当会は、本年7月18日に最高裁第2小法廷がした永住外国人の生活保護についての判決について、以下のとおりの意見書を発表します。ぜひ、ご一読下さい。

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2014年(平成26年)7月28日

外国人の生活保護訴訟に関する最高裁判決についての
意見書


生活保護問題対策全国会議


第1 意見の趣旨
1 外国人は現行生活保護法による法的保護の対象外であると解釈した本年7月18日最高裁第2小法廷判決は、難民条約等の内外人平等の原則に真っ向から反し、不当である。

2 現行の生活保護の実施においては、永住外国人を含むいわゆる定住外国人等については日本人と同水準・同内容の保護が実施されている。上記最高裁判決は、現在行われている外国人に対する保護費の支給をいささかも否定していない。今後とも日本人に対するものと同内容の保護を行うことに変わりがないことについて、厚生労働省は、各実施機関に対して通知等で徹底すべきである。

3 厚生労働省通知に基づく行政措置としての保護費の支給についての却下や廃止に対して審査請求や訴訟で争うことができるかどうかは、上記最高裁判決の射程外であり、今後の争訟によって認められる余地が十分あることに留意すべきである。

4 国会は、生活保護法を改正し、永住者等の外国人が法による保護を受ける権利を有することを明確化すべきである。

第2 意見の理由
1 最高裁判決は不当である

(1)本件訴訟の概要

 最高裁判所第2小法廷(千葉勝美裁判長)は、2014年(平成26年)7月18日、国内での永住権を持つ外国人が日本人と同様に生活保護法による保護を受ける権利を持つかどうかという裁判について、第2審の福岡高等裁判所判決のうち行政側敗訴部分を破棄し、原告側の主張を退ける判決を言い渡した。
この事件の争点は、「永住者」としての在留資格を持つ外国人が、権利として生活保護法に基づく受給権を有しているかどうか、また、生活保護の申請が拒否(却下)された場合に、これに対して不服の申立てや、その取り消しを求める訴訟等で救済を受けることができるかという点にあったが、上記最高裁判決は、いずれも否定する判断をしたのである。

(2)最高裁判決の内容
 最高裁は、その理由として、まず、生活保護法の利用主体となる「国民」の意味について「現行の生活保護法は、1条及び2条において、その適用の対象につき『国民』と定めたものであり、このように同法の適用の対象につき定めた上記各条にいう『国民』とは日本国民を意味するものであって、外国人はこれに含まれないものと解される。」としている。
 そして、法の適用があるかどうかについては、「現行の生活保護法が制定された後、現在に至るまでの間、同法の適用を受ける者の範囲を一定の範囲の外国人に拡大するような法改正は行われておらず、同法上の保護に関する規定を一定の範囲の外国人に準用する旨の法令も存在しない。したがって、生活保護法を始めとする現行法令上、生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない。」と判断した。
 また、「昭和29年5月8日、厚生省において、各都道府県知事に宛てて『生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について』と題する通知(昭和29年社発第382号厚生省社会局長通知。以下「本件通知」という。)が発出され、以後、本件通知に基づいて外国人に対する生活保護の措置が行われている」ことについては、「外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しないものというべきである。」としている。
 そして、「本件却下処分は、生活保護法に基づく受給権を有しない者による申請を却下するものであって、適法である。」と結論づけたものである。

(3)法の文言だけから日本国民に限ると判断すべきではない
 確かに、憲法第25条を受けた生活保護法第1条では、「全ての国民に対し、…その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」と定めており、法第2条では「すべて国民は、…この法律による保護を、無差別平等に受けることができる。」と定めている。
  しかしながら、各種の法律における「国民」という表現は、単純に文字通り日本国籍を有する者を示すだけでなく、その性質上日本国民にのみ認められるべきものは別として、原則として、日本国内に住む外国人をも含むものと解すべきである(例えば、憲法第26条の教育を受ける権利、同第30条の納税の義務など)。特に、世界人権宣言や国際人権規約において、社会保障の権利は、全ての人に備わった権利として宣言・規定されていること、さらに、生存権の保障は、国家が社会構成員の生存のために積極的にかかわりを持つべきであるとの考えに基づくものであり、国籍があるかどうかではなく、その国家の基礎となっている社会の実質的な構成員であるかどうかに重点が置かれるべきであることからすれば、法の文言にとらわれることなく、「国民」の意味は、広く「その国に住む全ての人」を包含するものとして解釈すべきところである。
よって、生活保護法第1条で言う「国民」とは、広く日本国内に住む外国人を含むものと解すべきである。

