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2012(平成24)年6月25日

社会保障費削減を企図する「社会保障制度改革推進法案」の撤回を求める緊急声明               
                              生活保護問題対策全国会議
                              代表幹事 弁護士 尾藤廣喜


1 「社会保障制度改革推進法案」の撤回を!
 民主党,自民党及び公明党の3党は,本年6月15日,社会保障・税一体改革について合意した。そのうち,社会保障部分の確認書では,「社会保障制度改革推進法案を速やかにとりまとめて提出し,社会保障・税改革関連法案とともに今国会での成立を図る」とされている。
 しかしながら,ここに来て突然提示された「社会保障制度改革推進法案(以下,「本法案」という。)」なるものは,その内容面においても手続き面においても,極めて問題が大きい。私たちは,本法案の「すみやかなとりまとめ」と「今国会での成立」に断固として反対する。

2 「社会保障制度改革推進法案」=「社会保障費抑制推進法案」
 本法案の内実は,「社会保障費抑制推進法案」と言うべきものである。
「社会保障の充実のために増税が必要である」という「社会保障・税一体改革」の当初の目的はかなぐり捨てられ,「消費増税の合意を得るためには,社会保障はどうなってもよい」とばかりに,自民党の主張にすり寄る内容となっている。
 すなわち,
①本法案は,「目的」において,社会保険料に係る国民負担の増大と国及び地方公共団体の財政状況の悪化に鑑みて,「持続可能な社会保障制度の確立を図る」としている。
②「基本的な考え方」1では,「自助・共助・公助の最適バランスに留意し,自立を家族相互,国民相互の助け合いの仕組みを支援していく」として,「自助(自己責任)」をことさらに強調し,「公助(国や自治体の責任)」は全く軽視する内容となっている。
また,
③同2でも,「(社会保障)給付の重点化,制度運営の効率化」によって「負担の増大を抑制しつつ,持続可能な制度を実現する」として,社会保障費抑制の基本方針が示されている。
さらに,
④同4において,社会保障の公費負担は「消費税収を主要な財源とする」とされている。社会保障費の財源を消費税収に限定するということは,国民に「消費増税か社会保障費抑制か」という「究極の選択」を迫ることによって,社会保障費の上昇にキャップをはめる効果を持つ。消費増税負担に耐えられない国民をして,社会保障費抑制を選ばざるを得ない状況に追い込む点において,極めて姑息な政策と言わざるを得ない。
⑤各分野において給付抑制策が掲げられているが,私たちの取り組み分野である生活保護制度についても,不正受給への厳格な対処,給付水準の適正化(=切り下げ),就労が困難でない者に対する厳格な対処など,生活保護制度を利用せざるを得ない社会構造については目を向けないまま,制度利用者に対する厳格な対応のみが目立つ内容となっている。

3 事の重大性を理解しない拙速極まりない手続
 「聖域なき構造改革」路線が掲げられた自民党政権の末期の小泉政権下では,「骨太の方針(経済財政運営と構造改革に関する基本方針)」によって,社会保障費の削減策がとられた。
 その結果,「厚生労働省の直轄地」「生活保護行政の優等生」と言われた北九州市において,2005年から2007年にかけて3年連続で生活保護をめぐる餓死事件が起こるなどし,社会保障費抑制策に対する国民の厳しい批判が沸き起こって,歴史的な政権交代につながったことは記憶に新しいところである。
 しかし,「骨太の方針」は「閣議決定」によるものであったが,本法案は,「法律」の形式に格上げされている点において,より問題が大きい。
 本法案は2で述べたような重大な問題を含んでいるにもかかわらず,国民にその内容が知らされることのないまま,3党の密室協議のみで今国会での成立を得ようとするのは,手続的にもあまりにも拙速であり乱暴極まりない。しかも,それを「社会保障のための一体改革」であると強弁して,成立を強行しようとするのは,「国民の生活が第一」をスローガンに政権交代を果たした政権党として,国民に対する背信行為以外の何ものでもない。

4 各種団体・市民各層の連帯した取り組みを!
 以上の次第で,私たちは,本法案の国会提出に断固として反対するとともに撤回を強く求めるものである。
繰り返すが,本法案は,社会保障費を抑制すべく法律でキャップをはめようとする内容となっており,今後の我が国における国民生活に深刻かつ重大な影響を及ぼす内容となっている。私たちとしては,社会保障に関連する各種当事者団体,市民団体,個人にも連帯しての取り組みを求め,連携していく所存である。

                               以 上


当会は、現在、国会で審議が行われている税と社会保障の一体改革の中の社会保障改革推進法案について、本日、以下のとおり、緊急抗議アクションと記者会見を行います。
 本法案は、社会保障「抑制」法案であり、即時の撤回を求めるものです。
 
日時と場所
  6月25日(月)本日!
   *14時30分~ 抗議アクション(国会前)
   *16時~    記者会見(厚生労働記者会)   



社会保障改革推進法案の内容はこちらから


当会は、本日、反貧困ネットワークと共同で、自民党の生活保護制度見直し案に対し、以下のとおりの公開質問状を提出しました。
 また、併せて民主党に対しても懇談の申し入れをしました。


●自民党の改革案はこちら
 →シリーズ「自民党の政策③」(生活保護)
  「手当より仕事」を基本とした生活保護の見直し



 なお、本公開質問状については、その後、回答期限である7月9日を経過しても自民党からの回答は寄せられませんでした。そこで、受取窓口となった世耕議員の事務所に「回答する意思がないと理解してよいか。返事をいただきたい」と電話にて伝言をしましたが、今もって何の応答もない状況が続いています。(8/26)

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2012(平成24)年6月18日

      貴党の生活保護制度の見直し案に関する公開質問状

自由民主党 生活保護に関するプロジェクトチーム
座長 世耕 弘成 様
    
           反貧困ネットワーク    代  表 宇都宮 健 児
           生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾 藤 廣 喜

 私たちは,生活保護制度をはじめとする貧困問題の解決を目的として活動している市民団体です。
 貴党の「『手当より仕事』を基本とした生活保護の見直し」策(以下,「本見直し策」と言います。)の内容及び根拠について,下記のとおり,公開質問をいたします。
 ご多忙中にお手数をおかけして誠に恐縮ですが,本年7月9日までに質問に対する書面による回答をいただくとともに,口頭による意見交換の機会をお持ちいただくようお願い致します。
(意見交換の機会については,可能であれば本年7月9日(月)13時~17時の間を希望しますが,何時でもご都合のよい日時をご連絡いただきますようお願いいたします。)。

1 質問事項(総論)
 本見直し策の策定にあたって,生活保護利用当事者の意見を聞いたり,実態調査を行うなどしましたか。
仮に,行っていないとすれば,意見聴取や実態調査も経ずに,最後のセーフティネットである生活保護制度の根幹に重大な変更を加える本見直し策を取りまとめることが,何故できるのですか。

2 本見直し策が平成21年12月25日厚生労働省課長通知の撤回を求めている点について
(1)貴党のご主張
 「民主党政権下で,生活保護費は25%以上膨らんでいます。
 平成21年12月,政府は,生活保護の申請があった場合「速やかな保護決定」をするように地方自治体に通知しました。これが引き金となって,生活保護世帯が増加し,生活保護費は,既に3.7兆円に急増。
 この3年間で8,000億円も膨らんでいます。」

(2) 質問事項
①上記課長通知は,「失業等により生活に困窮する方が,所持金がなく,日々の食費や求職のための交通費等も欠く場合には,・・・保護の決定に当たっては,申請者の窮状にかんがみて,可能な限り速やかに行うよう努めること」等,法律上も社会通念上も当然のことを通知しているものと考えますが,貴党は,同通知に法律上又は社会通念上誤った内容が含まれているとお考えなのでしょうか。
 仮に,そうであれば,どの点がどのように誤っているとお考えか,ご説明ください。

