当会は、本日、NPO法人POSSE京都支部と共同で、以下のとおりの公開質問状を大阪市に対して提出しました。

2013年3月4日
公 開 質 問 状
大阪市長 殿
大阪市福祉局生活福祉部保護課長 殿
生活保護問題対策全国会議
(連絡先)大阪市北区西天満3-14-16
西天満パークビル3号館7階
あかり法律事務所
弁護士 小久保 哲郎
TEL:06-6363-3310
FAX:06-6363-3320
NPO法人POSSE京都支部
(連絡先)京都市下京区西木屋町通上ノ口上る梅湊町83番地の1
ひとまち交流館2階 市民活動総合センター内
代表 川久保 尭弘
TEL:075-365-5101
FAX:075-365-5102
平素より、職員の皆様におかれましては、より良い生活保護行政の実施のためにご尽力されていることと存じます。
しかしながら、2012年12月、誤った運用で生活保護廃止を決定し、指摘を受けて撤回するという事件が天王寺区で生じてしまいました。また、鶴見区では高校生のアルバイト収入未申告が当初法78条違反として取り扱われたものの、数ヶ月後に弁護士による指摘があり法63条に変更されるという事例もありました。
私たちは、これらの事件に関わる中で、なぜこのような事件が生じたのかを調査し、再発を防ぐ措置を講じることについて、強い問題意識を抱いています。そこで、実態や今後の対応に関するいくつかの質問を掲げました。
現状を正確に把握し、オープンな議論を重ねていくことで、透明性・信頼性の高い保護行政の条件が整います。より良い生活保護行政を目指す想いは共通のものと考えておりますので、以下の質問項目についてご回答くださいますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
ご多忙中にお手数をおかけして恐縮ですが、2013年3月18日までに上記連絡先宛てにご回答いただきますよう、よろしくお願いいたします。
1 天王寺区でおこった事案について(事案については、後記を参照)
1-1 この事案について、どの点において天王寺区の対応が誤っていたと認識しているか。引っ越し費用の支給について当初言及しなかったことについてどう認識しているのか。
1-2 なぜ、文書による指導なしにいきなり廃止という判断になったのか。ケース検討会議で、その問題性は検討されなかったのか。
1-3 保護受給者の後を付けていく「行動確認」という行為は、生活保護法における具体的にどの条文、あるいは通達に基づいて正当化されるものなのか。また、不要不急の行動確認によって保護受給者のプライバシー等を不当に侵害することのないよう、「行動確認」を正当化し得る場合の基準や方法についての内規等を定めているか。定めている場合には、その内容を明らかにされたい。
1-4 平成25年2月27日に開催された第4回生活保護適正化連絡会議の会議資料「区における不正受給調査専任チームの活動の検証」には、「調査が困難な事例については、ブロック会議などでも調査方法などをお互いに情報共有して対応を行っているが、調査には法的な限界がある。(法では収入・資産しか調査対象とならないため、それ以外の調査は本人の協力(同意) を求めるしかないことなど) 」との記載があるが、収入・資産調査ではなく本人の同意もない「行動確認」を、大阪市は法的にどのように認識しているのか。
1-5 今後、同様の誤りが発生しないようにどのような対応をとるのか。
2 鶴見区でおこった事案について(事案については、後記参照)
2-1 処分庁は、本案件について「収入未申告は全て法78条で対応している」「法78条の適用にあたり『不正受給の意図』といった主観的要件は不要と考えている」という説明を代理人弁護士に対して行っている。「収入未申告はすべて法78条を適用する」、「法78条の適用にあたり主観的要件を不要とする」という対応について、大阪市の一般的見解を明らかにされたい。
2-2 法78条の適用にあたって「不実の申告その他不正な手段により保護を受けた」ことに対する主観的要件の要否について大阪市の見解を明らかにされたい。
2-3 鶴見区保健福祉センター所長は、「法78条の返還決定は『不実の申告その他不正な手段により保護を受けた場合』に決定するとされている」が、本案件について改めて確認したところ「不実の申告その他不正な手段により保護費を受けたと立証できないため法第63条に変更するとの判断を行っ」ている。
一般的に、法78条の適用にあたって同条の適用要件に関する立証責任は実施機関にあるという理解でよいか。
2-4本案件は、代理人弁護士によって審査請求の申立てが行われているが、処分庁は2度にわたって、審査請求人本人に対し、審査請求の取り下げを依頼している(しかも2度目の取り下げ依頼について、審査請求人の了承を得た、と再弁明書に記述されている)。一般的に、異議申立てが代理人によって行われている場合(行政不服審査法第12条)、代理人弁護士を経ずに審査請求人本人に対し、申立ての取り下げを求めることは代理人の代理権を侵害するおそれがあると思料するが、この点に関する大阪市の見解を求める。
3 大阪市における「不正受給」に対する認識について
3-1 過去10年間の大阪市における各年の不正受給案件(法78条に基づく返還請求案件)の件数及び金額を明らかにされたい。
3-2 過去10年間の大阪市において、法63条に基づく返還請求案件の各年の件数及び金額を明らかにされたい。
3-3 過去10年間の大阪市における不正受給事案について、その件数及び金額の内訳(稼働収入関係・稼働収入以外の収入関係、など)を年別に明らかにされたい。特に「保護世帯員である高校生のアルバイト収入の不申告」事案の件数及び金額を年別に明らかにされたい。また、無申告または未申告になっていた稼働収入を得た者の世代別(10歳代、20歳代・・・)の件数および金額を明らかにされたい。
