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保護申請権侵害による餓死、衰弱死等の主な被害事例 2013.5.15
<目次>
1 北九州市餓死事件(2006年5月遺体発見)
2 札幌市白石区姉妹餓死事件(2012年1月遺体発見)
3 三郷市保護申請権侵害事件(2013年2月20日さいたま地裁判決)
4 小倉北区・申請拒否自殺事件(2011年3月29日福岡地裁小倉支部判決)


1 北九州市餓死事件(2006年5月遺体発見)
(1)事案の概要

 2006年5月23日、北九州市門司区の市営住宅の一室で一人暮らし、無職のAさん(56歳)のミイラ化した遺体が発見された。Aさんは、下半身が不自由なため身体障害者4級の手帳を所持しており、仕事を辞めた2005年8月以来収入はなく、水道も止められ、市内で別居する二男のパン等の細々とした差し入れによって生活していた。家賃も滞納するに至り、同年9月末、市の水道局、住宅供給公社の職員が訪問したとき自宅内で衰弱し脱水状態となっていたAさんは、二男とともに福祉事務所を訪れ生活保護の申請意思を示したが、福祉事務所は二男らに援助を求め生活保護を受付しなかった。その後、保健師が週1回家庭訪問して様々な相談に乗っていたが、二男の細々とした差し入れも困難となり、再度同年12月上旬に福祉事務所を訪れ生活保護の申請意思を示したが、この時も、福祉事務所は長男と話し合うように求め、またも生活保護を受付しなかった。9月末から12月上旬までの間、ライフラインは止まったままであり、Aさんは二男からの食物の差し入れで細々と命をつないでいた。Aさんはその後福祉事務所を訪れることはなく、前述のように翌年5月に遺体となって発見された。

(2)問題点
ア 面接票(福祉事務所での面接の記録を記した行政側の文書)で、保護申請意思が確認されているにもかかわらず保護申請を拒否(申請権侵害)。
イ 扶養を理由に拒否(扶養は保護の開始要件ではない)。
ウ 急迫状況・職権保護の可能性もあった(法4条3項、25条)。
 なお、2007年に北九州市が自ら設置した、第3者による検証委員会でも、市の対応は「不適切」と認定されている。


2 札幌市白石区姉妹餓死事件(2012年1月遺体発見)
(1)事案の概要

 札幌市白石区に住む42歳と40歳の姉妹(いずれも死亡時年齢。妹は知的障害者)の姉が、就職活動をするも就職できなかったため、3回(2010年6月1日、2011年4月1日、2011年6月30日)にわたり福祉事務所に生活相談に行ったが、いずれも「申請すると表明されなかった」という理由で保護申請が拒否され、死亡に至った事件。
 1回目には、姉の体調不良により退職。その後再就職したが4日で解雇され生活不安になり来所しており、求職活動中であったところ、面接員は「(姉が)仕事も決まっておらず、手持金も僅かとのことで、後日関係書類を持って再度相談したいとして、本日の申請意志は示さず退室となった(関係書類教示済み)。」として保護申請には至っていない。
 2回目は、「手持金が少なく、食料も少ないため、それまでの生活の相談に来た」「預貯金;1千円、ライフライン;滞納あり、国保;未加入」と記録されているにもかかわらず、保護申請には至らず、非常用パン14缶(7日×1食×2人)を支給して終わっている。
 3回目は、「求職活動しているが決まらず、手持金も少なくなり、生活していけない」、「「…妹が体調を崩し、仕事に行けない状態になり、研修期間で辞める」(給料なし)その後アルバイトするも続かず、現在求職中」とあるにもかかわらず、>「保護の要件である懸命なる求職活動を伝え」「手持金も少なく、次回は関係書類を持って相談したいとのことで本日に申請意思は示さず退室となった」 

(2)問題点
ア 申請権侵害
 行政側は「申請がなかったから保護できなかった」と弁明している。しかし、「申請」という言葉さえ知らない市民が多い中、裁判例も、「申請行為があるというには、申請意思を内心にとどめず、これを実施機関(福祉事務所のこと)に表示することが必要であるが、しかし、生活保護申請をする者は、申請する意思を「明確に」示すことすらままできないことがあるということも十分考えられるところである。場合によっては、「申請する」という直接的な表現によらなくとも申請意思が表示され、申請行為があったと認められる場合があると考えられる」という判断を示している(小倉北自殺事件 福岡地裁小倉支部平成23年3月29日判決〔後述4の判例〕)。

