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2011年12月2日

<行政刷新会議「提言型政策仕分け」・生活保護制度に関する提言の撤回を求める緊急声明>
基礎年金や最低賃金との比較による生活保護基準額の引き下げや、医療費一部自己負担の導入は断じて許されない!


 去る11月23日「提言型政策仕分け」が行われ、生活保護の見直しを提言した。
 そもそも、生活保護制度は、わが国で暮らす全ての人の生存を保障する基盤となる重要な制度である。こうした重要な制度の抜本改革案を、この問題に関する知識をほとんど有しない委員らが、わずか1時間半程度の短時間で検討して結論を出すという手続そのものが極めて乱暴である。
しかも、そこで提言された内容は、①生活保護基準の引き下げ、②ジェネリック医薬品の義務づけ、③医療費一部自己負担など、財政的観点のみからのあからさまな給付抑制策である。これらの施策は、小泉政権下で社会保障費の抑制政策が進められる中でさえ、世論の反対にあって実現されなかったことの蒸し返しである。
民主党内では慎重論が強いとも報じられているが、私たちは、こうした良識が政権の政策に活かされることを期待し、改めて見解を表明する。

1 生活保護基準の引き下げについて
(1)提言内容
今回の仕分けにおける第1の論点は「『最低生活の保障』と『自立の助長』を両立させるための支給額はどうすべきか」とされ、方向性として「生活保護基準(支給額)については、自立の助長の観点を踏まえ、基礎年金や最低賃金とのバランスを考慮し、就労インセンティブを削がない水準とすべき。なお、社会保障審議会生活保護基準部会においては、こうした方針を反映していただきたい。」とされた。

(2)提言の問題点
ア 最低賃金を引き上げることで、生活保護基準との「逆転現象」を解消していく政府見解に反し、最賃額の低さを無視するもの
 周知のように2007年最賃法改正以降、最低賃金額は毎年引き上げられているが、政府見解によれば現時点でも3道県(北海道、宮城、神奈川)で逆転現象は解消されていない。また、最賃額が引き上げられてきたと言っても、一番高い東京でも837円にとどまり、年間2000時間働いても167万4000円にしかならない。このような低額の最賃額と比べて生活保護基準を引き下げることには決してならない。

イ 年金額の低さを放置して、生活保護基準を引き下げることは本末転倒
 現在、基礎年金保険料を40年納付しても、月額65,741円という低さである。また基礎年金のみか旧国民年金受給者計876万人の実際の受給年金月額は48,507円にとどまる。このような低額の年金だけでは生活できない層が広範に存在するため、生活保護利用者のうち高齢者世帯は44.3%を占めている。こうした中で生活保護基準を引き下げれば、生活保護から新たに排除される高齢者が発生し、貧困問題がより深刻化することは確実である。
 
ウ 私たちの生活を支える生活保護基準を底抜けにしてはならない
 生活保護基準は、最低生活費は「社会保障制度等の共通の基準」であり(ナショナルミニマム研究会中間報告)、生活保護費は、低所得者施策、各種福祉施策、課税最低限に影響する重要な機能を担っており、市民の暮らしを下支えしている「岩盤」である(駒村康平厚労省顧問)。この引き下げは私たちの生活を底
抜けにするものであり、到底容認できない。

2 医療費一部自己負担の導入等医療扶助について
(1)提言内容
 論点②は「生活保護医療の適正化策はどうあるべきか」とされ、方向性は、「生活保護費の急増の要因は、その半分を占める医療扶助である。真に必要な方への医療水準は維持しつつ、以下に掲げる対応を含むあらゆる方法を通じて適正化に取り組むべき」とされ、具体的には「①指定医療機関に対する指導強化、②後発医薬品の利用促進やその義務付けの検討、③翌月償還を前提とした一部自己負担の検討」とされた。

(2)提言の問題点
ア 後発医薬品の義務付けは、すでに撤回された決着済みの問題
 後発医薬品の生活保護利用者への義務付けは、自公政権時代の2008年に厚労省からいったん通知が出された。しかし、後発医薬品は病状によって効力や副作用等個人差がある。例えば、精神科治療に使われる医薬品には「相性」があり、同種の効能を持つとされる後発医薬品の服用を強要されることによって、却って病状が悪化する事態も予想される。そのため、貧困者に限定して医療格差を強制するのは差別であると問題になり、本人同意のもと推奨することにした経緯がある。蒸し返しは許されない。

イ 医療扶助一部自己負担は、利用者の命に関わる問題
 自己負担導入は、受診を抑制し、保護利用者の病気を悪化させることは明らかである。例え100円、500円でも生活保護者には1食、1日分の食費に相当し、病気の療養、命に直結する。病気が重ければ重いほど受診回数も多くなり、負担も重くなるため、受診抑制を招くことは必至である。これは、後日の償還払いがなされたとしても、いったん立て替えなければならない以上同じである。
もともと、病気と貧困とは結びつきが強い。今回の仕分け資料でも、医療費増大は、「医療ニーズが高い高齢者の増加」や、「治療が長期化しやすい精神疾患や循環器系疾患が多い」こと、「50代以下の保護開始理由の4割が『傷病』」が要因とされており、医療費の増加は当然の結果である。また、医療扶助利用者のうち、入院患者が59.5%を占め、うち44.6%が精神疾患である。これは精神疾患の患者の在宅復帰が進んでいないことを示している。これは日本の医療政策全体の問題であって、生活保護の問題ではない。
 そもそも、自己負担導入によって、医療費が削減できる根拠はない。この点は、「仕分け」会議の中で仙谷由人議員が、「不必要な医療費支出は医療機関側の問題であって、生活保護受給者に一部自己負担させたとしても医療費削減効果はない」と発言していたとおりである。むしろ受診抑制は病状を悪化させ、深刻な状態となった後に受診するとなれば医療費はかえって高額となる恐れもある。さらに、償還払い方式は、「確実に現場の事務が増える」から(「国と地方の協議」第3回議事要旨)、ただでさえ事務負担増にあえぐケースワーカーはますます事務処理に追われ、利用者への支援が困難になる。

3 まとめ ~生活保護制度の役割発揮が求められている
 仕分けでは、生活保護利用者が過去最多の205万人(人口比1.6%)となったことが問題視されている。しかし、「政策」仕分けというからには、問題とすべきは、生活保護制度がその目的である貧困の救済に対して、十分に機能を発揮できているかどうかをまずは検証すべきである。日本の貧困率(単身者で月収9万3千円未満水準の人口比、2009年)は16%に達している。生活保護によってはその1割程度しかカバーされていない。膨大な保護漏れが推認される状況の下では、生活保護制度のさらなる役割の発揮こそが求められている。
 また、生活保護制度は、最後のセーフティネットであるから、雇用や、医療制度、年金制度の「穴」から漏れて来る「ツケ」が回ってくる制度である。これらの制度の「穴」を小さくして、生活保護への負荷を軽くすることが、生活保護利用者の増加を抑える最大の有効な手段であることもまた明らかである。
 こうした意味でも、生活保護の利用抑制を主眼とした今回の提言は本末転倒であり、撤回されるべきである。

                      以 上


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