② 稼働年齢層やホームレス状態にある人々に対する違法な水際作戦を減らす上では,貴党が政権党であった平成21年3月18日付厚労省保護課長通知「職や住まいを失った方々への支援の徹底について」も大いに肯定的な役割を果たしましたが,なぜこの課長通知については問題視せず,政権交代後の同年12月25日付課長通知のみを問題視するのですか。

③ 私たちは,生活保護利用者の増加は一本の課長通知によってもたらされたものではなく,非正規雇用の増大によるワーキングプアの増加,雇用保険の捕捉率の低下(前失業者中2割程度),年金制度の脆弱性など,生活保護制度の手前にあるセーフティネットが脆弱であるという構造的要因によるものと考えていますが,この点についてはどのようにお考えでしょうか。
  また,こうした社会構造は貴党が政権を担っておられた間に形作られたものですが,この点の責任については,どのようにお考えでしょうか。

 
3 具体策1.「生活保護給付水準の10%引き下げ」について
(1) 貴党のご主張
 「東京都の生活保護費は,標準3人世帯で約24万円(月額)となっています。他方,最低賃金で働いた場合の月収は約13万円ほどであり※,国民年金は満額で65,541円というのが実情です。こうした勤労者の賃金水準や年金とのバランスに配慮して,生活保護給付水準を10%引き下げます。
  ※(試算)東京都の最低賃金840円×8時間×20日=134,400円 」

(2) 質問事項
① 生活保護の給付水準を一律10%引き下げても最低生活費がまかなわれるという理論的及び実体的根拠はどこにありますか。10%という切りの良い数字になったのは,たまたまですか。それとも適当に切りの良い数字をあげたのですか。

② こうした提案をするにあたって,何らかの実態調査は行いましたか。

③ 現行の東京都の生活保護費が標準3人世帯で約24万円(月額)が高額であるという理論的及び実体的根拠はどこにありますか。

④ 3人世帯の最低生活費と1人が働いた場合の最低賃金を比較することにどのような意味があるとお考えですか。

⑤ 国民年金で支給される1人分の金額(満額)が65,541円であるということと,標準3人世帯の生活保護費とを比較することにどのような意味があるとお考えですか。

⑥ 最低賃金額や年金額とのアンバランスは,国民の最低生活保障の観点から最低賃金額や年金額を引き上げる方向で解消すべきと考えますが,生活保護基準を引き下げることとする理論的根拠は何ですか。


4 具体策2.「 医療費扶助を大幅に抑制」について
(1)貴党のご主張
 「生活保護費用の約半分は医療費です。生活保護の受給者は窓口での自己 負担がないためモラルハザードや過剰診療が起きています。自己負担導入や医療機関の指定,重複診療の厳格なチェック,ジェネリック薬の使用義務化などで医療費扶助を大幅に抑制します。」

(2) 質問事項
① 生活保護受給者にモラルハザードや過剰診療が起きていると断定する根拠は何ですか。いつどのような方法で実態調査をされたのですか。
  むしろ,処方薬依存が一定数予想される精神科に限った4万2197人のサンプル調査(厚生労働省平成22年9月発表)の結果によっても,不適切な受診とされたのが1797人(4.2%)にとどまっていることからすると,全受給者について自己負担制度を設ける根拠はないと考えますが,いかがですか。

② 医療費の一部自己負担制度を導入すれば,仮に償還制を採用したとしても,一時的に最低生活費を下回る生活を余儀なくされることから,生存権を保障した憲法25条違反であると考えますが,この点はどのようにお考えですか。 
 
③ 現在でも受診前に医療券を申請して交付を受ける必要があること,受診できる病院が指定医療機関に限定されていることから,生活保護利用者の受診には事実上の制約があります。そのうえ,医療費の一部自己負担制度を導入すれば,受診抑制による疾病の重篤化を招き,却って医療費が増大することや,生活保護利用者の健康や生命を害することが予想されますが,この点はどのようにお考えですか。

④ 医療費の一部自己負担制度と事後的な償還払い制度を導入すれば,ただでさえ忙しいケースワーカーの事務負担が莫大に増え,本来必要なケースワーク業務に支障が生じることが予想されますが,この点はどのようにお考えですか。


5 具体策3「現金給付から現物給付へ」について
(1)貴党のご主張
 「食費や被服費などの生活扶助(食料回数券等),住宅扶助,教育扶助等の現物給付を推進します。現金給付にするか現物給付にするかの判断の権限を自治体に付与します。」

(2) 質問事項
① 生活扶助,住宅扶助,教育扶助等の現物給付とは具体的には一体どのような制度を考えておられるのでしょうか。

② 支給された生活扶助費のうち,それぞれいくらを食費,被服費,家具什器費,日用品費等に割り当てるかは,世帯によって異なるし,同一世帯でも月によって異なります。また,給料や仕送りなどの収入のある人の場合,支給される生活扶助費の額は各月の収入によって変動します。このように,世帯によって,あるいは,月によって変動する生活扶助費について,具体的にどのようにして現物給付を行うのですか。

③ 生活扶助の現物給付とは,特定の事業者の店舗で使える食料や被服費のクーポン券を検討しておられるのでしょうか。仮に,そうだとすれば,特定の生活保護利用者の自己決定権(憲法13条)を侵害する一方,企業の新たな利権を生む可能性があると考えますが,いかがでしょうか。
 のみならず,このような制度を導入すれば,生活保護利用者のうち,多くを占める乳幼児,高齢者,さらには難病やアレルギー・化学物質過敏症などの疾患や障がいのため,食糧に特別のニーズを持つ人たちが必要な食糧を入手できず,生きていけなくなることが想定されますが,いかがですか。
 
④ 仮に,公営住宅や安上がりの民間借り上げ住宅の提供を検討しておられるのであれば,生活保護利用者の居住・移転の自由(憲法22条)を侵害することになると考えますが,いかがですか。
  また,ただでさえ生活保護に対するスティグマが強い中で,このように囚人のような扱いをすれば,さらにスティグマを強めることになると考えますが,いかがでしょうか。


6 具体策4.「働ける層(稼働層)の自立支援」等について
(1)貴党のご主張
 「働くことが可能な受給者(稼働層)に自立支援プログラムを提供し,就労の指導強化,義務化を進めます。同時に,自立時資金のための「凍結貯蓄」を制度化し,働く意慾を高め,国や自治体等も単純事務作業,清掃等の働く場を生活保護者に提供します。また,生活保護に至る前段階の「自立支援プログラム」を充実させ,個別の状況に応じた支援を行います。」

(2) 質問事項
① 凍結貯蓄制度を導入した場合,現在の就労に伴う控除(基礎控除・特別控除)は廃止するということでしょうか。これらの控除には就労へのインセンティブとしての機能が期待されているとともに,就労することによる経費増(通勤用の衣類購入等)に見合うものとされています。これがなくなると最低生活を割ることになり憲法25条違反になるとともに,かえって就労インセンティブを削ぐことになると考えますが,この点はいかがお考えでしょうか。

② パート就労で足りない部分を生活保護で補っている世帯については,完全に経済的自立が図れる場合が少ないですが,そのような世帯の凍結貯蓄はどのように扱うのでしょうか。仮に,預かりっぱなしということであれば,完全な就労自立が困難な多くの世帯においては,結局において就労インセンティブとならない結果となりますが,この点はいかがお考えでしょうか。
 
③ 「凍結貯蓄」とは,実務上どのような仕組で行う予定でしょうか。「貯蓄」である以上,本来,被保護者本人に管理権があると考えられますが,これを福祉事務所が管理することの法的根拠はどこにありますか。また,管理する福祉事務所の事務負担増が予想されますが,この点は どのように考えますか。
 
