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「生活保護法改正法案」の撤回・廃案を求める緊急声明

                       2013(平成25)年 6月 4日
                       生活保護支援ネットワーク静岡
                             代表 布川日佐史

第1 はじめに
 政府は本年5月17日、生活保護法の改正法案を閣議決定した。しかし,本改正法案は,①違法な「水際作戦」を合法化・制度化し,②保護の要件でもなければ要件とすべきものでもない扶養義務者による扶養を事実上要件化するものであって,現行生活保護法を根底から覆す到底容認しがたい内容を含んでいる。
 わが国の生活保護の利用率,捕捉率は,20%程度と他の先進国との比較でも異常に低いことがかねてより指摘され,法改正を行うのであれば、本来生活保護をより利用しやくすることこそが求められている。
 しかし,本改正法案が成立すれば,現在にもまして,生活保護を必要とする生活困窮者が生活保護を利用できなくなり,捕捉率のさらなる低下,ひいては餓死者,自殺者の多発といった凄惨な事態を招くことが必至である。
 本改正法案は,断固廃案とされなければならない。

第2 違法な「水際作戦」の合法化(改正法案24条1項2項)
1 現行法,確立した裁判例と厚生労働省通知の内容

 現行生活保護法は,申請にあたり何らの書面の提出を義務づけてはいない(現行法24条1項)。口頭による保護申請が認められることは確立した裁判例である。そして,保護の実施機関が,審査応答義務を果たす過程で,要否判定に必要な書類(通帳や賃貸借契約書等)を収集することとされている。
 しかし,実務運用では,要保護者が生活保護の申請意思を表明しても申請書の交付を受けられなかったり,申請時には必要ない疎明資料の提出を求められて追い返される事例が少なからず見受けられたが,これら保護の実施機関の行為は,もとより現行生活保護法に反するものである。そこでこのような申請権を侵害する違法な「水際作戦」は数々の裁判例においても違法であると断罪されてきた。
 そのため,厚生労働省も,「保護の相談に当たっては,相談者の申請権を侵害しないことはもとより,申請権を侵害していると疑われるような行為も厳に慎むこと。」として(実施要領次官通知第9),かかる水際作戦に対して繰り返し現場に警鐘を鳴らしてきた。

2 改正法案24条1項2項の内容
 ところが,改正法案24条1項は,「要保護者の資産及び収入の状況(生業若しくは就労又は求職活動の状況,扶養義務者の扶養の状況及び他の法律に定める扶助の状況を含む)」等を記載した申請書を提出してしなければならないとし,同条2項は,申請書には要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としている。
 すなわち,改正法案は,申請を必要事項を記載した書面の提出を要する「要式行為」としたばかりか,要否判定に必要な書類の提出までも必須の要件としている。

3 改正法案24条1項2項の効果(=「水際作戦」の合法化)
 改正法案24条1項及び2項が成立すると,必要とされる事項をすべて申請書に記載し,必要とされる書類をすべて提出しない限り,申請を受け付けないことが合法となる。
 つまり,これまでは,申請意思が表明されれば,まずはこれを受け付けて,その後に実施機関の側が調査権限を行使して,保護の要否判定を行う義務を負っていたものが,逆に,要保護者の側が疎明資料を漏れなく提出して自身が要保護状態にあることを事実上証明しなければならなくなる。
 これは,これまで違法であった「水際作戦」を合法化・法制化することによって,多くの生活困窮者を窓口でシャットアウトする効果をもつ。
 「生活保護は、憲法25条に定められた国民の基本的人権である生存権を保障し、要保護者の生命を守る制度であって、要保護状態にあるのに保護を受けられないと、その生命が危険にさらされることにもなるのであるから、他の行政手続にもまして、利用できる制度を利用できないことにならないように対処する義務がある」(小倉北自殺事件判決)にもかかわらず、生活保護を必要とする状況にある生活困窮者に申請時に今回の法改正案のような負担を課せば、客観的には生活保護の受給要件を満たしているにもかかわらず申請を断念せざるを得なくなる要保護者が続出する危険性が高い。
 また、自治体の福祉事務所が故意に誤った説明をすることにより要保護者を追い返す違法行為が後を絶たない現状で、書面を提出しなければ申請と認められないことになれば、後で争いになっても違法行為を行った行政側が「書面で申請書が提出されていない以上申請とは認められない」と強弁する口実を与えることになる。
 また、かかる制度化は、申請者が申請に先立ちあらかじめ各種の疎明資料を準備することが可能であるという、それ自体根拠がない独断が前提となっている。しかし,生活保護を申請しようとするものは多様であり、例えば野宿者の場合を考えれば明らかなように、申請者自身に関する基礎的な資料を準備することすら不可能なものも存在するのであり、そのような国民は、本改正法案により、申請の機会を完全に閉ざされてしまうこととなる。
 なお、報道によれば、本年5月29日、自民、公明、民主、みんなの4党で改正案の修正が大筋合意されたという。しかし、修正案によっても、特別の事情がない限り口頭による申請は認められない。従って「特別の事情がない」との口実で申請権行使が不当に抑制されるおそれは依然として大きいままである

