2011(平成23)年12月12日
生活保護制度に関する国と地方の協議会・中間とりまとめにあたっての声明
本年5月に始まった「国と地方の協議」の中間とりまとめが本日発表された。私たちは、205万人の生活保護利用者をはじめとする低所得層の生存を支える生活保護制度の抜本改革案を国と地方が密室で協議して決めようとすることを批判し、当事者や支援者の意見を十分に聞くべきであると主張してきた。
今回、保護費の半分を占める医療扶助抑制策として検討されていた、生活保護利用者の医療費一部自己負担や、安価な後発医薬品(ジェネリック)の使用義務付けは見送られた。こうした施策は受診抑制による健康や生命への危険を招くことが必定であるうえ、却って医療費が高額化するおそれもある、単なる劣等処遇論にすぎない。見送りは当然ではあるが、その判断を高く評価し、歓迎したい。
しかし、「中間とりまとめ」が、生活保護受給者が「求職者支援制度」の職業訓練を合理的理由なく中止し、福祉事務所が指導しても復帰しない場合には保護の停廃止を可能とすることを提言した点は、以下の理由から大きな問題があり反対である。
第1に、求職者支援制度の運用は、本年10月の本格実施に伴い異常に厳格化されている。例えば、8割以上の出席が義務付けられ、一度でも合理的理由なく訓練を欠席したりハローワークの就職支援を拒否すると給付金が不支給となり、これを3回繰り返すと初日にさかのぼって給付金の返還を命じられるが、別居の親族の危篤や葬儀は除外されるなど「合理的理由」が厳しく制限されている。こうした「合理的理由」の判断が福祉事務所の指導指示と連動すると、体調の悪化や訓練内容のミスマッチなどやむを得ない理由で訓練を欠席した者まで命綱である生活保護を打ち切られることが大いに懸念される。
第2に、通知等の出し方をよほど配慮しない限り、求職者支援制度の活用が事実上保護の要件とされかねない。しかし、同制度は本年10月に始まったばかりで、訓練メニューも未だ十分ではなく地域によっての偏りも大きい。このように、すべての生活保護受給者のニーズに合った訓練メニューが用意されているとは到底言えない現状において、求職者支援制度の利用を強要して受給者を不当に生活保護から締め出す動きが強化されかねない。
第3に、上記提言は、生活保護法4条1項が定める稼働能力の活用を怠るものとして指導指示違反による保護の停廃止を認めるものと思われるが、こうした考え方は、法理論上も大いに疑問がある。なぜなら、稼働能力活用の意思があり、その努力をしても活用の場(仕事)が見つからなければ稼働能力活用要件を満たすものと解されているところ、求職者支援制度の訓練を受けないということが直ちに稼働能力活用の意思がないということにはならないし、活用の場(仕事)があるということにもならないからである。
したがって、私たちは、求職者支援制度の活用については、それが不当な義務付けとならないよう、当事者及び支援者の意見を十分に聞いて制度設計を行うよう、改めて求めるものである。
以 上
生活保護制度に関する国と地方の協議会・中間とりまとめにあたっての声明
本年5月に始まった「国と地方の協議」の中間とりまとめが本日発表された。私たちは、205万人の生活保護利用者をはじめとする低所得層の生存を支える生活保護制度の抜本改革案を国と地方が密室で協議して決めようとすることを批判し、当事者や支援者の意見を十分に聞くべきであると主張してきた。
今回、保護費の半分を占める医療扶助抑制策として検討されていた、生活保護利用者の医療費一部自己負担や、安価な後発医薬品(ジェネリック)の使用義務付けは見送られた。こうした施策は受診抑制による健康や生命への危険を招くことが必定であるうえ、却って医療費が高額化するおそれもある、単なる劣等処遇論にすぎない。見送りは当然ではあるが、その判断を高く評価し、歓迎したい。
しかし、「中間とりまとめ」が、生活保護受給者が「求職者支援制度」の職業訓練を合理的理由なく中止し、福祉事務所が指導しても復帰しない場合には保護の停廃止を可能とすることを提言した点は、以下の理由から大きな問題があり反対である。
第1に、求職者支援制度の運用は、本年10月の本格実施に伴い異常に厳格化されている。例えば、8割以上の出席が義務付けられ、一度でも合理的理由なく訓練を欠席したりハローワークの就職支援を拒否すると給付金が不支給となり、これを3回繰り返すと初日にさかのぼって給付金の返還を命じられるが、別居の親族の危篤や葬儀は除外されるなど「合理的理由」が厳しく制限されている。こうした「合理的理由」の判断が福祉事務所の指導指示と連動すると、体調の悪化や訓練内容のミスマッチなどやむを得ない理由で訓練を欠席した者まで命綱である生活保護を打ち切られることが大いに懸念される。
第2に、通知等の出し方をよほど配慮しない限り、求職者支援制度の活用が事実上保護の要件とされかねない。しかし、同制度は本年10月に始まったばかりで、訓練メニューも未だ十分ではなく地域によっての偏りも大きい。このように、すべての生活保護受給者のニーズに合った訓練メニューが用意されているとは到底言えない現状において、求職者支援制度の利用を強要して受給者を不当に生活保護から締め出す動きが強化されかねない。
第3に、上記提言は、生活保護法4条1項が定める稼働能力の活用を怠るものとして指導指示違反による保護の停廃止を認めるものと思われるが、こうした考え方は、法理論上も大いに疑問がある。なぜなら、稼働能力活用の意思があり、その努力をしても活用の場(仕事)が見つからなければ稼働能力活用要件を満たすものと解されているところ、求職者支援制度の訓練を受けないということが直ちに稼働能力活用の意思がないということにはならないし、活用の場(仕事)があるということにもならないからである。
したがって、私たちは、求職者支援制度の活用については、それが不当な義務付けとならないよう、当事者及び支援者の意見を十分に聞いて制度設計を行うよう、改めて求めるものである。
以 上