(4)最高裁判決は難民条約の内外人平等の原則に反する
 また、仮に「国民」の意味が、日本国籍を有する者を示すものと解釈したとしても、1954年(昭和29年)5月8日の本件通知によって、日本国内に在住する一定範囲の外国人については、「当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて…必要と認める保護を行う」として、生活保護法による保護に「準じる」取扱いをすることが明言されている。そして、以降今日まで、外国人に対しても、国籍が日本でないことで、ことさらに日本人と差異を設けたり、支給されるべきものを支給しなかったりと言う取り扱いは一切なされていない。
 しかも、1981年(昭和56年)3月の難民条約等への加入及びこれに伴う国会の審議の中では、難民条約第23条が「公的扶助及び公的援助に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える」と規定しているところから、その内容を生活保護法にも明文化することが課題となった。その際、「生活保護については、外国人についても、生活保護法が適用又は準用され、自国民と同様の給付が保障されているところから、あえて外国人についても自国民と同様の給付が保障されるという内容を新規の立法で明文化する必要がない」ことが、立法府、行政府の双方で確認された経過がある。
 政府委員は、「保護の請求権ということでございますが、昭和二十五年以来安定的に、外国人に対しましても行政措置として生活保護を適用しております。こういう安定した関係を裁判等におきましても考慮いたしまして、確かに生活保護法上の審査請求にはなじまないわけでございますが、最終的には裁判上の訴えの利益というものも認められております。最終的な保護の受給というものは、外国人に対しましても確保されるというふうに考えております。」〔1981年(昭和56年)5月29日衆議院法務委員会での加藤説明員の答弁〕と回答し、外国人の生活保護の給付に関する訴訟における原告適格(訴訟を提起できる資格があること)をはっきりと認めていたのである。
  したがって、上記の法の準用は、最高裁のいう、「行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどま」るなどというものではなく、生活保護法に基づく保護の受給権を権利として持つものであると、解釈すべきは当然のことである。そうでなければ、日本は、難民条約第23条の「公的扶助及び公的援助に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える」旨国際的に約束しながら、難民条約調印後は、手のひらを返し、その約定に反した行為を行っていることになる。
 以上から、難民条約等への加入及びこれに伴う国会審議を契機として、国が外国人に対する生活保護について一定の範囲で法的義務を負い、一定の範囲の外国人に対し日本国民に準じた生活保護法上の待遇を与えることになったことは明白であり、その上で1990年に生活保護の対象となる外国人の範囲を永住的外国人等(「永住者」・「定住者」・「永住者の配偶者等」・「日本人の配偶者等」のいずれかの在留資格を有する者、「特別永住者」、入管法による難民認定を受けた者。なお、これら以外の外国人で保護の対象とならないか疑義のあるケースは厚生労働省に照会することとされている。)に限定したことは、永住外国人等の持つ生活保護の利用について、権利性をより強めたものと解すべきである。

(5)2審・福岡高裁判決の正当性
 この点、2審・福岡高裁の判決は、「昭和56年3月の難民の地位に関する条約(昭和56年条約第21号。以下「難民条約」という。)及び難民の地位に関する議定書(昭和57年条約第1号。以下、難民条約と併せて「難民条約等」という。)への加入及びこれに伴う国会審議を契機として、国が外国人に対する生活保護について一定の範囲で法的義務を負い、一定の範囲の外国人に対し日本国民に準じた生活保護法上の待遇を与えることを立法府と行政府が是認したものということができ、一定の範囲の外国人において上記待遇を受ける地位が法的に保護されることになったものである。また、生活保護の対象となる外国人の範囲を永住的外国人に限定したことは、これが生活保護法の制度趣旨を理由としていることからすれば、外国人に対する同法の準用を前提としたものとみるのが相当である。よって、一定の範囲の外国人も生活保護法の準用による法的保護の対象になるものと解するのが相当であり、永住的外国人である被上告人(原告)はその対象となるものというべきである。」として、生活保護の利用について、権利性を認め、生活保護法に基づく生活保護の申請が拒否(却下)された場合に、これに対する不服申立て及び取消しを求める訴訟等で救済を受ける権利があることを認めていた。
 上に述べたところからすれば、かかる福岡高裁の判断こそが正当であることが明らかである。

(6)経済成長のため外国人材の活用を謳いながら最低限の安心・安全を保障しない国は国際社会で信頼されない
 現在、安倍政権は、「世界の人材、資金、技術を引き付け、日本の成長に結び付けるためにも、日本国内の徹底したグローバル化を進めていかなければなりません。」として(4月4日経済財政諮問会議における安倍首相発言)、新たな成長戦略を打ち出し、高度な能力を有する外国人(研究者・技術者・経営者等)に対して優遇措置(親を帯同しやすくする、永住許可までの在留歴を短縮する)を講じることや、東京オリンピックの成功に万全を期すための2020年(平成32年)度までの時限的措置として、日本で建設・造船分野の技能を学んだ外国人が、その後2年間(場合によっては3年間)、建設業務に従事できるようにして即戦力となり得る外国人材の活用促進を図ることなどを決めている。また、介護業界の人手不足や女性の能力活用のため、国家戦略特区において、育児や介護・家事援助に従事する外国人を先行して受け入れることが検討されている。
 このように、日本政府は、有用または安価な労働力として外国人を積極的に受け入れて活用する方針を示しているが、今般の最高裁判決は、かかる政府方針の下で来日し永住資格を取得しても、何らかの理由で生活困窮に陥った場合にも権利としての生活保護は保障しないというものである。
 これでは、日本の成長という日本の利益のために呼び寄せられる外国人は、日本で野たれ死んでも当然の、単なる「使い捨ての労働力」でしかないということであり、国際社会における最低限の礼儀・礼節にも欠けると言うほかない。生活に行き詰まった時の最低限度の「安心・安全」さえ保障しない国には、優秀・有用な外国人は集まりにくいであろうし、国際社会における信頼や尊敬も得られないであろう。

2 最高裁判決は、永住外国人等に対して行われている日本人と同水準・同内容の保護費の支給をいささかも否定したものではない
 現行の生活保護の実施においては、永住外国人を含むいわゆる定住外国人等については日本人と同水準・同内容の保護が実施されている。誤解があってはならないことは、上記最高裁判決の、現行生活保護法においては外国人が「生活保護法による保護の受給権を有しない」という結論は、永住外国人等に「生活保護費の受給」が一切認められないということを意味するものでは全くない、という点である。
 つまり、上記最高裁判決は、外国人の権利としての、生活保護法に基づく保護の受給権については認めなかったものの、永住外国人等が「生活保護を利用すること」ができないとか利用することが違法であると判断したものではない。その意味で、外国人であっても、これまでと同様に日本人と同内容の保護費の受給が認められることに変わりはない。
 この点、外国人へ生活保護費を支給することに反対する人々が起こした住民訴訟において、横浜地裁2010年(平成22年)10月27日判決〔(判例地方自治2011年(平成23年)8月号)〕は、外国人は生活保護法による保護の対象とならないという今回の最高裁判決と同じ立場に立ちながら、「生活保護法が外国人に対して生活保護法による保護とは別に生活保護扶助費の支出をすること自体を否定するものではない以上、外国人に対して行政上の措置として生活保護扶助費を支出することが生活保護法1条に違反するという原告らの主張は理由がない」として、原告らの請求を棄却しているところである。
 今回の最高裁判決は永住外国人等に対して生活保護費を支給することを否定したものではない。したがって、われわれは、これまで通り生活保護を利用することができること、また、その内容が日本国籍を有する者と変わりがないことを厚生労働省は通知等で周知徹底することを求めるものである。

