東京生存権裁判最高裁判決についての声明
2012年(平成24年)2月29日
生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾 藤 廣 喜
東京都内在住の70歳以上の生活保護利用者が、それぞれ居住する自治体を被告として、2006年になされた老齢加算の廃止を内容とする保護変更決定処分の取消しを求めた裁判について、最高裁判所第三小法廷は、2012年(平成24年)2月28日、原告側の上告を棄却し、原告ら敗訴の判決を言い渡した。
この間、100名を超える70歳以上の生活保護利用者が原告となって全国9地裁に提訴し、老齢加算の削減、廃止処分の取り消しを求めて闘ってきた裁判がこの「生存権裁判」であり、2月28日の判決が、全国で初めての最高裁判決であった。
老齢加算は、70歳以上の生活保護利用者に対し、加齢に伴う高齢者特有の生活需要を満たすために、1960年から支給されてきたもので、基準生活費と老齢加算があわせて高齢者の最低生活費を形作っているものであるが、厚生労働大臣は、これについて、2004年度から段階的な廃止を決定し、2006年度には全廃するに至った。その結果、70歳以上の生活保護利用者は、毎月10万円に満たない生活扶助費から2万円近い給付を削減されることとなった。
なお、この間、政府は、老齢加算の削減、廃止とともに、2005年度から母子加算についても段階的廃止を行い、さらには、2008年には基準生活費本体の引き下げをも行おうとした。
ところが、世論の強い反対の結果、基準生活費の引き下げについてはこれを断念せざるを得ず、母子加算についても政権交代後の2009年12月から「復活」した。これらの成果の背景には、「生存権裁判」が、こうした政府の一連の生活保護切り下げ政策の誤りを明らかにし、これに一定の歯止めをかける役割を担ってきたことがあり、私たちは、その役割と成果を高く評価するものである。
格差が広がり、ますます貧困が深刻化する中で、最後のセーフティネットといわれる生活保護制度の役割は、ますます重要となってきている。そればかりでなく、生活保護制度は、最低賃金、社会保障給付、保険料・税等の負担など他の諸制度や諸施策の金額と連動しており、保護基準の切り下げは、最低賃金の水準、基礎年金の額などの切り下げをもたらし、ひいては、国民生活全般に極めて深刻で重大な影響を及ぼすものである。
したがって、「生存権裁判」は、政府の誤った生活保護基準切り下げ政策を根本から転換させ、国民の生存権を保障する上で重要な意義を有するものである。
にもかかわらず、2月28日言い渡された最高裁判所第三小法廷判決は、
「①(老齢加算の削減、廃止という)厚生労働大臣の判断に、最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続きにおける過誤、欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合、あるいは、②老齢加算の廃止に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に、被保護者の期待利益や生活への影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に、生活保護法3条、8条2項の規定に違反し、違法となるものというべきである」
としながらも、「専門委員会の判断の過程及び手続き」の具体的内容について、全く恣意的に評価を下し、さらに、「老齢加算の廃止に際しての激変緩和等の措置」についても、「専門委員会の意見」の内容を恣意的に評価し、いずれも、「裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとは認められない」とした。
この判決は、一般低所得者の貧困状態に合わせて生活保護基準を引き下げるという厚生労働大臣の誤った政策を追認し、生存権の回復を訴える高齢保護利用者の切実な訴えに耳を閉ざすものである。
このような判断は、ドイツ連邦憲法裁判所の2010年2月9日判決が、「基本法(憲法)は給付算定の基礎と手法について、基本法の目的に反していなかどうかのコントロールを要求している」とし、子どもについての失業手当てⅡの金額の決定について、その「手法及び算定過程」を「追体験が可能」でないかぎり違憲・違法となるとして、国会の決定についてすらも、十分な審査を行い、最終的に違憲であると判断したことと比較しても、「憲法の番人」としての職責を放棄したものと言わざるを得ない。
私たちは、これまでの東京訴訟の原告団、弁護団、支える会の「生存権の保障」のための闘いに改めて深く感謝するとともに、今後も、各地で闘う生存権裁判の原告団、弁護団と連帯して、改めて、今後も引き続く「生存権裁判」の中で、最高裁判所が、憲法25条で保障される「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を具体化する原告ら勝訴の判決を下すことを強く要望する。
また、その実現を目指して、広く市民と連帯しながら、引き続き裁判支援と世論の喚起のために、全力をあげることをここに宣言する。