④ 公的就労の提供についても指摘されていますが,ここで保障される公的就労の賃金水準は最低賃金を上回ることを想定されていますか。仮に,最低賃金を満たさなくてもよいと考えている場合,これを合理化する理論的根拠は何ですか。
  就労にあたっての自己決定権(当事者の適性や希望の尊重)は,どのように保障されるのでしょうか。


7 具体策5.「調査権限の強化で不正受給を防止」等について
(1)貴党のご主張
 「生活保護者を支援するケースワーカーの業務が繁忙化し,不正受給や生活保護の長期化を招いています。ケースワーカーを民間に委託し,ケースワーカーを稼働層支援に集中させることを進めます。また,地方自治体の調査権限の強化などで,不正受給や「貧困ビジネス」を減少させます。」
 世耕議員はテレビ等において,「扶養義務の強化のため一定の資産・収入のある「特定扶養義務者」については扶養できないことの証明義務を課し,虚偽申告には罰則を科す法改正を検討中」と発言

(2) 質問事項
① 単純に民間に丸投げするだけでは却ってケースワーク機能が低下することが予想されるので,正規職員の増員と専門職化が必要と考えますが,いかがでしょうか。

②「特定扶養義務者」の「一定の資産・収入」とは具体的にどのような基準を考えておられますか。
  求められる扶養の程度は,扶養義務者の家族数や扶養権利者である被保護者との関係(交流の有無,DV・虐待歴の有無等)等にもよりますが,この点はどのように考慮するのですか。

③ 同じ収入がある世帯でも家族構成,住宅ローンの有無,貯蓄の有無等々で扶養可能な金額が異なります。扶養義務者に扶養できないことの証明義務を課すこととすれば,例えば,月2万円の仕送りなら可能と回答した場合,仕送り額を2万5000円あるいは3万円にできないことの証明を求めることになります。
  扶養義務者が,そのような証明をすることも,福祉事務所が,証明内容の是非を判断することも事実上不可能と考えますが,いかがでしょうか。

④ 扶養義務者に上記のとおり事実上不可能な事項の証明義務を課すということは,結局において,扶養を保護の要件とすることにほかならず,前近代的な救護法時代の法制度に戻ることとなりますが,貴党としては,それで良いとお考えですか。

⑤ そもそも民法上,扶養義務の程度は第一次的には当事者の協議により,当事者の協議によって決せないときには家庭裁判所がこれを決するものとしており,生活保護法77条も同様の構成を採用しています。
  貴党の見直し策によれば,民法上の扶養義務の在り方も「改正」することが必要と考えられますが,そこまでお考えなのでしょうか。
  仮に民法改正までは考えていないとすれば,生活保護受給者についてのみ異なる考え方を採用してもよいとする理論的根拠はどこにありますか。


8 具体策6.「就労可能者の区分対応」等について
(1)貴党のご主張
 「中期的な取り組みとして,就労が困難な高齢者・障害者と就労可能者を 区分し,就労可能者には就職あっせんを拒否した場合の給付減額の仕組みや,就労可能者は3年程度で給付を打ち切る「有期制」の導入等も検討します。一方,生活保護世帯の子どもの教育や家庭環境等を改善し,貧困の連鎖を防止していきます。」

(2) 質問事項
① 期間の経過のみによって給付を打ち切ることの合理的根拠はどこにありますか。
  厚生労働省も,生存権を保障した憲法25条違反になるという見解を示していますが,いかがお考えでしょうか。

② 就労可能とされ給付期間内に就労できず、生活保護を打ちきられた方は、その後の生活・生存がどうなるとお考えでしょうか?

③ 就職あっせんを拒否した場合の給付減額の仕組みが検討されていますが,仮に仕事があっても,生活保護利用者には,仕事に求められる資格や技術,学歴,職歴などが満たされないことによるミスマッチがあってなかなか就労に結びつかないのが実態です。このようなミスマッチの解消はどのようにして保障されるのでしょうか。


9 施策の目的について
(1)貴党のご主張  
 「上記施策の実施により現在の年間3.7兆円の生活保護予算を大幅削減」

(2) 質問事項
① 貴党は,結局,財政目的のためには生活保護利用者やその家族の人権は侵害されてもやむを得ないという立場に立っておられるということでしょうか。

② 貴党が政権党であった時代の社会保障費毎年2200億円削減方針下において,北九州市で生活保護をめぐる餓死事件が3年連続で起きるという悲劇が起こりました。今般の貴党の政策が現実のものとなれば,餓死・孤立死・自殺・犯罪が激増するのが必至と考えますが,この点はどのようにお考えですか。
 仮に,こうした悲劇的事態が現実化した場合,貴党はどのように責任をとられるおつもりですか。

以 上


 生活保護問題対策全国会議と反貧困ネットワークは、下記のとおり、
6月18日に自民党「生活保護に関するプロジェクトチーム」に対して、自民党がめざしている生活保護制度改定案に関する公開質問状を提出します。

この報告の記者会見を下記のとおり行います。ぜひ取材のご協力をお願いします。

■ 日 時:6月18日(月)16時30分より
■ 場 所:厚生労働記者会(千代田区霞が関1-2-2中央合同庁舎第5号館9F)
■ 参加予定者:生活保護問題対策全国会議、反貧困ネットワークの各メンバー


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自民党 生活保護に関するプロジェクトチーム
座長   世耕 弘成 様

               生活保護問題対策全国会議
               代表幹事 尾藤廣喜(弁護士)

時下 ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。

私たちは最後のセーフティネットにふさわしい生活保護制度の在り方を考える法律家、学者、関心をもつ市民、当事者ら全国300名以上で構成する団体です。
この間の生活保護をめぐる在り方の議論を踏まえ、私たち生活保護問題対策全国会議と反貧困ネットワークより公開質問状をお渡しいたしたく、勝手ながら下記の通り、お時間を頂戴いたしたくお願い申し上げます。
期日が迫っており、大変申し訳ございません。
尚、この件に関しましては私どもより報道機関各位にご案内を差し上げる予定です。
ご多忙中にお手数をおかけして恐縮ですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

             記
 1.質問状をお受け取りいただきたいこと
  日時:2012年6月18日(月) 13時~14時の間
  場所:議員会館、議員面会所、自民党本部のいずれかで調整いただけると
幸いです。

 2.質問に対する回答とご説明をいただきたいこと
  日時:2012年7月9日(月) 13時~17時の間の2時間程度(予定)
  場所:ご指定いただければ幸いです。

 3. 当会より参加予定 弁護士、学者、支援者、当事者など10~20名程度

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6月9日(土)10時~19時で全国6カ所で開催した「生活保護”緊急”相談ダイヤル」ですが、全国から363件の相談の声が寄せられました。

何度かけてもつながらない、という声も多く、
きっと電話はそれ以上にかかってきたと思われます。
電話がつながらなかった方、力不足ですみません。

寄せられた声は、

・報道のバッシングを見て、このまま制度が悪くなっていくのではと不安
・福祉のお陰で命が助かっている。騒がれだして病院の対応も変わった。不正受給者のような目に晒されて病院に行くのも怖い。
・最初から泣いている、生きていちゃいけないのか、死にたい、苦しい、TVを見るのが怖い。
・近所の人に「受給者はクズ」と言われた。お金のない人は死ぬしかないのか。
・これから申請したいと考えているが、テレビ報道のように別居の子供たちに迷惑がかかってしまうのか心配。
・どうしようもなくつらい。薬が増え、夜も眠れなくなった。体調悪い。死んでしまいたい。現物支給は差別。
・次長課長の報道以来声が出なくなり、夜も眠れない、食欲も落ちた。
・最近の報道から生活保護に後ろめたさを感じ、病院にも行きづらい。

