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2014(平成26)年1月9日

「改正」生活保護法の施行にあたって制定される
省令等の内容に関する要請書


厚生労働大臣 田 村 憲 久 殿

                            生活保護問題対策全国会議
                            代表幹事 尾 藤 廣 喜
 
第1 はじめに        
 各方面から厳しい批判を浴びた「改正」生活保護法は,2013年12月6日に成立し,その大部分が本年7月から施行される予定である。特に批判を浴びたのは,①違法な「水際作戦」を合法化・法制化するのではないかという点,②扶養義務者に対する調査強化によって事実上,扶養が保護の要件化されるのではないかという点である。国会審議の中で,政府や厚生労働省は,「懸念のような事態は起こらない」旨繰り返し答弁し,参議院厚生労働委員会においては,2013年11月12日,これらの懸念を解消するための諸方策について,7項目にわたって詳細に言及する異例の附帯決議が付された。
 「改正」法の施行にあたっては,政省令や通知が制定され,発せられることとなっているが,その案については,本年3月上旬を目途に開催される社会・援護局関係主管課長会議及び生活保護関係全国係長会議において説明がなされる予定である。
 そこで,私たちは,国会における答弁のとおり,仮初めにも上記①②等の懸念が現実化することのないよう,これから制定する政省令や通知類に下記の内容を盛り込むよう要望する。


第2 申請手続関係について(「改正」法24条1項2項)        

1 「水際作戦」防止のため,それがあってはならないことを地方自治体に周知するだけでなく,福祉事務所の誰もが手に取れる場所に生活保護の申請書を常置するよう助言指導すべきである。
<補足説明>
 前記附帯決議は,「いわゆる『水際作戦』はあってはならないことを,地方自治体に周知徹底すること(1項)」,「生活保護制度の説明資料,申請書等について,保護の相談窓口に常時配備するなど,相談窓口における適切な対応について指導を徹底すること(3項)」としている。この点は,国会審議においても野党議員から繰り返し追及されたにもかかわらず,厚生労働省は「福祉事務所に来所される方の中には,保護の適用に至らない方もいるため,無用の申請書類の作成の手間をかけさせた上で却下するなど来所者に不利益になってはならない」(平成25年12月10日「生活保護制度の見直しに関する説明会」資料)として,「申請書を誰もが手に取れる場所に置く必要はない」という立場を頑なに堅持している。このような理由にならない理由で申請書の窓口常置を拒み続けることからすれば,結局のところ,厚生労働省は,本音では「水際作戦」を温存したいと考えているとしか理解できない。


2 保護の申請は非要式行為であり,申請意思が明確である場合には,口頭による申請も可能であることを通知ではなく厚生労働省令に明記するとともに,申請書面の提出が遅れた場合には口頭申請時に申請があったものと認められることを通知類に明記するべきである。 
<補足説明>
 これらの点は,平成25年5月20日付全国係長会議資料,同年5月31日衆議院厚生労働委員会における中根康浩議員に対する村木厚子社会・援護局長(当時)の答弁,前記附帯決議等で繰り返し確認されている。特に「改正」24条の新設によって,申請が要式行為化されたとの誤解が広まる懸念があることからすれば,通知等ではなく,より上位の省令に明記して周知徹底を図る必要がある。


3 上記2の明記の際,現在の事務連絡(別冊問答集問9-1)にある「口頭による保護申請については,申請を口頭で行うことを特に明示して行うなど,申請意思が客観的に明確でなければ,申請行為と認めることは困難である。」という表記は,「『申請する』という直接的な表現によらなくとも,何らかの形で申請意思が確定的に表示された場合には,口頭による申請も認められる。」等と訂正すべきである。
<補足説明>
 大阪高裁平成13年10月19日判決を踏まえて上記事務連絡が発出された後,「生活保護申請をする者は,申請する意思を『明確に』示すことすらままできないことがあるということも十分考えられるところである。場合によっては,『申請する』という直接的な表現によらなくとも申請意思が表示され,申請行為があったと認められる場合がある」とする福岡地裁小倉支部平成23年3月29日判決(賃金と社会保障1547号42頁)や,「実施機関に審査・応答義務を課すほどに申請の意思が確定的に表示」されていれば口頭での申請も認められるとするさいたま地裁平成25年2月20日判決(賃金と社会保障1585号52頁)が言い渡されているところ,現行の事務連絡の表現は,「申請を口頭で行うことを特に明示」しない限り,口頭による申請が認められないとの誤解を与えるおそれが強い。判例の示す考え方に合致させるべきである。


4 保護の要否判定に必要な書類については,申請から保護決定までの間に可能な範囲で提出すればよいこと,書類の紛失や不所持も24条2項の「書類を添付できない特別な事情」にあたることを,通知ではなく厚生労働省令に明記すべきである。
<補足説明>
 2に同じ。



第3 扶養義務関係について(「改正」24条8項,28条2項,29条)        