以 上
2012年(平成24年)2月29日
生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾 藤 廣 喜
東京都内在住の70歳以上の生活保護利用者が、それぞれ居住する自治体を被告として、2006年になされた老齢加算の廃止を内容とする保護変更決定処分の取消しを求めた裁判について、最高裁判所第三小法廷は、2012年(平成24年)2月28日、原告側の上告を棄却し、原告ら敗訴の判決を言い渡した。
この間、100名を超える70歳以上の生活保護利用者が原告となって全国9地裁に提訴し、老齢加算の削減、廃止処分の取り消しを求めて闘ってきた裁判がこの「生存権裁判」であり、2月28日の判決が、全国で初めての最高裁判決であった。
老齢加算は、70歳以上の生活保護利用者に対し、加齢に伴う高齢者特有の生活需要を満たすために、1960年から支給されてきたもので、基準生活費と老齢加算があわせて高齢者の最低生活費を形作っているものであるが、厚生労働大臣は、これについて、2004年度から段階的な廃止を決定し、2006年度には全廃するに至った。その結果、70歳以上の生活保護利用者は、毎月10万円に満たない生活扶助費から2万円近い給付を削減されることとなった。
なお、この間、政府は、老齢加算の削減、廃止とともに、2005年度から母子加算についても段階的廃止を行い、さらには、2008年には基準生活費本体の引き下げをも行おうとした。
ところが、世論の強い反対の結果、基準生活費の引き下げについてはこれを断念せざるを得ず、母子加算についても政権交代後の2009年12月から「復活」した。これらの成果の背景には、「生存権裁判」が、こうした政府の一連の生活保護切り下げ政策の誤りを明らかにし、これに一定の歯止めをかける役割を担ってきたことがあり、私たちは、その役割と成果を高く評価するものである。
格差が広がり、ますます貧困が深刻化する中で、最後のセーフティネットといわれる生活保護制度の役割は、ますます重要となってきている。そればかりでなく、生活保護制度は、最低賃金、社会保障給付、保険料・税等の負担など他の諸制度や諸施策の金額と連動しており、保護基準の切り下げは、最低賃金の水準、基礎年金の額などの切り下げをもたらし、ひいては、国民生活全般に極めて深刻で重大な影響を及ぼすものである。
したがって、「生存権裁判」は、政府の誤った生活保護基準切り下げ政策を根本から転換させ、国民の生存権を保障する上で重要な意義を有するものである。
にもかかわらず、2月28日言い渡された最高裁判所第三小法廷判決は、
「①(老齢加算の削減、廃止という)厚生労働大臣の判断に、最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続きにおける過誤、欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合、あるいは、②老齢加算の廃止に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に、被保護者の期待利益や生活への影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に、生活保護法3条、8条2項の規定に違反し、違法となるものというべきである」
としながらも、「専門委員会の判断の過程及び手続き」の具体的内容について、全く恣意的に評価を下し、さらに、「老齢加算の廃止に際しての激変緩和等の措置」についても、「専門委員会の意見」の内容を恣意的に評価し、いずれも、「裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとは認められない」とした。
この判決は、一般低所得者の貧困状態に合わせて生活保護基準を引き下げるという厚生労働大臣の誤った政策を追認し、生存権の回復を訴える高齢保護利用者の切実な訴えに耳を閉ざすものである。
このような判断は、ドイツ連邦憲法裁判所の2010年2月9日判決が、「基本法(憲法)は給付算定の基礎と手法について、基本法の目的に反していなかどうかのコントロールを要求している」とし、子どもについての失業手当てⅡの金額の決定について、その「手法及び算定過程」を「追体験が可能」でないかぎり違憲・違法となるとして、国会の決定についてすらも、十分な審査を行い、最終的に違憲であると判断したことと比較しても、「憲法の番人」としての職責を放棄したものと言わざるを得ない。
私たちは、これまでの東京訴訟の原告団、弁護団、支える会の「生存権の保障」のための闘いに改めて深く感謝するとともに、今後も、各地で闘う生存権裁判の原告団、弁護団と連帯して、改めて、今後も引き続く「生存権裁判」の中で、最高裁判所が、憲法25条で保障される「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を具体化する原告ら勝訴の判決を下すことを強く要望する。
また、その実現を目指して、広く市民と連帯しながら、引き続き裁判支援と世論の喚起のために、全力をあげることをここに宣言する。
以 上