という、当事者の方々からの叫びの他、福祉事務所の窓口での追い返し(水際作戦)の訴え、また、扶養義務調査強化で子供や親族に迷惑がかかるのでは心配する声も多数、ありました。


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全体集計表
緊急ダイヤル集計表


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事例報告書
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■まさに“緊急”事態です。
 人気お笑いタレントの母親の生活保護受給を週刊誌が報じたことを契機に,生活保護制度と制度利用者全体に対する大バッシングが起こっています。報道のあり方や生活保護制度の誤解など,さまざまな問題はありますが,なにより現に生活保護で生活されている方,保護が必要な方が,深く傷つき不安にさいなまれています。
 
例えば・・・ ・生活保護を受けています。
       保護が切られてしまうか心配です。
       DV被害者です。相手方に住所がバレてしまうか心配です。
       名前とか公表されちゃうのかと心配になります。
       10%削減されるってホントですか?それじゃ生活できない。

  ・生活保護を受けたいです。
       兄弟がいると受けられないか心配です。
       何年も会ってないのに扶養できない証明書なんかもらえません。
       年金があるから保護が受けられないってホントですか。

 ・家族に生活に困っている人います。
       自分も苦しいけどどのくらい扶養しないといけないんでしょうか…

 そこで,下記とおり標記電話相談を行います。
 事前のご周知・当日の取材など,ご協力よろしくお願いいたします。
 なお,当日取材につきましては,各地の担当者に直接ご連絡をお願いいたします。

  ・日  時  2012年6月9日 午前10時~午後7時
  ・電話番号  0120-05-2756(れっつごーつながろう)
         なお,東北地方は13時~16時は0120-786-744で開催します。
         (これ以外の時間帯は,他地域で電話を受けます)
  ・回線数  全国16回線
  ・開催地域  宮城(1),東京(4),静岡(5),大阪(3),福井(1),福岡(2)
        (括弧内は回線数。なお、全国からの電話に対応)
  ・電話応対者 弁護士・司法書士・支援者

主催 生活保護“緊急“相談ダイヤル実行委員会
共催 ホームレス総合相談ネットワーク,生活保護問題対策全国会議
  東北生活保護利用支援ネットワーク,首都圏生活保護支援法律家ネットワーク
  静岡県青年司法書士協議会,生活保護支援ネットワーク静岡,
北陸生活保護支援ネットワーク福井,近畿生活保護支援法律家ネットワーク,
  生活保護支援九州ネットワーク

開催地担当者一覧
 ・東京 後閑一博(司法書士,電話03-3598-0444) 
 ・宮城 車塚潤(司法書士,電話022-224-4543)
 ・静岡 羽根田龍彦(司法書士,電話054-634-1507)
 ・福井 浅井正勝(司法書士,0776-24-5985)
 ・大阪 徳武聡子(司法書士,電話072-970-2232)
 ・福岡 高木佳世子(弁護士,電話093-571-4688)



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2012年6月7日

「餓死」「孤立死」根絶のための提言

                        全国「餓死」「孤立死」問題調査団

 2012年初頭から、我が国において餓死・孤立死が頻発する異常な事態となっている(新聞報道確認されただけでも、2012年1月~4月の間で13件。末尾【参考】参照)。
 本提言は、GDP世界第3位を誇る経済大国において、このような事態が起きる原因を可能な限り明らかにし、餓死・孤立死を根絶するための提言を行うものである。

第一 提言の趣旨(骨子)

1 全事件に関する徹底した調査の実施
2 生活保護の漏給防止策の徹底(水際作戦の根絶と広報の強化)
3 ライフライン業者等との連携強化による緊急対応
4 リスク層に対する積極的アプローチ
5 行政内部での連携の強化と十分な要員配置・専門性の向上


第二 提言の趣旨(詳細)

1 全事件に関する徹底した調査の実施    

 当調査団は、餓死・孤立死が発生した6自治体(①札幌市白石区、②さいたま市北区、③立川市、④東京都台東区、⑤釧路市、⑥南相馬市)に対して公開質問状を発し、各自治体の回答を得た(別紙参照)。各事件は、それぞれの形態(家族構成、高齢者の有無、障害の有無程度、行政との関わり、生活保護申請の有無等)も異なり、個別の事件特有の要因もあると考えられる。しかし、共通する特徴として、いずれのケースも複数世帯(その多くは稼働年齢層を含む)であり、従来、孤立死のリスクが高いと見られていた単身高齢世帯以外にも餓死・孤立死のリスクが高まっていることが窺われる。
 厚生労働省は、これまでも地域社会から孤立死を生み出さないことなどを目的として、「孤立死防止推進事業(孤立死ゼロ・プロジェクト)」、「地域福祉活性化事業」、「地域福祉等推進特別支援事業」、「安心生活創造事業」などを実施している。にもかかわらず、餓死・孤立死の悲劇が後を絶たないことからすれば、これらの施策においては、住民によるコミュニティ活動の活性化や、住民による新たな支え合いなどの「共助」が強調され、国や自治体の責任が曖昧にされていることから、事業の質や量に問題がある疑いも強い。
 いずれにせよ、同種の悲劇を繰り返さないためには、国が所管自治体と連携をし、全事件について徹底した調査を行い、それを踏まえて再発防止策を構築するべきである。

2 必要とする人が漏れなく生活保護を受けられるようにすること
  (生活保護の漏給防止策の徹底)

(1)「水際作戦」の根絶

 ①の札幌市白石区のケースでは、姉が、平成22年6月、平成23年4月及び6月の3回にわたって福祉事務所に生活保護の相談に訪れているにもかかわらず、生活保護の受給に至っていない。
 当該世帯の最低生活費は184,720円であるのに対し、少なくとも3回目の相談時点の収入は妹の障害年金月額66,008円のみである。約12万円も最低生活費を下回っているうえ、家賃・公共料金の滞納もある明らかな要保護世帯であった。生活保護申請をする者は申請意思を明確に示すことすらできないこともままあるから、「申請する」という直接的な表現によらなくとも申請行為があったと認められる場合があるところ(福岡地裁小倉支部平成23年3月29日判決)、姉は「生活していけない」と生活保護の相談を持ちかけている以上、申請行為はあったと言える。
 一般に福祉事務所職員には、生活保護の相談に訪れた者に対して、保護申請権の存在を助言・教示のうえ、申請意思を確認すべき法的義務があるが、本件の面接員は、当該世帯が要保護であることを明確に認識している以上、より高度の保護申請権の助言・教示義務、申請意思確認義務が認められる。
にもかかわらず、「高額家賃について教示。保護の要件である懸命なる求職活動を伝えた」と記録されていることからすると、①本来保護を否定する理由とはならない住宅扶助基準額を超えたアパートに居住していることを問題視し、②保護の開始要件でもない「懸命なる求職活動」を要件であると説明したものと推認される。
 そうすると、姉から生活保護の申請があったにもかかわらず、職員は、当該世帯の要保護性の高さを十分に認識しながら、上記①②の点について法的に誤った教示・説明を行い、保護の要件を欠くものと誤信させ、保護申請を断念させたものと言える。申請権侵害があったことが明らかであり、しかも、その違法性の程度は極めて高いと言わざるを得ない。
 同様の悲劇の再発を防ぐためには、違法な申請権侵害があったことを率直に認めたうえで、①すべての福祉事務所の窓口の誰もが手に取れる場所に生活保護申請書を備え置くこと、②相談の最初に保護申請書を示し、生活保護は誰でも無条件に申請する権利があること、原則として申請に基づいて開始されるものであること、申請があれば原則として14日以内に要否判定をし書面による決定がなされることなどを記載した説明文書を交付したうえで助言・教示するなどの再発防止策を講じるべきである。

