札幌市長 上 田 文 雄 様
 
                       全国「餓死」「孤立死」問題調査団
                             団長 井 上 英 夫

第1 要望の趣旨

1 生活保護の受付面接時における申請権侵害を根絶するため、以下の事項を徹底されたい。
 ① 全ての福祉事務所の窓口の誰もが手に取れる場所に生活保護申請書を
   備えおくこと。 
 ② 相談にあたって、まず最初に保護申請書を示し、生活保護は誰でも無条
   件に申請する権利があること、原則として申請に基づいて開始される
   ものであること、申請があれば原則として14日以内(例外的に30日以内)
   に要否判定をし書面による決定がなされることなどを記載した説明文書を
   交付したうえで助言、教示すること。

2 生活保護を担当するケースワーカーを増員するとともに、社会福祉士・精神保健福祉士等の資格を持つ者を福祉専門職として積極的に採用するなど生活保護事務の実施体制を強化・改善されたい。

3 白石区は当調査団に対して、姉妹孤立死事件の面接担当職員に対する詳細な事情聴取を実施し事実確認を行うことを約したが、内実ある再調査が行われるよう、同区に対する指導を行われたい。

4 姉妹孤立死事件の事実関係を徹底的に解明し、再発防止策を提言することを目的とした、弁護士、学識経験者等の第三者による事件の検証委員会を設置されたい。

5 指定都市市長会や社会保障審議会の部会などの場を通じて、国に対して、生活保護制度の充実のために必要な諸事項を要求されたい。



第2 要望の理由

1 はじめに

 2012年1月20日、札幌市白石区において、「餓死」「孤立死」した40代の姉妹が発見された。この事件は、現代社会における都市部のマンションで「餓死」「孤立死」が発生した点で衝撃的であるだけでなく、姉が3回にわたって福祉事務所に生活保護の相談に訪れているにも関わらず、生活保護の受給に至らず死亡しているという点において、極めて深刻な問題を含んでいる。
 同区においては、1987年1月にも、3人の子どもをもつ母子家庭の母親が、再三福祉事務所に保護申請をしたにもかかわらず、「働けば何とか自活できるはず」「離婚した前夫の扶養意思の有無を書面にしてもらえ」などと述べて保護申請として処理せず放置した結果、餓死するという事件が発生している。それから25年を経て、同様の悲劇が繰り返されたのは、決して突発的な事象ではなく、同区の保護行政が抱える根深い問題が象徴的に表れたものと考えられる。
 しかし、残念ながら、同区の回答や対応を見ると、本件に関する真摯な分析や反省がなされているとは到底言い難く、事の重大性を認識しないまま(あるいは故意に目をつぶり)、本質的ではない対応で事態の収拾を図ろうとしていると言わざるを得ない。
 当調査団としては、調査をふまえ、貴市に対し、以下のとおり要望をするので、意のあるところを汲んで是非とも真摯にご対応いただきたい。なお、本要望書に対して貴市がどのように対応されるかについては、6月末日までに書面で回答をいただきたい。

2 受付面接時の申請権侵害
 前述のとおり、本件では、姉が、平成22年6月、平成23年4月及び6月の3回にわたって福祉事務所に生活保護の相談に訪れているにもかかわらず、生活保護の受給に至っていない。
当該世帯の最低生活費は184,720円であるのに対し、収入は妹の障害年金月額66,008円のみである。約12万円も最低生活費を下回っているうえ、家賃・公共料金の滞納もある明らかな要保護世帯であった。白石区保護課も、2012年5月16日の当調査団との懇談の席において、当該世帯に要保護性があり申請があれば生活保護開始となった可能性が高いことを認めている。
 ところで、生活保護申請をする者は申請意思を明確に示すことすらできないこともままあるから、「申請する」という直接的な表現によらなくとも申請行為があったと認められる場合があるところ(福岡地裁小倉支部平成23年3月29日判決)、少なくとも3回目の相談時、姉は「生活していけない」と生活保護の相談を持ちかけている以上、申請行為はあったと言える。
 一般に福祉事務所職員には、生活保護の相談に訪れた者に対して、保護申請権の存在を助言・教示のうえ、申請意思を確認すべき法的義務があるが、本件の面接員は、当該世帯が要保護であることを明確に認識している以上、より高度の保護申請権の助言・教示義務、申請意思確認義務が認められる。
にもかかわらず、「高額家賃について教示。保護の要件である懸命なる求職活動を伝えた」と記録されていることからすると、①本来保護を否定する理由とはならない住宅扶助基準額を超えたアパートに居住していることを問題視し、②保護の要件でもない「懸命なる求職活動」を要件であると説明したものと推認される。
そうすると、姉から生活保護の申請があったにもかかわらず、職員は、当該世帯の要保護性の高さを十分に認識しながら、上記①②の点について法的に誤った教示・説明を行い、保護の要件を欠くものと誤信させ、保護申請を断念させたものと言える。申請権侵害があったことが明らかであり、しかも、その違法性の程度は極めて高いと言わざるを得ない。
 同様の悲劇の再発を防ぐためには、違法な申請権侵害があったことを率直に認め、二度と申請権侵害が起こらないような具体的な対応策を講じるべきであるから、要望の趣旨1項記載の通り要望する次第である。