1 「改正」24条8項の保護開始決定前の通知や「改正」28条2項の報告徴収については,「①福祉事務所が家庭裁判所を活用した費用徴収を行うこととなる蓋然性が高いと判断するなど,②明らかに扶養が可能と思われるにもかかわらず③扶養を履行していないと認められる④極めて限定的な場合に限ること」を厚生労働省令で明記すべきである。
<補足説明>
 この点は,平成25年5月20日付全国係長会議資料,同年5月31日衆議院厚生労働委員会における中根康浩議員に対する村木厚子社会・援護局長の答弁,平成25年12月10日付生活保護制度の見直しに関する説明会資料等で繰り返し確認されている。しかし,その時々において若干表現にブレがある。「適用範囲を限定するから懸念は当たらない」旨の答弁を実効あらしめるため,上記①ないし④のすべての要素を漏れなく省令に盛り込むべきである。
 

2 上記1の判断にあたっては,
 ①定期的に会っているなど交際状況が良好であること,
 ②扶養義務者の勤務先等から当該生活保護受給者にかかる扶養手当を受け,さらに税法上の扶養控除を受けていること,
 ③高額な収入を得ているなど,十分な資力があることが明らかであること
だけでなく,
 ④扶養義務者の世帯構成や負債などの支出状況,
 ⑤要扶養者・扶養義務者双方の意思・希望,
 ⑥「権利者の過失(要扶養状態が扶養を受けるべき者の過失によって生じた場合には扶養義務は存しないという考え方)」の妥当の有無等
を総合考慮し,特に,生活保持義務関係(夫婦,未成年子に対する親)ではなく生活扶助義務関係(成人した直系血族,兄弟姉妹)に過ぎない場合には,当事者双方の意思を尊重し,慎重な判断が求められることを通知等に明記すべきである。

<補足説明>
 平成25年12月10日付生活保護制度の見直しに関する説明会資料においては,判断要素として①ないし③のみが掲げられているが極めて不十分である。①ないし③のみで形式的に「明らかに扶養が可能」と判断し,扶養を強く求めることとなれば,却って親族関係の悪化やトラブルを招くおそれが強い。④ないし⑥等の事情も考慮し(新版注釈民法(25)783,790,796頁),特に生活扶助義務関係の場合には慎重の上にも慎重を期した判断が求められることを明記する必要がある。実際,大阪市が平成25年11月,扶養義務者の収入額だけを基準に一定額の仕送りを求める「生活保護受給者に対する仕送り額の『めやす』について」を発するなど,法の本来の趣旨に反した問題のある動きが認められる。この『めやす』は,仕送り額の上限のみならず下限まで定めている点,最低生活費以下の収入の者も仕送りを要するとしている点において明らかに違法である。これらの点を是正するとともに,画一的適用となってはならないことをより明確に強調するよう厚生労働省からも強く指導すべきである。


3 扶養義務者に対して扶養を求める際には,①扶養義務者の扶養は保護の前提条件ではないこと,②具体的な扶養義務の有無及び程度については上記2記載の諸要素を総合考慮して判断されることになっており扶養義務者の収入・資産等で一律に定まるものではないことを積極的に説明する必要があることを通知等に明記すべきである。
<補足説明>
 「扶養が保護の前提条件である」旨の誤った記載のある扶養照会書が全国的に使用されていたことが問題となったが,より根源的には,扶養が保護に「優先」するという法律用語そのものが「前提条件」と誤解されやすいことが問題である。仮に,不適切な説明のまま,扶養義務者が求められた額の仕送りをする法的義務があると誤信して仕送りを行った場合,福祉事務所の行為が扶養義務者に対する不法行為を構成することもあり得る。このような事態を招かないよう,予めあるべき法解釈について積極的に説明をし,扶養義務者が正しい法的知識を前提とした判断を行えるようにする必要がある。


4 「改正」28条2項の扶養義務者に対する報告徴収には回答義務はないこと,「改正」29条3項の規定も扶養義務者に関して官公署に回答義務を課するものではないことを省令,通知等に明記すべきである。また,扶養義務者の個別の同意がない限り,29条に基づいて官公署,日本年金機構,共済組合,銀行,信託会社,雇主等の第三者に対する照会を行うことは,トラブルを生じる可能性があるから慎重であるべきことを通知等に明記すべきである。
<補足説明>
 村木局長は,「扶養は保護の要件とされていないということも踏まえまして,扶養義務者に対して回答義務や回答がされない場合の罰則を科すことはいたしておりません。」,「(29条1項2項について)扶養は保護の要件ではないということでございますので,今回,扶養義務者本人に対して情報提供を求めることができる根拠規定をいただきましたので,それに重ねて,官公署からの回答義務まではもうける必要はないのではないかと考えている」と答弁している(前掲中根議員に対する答弁)。
 29条に基づく照会を行っても,扶養義務者の同意がない限り,官公署や銀行等が回答を行うことは通常考えられないし,仮に,これらの機関が扶養義務者の意に反して回答をしてしまった場合には,扶養義務者に対して損害賠償責任を負う可能性もある(弁護士法23条の2に基づく照会に対して京都市中京区長が前科等を回答した行為につき国家賠償責任が認められた最三小判昭56年4月14日)ことを予め周知すべきである。