(2)生活保護制度の広報の強化
 情報が限られているため、厳密な判定は困難であるが、その余のいずれのケースも、ライフラインの利用料や家賃の未払いを経ていることからすると、生活保護の利用要件を満たす困窮家庭であった可能性が高いのではないかと思われる。生活保護制度の利用によって、経済的な生活の基盤が確保されていれば最悪の事態は防げた可能性が高いと思われる。
 しかし、⑥では実際に生活保護の窓口に相談に赴いているが受給につながっておらず、それ以外のケースでは相談にさえ行っておらず、生活保護が利用できることを知らなかったか、利用することに対する抵抗感があったのではないかと推察される。
 日本の生活保護の捕捉率は2~3割程度と極めて低く、その利用率(1.6%)も先進諸外国(独9.7%、英語9.3%、仏5.7%)と比べると異常に低い。悲劇の背景には、本来利用すべき人が生活保護制度を利用できていないという、膨大な「漏給」層の存在があると言わざるを得ない。
近時、生活保護制度を巡っては、不正受給防止のキャンペーンのみが強調される傾向にあるが、生活保護制度が誰もが生活に困った場合の有力な救済手段であることについても、市民に広報を徹底し、その利用を促進すべきである。

(3)適切な「生活支援戦略」(2012年秋)の策定 
 国が2012年2月17日に閣議決定した「社会保障・税一体改革大綱」では、生活困窮者対策と生活保護制度の見直しについて、総合的に取り組むための「生活支援戦略」を2012年秋を目途に策定することとされている。そのうち後者については、①不正受給対策を強調し警察官OBを福祉事務所に積極配置すること、②生活保護基準を引き下げること、③稼働年齢層に対して期間を定めた集中的な就労指導を行うことなど、財政的観点からの給付抑制策が目立つ。
 しかし、上記のように現状でさえ、必要とする人々に生活保護制度が全く行きわたっていないのに、さらに制度を切縮める方向での改革が実施されれば、ますます餓死・孤立死などが増えるという悲劇的な結果を招くことが明らかである。
 「生活支援戦略」の策定にあたっては、上記のような生活保護制度を切縮める方向での検討や取りまとめは断じて行うべきではない。社会保障審議会の「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」の検討課題にあがっている、生活困窮者・孤立者の早期把握、伴走型支援、多様な就業機会の確保等の諸施策の充実こそが図られるべきである。

3 ライフライン業者などとの連携強化による緊急対応
 餓死・孤立死に至る過程では、ほとんどの場合、ライフラインの途絶という経過をたどっている。この点について、厚生労働省は、生活困窮から電気・ガス・水道料金等の滞納により、ライフラインが止められ、死亡に至るという事態の発生を防ぐため、電気等の供給停止に際して、電気・ガス等の事業者と福祉事務所が連携を強化し、要保護者の発見・把握に努めるよう促す通知を5回にわたって発出し(平成12年4月13日付、平成13年3月30日付、平成22年10月1日付、平成23年7月8日付、平成24年2月23日付)、資源エネルギー庁も事業者に対して同種の通知を発出しているが(平成14年4月23日付)、今回の事態をみると、ほとんど実効性が上がっていないと言ってよい。 
 個人情報保護法が「壁」になっているという見方も示されているが、「個人情報」の保護を理由に「人命」が失われるような事態は、本末転倒であって法の趣旨に反する。
 個人情報保護法上の問題点については、①標準約款や標準契約書に同意条項を入れ込むことによって、同法16条1項、23条1項の「あらかじめの同意」を得ること、②一定の要件を満たす場合(例えば、滞納が数か月続き、近々供給停止が見込まれる場合等)には、同法16条3項2号、23条1項2号にいう「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」に該当すると解釈すること、③同法第23条2項(オプトアウト制度)を活用することなどによって、クリアすることが十分に可能と解される。
 そして、こうした情報の提供については、電気、ガス、水道等のライフライン事業者だけでなく、不動産賃貸業者、介護保険事業者、郵便配達員、新聞配達業者、ヤクルト配達業者、配食業者等との連携の構築も重要である。
 この点、消費者庁は、本年4月26日付け事務連絡において、上記②の点について自治体消費者行政担当課等に対して通知したが、具体的な解釈指針は示されていない。①③の点も含めて、事業者の不安を払拭しうる具体例も例示した指針を通知等の形式で発出することが必要不可欠である。

4 「リスク層」に対する積極的アプローチ
 本来は、ライフライン等の料金滞納等に至る前段で、そのようなリスクの高い市民に対して、行政機関の側が積極的にアプローチし、生活保護をはじめ関連する福祉サービス情報を個別に提供し、諸制度の活用による安心、安全な生活を保障することが必要である。
 この意味で、東京港区での取り組みは注目される。同区では、一人暮らし高齢者の中から、介護保険や区の福祉サービスの認定は受けているが利用がない方、生活保護を受けていない方(港区では生活保護水準未満の一人暮らし高齢者が32%を占めている)、後期高齢者の中で1年以上の未受診者、ライフライン停止などの緊急性のある方を対象にして、2012年度から区を5地区に分け、各地区の「ふれあい相談室」に各2名配置された「ふれあい相談員」が対象世帯を訪問して必要なサービスにつなぐ活動を行っている。孤立した市民を行政の側が発掘して福祉サービスなどにつなげるシステムを構築したすぐれた取組といえよう。

5 行政内部での連携の強化とケースワーカー等福祉関係職員の十分な配置と専門性の向上
(1)行政内部での連携の強化(情報の共有化と迅速な対応)
 一連の事件のほとんどにおいて、世帯員の中に障害者(児)がいたり(①③)、高齢者がいて(③④⑤⑥)、障害に係る年金や手当を受給していたり、要介護認定を受けたりしている。こうした世帯においては、その困窮状態を行政内の障害所管部署や地域包括支援センターが把握できた可能性があり、行政内部において情報の共有化と連携が行われて、たとえば生活保護所管課において生活保護の適用がなされていれば悲劇を防げたと思われる。
 「縦割り行政」の弊害に加え、個人情報保護を口実にした情報の非共有化や、もともとの生活保護などのサービス抑制が、事件を引き起こしたり深刻化させている可能性があり、行政内部における連携の強化と、生活保護の積極的な適用が必要不可欠である。

(2)生活保護ケースワーカーをはじめとする十分な職員配置と専門性の向上
ア 生活保護ケースワーカー

 生活保護の運用を改善するためには、ケースワーカーの増員、専門化の推進を進め、ケースワーカーが迅速かつ効果的に生活保護の来談者および利用者の問題に対処できる体制づくり等も進めるべきである。
 厚生労働省の『平成21年 福祉事務所現況調査』によれば、生活保護担当現業員(ケースワーカー)の配置標準数に対する配置状況は、89.2%、特に「市部」については88.2%とかなり低くなっている。つまり、全国でケースワーカーが1688人も不足している。福祉事務所の人員不足のために、実際に働いているケースワーカーの負担が過重となり、生活保護利用者の生活問題に十分な対応や支援が行うことができない背景要因となっている。
 また、同調査結果から、現業員の最低限必要とされている社会福祉主事(社会福祉の一定の講習を受けた者等)取得率は、生活保護担当現業員で74.2%、査察指導員で74.6%であった。近年、社会福祉の専門職として認められている社会福祉士取得率はそれぞれ4.6%、3.1%、精神保健福祉士はそれぞれ0.5%、0.3%でしかなかった。ここから、多くの生活保護担当現業員が、社会福祉の専門的な知識や技術がないままに生活保護業務を担っていることが明らかになっている。
 さらに、生活保護担当現業員の経験年数としては、「1年未満」が25.4%、「1年以上3年未満」が37.9%、「3年以上5年未満」が20.8%であった。全国的に、生活保護担当現業員は、3~5年で異動することが多いようで、生活保護法やその運用に精通した経験者が育たない現状がある。
したがって、生活保護担当現業員は、専門的な教育訓練を受けず、また経験を積み重ねることができないうえに、人員不足の状態で多忙を極め、生活困窮者・生活保護利用者に対して十分なかつ丁寧なケースワーク業務ができない状態にあると言える。
 そのために、①ケースワーカーの増員、②社会福祉の専門職採用および配置、③他方他施策を含めた生活保護・社会福祉全般の研修の充実、④生活保護業務の経験蓄積ができる人事異動の展開などを図る必要がある。