3 最高裁判決は外国人が生活保護について訴訟等で争う道を全否定したものではない
(1)最高裁における審理対象

 今回の最高裁判決は、あくまで「生活保護法による保護の適用を求める申請に対する却下決定」について判断したものであり、厚生労働省通知に基づく行政措置としての保護費の支給に対する却下については、審理の対象とならなかったことに留意すべきである。
 すなわち、原告側は、予備的請求として厚生労働省通知に基づく行政措置としての保護を行うことも求めていたのであるが、前述のとおり、福岡高裁においては、主位的請求である生活保護法による保護を求める申請の却下処分取消請求が認容された一方、行政措置として保護費の支給を求める請求は棄却された。これに対し、行政側が主位的請求部分について上告したが、原告側は敗訴部分について(附帯)上告をしなかったため、もともとの原告の請求のうち、行政措置としての保護費の支給を求める申請に対する却下決定に対して訴訟で争えるかは、最高裁では審理の対象とならなかったのである。
 したがって、外国人が「生活保護法による保護に準じた行政措置」による保護費の支給を求める申請の却下や廃止に対して、審査請求しても内容を問わずに門前払いする現在の運用が正しいかどうかや、訴訟が提起できるかどうかは、今回の最高裁判決の射程外であることに留意すべきである。

(2)行政措置としての事実上の保護について審査請求や訴訟で争うことが認められる余地は十分にある
 行政事件訴訟法第9条1項によれば、処分又は裁決の取消しの訴えは、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」であるとされている。そして、最高裁2009年(平成21年)2月27日判決は、神奈川県公安委員会が「優良運転免許証の交付」をなさずに「一般運転者の免許証の交付」をしたことについて、優良運転者の免許証が「その記載に基づいて何らかの法律上の効果が生じるものでは」なく、「抗告訴訟に関し,運転免許証にその記載を受けることについて、直ちに法的な利益があるということは困難である」としつつも、そのような場合でも「法律上の利益」を認め、訴えの利益があると判示している。
 とすれば、仮に、百歩譲って生活保護法に基づく保護の受給権が認められないとしても、通知等に基づく行政措置により事実上の生活保護の対象となり得る立場にあることは、最高裁も認めているのであるから、行政措置により事実上生活保護の対象となり得るかどうかは、申請者にとっては、まさに“生き死に”に関係する重大な「法律上の利益を有する」ところである。このような場合に、「法律上の利益がない」と判断することは、これまでの最高裁の判例にも明らかに反するものであるうえ、1(4)で述べた難民条約加入の際の国会審議の内容に照らして、国際的にも容認できない結果となる。
したがって、今般の最高裁判決によっても、この問題の決着はついておらず、今後とも行政措置としての保護について審査請求や訴訟で争うことが認められる余地は、十分残されていることに留意しなければならない。今般の最高裁判決が、2度にわたり(2回目はわざわざ判決末尾部分に)、「なお、原判決中上記請求に係る部分以外の部分(被上告人敗訴部分)は、不服申立てがされておらず、当審の審理の対象とされていない」と注意を促しているのは、この部分については、争いの余地が残されていることを示すメッセージと受け取ることができる。

4 生活保護法を改正して外国人の受給権を明記すべきである 
 今回の最高裁判決の、永住外国人に生活保護法に基づく保護の受給権を認めず、訴訟による救済が受けられないという内容は、社会保障の国際的潮流に真っ向から反し、かつ、難民条約等における日本国籍の有無による生存権保障の差異を認めないという内容と背反するものである。したがって、国会は、早急に、永住外国人に権利としての保護の受給権を認め、司法による救済が可能になる内容の法改正を行うべきである。
 なお、念のため付言すると、かつて最高裁はオーバーステイの外国人が提起した保護申請却下処分取消訴訟に対して、「不法残留者を保護の対象に含めるかどうかが立法府の裁量の範囲に属することは明らか」との判決を言い渡している(最判2001年(平成13年)9月25日)。つまり、不法残留者を保護の対象とする法改正も、立法府の裁量の範囲内であり合憲であると最高裁は判断したことになる。今回の最高裁判決も、生活保護法を改正して外国人を法による保護の対象とすることがあり得ることを、当然の前提としている。

以 上

※追記
第2の2で言及している横浜地裁2010年(平成22年)10月27日判決に対して、原告らの一人が控訴したところ、東京高裁2011年(平成23年)3月24日判決(賃金と社会保障1622号)は、地裁判決を全面的に支持し、原告の控訴を棄却していたことが分かりました。上告および上告受理申立ては行われず、東京高裁判決は確定しています。



7月9日に厚労記者会で行った「生活保護の住宅扶助基準引き下げの動きに関する記者会見」の、各登壇者の発言内容です。
住宅扶助基準引き下げの問題点が分かりやすく解説されています。

共同声明については、こちらをどうぞ。
[217団体が賛同]生活保護の住宅扶助基準引き下げの動きに反対する共同声明~「健康で文化的な最低限度の住生活」の基準を変更することは許されません~




7月9日記者会見



進行:小久保哲郎さん(弁護士、生活保護問題対策全国会議事務局長)   ◆ 
本日は、社会保障審議会生活保護基準部会で検討されている住宅扶助基準の問題について、引き下げに反対する共同声明を出しましたのでご説明します。生活保護問題対策全国会議と住まいの貧困に取り組むネットワーク他216団体でこの共同声明を出したことになります。声明の内容について、稲葉さんからご説明します。