3-4 過去10年間の大阪市における不正受給事案について、警察と協議を行った件数、刑事告訴件数、刑事事件として立件(逮捕又は起訴)された件数の年別の推移を明らかにされたい。
3-5 生活保護法78条に「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる。」とあるが、大阪市の認識によると「不実の申請その他不正な手段」とはなにか。
3-6 『生活保護手帳別冊問答集 2012』 「問13-1 不正受給に係る保護費の法第63条による返還又は法第78条による徴収の適用」には、「受給者に不正受給の意図があったことの立証が困難な場合等については返還額についての裁量が可能であることもあって法第63条が適用されているわけである。」とあるが、「不正受給の意図があったことの立証」をどのように行っているのか。
4 適正化推進チーム及び不正受給調査専任チームの実績について
4-1 適正化推進チーム、および不正受給調査専任チームの取り組み内容はそれぞれどのようなものか。
4-2 これまで適正化推進チーム、および不正受給調査専任チームが関与した不正受給事案の件数及び金額を年別に明らかにされたい
4-3 大阪市が雇用している警察官OBの人数及び配属先を年別に明らかにされたい。
4-4 大阪市の生活保護適正化関連予算の金額及び事業ごとの内訳及び警察官OBの人件費金額を各年別に明らかにされたい。
4-5 適正化推進チームおよび不正受給調査専任チームそれぞれのメンバーに対し、生活保護制度の理念やあるべき実務運用に関する研修や教育の機会を設けてきたか。また、その他に適切な運用を担保するためにどのような措置を講じてきたか。
4-6 不正受給の摘発に関し、職員が利用しているマニュアルのようなものはあるか。
4-7 適正化チーム、および不正受給調査専任チーム設立以来、それぞれのチームが関わった法78条違反事案について、特に打ち切りなどにいたった重大なケースについて、実際の調査の手法や違反と認定した根拠、それらを踏まえた措置(行政処分および立件内容など)がなんであったのか。
5 ケースワーカー業務の実施体制について
5-1 過去10年間の大阪市におけるケースワーカーの人数及び正規雇用及び非正規雇用(任期付き・パート・アルバイト等)の内訳の推移を明らかにされたい。
5-2 過去10年間の大阪市におけるケースワーカー1人あたりの平均担当受給世帯数はどのくらいか。
5-3 ケースワーカー数、特に正規雇用のケースワーカー数を増やす上で何が障害となっているか。
5-4 大阪市におけるケースワーカーのケースワーカーとしての平均勤続年数を明らかにされたい。
5-5 過去10年間の大阪市におけるケースワーカーのうち、社会福祉主事任用資格保持者率、社会福祉士有資格者率、精神保健福祉士有資格者率は、それぞれ何パーセントか。査察指導員と一般職員について、年別の推移をそれぞれ明らかにされたい。
5-6 今後、社会福祉士等の有資格者をケースワーカーとして積極的に採用していく計画はあるか。計画がないとすれば、その理由は何か。
以上
公開質問状は以上ですが、公開質問状中にあげられた天王寺区と鶴見区の事例概要を補足します。
(1)天王寺区の事例
Aさんは心臓病で働けず、天王寺区内の友人宅に長く居候していましたが、同じ天王寺区内のアパートを借りて生活保護を利用して暮らすことになりました。アパートの入居費用は生活保護から支給されましたが、友人宅においてある生活用品(段ボールにして20箱)を移動させる費用が支給されず荷物が移せなかったので、生活の本拠は依然として友人宅になりました。CWがアパートに家庭訪問した際に、AさんはそのことをCWに訴えましたが、引っ越し費用が支給されることはありませんでした。
数ヶ月後に、福祉事務所はAさんを役所に呼び出して帰り道を尾行し、メーターや郵便ポストを確認するなどの「行動確認」をして、アパートにAさんの居住実態がないとして、いきなりAさんの生活保護を廃止し、生活保護法78条に基づいて住宅扶助分35万円の返還を求める旨を告げました。
Aさんから相談を受けたPOSSE京都支部が天王寺区と交渉した結果、当初は区の対応に問題が無いとの回答でしたが、POSSE京都支部が厚労省に問い合わせて指導指示なしの廃止はおかしいとの回答を得た直後に、保護廃止・35万円の返還決定を白紙撤回するとの連絡がありました。
なお、引っ越し費用についても支給され、Aさんは今はアパートで生活しています。
※事案の詳細は、POSSE京都支部のブログをご参照下さい。
(2)鶴見区の事例
Bさんの世帯は母子世帯です。10年以上生活保護を利用しており、保護開始時点で長男は3歳でした。その際、長男がアルバイトをした場合の取扱についての説明はありませんでした。Bさん自身の月々の収入申告は欠かさず行っていました。
数年前に、長男が高校生になりアルバイトをすることになりましたが、Bさんはこのアルバイト代について収入申告が必要であるとは認識していませんでした。2年後にCWとのやりとりの中で、申告の必要があることを指摘され、指示に従ってすぐに通帳などを提出しました。
鶴見区は、それまでのアルバイト代140万円全額について法78条に基づく返還決定をおこないました。なお、決定より前にもかかわらずBさんに60回以内で分割返済するとの誓約を促していました。
代理人弁護士が交渉にあたると、鶴見区は「収入未申告は全て法78条で対応」「78条適用に『不正の意図』という主観要件は不要」と説明していました。しかし、Bさんが決定に対して審査請求をすると、「不正受給の意図があったということを立証できない」として78条に基づく処分を撤回しました。
(なお、Bさんは法63条にもとづいての返還を行っています。)