イ アウトリーチ(ソーシャルワーク)の専門行政職員
 3で述べた事業者からの通報や5(1)で述べた行政内部での情報共有などによって、リスク世帯が発見されたとしても、訪問をし、当該世帯の信頼を得て必要な行政サービスにつなげるためには、専門性のある根気強い働きかけが必要である。
 現状では、先に述べたふれあい相談員(港区)やコミュニティソーシャルワーカー(大阪府)などがこうした役割を担う先進事例や、国がモデル事業として実施しているパーソナル・サポート(PS)・サービス事業などがあるが、中長期的には、各制度領域の連携を組織化できる立場にあり、常勤で自由に動くことができるソーシャルワークの専門的職種を行政内部に設置することが必要である。

(3)『「餓死・孤立死」ゼロ・プロジェクト』を自治体レベルにつくること
 人権を守り実効ある『「餓死・孤立死」ゼロ・プロジェクト』を自治体レベルにつくることを検討すべきである。実効性を担保するために一定の権限を持たせ、構成は行政、議会を含めて構成し、市民や地域の事業者の参加を基本とする。
 現在、各都道府県に多重債務問題の根本解決を目的として多重債務者対策協議会が設置されているが、同様の発想に基づき、各地域における生活困窮者・孤立者の発見、支援の仕組み作りを目的とする協議会的な場を設置することが考えられる。また万が一「餓死・孤独死」が発見された場合には、徹底した調査のうえで問題点を明らかにし、再び同様なことを起こさないために、「検証会議」を開き検証結果を公開するべきである。



【参考】
1 餓死・孤独死の発生状況
・2012年  (日付は発見日)
  1月12日 釧路市 84歳の夫と72歳の妻
  1月20日 札幌市 42歳の姉(病死)と40歳の障害を持つ妹(凍死) 
  2月13日 立川市 45歳の母親と4歳の障害を持つ息子 
  2月20日 さいたま市 60歳代の夫婦と30歳代の息子
  2月20日 台東区 90歳代の父親と60歳代の娘
  3月 7日 立川市 都営アパート 95歳の母と63歳の娘
  3月 11日 足立区 73歳の男性と84歳の女性
  3月14日 川口市 92歳の母と64歳の息子
  3月23日 埼玉県入間市 75歳の母(死亡)、45歳の精神疾患の息子が助け出されていた。
       母の死後10日後の発見。
  3月25日 世田谷区 都営アパート 93歳の父(白骨遺体)、62歳の息子(自殺)
  3月27日 福島県南相馬市 69歳の母と47歳の息子、凍死(母は認知症、息子は病気)
  3月30日 秋田県鹿角市 90歳代の母と60歳代の息子
  4月11日 茨城県守谷市で、生活保護受給中の無職男性(63歳)が、死後約3ヶ月後に発見



2 公開質問状 →こちらから

3 各市町村からの回答状況
 →こちらから


5月29日に当会議が発表した
「扶養義務と生活保護制度の関係の正しい理解と冷静な議論のために」につき、この内容をわかりやすく、A4サイズ1枚にまとめた《概略版》を作成しました。

民法上の扶養義務、生活保護の運用、諸外国との比較比較などが、一目でわかります。

扶養義務概略版

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なお、「扶養義務と生活保護制度の関係の正しい理解と冷静な議論のために」本文はこちらです。





                  
1 今年に入ってから全国で餓死・孤立死が相次いでいます。
 私たちは、諸団体で全国「餓死」「孤立死」問題調査団を結成し、札幌市・白石区に調査団を派遣するなどの調査活動を行ってきました。調査結果を踏まえて、厚生労働大臣に「提言」を行います。

2 一方、近時、人気芸人の母親が生活保護を利用していたことが問題とされ、異様な生活保護バッシングの嵐が吹き荒れています。これを受け、生活保護基準の引き下げや扶養義務強化の方向での法改正がとりざたされています。
  こうした動きはさらに餓死・孤立死を増やすことになるため、私たちは、冷静な報道と議論を願っています。

3 私たちは、こうした状況に危機感を抱き、6月9日(土)午前10時~午後7時に<生活保護緊急相談ダイヤル>(0120-052756(予定))を全国4か所(東京、大阪、静岡、北九州、予定)で実施します。

 上記3点につき、下記日時において、記者会見を開催しますので、ぜひ多数ご参集のうえ、
 取材をいただきますよう、よろしくお願いいたします。

【日時】2012年6月7日(木)午後1時30分~

【場所】厚生労働記者会

【発言者】(予定)
 ○ 井上英夫(金沢大学教授・全国餓死孤立死問題調査団長)
 ○ 吉永純(花園大学教授)
 ○ 稲葉剛(NPO自立生活サポートセンター・もやい)
 ○ 雨宮処凛(作家)
 ○ 尾藤廣喜(弁護士) 他




 本日、当会議他合計27団体で、大阪市に対し、西成区で導入されようとしている生活保護利用者に
対する医療機関登録制度の撤回を求める申し入れを行いました。

 その後、13時30分より、大阪市政記者クラブにて記者会見を行いました。
 
 記者会見の様子は下記からご覧いただけます。
 (30分ごとに録画が切れてますので、順次ご覧下さい)


 要望書はこちら

   1番目
    

   2番目
    

   3番目
    




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                       2012(平成24)年6月4日

西成区における生活保護受給者の医療機関等登録制度の撤回を求める要望書


大阪市長 橋下 徹 殿


(要望団体)
生活保護問題対策全国会議,大阪クレジット・サラ金被害者の会(大阪いちょうの会),社会福祉法人聖フランシスコ会ふるさとの家,歯科保健研究会,わたなべ往診歯科,全大阪生活と健康を守る会連合会,特定非営利活動法人ジョイフルさつき,釜ヶ崎キリスト教協友会,釜ヶ崎医療連絡会議,釜ヶ崎高齢者特別就労組合準備会,野宿者ネットワーク,日本福音ルーテル教会「喜望の家」,関西合同労働組合,派遣労働ネットワーク関西,豊中社会保障推進協議会,大阪民主医療機関連合会,
兵庫県精神障害者連絡会,怒っているぞ!障害者切りすて!ネットワーク関西,怒っているぞ!障害者切りすて!全国ネットワーク,和歌山あざみの会,笹島診療所,右京生活と健康を守る会,近畿生活保護支援法律家ネットワーク,北陸生活保護支援ネットワーク福井,特定非営利活動法人自立生活サポートセンター・もやい,全国クレジット・サラ金問題対策協議会,反貧困ネットワーク(以上,総計27団体)



第1 要望の趣旨
   
1 要望の趣旨

 西成区の生活保護受給者について導入しようとしている「医療機関等登録制度」は,過剰診療・過剰処方の抑制につながらない一方,同区の生活保護受給者に限り不合理な受診障壁をもうけることによって,その適切な医療を受ける権利を侵害し,憲法13条,14条,25条の精神にもとるものであるから,導入を撤回されたい。