◆ 稲葉剛さん(住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人)       
 昨年8月から始まった段階的な生活扶助基準引き下げに続いて、住宅扶助基準の見直しが急ピッチで進められています。5月には16日、30日と1ヶ月に2回も生活保護基準部会が開催されました。今後、7月から基準部会の中に作業部会をつくって生活保護世帯の居住実態の調査を進め、11月に報告書のとりまとめを行う流れになっています。おそらく来年度から住宅扶助基準を引き下げる動きになると思われます。
 これに反対する共同声明を、このたび発表しました。様々な問題点があります。

 まず、生活扶助基準と同に、厚労省が「引き下げありき」の方向に議論を誘導しているのではという点です。基準部会では、財政制度等審議会の資料をがそのまま提出され、そこでは、住宅扶助基準額(4.6万円)と一般低所得世帯の家賃額(3.8万)を比較して住宅扶助基準が2割程度高いという指摘がされています。しかし、住宅扶助基準は「上限額」です。大都市部で家賃が基準額近くなることがありますが、すべての生活保護世帯の家賃がすべて上限額ということはあり得ません。にもかかわらず、この上限額と一般低所得世帯の家賃の平均額を比較して上限額が高いとするのは、ミスリーディングなのではと、基準部会の委員からも指摘されています。「引き下げありき」に議論を誘導するものではないでしょうか。

 次に、最低居住面積水準についての考え方です。基準部会の資料では、「健康で文化的な最低限度の住生活を営むことができる住宅の尺度として、住生活基本計画に定められた最低居住面積水準でよいか」とわざわざ質問し、しかもその真下に全国の民間借家の1/3は最低居住面積水準が未達成であると付記しています。さらに、最低居住面積水準以下の世帯の割合について、全国の民間借家で1/3、東京では4割を超えると、わざわざ、こういう資料を出しています。これは、明らかに、一般低所得世帯でも最低居住面積水準以下の民間借家が多いので最低居住面積水準は考慮しなくて良い、という方向に議論を誘導しているのではないかと思っています。
 そもそも、最低居住面積水準は国交省が定めたもので、2006年からは単身世帯で25㎡以上となっており、2011年に閣議決定された住生活基本計画でもこの基準以下の住宅があれば早期に解消するとなっています。国交省が定めて閣議決定されたものを、厚生労働省が有名無実化してもいいと言わんばかりの方向に議論を誘導するのは、ゆゆしき事態です。最低居住面積水準は、公営住宅や行民間住宅の改修費補助金の基準でもありますが、こうした基準をないがしろにするのは生活保護だけでなく社会全体の住まいの貧困を招くことになります。

 3つめの問題です。生活保護世帯の居住実態調査を行う作業部会での議論は非公開で、検証もできません。出てきたときには結果が決まって、その後の流れも決まっているということになるのではないでしょうか。実際には各地の福祉事務所のCWが生活保護世帯を家庭訪問して居住環境等を調査することになるのでしょうが、CWに調査の余裕があるのかという疑問の声は基準部会でも出ています。

 一般低所得世帯と比較した場合に、同じ住環境であっても生活保護世帯の家賃の方が割高になるのは予想できます。生活保護には単身高齢者や障害者、ひとり親や外国籍の方が多く、様々な入居差別を受けています。家主に住宅扶助上限額なら貸すと言われたら、交渉力もない入居者は、その家賃額を飲まざるを得ません。社会的孤立の問題で、人間関係が切れ身内に保証人が頼めない場合は、さらに不利です。数字だけ見ると生活保護世帯が一般低所得世帯より割高な家賃ですが、その背景には、こういう入居差別の問題があるということを知っていただきたいです。

 しかも、現在の住宅扶助基準でも、十分な金額ではありません。東京では5万3700円、障害者や複数世帯は6万9800円となっていますが、地域によっては、これでも適切な住宅を確保するのは困難です。東京都千代田区では、住宅扶助基準では住宅が借りられないためにドヤで生活保護を受けている人が、アパートに移れないと福祉事務所に相談した結果、脱法ハウスを紹介されたということも起こっています。
 特に車椅子の障害者は、室内でも車椅子が使える物件を探すのはとても困難です。特別基準を出しても見つからない。そうすると、住宅扶助基準以上の家賃になり、実際には生活費部分を削って家賃を負担するということになります。
 また、住宅扶助基準は2人世帯から6人世帯は基準が同額です。子どもの多い世帯でも住宅扶助基準では東京ではワンルームしか借りられません。現在の住宅扶助基準は、まったく実態に合っておらず、決して高いといえません。

 住宅をめぐる現状の背景には、根本的な国の住宅政策の失敗があります。どこの地域でも公営住宅を増やさず、低所得者は民間住宅を探さざるを得ないのに、民間賃貸住宅市場は野放しで、入居差別の問題も放置されています。また、保証人の問題や貧困ビジネスの問題の規制が進んでいません。そういった民間市場の問題にメスを入れるならともかく、そこを放置したまま住宅扶助基準だけを切り下げると、生活保護世帯はますます劣悪な住居に押しやられ質の低下を招きます。健康で文化的な生活を保障するという生活保護の理念に真っ向から反するといわざるを得ません。

 私たちは、生活保護基準部会や作業部会が、きちんと、透明な形でオープンに議論することを求めていきますし、11月に検討結果をまとめるというのはあまりに拙速で撤回すべきです。そして、当事者や居住支援を行うNPO関係者、住宅問題を扱う研究者の意見を聞いて慎重に検討すべきです。
 そもそもの問題の背景に住宅政策の失敗があります。脱法ハウスやネットカフェ難民など、その時々に住宅政策の問題が社会に出てきますが、本来は国交省と厚労省が縦割りではなく一緒に「住宅政策総合本部」などをつくって、健康で文化的な最低限度の住生活をどう保障するかという観点のもと住宅政策を転換すべきではないでしょうあ。そして、住まいの貧困という問題にきちんとメスを入れていくべきです。そうした議論と並行して、生活保護の住宅扶助基準の問題も考えていくべきではないでしょうか。