3 担当職員の専門性の欠如
 本件の担当職員は、1回目の相談時、2回目の相談時ともに家賃や公共料金が滞納していることを聞きながら滞納の具体的状況を確認せず、預貯金等が残り少ないことを聞きながら残金額を確認せず、体調不良で退職したことを聞きながら疾病の状況や通院状況を確認していない。もっとも基本的な情報を確認することさえ怠っており、ケースワークの基本を欠いていると言わざるを得ない。
札幌市における生活保護「包括外部監査結果」(2012年3月30日)の指摘にもあるように、ケースワーカーの人員配置の見直し、専門化の推進等を進め、ケースワーカーが迅速、効果的に問題に対処できる体制作り等も進めるべきである。
 2012年3月に公表された『札幌市包括監査報告書』によれば、(1)ケースワーカーの業務量が過重になっており、扱う制度が複雑になってきているにも関わらず、(2) ケースワーカー担当経験年数が「1年未満」が23%、「1年以上3年未満」が48%と、3年未満の経験しかないケースワーカーが71%(全国63.3%)も占め、十分な経験を積むことができないことに加えて、(3)社会福祉の専門性のある職員が配置されておらず、業務が滞留し、効果的効率的な生活保護運用ができていないことが明らかになっている。
 また、この報告書には記載されていないが、札幌市は「一般事務(福祉コース)」の採用枠があり、福祉職員への一定の配慮をしているように思われるが、実際には報告書にあるように、生活保護業務の改善にはつながっていない。
 したがって、(1)ケースワーカーの増員、(2)人事異動におけるCW及び福祉業務経験者の割合の増加、(3)社会福祉の専門家(社会福祉士、心理療法士等)の採用、および他法他施策を含めた社会福祉・生活保護の研修の充実が必要である。特に、「福祉コース」採用については、社会福祉士等の有資格者等を優先的に採用し、生活保護業務の専門性に資するよう対策を図る必要がある。

4 白石区による内実ある再調査の履行確保
 白石区は、当調査団の公開質問状に対して、「白石区保護課におきましては、これまでも相談に来られた方に対しまして、生活実態を十分に聞き取り、生活保護制度の説明を行ったうえで、生活保護申請の意思を必ず確認しております。今回のケースにつきましても、白石区といたしましては通常の生活保護相談の同様の対応を行ったものと認識しております」と回答した。同区保護課は、2012年5月16日、当調査団との懇談の席においても、同様の回答をし、申請権侵害等の問題はなかったとの認識を示した。
 その根拠として、2名の担当係長から聴取をしたが記憶が曖昧で面接記録票に記載されている以上の事実関係は確認できなかったこと、一般に相談者に対して生活保護制度の説明と申請意思の確認を行っているので本件でも行っているはずであること、「高額家賃について教示」というのは、住宅扶助は基準額までしか支給されず実際の家賃との差額は生活扶助費からまかなわなければならないことなどを教示したと推測されること、「保護の要件である懸命なる求職活動を伝えた」とは、懸命なる求職活動が保護開始の要件であると伝えたものではなく、保護開始後求職活動が必要であると伝えたものと推測されることなどを挙げた。
 しかし、申請が受け付けられていない者に対して、保護開始後の注意点についての説明を行うというのは不自然であるし、「保護の要件である懸命なる求職活動」という表記からすれば、「懸命なる求職活動」が「保護の受給開始要件」であると説明したと理解するのが素直である。実際、同区保護課は、担当係長からの事情聴取内容について記録化しておらず、上記回答は、係長から確認した事実に基づくものではなく単なる「推測」に過ぎないことが露呈された。
 同区保護課は、調査団に対して、再度担当者から詳細な事情聴取を行ったうえで回答することを約した。貴市におかれても、同区が実のある再調査を実施するよう適切な指導をしていただきたい。