第2 要望の理由
1 「医療機関等登録制度」の内容
 
 貴市は,重複受診・重複薬剤処方・不必要な訪問診療などを抑制し,適正な医療を確保することを目的とし,西成区の生活保護受給者が受診する医療機関・調剤薬局の登録制度(以下,「本制度」という。)を本年8月1日から実施するとし,既に,同区の生活保護受給者に対する告知を開始している。
 本制度の概要は,判然としない面もあるが,現在明らかにされている「医療機関等登録制度実施要項(案)」や「医療機関等登録証」裏面の説明文等によれば,次のとおりであると理解できる。

① 西成区の生活保護受給者については,原則として,1診療科につき1医療機関,1被保護者につき1薬局を予め「医療機関等登録証」に登録し,医療機関や薬局の利用の際にこれを提示させることによって,登録していない医療機関や薬局の利用を認めない。
② 登録医療機関以外には医療券は発行しないこととし,救急時以外に医療券を持たずに受診したときは自己負担させる場合もある。
③ 主治医の判断で,専門医への受診・検査等が必要な場合には,紹介状等を受け取り,担当ケースワーカーに相談のうえ,担当ケースワーカーの判断で登録内容を変更する。

2 本制度は,西成区の生活保護受給者の医療を受ける権利を侵害し,その生命・健康に害悪を及ぼすおそれが強い
(1)適切な医療を受ける権利の保障 

 世界医師会総会の「患者の権利に関するリスボン宣言」は,すべての人は,差別なしに適切な医療を受ける権利を有すること,すべての患者は,いかなる外部干渉も受けずに自由に臨床上及び倫理上の判断を行うことを認識している医師からケアを受ける権利を有すること,患者は,担当の医師,病院等を自由に選択し,また変更する権利を有すること,患者はいかなる治療段階においても他の医師の意見を求める権利を有することなどを宣言している。また,わが国も批准している国際人権規約A規約(社会権規約)12条1項は,「この規約の締結国は,すべての者が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有することを認める」と規定している。これらの権利の保障は,自己決定権(憲法13条),平等原則(同14条),生存権(同25条)を保障した日本国憲法上の要請でもある。
 そして,こうした権利の保障は,生活保護受給者も等しく受けることは当然であるし,西成区の生活保護受給者だけが異なる扱いを受けるいわれのないことも言うまでもない。
 この点,福岡地裁平成21年5月29日判決(確定)も,「医療行為は,人の生命身体に関わる重要なものであるから,本来,患者は,どの病院において,どのような治療,リハビリ等の医療行為を受けるかについて,自ら選択し決定する権利を有するというべきであり,また,その実施にあたっては,医師と患者との信頼関係が極めて重要であることも多言を要しないところである。これらのことは,当該患者が被保護者である場合においても基本的に異なるものではないというべきである。」と判示しているところである。
 ところで,貴市は,本制度の根拠として,生活保護実施要領・医療扶助運営方針3が,「生活保護制度は,国民の最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これをこえないものでなければならないという原則において,他制度と基本的な差異がある」としていることを挙げている。
 しかし,同運営方針2は,「疾病が貧困の主たる原因の一つとなっている現状にかんがみて,特に,医療扶助の実施については,(略)制度の基本原理及び原則に基づき公正妥当な取扱いを行うよう留意すること」としているのであって,生活保護受給者の受ける医療がその他の市民の受ける医療よりも低劣であっても良いということはどこにも述べられていない。平成22年3月30日付厚生労働省社会・援護局保護課長通知が,「生活保護法による医療扶助における指定医療機関の診療方針及び診療報酬については,国民健康保険の診療方針及び診療報酬の例によって」いるとしているのも,生活保護利用者も一般市民と同様の医療を受ける権利が保障されることが当然の前提とされているからである。

(2)手間が増えること自体による受診抑制の危険性  
 本制度では,登録証に登録されていない医療機関や薬局を利用するためには,主治医の紹介状等を得,担当ケースワーカーに相談して承認を得,登録証の記載を変更してもらったうえで,医療券を発行してもらう必要がある。現在の実務よりも相当な手間・ハードルが増え,時間を要することになる。こうした「手間」は,認知症の高齢者,精神疾患や知的障害を持つ者にとってはもちろんのこと,自己主張や対人交渉が不得手であることの多い生活保護受給者にとっては極めて大きなハードルとなり得る。
支援団体等の支援を得られる者は良いが,そうでない多くの者は,こうした「手間」をこなすことができないことから,本来,必要な受診を抑制し,病状を悪化させることが大いに懸念される。

(3)過度の医療機関・薬局のとりまとめの危険性  
 例えば,同じ内科系でも,循環器,消化器,呼吸器などに複数の疾病を抱えている患者も少なくなく,医療機関側も疾病ごとに専門分野があるので複数の医療機関に通院している場合も多い。
したがって,1診療科1医療機関に限定することの合理性自体が乏しいのであるが,本制度が導入されると,例えば,循環器についてはA病院,消化器についてはB病院,呼吸器についてはC病院を受診している場合に,A病院ですべての疾患について一応受診が可能であれば,受診医療機関をA病院にとりまとめるよう指導がなされるおそれがある。
 1被保護者1薬局に限定することの合理性はさらに乏しい。例えば,内科・整形外科はA病院,精神科は離れた場所にあるB病院に通院している患者は,それぞれの病院の近くにある薬局で処方を受けるのが通常である。しかし,精神科への通院頻度の方が多いことから,B病院近くの薬局に一本化してもらうことになると担当ケースワーカーから言われたという例が既に出ている。そうすると,患者は,A病院に通院した日にも,わざわざB病院近くの薬局まで処方薬をもらいに行かなければならないうえ,精神科の近くにある薬局が,内科や整形外科等に関する処方薬を問題なく取りそろえているとも限らない。
 さらに,上記の例で言うと,A病院は総合病院で精神科もあることから,精神科についてもA病院を受診するよう言われるという,本制度の趣旨さえ逸脱した過度の医療機関のとりまとめの動きも既に出ている。

(4)転院やセカンドオピニオンを受けることができなくなる  
 例えば,ある病院に通院しているが一向に症状が改善せず,主治医の判断が信頼できない場合,患者は,別の病院の医者の意見(セカンド・オピニオン)を聞き,場合によっては,受診先そのものを変更する。特に,精神科では,患者と医師の「相性」が重要であり,患者は信頼できる医師に巡り会うまで転院を繰り返すことが少なくないが,これは他の診療科においても多かれ少なかれ同様であり,こうした行動が保障されることが,より適切な医療を受ける得ることにつながる。
 しかし,本制度では,登録されている以外の医療機関を受けようとする場合には,主治医の紹介状等が必要とされているところ,上記のように患者が主治医を信頼できない場合に主治医から紹介状を書いてもらうことなどできない。

(5)小括  
   以上のとおり,本制度は,不合理な受診障壁をもうけることによって受診抑制を招くおそれが強いこと,過度の医療機関・薬局のとりまとめによって適切な医療を受けられなくなるおそれがあること,新たな病院へのフリーアクセスやセカンドオピニオンを求めることが阻害されることなどから,西成区の生活保護受給者に限って合理的な理由なく,その適切な医療を受ける権利を侵害するものであり,憲法13条,14条,25条の精神にもとるものと言わなければならない。