 既に生活扶助基準は引き下げられています。さらに住宅扶助基準が引き下げられると、憲法25条に保障された健康で文化的な最低限度の生活が維持できなくなります。
 生活保護世帯だけでなく、社会全体に住まいの貧困を拡大させかねない、こうした動きに報道機関も警鐘を鳴らしていただきたいと思います。


◆ 田川英信さん(自治体職員)       
 福祉事務所に15年間いました。
 住宅扶助の特別基準ですが、〈1、2級地〉〈3級地〉に分かれています。1、2級地は中心部、3級地はいわゆる僻地です。基準額は家賃の上限額です。「単身世帯」と、「1.3倍額」は2人~6人世帯の複数世帯と車椅子等特別な設備を必要とする場合に認められており、さらに、「7人以上」という区分があります。
 もともと住宅扶助は1万3000円ですが、これでは住居が見つからないので県ごとに「特別基準」を設定することになっています。政令指定都市や中核は県より高い基準で、この金額は厚労省が決めています。住宅扶助として支給できるのは家賃本体のみであって、いわゆる共益費や管理費は含まれていません。
 職場の実感ですが、他都市の職員と住宅扶助基準の引き下げについて話をしました。今の基準でも住宅を探すのが難しいのに、これ以上下げられたらどうやって住居を確保するのか、今は基準以内の住宅でも(基準引き下げにより)基準以上の家賃になったたら転居が必要になるのか、とそんな話題になっています。
 もともと住宅扶助基準はそんなに高くありません。昔と違って基準内におさまるような家賃の安い物件はありません。古い物件は壊されていき、どんどん建て替えられています。銭湯が少なくなり、風呂付きでないと入居者がいないから風呂をつける、そうすると家賃が5万3700円にはならないのが実態です。(転居先の)家賃が基準を超えていると転居も認められず敷金も出せないので、転居先に苦労するという実態があります。
 精神科に入院していた方が退院する場合にも、なかなか部屋が見つかりません。居住環境が悪いと病気が悪くなることがあります。近隣の物音がうるさい、上の階の物音が筒抜け、隣の声がまる聞こえ、こういう物件が多いです。全部が全部そうではありませんが、居住環境としてはよくないありません。
 2人~6人までの住宅扶助基準が同じですが、23区内で基準内の物件を探してもなかなかなく、郊外の市に転居していただくこともあります。その場合にもめるのが「移管」という問題です。なぜ、そちらの区内でアパートを見つけられないのか、(郊外の市に)追いやっているんじゃないかと言うくらいの話になり、福祉事務所間のトラブルになりがちです。
 住宅扶助基準が引き下げられたら、今後いっそう、そういうことも増えるのではと懸念しています。


◆ 桑島知己さん(不動産業者)      
 (住宅扶助基準を)引き下げるところもあっていいのではと思いますが、上げるべきところもあるというのが、現場の不動産屋の意見です。
 高齢者や障害者、子育て世帯が6万9800円(1.3倍額)で物件を探すのは非常に困難です。ましてや東京中心部では、ほぼ不可能に近い状況にあります。こういった例に関しては引き上げが必要です。
 健康で文化的な住生活の基準はどこにあるのか、しっかりそういった指針があるのか、その基準の住宅が一体いくらで借りられるのか、そういったことが、おそらく厚労省はわかっていないのではないでしょうか。
 現場の不動産業者としては、脱法ハウスの問題もあるし、そういった地域の家賃相場などについては、CWが調査するのは難しいので、われわれ不動産業者が国や自治体と連携して、適正家賃がどこなのかを見直すべきと考えています。


◆ 川西浩之さん(生活保護利用者)      
 自分は東京都内に住む車椅子の者です。1日11時間弱のヘルパーの援助を受けながら生活し、室内でも車椅子を利用しています。そういう生活がかれこれ14年目になります。
 一人暮らしを始めるときに不動産屋を回りましたが、車椅子で過ごせる住宅はない、トイレや風呂に手すりをつけると壁に傷がついて修繕トラブルが発生するので貸したくない、という不動産屋がほとんどでした、10件や15件探しましたが、まったくそういう(自分に貸してくれる)家はありませんでした。公営住宅も少なく、とても引き下げに困っています。なぜ車椅子で過ごさなければいけないかという基本的な意味がわかってもらえていない。自分は脳性麻痺ですがお腹の力が弱く、車椅子でないと体が支えていられません。車椅子で過ごせない家があるということ自体、とても信じられないことです。アメリカなどの外国では車椅子で居室内で過ごすことが当たり前です。そういった、自分たちの障害の状況を理解してもらった上で、生活保護を見ていただけたらと思います。
 私は家賃が8万円を超える住宅に住んでいます。仲間の中には、ワンルームのため車椅子で中に入るのが精一杯で身動きもとれないという家に住んでいる人もいます。住宅改造の問題で寝たきりになっていたり、お風呂やベッドでリフトが必要という人も数多くいます。そういった人たちが家賃基準が下がると引っ越さなければならなくなり、どこに行っても嫌な目で見られ、後ろめたい姿になるのが目に浮かびます。不動産屋はちゃんと話を聴いてくれません。自分の場合は、ヘルパーさんに自分の要望を伝えてもらい、やっと住宅を見つけました。風呂釜を変える必要があっても、微妙な手すりの位置があってそれが違うと(風呂に)入りにくくなってしまうからと、そのままで生活しています。
 私たちの生の声を聞いて実態に即した見直しをしていただきたいです。