イ 説明・教示義務違反による最低生活侵害
 姉妹の最低生活費は、184,720円。確実な収入は妹の障害年金約66,000円程度であり、
10万円以上最低生活費を下回っている明らかな要保護状態であった。このような場合、行政は、「あなたは保護を受けられます」と説明して、保護申請を援助すべきであるが、このような説明はなされていない。

ウ 過度な就労の努力を求めている
 姉の死因は、脳内血腫であった。生前から疾患が窺われ、それでも仕事を懸命に探していたにもかかわらず、さらに懸命なる就職活動を求めるという、過度な就労努力を求め、保護に至らせていない。病気の者に就労せよというのは違法である。
 

3 三郷市保護申請権侵害事件(2013年2月20日さいたま地裁判決 賃金と社会保障1585号52頁)
(1)事案の概要
 埼玉県三郷市の職員が生活保護の請求を門前払いしたなどとして、市内に住んでいた元トラック運転手の男性2008年に50歳で病死=と妻(54)ら遺族が市を相手に、生活保護費など約950万円の損害賠償を求めた訴訟で、さいたま地裁(中西茂裁判長)は20日、市側の対応の違法性を認め、約537万円の支払いを市に命じる判決を言い渡した。
 判決によると、男性は2004年に急性骨髄性白血病を発症し、勤め先の会社を退職。妻と長男、当時中学生の次女の4人暮らしだったが、入退院を繰り返す生活で収入はほとんどなくなった。妻は生活保護を申請しようと、2005年3月~06年5月に市の福祉事務所を数回訪問。自身は夫の世話などで週の半分を病院通いしなければならず、アルバイトの長男の月収も約十万円しかないなどと、生活が苦しい状況を説明した。だが福祉事務所の職員は、妻に「働けるのであれば働いてほしい」「まず身内に相談してほしい」などと求め、申請を断念させ又は申請したにもかかわらず審査・応答義務を怠った。

(2)2013年2月20日さいたま地裁判決 賃金と社会保障1585号52頁(原告勝訴確定)
 「親族らに援助を求めなければ申請を受け付けない」などの誤解を与えた場合は「職務上の義務違反」にあたると指摘し、福祉事務所の職員の対応を「原告らの就労による収入を増やし、身内からの援助もさらに求めなければ生活保護を受けることができないと原告に誤信させ、生活保護の申請権を侵害した」と判断。「拒否したことはない」という市の主張を退けた。男性と妻は2007年7月に提訴したが、男性は08年3月に白血病で亡くなり、3人の子どもが訴訟を継承していた。

(3)評価
「最後のセーフティーネットとして、制度の適正な運用を自治体に求めた点で判決は意義がある。親族による援助や就労を求めて保護を受けさせないことが違法だと明らかにした」(首都大学東京・岡部卓教授)
・口頭での申請の成立を小倉北自殺事件判決に続いて認めた。

4 小倉北区・申請拒否自殺事件(2011年3月29日判決 賃金と社会保障1547号42頁)
(1)事案の概要
 北九州市小倉北区の61歳の男性が、就労を始めたことを理由に収入が保護基準以下であるにもかかわらず「辞退届」により保護が廃止となったが、その後ふたたび生活に困窮し、保護の申請をしたものの申請が受け付けられずに自殺した。遺族が市を相手に慰謝料の支払いを求める国家賠償訴訟を提起した。

(2)2011年3月29日福岡地裁小倉支部判決 賃金と社会保障1547号42頁(原告勝訴確定)
 判決は、保護廃止処分についての違法性を認めるともに、保護の再申請を受け付けなかった点についても、「再申請の意思を口答で表明しているのに、さらに求職活動が必要との誤った説明をしていた」として違法性を認定した。すなわち、保護申請を受けつかなかった点は、生活保護の実施機関は生活保護制度を利用できるかについて相談する者に対し、その状況を把握した上で、利用できる制度の仕組について十分な説明をし、適切な助言を行う助言・教示義務、必要に応じて保護申請の意思の確認の措置を取る申請意思確認義務、申請を援助指導する申請援助義務(助言・確認・援助義務)が存するにもかかわらず、再就職が困難である原告に就職活動を強く求め、申請意思を確認せず、保護の適用に向けた援助をせず、申請を断念させたものとして、違法性を認め慰謝料の支払いを命じた。
 さらに、「生活保護申請をする者は、申請をする意思を「明確に」示すことすらままできないことがある…。法は申請が口頭によって行われることを許容しているものと解されるし、場合によっては「申請する」という直接的な表現によらなくとも申請意思が表示され、申請意思があったと認められる場合がある」として、申請意思の表示を幅広く認める見解を示した。

(3)判決のポイント
ア 口頭での申請を認めた
イ 申請を認めず、さらなる求職活動を求めたことが違法であることを認めた。

以上


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