第3 扶養義務の事実上の要件化(改正法案24条8項,28条2項,29条)
1 現行法と厚生労働省通知の内容

 現行生活保護法4条1項は,「保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用すること」のみを要件として定めており,扶養義務者の扶養は4条2項により保護の「要件」ではなく,単に保護に「優先」するものとして定められているにすぎない。「優先」とは、現に扶養(仕送り等)がなされた場合に収入認定してその分保護費を減額するに止めるということである。
 しかし,実務運用では,親族の扶養が保護の要件であるかのような説明をし,親子兄弟どころか,別れた夫にまで面倒を見てもらうよう述べて申請を受け付けない事例が少なからず見られる。札幌市や北九州市などにおいては,このようにして追い返された要保護者が餓死死体で発見され社会問題となった。
これらも,明らかに違法な「水際作戦」であるため,厚生労働省は,「『扶養義務者と相談してからではないと申請を受け付けない』などの対応は申請権の侵害に当たるおそれがある。また,相談者に対して扶養が保護の要件であるかのごとく説明を行い,その結果,保護の申請を諦めさせるようなことがあれば,これも申請権の侵害にあたるおそれがあるので留意されたい」との通知を発出して(実施要領課長通知問第9の2),現場に警鐘を鳴らしてきた。

2 改正法案24条8項,28条2項,29条の内容
 ところが,改正法案28条2項は,保護の実施機関が,要保護者の扶養義務者その他の同居の親族等に対して報告を求めることができると規定している。
 また,改正法案29条1項は,生活保護を申請する「要保護者の扶養義務者」だけでなく過去に生活保護を利用していた「被保護者の扶養義務者」について,「官公署,日本年金機構若しくは共済組合等に対し,必要な書類の閲覧若しくは資料の提出を求め,又は,銀行,信託会社・・雇主その他の関係人に,報告を求めることができる」と規定している。
 つまり,生活保護を利用しようとする者や過去に利用していた者の扶養義務者(親子,兄弟姉妹)は,その収入や資産の状況について,直接報告を求められたり,官公署,年金機構,銀行等を洗いざらい調査され,さらには,勤務先にまで照会をかけられたりすることとなるというのである。
 さらに,改正法案24条8項は,「保護の実施機関は,知れたる扶養義務者が民法の規定による扶養義務を履行していないと認められる場合において,保護の開始の決定をしようとするときは,厚生労働省令で定めるところにより,あらかじめ,当該扶養義務者に対して厚生労働省令で定める事項を通知しなければならない。」と規定している。
 厚生労働省令の内容は現時点では不明である。しかし、改正法案29条1項や,改正法案24条8項に加え、「十分な扶養が行われていない場合には事後的に要保護者本人に支弁された保護費の支払い(徴収)を求められる場合がある」旨を規定する現行法77条1項をふまえると、厚生労働省令の内容は,「正直に収入や資産状況を告白し,できうる限りの扶養(仕送り等)を行わなければ,官公署・銀行,さらには勤務先にまで洗いざらい調査をかけ,事後的に本人に支弁した保護費の支払いを求めることがある」と受け取れる恫喝まがいの文面となることが想定されるのである。

3 改正法案24条8項,28条2項,29条の効果(=扶養の事実上の要件化)
 上記のとおり,親子,兄弟等の親族が生活保護の申請をすれば,その扶養義務者は,その収入や資産状況を勤務先も含めて洗いざらい調査される。
 そして,保護の開始決定前にその旨の警告を受けるのであるから,扶養義務者としては,事実上無理をしてでも扶養を行うよう努力するか,保護の申請をした本人に申請を取り下げるよう働きかけるかの二者択一を迫られることとなる。
 これは,扶養を事実上保護の要件とするのと同じである。生活保護を利用しようとする者は親族との関係が悪化していたり、疎遠になっていることが多く、「親族に迷惑は掛けられない」と思う者は多い。また親族も生活に困窮していることが少なくない。このような状況で扶養を事実上強制すれば,生活に困窮する者の大多数が生活保護の利用を断念することとなるし,さらには,親族関係を決定的に悪化させる事態が容易に想像できる。
 以上のとおり、当会は断固として「生活保護法改正法案」の撤回・廃案を求めるものである。
 



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