◆安形義弘さん(全国生活と健康を守る会連合会会長)      
 住宅扶助基準の引き下げにあたっては、生活保護利用者の声を聞いていただきたいです。生活保護利用者は贅沢は言っていません。せめて、安心して住めるところに住みたい、それが踏みにじられているのです。
 住宅扶助基準には2つの大きな問題があります。1つ目は基準が低いこと、2つ目は基準内の住宅に住んでいるときに家族や介護の問題で転宅したくても、なかなか認められないことです。
 例えば、青森市内で住宅扶助基準で借りられる住居は、実際にはトイレがくみ取りである、トイレや台所が共同だとか風呂がないとか、そういった物件しかありません。
 級地の問題も大きく響いています。北海道の石狩市は、札幌に隣接していますが級地が3級地の1です。隣接している北広島や恵庭は2級地です。生活圏や住宅の家賃も同程度なのに、級地が違うために住宅扶助基準にも差が出てしまいます。
 そして、基準内であっても転居がなかなか認められません。今の生活保護制度では、真に必要なら転居が認められます。北海道に住んでいる方は、要介護1で除雪が必要なのにできません。除雪装置が入口についているような住居は住宅扶助基準を超えるような物件しかなく、引っ越せない。近所に除雪をしてもらって、ようやく生活してます。
 ネズミが出るような劣悪な住居に2年間住んでいて、ようやく転居を認めるという例もあります。家主が退去を求めているのに、家主と福祉事務所が費用を押しつけ合って結局引っ越しができない。家主によるセクハラがあって、その実情を訴えても転居させないなどの事例もあります。こういう事例は極端な例ではありません。
 劣悪な住居に住んでいるのは、生活保護を利用するまでは生活が苦しいので、どんな住居でも住まざる得ないからです。そして生活保護を受け、もう少し人間らしい住居に住みたいと思っても、転居が認められません。
 養護施設にいる高齢者がいます。老齢加算が廃止されたため、クーラーがつけられなくて熱中症になり、独りで生活できなくなりました。虫も多く出るような家ですが、それでも家で暮らしたいと言われます。ちなみに虫の駆除費用も生活保護から出るのですが、それも知らずに自己負担していました。
 昨年からの生活保護基準引き下げで、延べ2万人が苦しい実態を訴えています。
 住宅扶助基準の引き下げは、今でもひどい住宅で我慢している人たちがいるじゃないかということを言って、劣悪な住居でも我慢しろと生活保護利用者に押しつけて、そのことを梃子にして国民全体の住宅水準を低下させようという、国民的な問題でもあります。
 人権としての住宅、健康で文化的な生活ができる憲法25条で保障された生存権としての住宅は何なのか、実態に利用者の声に耳を傾けていただき、いろいろな形で報道していただければと思います。


● まとめ/尾藤廣喜さん(弁護士、生活保護問題対策全国会議代表幹事)    
 自分は手短にお話したい。日本の最低生活を考える上で最も問題なのは、居住するという権利が生存権の重要な要素であるの観点が欠落していることです。
 ヨーロッパでは、中世から住民と政府の戦いがあり、居住の保障が生存権の重要な要素であることが確立しています。しかし日本はそれが弱く、せっかく最低居住面積水準がるのに、それに基づき何が最低限度の生活として保障されるべきかという観点の議論がなありません。そこを外して劣悪な居住水準と生活保護を比較して(住宅扶助見直しを)決めようとしてる。生活扶助を下げようとしたときと、手法が同じです。
 人間にとって、どのような水準の住宅が生活上最低限度の住宅として保障されなければならないか、という議論を離れて(基準引き下げの)議論があってはなりません。今の議論の方向は間違っています。最低生活の中で住む権利をどう位置づけるのかという議論の下で、議論して欲しいということです。



生活保護の住宅扶助基準引き下げの動きに関する
記者会見のお知らせ


マスコミ 各位
                        
 ご承知のとおり、現在、史上最大の生活扶助基準の大幅引き下げが進行中ですが、厚生労働省の社会保障審議会生活保護基準部会では、住宅扶助基準をめぐる議論が急ピッチで進められています。11月にとりまとめが行われ、来年度予算案で今度は住宅扶助基準の引き下げが断行されることを私たちは強く危惧しています。

 国交省が定めた最低居住面積水準もないがしろにされ、生活保護利用世帯の居住実態調査をする作業部会は非公開にされるなど、その手法にも大きな問題があります。

 この問題のどこに、どのような問題があるのか。
 生活保護利用世帯の居住実態は実際、どのようなものなのか。

 関係者が詳しく説明させていただきますので、是非多数ご参加ください。
 

【日時】7月9日(水)13時~

【場所】厚生労働記者会


【発言者】
  稲葉剛(自立生活サポートセンターもやい理事、
  住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人)
  尾藤廣喜(弁護士)
  田川英信(元生活保護ケースワーカー)
  安形義弘(全国生活と健康を守る会連合会会長)
  川西浩之(身体障がいをもつ生活保護利用当事者)
  桑島知己(不動産仲介業者)


2014年7月1日から、「改正」生活保護法が施行されます。申請厳格化や扶養義務の問題が取り上げられてきましたが、国会答弁や省令で「これまでの取扱いと変わらない」とされているものも少なくありません。一体、何が変わって、何が変わっていないのか、「改正」法の簡単なQ&Aをまとめました。
 パンフレットやチラシも作成していますので、支援や生活保護利用の現場、学習会などでお役立て下さい。

★現在、パンフレットの印刷のとりまとめをしております。ある程度の部数を印刷する予定がありましたら、ぜひこちらをご覧下さい。
http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-215.html


パンフレット(A4見開き8頁)
生活保護「改正」法Q&Aパンフレット

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チラシ(A4)
生活保護「改正」法Q&Aチラシ
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 生活保護の審査が厳しくなるって本当?
 →いいえ、そんなことはありません。