3 条例によらず「実施要綱」によって権利制限を行うことの違法性

 上記のとおり,本制度は,生活保護受給者の適正な医療を受ける権利を制約するものであるから,正当な根拠があると仮定したとしても,少なくとも条例等の法規によらなければならない。しかし,本制度は,本来,行政機関内部の基準に過ぎない実施要項によって,これを実現しようとする点において,極めて大きな問題がある。
 最高裁昭和60年7月16日判決が,「(市民が)行政指導には応じられないとの意思を明確に表明している場合には,かかる明示の意思に反してその受忍を強いることは許されない」と判示しているとおり,要綱は法規ではあり得ず法的拘束力を伴わないものであり,それに従わないことそのものを理由として当該市民に不利益を課すことは許されないのである。この点は,行政手続法32条2項が,「行政指導に携わる者は,その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として,不利益な取扱いをしてはならない。」と明記している。
 したがって,仮に西成区内の生活保護受給者が,医療機関等登録証を持参せずに,同登録証に記載のない医療機関を受診しようとしたとしても,そのことを理由として,当該受給者に医療券を発行せず,受診をさせないという不利益を課すことは,行政手続法32条に違反し許されない。このように,強制することが違法となることがらを要綱によって事実上強制しようとする本制度は,その根幹において論理矛盾があり,到底容認できない。

4 制度創設の合理的理由に乏しい
(1)大阪市と西成区の医療扶助費は問題視すべき割合ではない  
 保護費総額のうち医療扶助費が占める割合は,大阪市では,平成11年度の59.2%から平成22年度の45.0%に大きく減少しており,平成22年度の全国の割合47.2%よりも低い。そして,同年の西成区の割合は,43.4%であって,さらに低い。このように全国的にみて,大阪市(とりわけ西成区)の医療扶助費の割合は問題視する数字ではない。
 大阪市の医療扶助費の割合が大きく減少してきたのは,緊急入院保護業務センターの月平均延べ入院人数と保護費総額が,平成16年度の2293人・約146億円から1039人・約74億円に半減したことに起因している。これは,従前,ホームレスの人に対してはアパートでの居宅保護が適用されず,社会的入院を余儀なくされていたものが,ここ数年の間に居宅保護の適正な適用が進み,社会的入院が大幅に解消されつつあることによるものと考えられる。

(2)重複受診・重複服薬の規模が明らかでない  
 本制度の目的は,「重複受診・重複薬剤処方・不必要な訪問診療などを抑制し,適正な医療を確保すること」とされているが,このような不適正な受診行動がどの程度の規模で生じているかのデータは乏しく,平成24年2月の「(仮称)医療機関等登録制度の実施について」と題する文書には,「最近の新聞等による報道にもありますように,一部受給者によります重複受診や複数医療機関を利用しての重複服薬が問題視されております。」と記載されていることからすると,客観的なデータに基づいて本制度の必要性が認識されたわけではなさそうである。厚生労働省が平成22年9月に発表した緊急サンプル調査の結果によっても,後に述べる処方薬依存による過剰処方が一定数予想される精神科に限って,4万2197人の通院レセプトを抽出調査した結果でも,不適切な受診とされたのは4.2%の1797人にとどまっている。
 そうすると,西成区の生活保護受給者による重複受診等の規模が明らかでないままに,同区内の全受給者について一律に本制度を導入することの必要性・合理性もまた不明確であると言わざるを得ない。

(3)本制度という手段を採用することに合理性がない  
 仮に,過剰診療・過剰処方が一定数存在するとしても,本制度という手段を採用することによって,過剰診療等が抑制されることとなるのかについても疑問がある。
 過剰診療・過剰処方については,受給者の側に意図的な悪意がある場合は少なく,医療機関等の側が経営的理由から行っている場合や,患者が処方薬依存になってしまっている場合が多いと思われる。後者の場合も,多くの医師が依存症についての知識や警戒心のないまま,さまざまな依存性薬物を処方し続けることによって「常用量依存」を発症し,減薬や服薬中止をすると,不安,焦燥感,気分の落ち込み,頭痛,発汗,手足のしびれ,離人感,動機,嘔吐などの退薬症状を呈することによるものであるので,ここでも,問われているのは医療のあり方である。
 1箇所で大量の依存性薬物を処方する医療機関も少なくないことからすれば,お酒を買う酒屋を1軒に限っても,アルコール依存症は治らないのと同様に,受診先を1箇所に限定することでは過剰診療や処方薬依存に対する効果は乏しいと言わざるを得ない。

(4)過剰診療等の抑制は,より実質的な効果のある別の方法によるべきである  
ア 厚生労働省が提示している諸施策
 過剰診療等の抑制のためには,厚生労働省が,既に次のような様々な施策を提示している(平成24年3月1日付同省社会・援護局関係主管課長会議資料37頁以下)。
 過剰診療等の抑制を考えるのであれば,まずはこういった諸施策を積極的に実施するべきであり,そうすれば相応の効果が見込まれる。

① 電子レセプトを活用したレセプト点検の強化
 「医療扶助適正化に関する電子レセプト活用マニュアル」(平成24年1月配布)に基づき,レセプト点検を強化することで,頻回受診者,向精神薬重複処方者などの適正化対象者を抽出するとされている。まずは,その実施により過剰診療等の疑いのある者を的確に把握することが対策の出発点である。
② 医療扶助相談・指導員(仮称)の配置
  厚労省案では,後発医薬品の利用促進に主眼が置かれ,ケースワーカーOB等でもよいとされているが,薬剤師・看護師・保健師等の医療専門職を医療相談担当者として各福祉事務所に配置し,不適切な受診行動を行っている者に対する助言指導も担わせるとよい。
③ 指定医療機関に対する効果的・効率的な指導
  電子レセプト等を活用して,生活保護受給者に関する1件あたりの請求金額が高い等突出しているケースについて,重点的にレセプトを個別に内容審査し,請求内容に問題の疑いがある医療機関に対しては重点指導を実施するとされている。

イ そのほかに考えられる施策
上 記以外に西成区独自に試行的な施策を実施し,より効果を上げようというのであれば,次のような施策を検討すべきである。

① より一層の社会的入院解消の促進
 先に述べたとおり,社会的入院の解消は,医療扶助費の削減に大きな効果を及ぼすものであるから,元野宿生活者等の入院患者のうち居宅生活が可能な者について,必要な在宅での支援体制を整えながら居宅保護への変更手続をし,より一層の退院促進策を講じるべきである。
② 釜ヶ崎(あいりん地域)に医療相談室を設置
 医療扶助相談員が西成区役所に置かれたとしても釜ヶ崎とは遠いので,釜ヶ崎地域に医療相談室を設置し,医療扶助相談員として薬剤師・看護師・保健師を常駐させる。
③ 専従医師による疑義医療機関との協議
 レセプトチェックによって診療・処方内容に疑義の生じた医療機関について,医師が出向いて,診療・処方内容等について協議する。間接的に過剰診療等を抑止する効果は大きいと思われる。
④ お薬手帳の活用による処方薬の把握
 生活保護受給者には,1冊のお薬手帳を必ず持ってもらうことにより,重複受診・重複処方を抑制することも考えられる。


5 まとめ
 以上のとおり,本制度は,それを実施したとしても制度目的である過剰診療・過剰処方を抑制する効果は乏しい一方で,生活保護を受給する患者の適切な医療を受ける権利を侵害し,その生命や健康に悪影響を及ぼすおそれが強い。まして,西成区内の生活保護受給者についてのみ,こうした権利制限を及ぼすことの合理的根拠などはなく,法の下の平等に違反する。
 本制度の実施により,結果的に西成区の医療扶助費が減少する可能性はあるだろう。しかし,それは,過剰診療・過剰処方が抑制された結果ではなく,登録制度という受診障壁をもうけることによる受診抑制の結果である。
生活保護受給者の命と健康を削ることによって医療扶助費を削減することが人道にもとることは明かである。
 私たちは,本制度の実施撤回を強く求める。

                   以 上


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