第4 不正受給対策の強化について(「改正」78条,78条の2,85条等)      

1 78条の適用については,明確に不正の意図が認定できる場合に限定して,これまで以上に慎重に行うべきことを通知等に明記すべきである。
<補足説明>
 これまでも,高校生のアルバイト収入の不申告事案など,不正受給と評価するのに疑問のあるケースも安易に78条が適用されるケースがまま見られた。今般,罰金上限30万円から100万円へ罰則の強化(85条),徴収額の1.4倍増(78条1~3項),78条徴収債権の非免責債権化(78条4項),保護金品からの徴収可(78条の2)などの法改正によって,78条に基づく費用徴収債権は,63条に基づく費用返還債権とは全く異なる強力な効果を与えられた。そのため,仮に本来63条を適用すべき事案で78条が適用されると,当事者はこれまで以上に厳しい不利益を被ることになるので,78条の適用については,極めて慎重に行うよう周知すべきである。


2 78条徴収債権の保護金品からの徴収に際しては,文言どおり,保護利用者からの書面による申出を必要とし,不服があれば直ちに徴収を停止すべきこと,「当該被保護者の生活の維持に支障がない」と認めるための具体的判断基準の上限等を省令等で明記すべきである。
<補足説明>
 村木局長は,「みずから申し出をした生活保護の受給者に限るということ,また,保護費から差し引く金額につきましても,保護の実施機関が最低生活の保障に支障がないと個別具体的に判断をされた範囲内にとどめること」「生活保護受給者が申し出た場合に保護費との調整を行うというものでございまして,ご心配のような形で強制的に徴収を行うものではありません。」と答弁している(前掲中根議員質問に対する答弁)。徴収の上限額の認定が実施機関の恣意に流れないため,例えば保険料額に関する定め(別冊問答集問3‐24)に準じて医療扶助を除く最低生活費の1割程度以下を上限としつつ,当該被保護者の生活状況や希望を十分聴取して個別具体的に生活の維持に支障がない額を設定すること等と定めるべきである。


3 78条に基づく費用徴収請求権は,生存権を保障する生活保護法上の公課であるから,その性質上,保護利用者の生存を脅かす事態が十分予想される国税通則法46条の準用はされないことを省令,通知等において明記すべきである。
<補足説明>
 「改正」78条4項において,費用徴収請求権について,「国税徴収の例により徴収することができる」とされたことからすると,納税の猶予期限(国税通則法46)との関係から原則1年(最大2年)以内に完納しなければならないかのようにも思われる。しかし,特に返還総額が大きい場合に2年以内の完納を強いることは保護利用者の生存を脅かすこととなる事態が十分に想定される。公課の徴収について「国税徴収の例」による場合でも「公課の性質」に反する場合には国税徴収に適用される法規の準用は認められないことから(浅田久治郎「租税徴収の理論と実務」社団法人金融財政事情研究会71頁),上記の解釈が可能であることを全国の実施機関に周知すべきである。なお,「改正」法78条の2が「被保護者が申し出ること」と「被保護者の生活の維持に支障がないこと」を保護費からの徴収の前提条件としていることも,こうした公課の性質を示していると言える。



第5 後発医薬品の使用促進について(「改正」34条3項)        

 生活保護利用当事者の任意かつ真摯な同意が前提であることを通知等に明記するとともに,改正法に違反する疑いのある現在の保護課長通知(平成25年5月16日社援発056第1号「生活保護の医療扶助における後発医薬品の取扱いについて」)は,医師が一般名処方を行っている場合に限る旨訂正すべきである。
<補足説明>
 桝屋厚生労働副大臣(公明)は,この条文の趣旨について,「医療機関で,患者との信頼関係をもとに個々の状況に応じて専門的な知見に基づいた丁寧な説明を行い,理解を促していく」「受給者の理解を得ながら無理なく後発品の使用を定着させていく」(前掲中根議員の質問に対する答弁)と,後発医薬品の使用はあくまでも本人の真摯な同意があることが前提である答弁している。また,「改正」34条3項は,主治医が医学的知見に基づき「後発医薬品を使用することができると認めた」ことを条件としている。しかし,現行の上記保護課長通知は,処方医が一般名処方(医薬品の個別商品名ではなく成分を処方箋に書くこと)を行っている場合だけでなく,銘柄名処方を行っている場合でも,後発医薬品への変更を不可としていない場合には薬局の判断で後発医薬品を原則として使用することとしている点,生活保護利用者が先発医薬品の使用を明確に希望した場合であっても、医療の専門家でもない福祉事務所が理由の妥当性判断をし,健康管理指導対象とすることで事実上後発医薬品の使用を強制する点において「改正」34条3項に違反していると考えられるので訂正されるべきである。

以  上




上記<補足説明>にて引用されている関係資料(裁判例を除く)
・生活保護法改正法附帯決議 
・平成25年12月10日生活保護制度の見直しに関する説明会資料「運用の留意事項について」
・平成25年5月20日生活保護関係全国係長会議資料
・平成25年5月31日衆議院厚生労働委員会議事録



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