 「7月から生活保護法が変わると、審査が厳しくなって、生活保護が今までより受けにくくなる」というのは本当ですか。

A いいえ。生活保護の審査基準=受給要件(どういう状態の人が生活保護を利用できるか)は、今回の法改正でも変わっていません。今までは利用できた人が7月からは利用できなくなるということはありません。
※生活保護の基本的な仕組みについては生活保護に関するQ&Aをお読みください。
http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-3.html


 役所の申請用紙でないと認められらなくなるの?
 →自分で作った申請書も今までどおり有効です。

 「7月から生活保護法が変わり、生活保護の申請をするには、役所にある用紙に記入しなければならず、支援者が用意した独自の申請書では申請として認められなくなる」と聞きましたが本当ですか。

A いいえ。今回の法改正では、「保護の開始を申請する者は…申請書を保護の実施機関に提出しなければならない。」とされましたが、これは役所の指定の用紙による申請を義務付けたものではありません。厚労省が作成した「生活保護手帳別冊問答集」の問9-1の「生活保護の開始申請は、必ず定められた方法により行わなくてはならないというような要式行為ではなく、非要式行為であると解すべきであるとされている。」との記述も変更されていません。これまでどおり、福祉事務所の用紙ではない、支援者や弁護士が作成した申請書を提出しても「申請」として有効です。


 口頭の生活保護申請は認められらなくなるの?
 →口頭での申請も、これまでどおり有効です。

 「法律が変わって、口頭による申請は認められないことになった」と聞きましたが本当ですか。口頭で申請しても追い返されてしまったために申請書の提出が遅れた場合、生活保護はいつから開始されるのでしょうか。

A いいえ。これまで通り、口頭での申請も有効であり、口頭での申請があった時から生活保護の開始は認められます。国会審理の過程で、改正24条1項本文は「保護の開始を申請する者は…申請書を保護の実施機関に提出しなければならない。」とし、「特別の事情があるときは、この限りではない。」という同項但し書きが付されて、「申請=申請書」の提出ではないことを明確にする条文修正がされました。政府・厚労省は国会においても口頭申請の取り扱いは従来と変わらないと繰り返し述べ、厚労省の通知でも、「口頭による保護の開始等の申請も含め、現行の運用の取扱いをこの改正により変更するものではなく、また、保護の開始の申請等の意思が示された者に対しては、その申請権を侵害しないことはもとより、侵害していると疑われるような行為も厳に慎むべきであることは改正後も何ら変わるものではない」(平成26年4月18日社援発0418第359号厚生労働省社会・援護局長通知「生活保護法の一部を改正する法律等の施行について」)とされています。生活保護法施行規則1条2項でも、役所の申請援助義務が明記されました。
 申請の意思表示をした人を追い返す職員の対応は「水際作戦」と呼ばれる違法行為であって許されません。もし保護開始日が申請書提出日とされてしまったら、保護開始決定通知を受け取った日から60日以内に、「申請書提出日を開始日とする保護開始決定」の取消しを求める審査請求を都道府県知事に対して行うことができます(行政不服審査法5条2項、生活保護法64条)。


申請時に、資料を提出しないといけなくなったの?
 →預金通帳などの書類は、今までどおり、申請後に提出することで、かまいません。

 法改正によって、7月からは申請書だけでなく、申請時に預金通帳などの書類をすべて揃えないと申請を受け付けてもらえなくなるというのは本当ですか。

A いいえ。生活保護「改正」法24条2項では、「申請書には…厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」とされましたが、省令(生活保護法施行規則)では、結局、「省令で定める書類として規定するものがないため、改正法第24条2項に関する規定については、省令に規定しない」(平成26年4月18日厚生労働省社会・援護局保護課「生活保護法施行規則の一部を改正する省令(案)に対して寄せられた御意見について」)とされました。預金通帳などの書類は、今までどおり、申請した後、保護開始決定までの間に可能な範囲で提出すればよいものです。迅速な保護の決定のためには早く提出するに越したことはありませんが、申請と同時に用意する必要はありません。


扶養義務が強化されたの?
 →民法で定められた扶養義務自体は、何も変わっていません。

 生活保護法が変わって、7月からは生活保護を受けている人に対する扶養義務が強化され、三親等の親族は生活保護を受けている人を必ず援助することが求められるというのは本当ですか。

A いいえ。そもそも、親族間の扶養義務について規定しているのは生活保護法ではなく民法で、民法の扶養義務の規定は何も変わっていません。ですから、「今回の生活保護法改正で生活保護申請者や受給者に対する扶養義務が強化された」という表現は誤りです。扶養可能な扶養義務者がいないことは保護の受給要件ではなく、現実に扶養援助が行われた際にその金額が収入認定されて保護費が減額されるに過ぎない(生活保護法4条1項および2項)という位置づけも変わっていません。
 したがって、これまで民法上の扶養義務を負っていなかった人が新たに生活保護受給者を扶養する義務が生じることもないし、これまで以上の扶養援助が法律上求められることもありません。保護申請者・受給者の立場からいえば、「まず扶養義務者に援助を求めなければ保護は受けられない」とする運用が違法であることは今後とも変わりません。

※生活保護と扶養義務の関係については、2012年5月30日に発表した声明「扶養義務と生活保護制度の関係の正しい理解と冷静な議論のために」をお読みください。
http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-36.html


生活保護を申請したら、親戚中に連絡がいくようになるの?
 →扶養照会については何も変わっていません。
 
※新設された扶養義務者への通知や報告の要求は、「極めて限定的な場合」にのみ行うものとされています。

 申請に行ったら、「7月から、三親等以内の親族(両親、祖父母、兄弟姉妹、子、孫、おじ・おば、甥・姪など)全員に、あなたに仕送りできないか連絡することになった」と言われました。私は過去に兄に虐待され、疎遠な甥・姪などにも連絡して欲しくないのですが、仕方ないのでしょうか。