5 第三者検証委員会による徹底した調査の必要性
 上記のとおり、同区保護課は、調査団に対して、面接担当者に対する再調査を約したものの、同時に、「古いことであるから記憶に限界がある」と早速に予防線を張っている。
同区のこれまでの対応を見れば、同区としては「申請権侵害はなかった」という結論先にありきで具体的事実関係についてはできる限り不明確なままにしておき、現場の対応に大きな問題はなかったという形で事態の収拾を図ろうとしていると考えられる。
 同区自身による事実調査は、こうした立場から進められ、客観的事実が歪められる恐れが強い。真実を明らかにするためには、担当係長等の担当者に対する聴取を弁護士、学識経験者等の第三者が行い、中立公正な立場から検証を行うことが必要不可欠である。
 したがって、要望の趣旨4記載のとおり、事実の究明と再発防止策の提言を目的とする第三者検証委員会の設置を求めるものである。

6 生活保護制度の充実のために必要な措置の国に対する要望の必要性
 貴殿は、基本的人権の擁護と社会正義の実現をその使命とする弁護士資格をもつ首長として、公契約条例の実現などに積極的に取り組んでおられ、その姿勢については当調査団としても敬意を表している。 
ところで、生活保護制度の充実と真に適正な実施は、地方自治体の努力のみでは実現が困難な面もあり、国が必要な法改正を行い、実務運用の指針を示し、財政上の措置を講じることによって、よりよく実現することができる。
例えば、保護費の全額国庫負担を実現すること、ケースワーカーの増員のために現在「標準」数となっているケースワーカーの配置基準を以前のように「法定」数に戻すこと、ケースワーカーの専門職採用を促進するために運用指針を示すこと、保護費や人件費に関する地方交付税の算定基準を是正することなどを国に対して求めることが必要である。
 指定都市市長会の副会長であり、社会保障審議会に2012年4月設置された「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」の委員でもある貴殿が、国に対して、こうした諸要求をし、生活保護制度の充実のために積極的な役割を果たすことを当調査団としては期待するものである。

                                 以 上


◆西成区生活保護医療問題・意見交換会◆
  医療機関・薬局の登録制度で現場はどうなるの!?


☆チラシはこちら

 大阪市は、西成特区構想の一環として、西成区の生活保護受給者の医療機関・薬局の
登録制度を8月から始めるとしています。
 あらかじめ登録証(医療券とは別)に「一診療科につき一医療機関」「一受給者一薬局」を
登録して限定し、主治医の紹介状があっても担当ケースワーカーの了解が得られない限り、
それ以外の医療機関・薬局の利用を認めないという制度が考えられているようです。

   ・急なケガや病気のとき、きちんと受診できるのか?
   ・かかっている医者が信頼できないときに医者を変えたり、
    別の医者の意見(セカンドオピニオン)を聞くことができるのか?
   ・医療費抑制のために必要な医療が受けられなくなり、
    病気が悪化してしまわないか?

さまざまな疑問や不安があります。         

まずは制度の内容を知り、どんな問題点があるかについて現場からの意見交換をしませんか?

発言者
● 医療機関の立場から
     渡辺征二さん(大阪府保険医協会事務局)  
● 法律家の立場から
     金喜朝さん(弁護士、大阪弁護士会人権擁護委員会医療部会所属)
● 現場の支援者の立場から
     大谷隆夫さん(釜ヶ崎医療連絡会議)
     本間全さん(ふるさとの家)
     生田武志さん(野宿者ネットワーク)

会場からの発言も大歓迎です。

《日時》2012年5月18日(金)午後6時30分~
 
《場所》西成市民館
     大阪市西成区萩之茶屋2丁目9−1 (電話06-6633-7200)


《参加費》無料

主催:西成・生活保護医療扶助特区問題を考える会
    問合せ先:06-6363-3310 あかり法律事務所 弁護士小久保哲郎


当会議他で構成する全国「餓死」「孤立死」問題調査団は、5月15日~17日にかけて
現地調査などを行うとともに下記集会を開催します。

多くの方のご参加をお待ちします。

タイトル
「なぜ、25年前と同じ餓死事件が…。札幌の生活保護と貧困、餓死を考える市民集会」

●日時  2012年5月15日(火)18時半~20時半

●会場  北大学術交流会館・講堂

●参加費  無料

●主催団体 ・全国「餓死」「孤立死」問題調査団

●プログラム
 ・主催者あいさつ  井上英夫(調査団長、金沢大学教授)
 ・講演「いま、貧困と生活保護はどうなっているのか?なぜ25年前と同じ悲劇が…」
    尾藤広喜(生活保護問題対策全国会議代表幹事 弁護士)
 ・白石区姉妹死亡事件の経過、問題点と3日間の行動計画
    細川久美子(北海道生活と健康を守る会)
    吉永 純(全国公的扶助研究会会長 花園大学教授)
 ・発言 雨宮処凛(作家)

詳しくはこちら! (反貧困ネットワーク北海道のサイトに移動します)

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