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稲葉剛さん資料相談現場から見た生活保護法「改正法案」24条1項・2項の問題点
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稲葉剛さん資料相談現場から見た生活保護法「改正法案」24条1項・2項の問題点
NPO法人自立生活サポートセンター・もやい代表理事 稲葉剛
本年5月10日、自民党厚生労働部会は生活保護法改正法案(以下、「改正法案」と略す)を了承し、政府は今週中にも「改正法案」を閣議決定する方針です。
この「改正法案」の法的な問題点については、5月15日付けの生活保護問題対策全国会議による緊急声明に譲りますが、生活困窮者の相談・支援活動をおこなっている立場から、「改正法案」が成立・施行された場合に想定される問題点について指摘します。「改正法案」の問題点は多岐にわたりますが、ここでは24条1項・2項に絞って論じます。
〈もやい〉には生活に困窮された方々から、年間約1000件の来所相談と約2000件の電話相談が寄せられています。私たちはそれぞれ世帯の生活状況を聞き取り、必要に応じて申請の同行支援(年間200~300件)や電話によるアドバイス等、生活保護制度を利用するためのサポートをおこなっています。これらは、福祉事務所の窓口が生活困窮者に適切に対応していれば、本来必要のない活動ですが、現在でも各福祉事務所において生活保護を必要としている人を窓口で追い返す「水際作戦」が横行しているため、やむをえず行なっている活動だと言えます。
「改正法案」24条1項は、生活保護の申請にあたり、氏名・住所だけでなく、要保護者の資産・収入状況、さらには「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出しなければならないとしています。また第24条2項では申請書に「要保護者の保護の要否、種類、程度及び方法を決定するために必要な書類として厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」と定めています。これらの規定は現行法にはないものです。
私たちの電話相談窓口には、首都圏以外の地域からの電話も多くあり、その中で「福祉事務所の窓口で申請書を出してくれない」という相談も多数含まれます。その場合、近くにつなげられる支援団体がなければ、「レポート用紙でも何でもいいので、紙に氏名・住所・日付と保護の申請意思を書き、提出してください」とアドバイスをしてきました。「改正法案」により申請書類が要式化されれば、こうした方法が使えず、窓口の「水際作戦」に対抗できなくなる危険があります。
また、24条2項に定める添付書類とは、賃貸住宅の契約書や預金通帳、給与明細、年金関連書類などが想定されます。しかし、私たちの相談窓口に来られる方の中には、ドメスティックバイオレンスや親族による虐待に遭い、着の身着のままで逃げてきた人や、入居していた賃貸住宅から「追い出し屋」の被害にあってロックアウトされた人、路上生活中に荷物をすべて盗まれた人も少なくありません。関連書類の添付が法律で義務付けられれば、こうした人々が「添付すべき書類を持参していない」という理由で申請できなくなる恐れがあります。生活の拠点を失うくらい困窮度の高い人ほど、申請が困難になるという状況が生まれかねません。
「改正法案」には扶養義務の強化も盛り込まれており、これも「親族に養ってもらえ」という口実による「水際作戦」を強化するものです。また、「自分が申請すれば、将来にわたって親族の収入・資産等が丸裸にされる」という想いから申請抑制をする人も確実に増えるでしょう。
報道各社は「現在でも水際作戦が常態化している」という状況を踏まえた上で、違法な「水際作戦」を法制化させる「改正法案」の問題点を報道していただきたいと思います。
以上
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