A いいえ。今回の法改正で、三親等の親族に全て連絡(扶養照会)が義務付けられたということはありません。これまで行われてきた、扶養照会(扶養が期待できそうな扶養義務者に、扶養の可否を文書で尋ねる方式の扶養能力の調査)については、何も変わっていません。
 また、虐待やDVの被害を受けた事例では、これまで同様親兄弟や子であっても扶養照会は許されません。また、三親等のおじおば・甥姪は家裁の審判があってはじめて扶養義務を負う相対的扶養義務者(民法877条2項)であり、特別な事情がある場合以外は、扶養義務者となりません。
 今回の法改正で新設された、申請後の扶養義務者への通知(24条8項)と報告の要求(28条2項)の対象となるのは「極めて限定的な場合」に限られるものとされ、厚労省は「扶養能力の調査の結果、①定期的に会っているなど交際状況が良好であること、②扶養義務者の勤務先等から当該要保護者にかかる扶養手当や税法上の扶養控除を受けていること、③高額な収入を得ているなど、資力があることが明らかであること等を総合的に勘案し、扶養義務の履行を家庭裁判所へ調停又は審判の申立てを行う蓋然性が高いと認められる」者が扶養義務を履行していない者との目安を示しています(実施要領課長通知に問答第5の5を新設)。特に、要保護者に対し生活保持義務を負っている扶養義務者(配偶者と、未成熟子の親)以外の場合(生活扶助義務)は、扶養義務者が「同居家族も含めてその者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせた上で余裕があれば援助すればよい」という弱い義務しか負っていないので、上記の要件を満たすことはほとんどないものと考えられます。


保護費の返還は、天引きされるようになるの?
 →不正受給の徴収金(返還)について、本人の「申し出」があり、かつ、最低限度の生活が維持できる範囲で行うこととされました。

生活保護を利用していますが、働いていたのに収入申告をしていなかった時期がありました。不正受給だということで、これまで、徴収金を分割で支払ってきましたが、職員は「生活保護法が変わって7月からは月々の保護費から徴収金を天引きできるようになった」と、一方的に2万円を天引きすると告げられました。これは、仕方ないことなのでしょうか。

A いいえ。生活保護費は差押さえが禁止されていますので(法58条)、月々の保護費から徴収金を天引きすることは、本来、違法です(民法510条)。一旦は保護費の全額の支給を受けて、その後に分割で支払っていくことになります。
 しかし、今回の法改正では、不正受給(生活保護法78条)の徴収金については、一定の条件(①書面による「申し出」がある場合で、②本人の生活の維持に支障がないと福祉事務所が認める範囲)の下に、保護費からの天引きが認められるようになりました。この、本人の「生活維持に支障がない」金額とは、単身者で5,000円、複数世帯で1万円程度とされていますが、加算相当分や勤労控除額相当分を上乗せすることも認められています。
 また、あくまでも本人の「申し出」を前提としており、「申し出」のない天引きは違法です。なお、「申し出」は保護開始時などに予め書面で行うものとされていますが、後で、「申し出」取り消しの書面を提出することにより、取り消すことができます。

※なお、保護利用中の財産取得や過支給による法63条の返還金の場合は、例え本人の同意があったとしても保護費からの天引きは許されません。


ジェネリック医薬品の使用が強制されるようになるの?
 →医師の判断や利用者の納得が前提で、本人の意思に反して強制するものではありません。

 私は生活保護を受けています。病気で通院しているのですが、法改正で、ジェネリック医薬品の使用を強制されることになったと聞きましたが、本当でしょうか。私は過去にジェネリック医薬品を処方された時に病状が悪化したことがあり、できれば薬を変えたくありません。

A 法改正で、「医療の給付のうち、医療を担当する医師又は歯科医師が医学的知見に基づき後発医薬品…を使用することができると認めたものについては、被保護者に対し、可能な限り後発医薬品の使用を促すことによりその給付を行うよう努めるものとする。」とされましたが、これは、医師や歯科医師の判断や生活保護利用者の納得を前提としてジェネリック医薬品の使用を促進しようとするものであって、ジェネリック医薬品の使用を強制するものではありません。
 患者が望む以上、先発医薬品が処方されるべきです。


★法改正を口実に役所から不当な対応をされたら?
 ① 法律家や支援者に相談しましょう! 
   
相談先リストはこちら

 ② 情報をお寄せ下さい。
 参議院厚生労働委員会の附帯決議では、「五年後の見直しに際しては、・・・生活保護の捕捉率、餓死・孤立死などの問題事例等の動向を踏まえ、生活保護受給者、これを支援する団体、貧困問題に関し優れた見識を有する者等、関係者の意見を十分に聴取した上で、必要な改正を行うこと。」とされていますので、不当な対応があれば法的・社会的に問題にしていくことも重要です。
 法改正を口実とした不当な対応があれば、情報を当会にお寄せ下さい。
    ↓ 情報提供はこちらへ!
メール(seihokaigi@hotmail.co.jp)、またはFAX(06-6363-3320)にて、①地域、②年代、③性別、④役所の対応、⑤公開の可否、⑥連絡先(できれば)、⑦概要などを、お知らせ下さい。



この他に、「改正」法について、もっと詳しく知りたい方は

● 村田悠輔「『改正』生活保護法の検討―申請権と扶養の問題を中心に」(賃金と社会保障2014年7月上旬号(1613号))
画像をクリック!


● 大阪弁護士会貧困・生活再建問題対策本部『Q&A生活保護利用者をめぐる法律相談』(新日本法規、2014年)Q2、9、60、87
生活保護問題対策全国会議「法律家・支援者のための生活保護申請マニュアル2014年度版」をお読みください。

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