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申請、扶養で厚生労働大臣の認容裁決相次ぐ! 吉永 純(花園大学)

 平成26年2月14日付で、2つの重要な厚生労働大臣の認容裁決(請求人の主張を認めるもの)が出されました。滅多に出ない大臣の認容裁決であることはもちろんですが、争点が、それぞれ保護申請と扶養に関するものであることが重要です。いずれの論点も、生活保護法改正で、水際作戦の法制化や、扶養の要件化として危惧され、批判を浴びた点だからです。厚生労働省は、しきりに、現行の運用を変わらないと言明していますが、本裁決の両事案とも、現場の運用が、現行法のもとでも逸脱したものであることが明らかになっており、大臣の認容裁決は当然のものです。改正法施行を7月に控え、重要論点に関する大臣裁決が連続して出されるのは、当会や利用者の皆さんのこれまでの運動の成果でもあります。すべての自治体は、両大臣裁決の重みをしっかりと受け止め、自らの生活保護行政を点検すべきです。

(注)厚生労働大臣裁決とは
 生活保護では、福祉事務所の不利益処分(保護費の減額や停廃止)に対して、すぐには裁判でできません。まず、都道府県知事に不服申立て(審査請求)を行わなければなりません(審査請求前置主義といいます)。知事が請求人の主張を認めない場合(却下、棄却)に初めて裁判ができますが、その場合でも、さらに厚生労働大臣に対して再審査請求ができます。今回の2つの裁決は、知事が請求人の主張を棄却したため、大臣に対して再審査請求を行ったもので、これに対する大臣の判断が示されたものです。

1 保護申請に関する平成26年2月14日厚生労働大臣裁決
(1)事案と裁決要旨

「…しかしながら、関係資料によれば、請求人が平成24年4月9日に処分庁に相談に訪れた際に、病気で仕事がなく、生活費、住宅費及び医療費に困窮しており、唯一の収入である失業手当は、同年2月で終了していることを申し立てていることを踏まえれば、請求人が生活に困窮しており、保護の申請意思を有していることも優に推定されるにもかかわらず、処分庁が、請求人に対して保護の申請意思を確認したことは窺えず、また、面接結果の欄に何ら記載のない日もある等、面接相談時の処分庁の対応が不適切であったものと認められる。
 そして、面接相談時においては、基本的には相談者の保護の申請意思を確認すべきものであるところ、処分庁の面接相談記録の様式には、そもそも相談者の申請意思の有無を記載する欄がなく、たとえ相談者が申請の意思を示したとしても、その旨を客観的に記録する様式とはなっていなかったこと、また、特別監査結果通知によると、相談者が申請の意思を示したとしても、申請させるか否かを処分庁が判断していたこと等、処分庁が面接結果において極めて不適切な対応を行っていることが認められるといった事情を踏まえると、処分庁において生活保護の受給歴のある請求人が、病気による失業で収入がない状況で、処分庁に相談に訪れた際に、明確に口頭で保護を受けたいとの申請の意思を示さなかったとする処分庁の一連の主張は採用し難いものと言わざるを得ない。
 したがって、平成24年4月9日の相談時において、口頭で明確に保護の申請意思を表示したという請求人の主張を認め、請求人に対する保護開始日を6月21日とした原処分については、これを取り消すことが相当である」

(2)意義 ― 口頭の保護申請を認めた画期的な厚生労働大臣裁決
 本裁決の内容は、生活保護法改正で最も懸念された水際作戦の合法化(保護申請書や給与明細などの書類を役所に出さないと申請とみなさない)に対して、申請者の困窮状況から申請意思が推定される場合には福祉事務所は申請意思を確認すべきとし、申請書が提出された2カ月以上も前に口頭の申請があったことを認めました。これまでは、本件の京都府知事裁決をはじめ、福祉事務所がなかなか申請書を渡さないことは不問に付して、申請書が提出されたときからしか申請を認めないとする判断が多数でしたが、本裁決は、そうした運用が誤りであると認めました。国は改正後も申請権の尊重を再三明言しています。すべての自治体は、法改正(7月施行)に当たり、申請窓口での対応や面接票の様式(申請意思の確認欄を設けること)をしっかりと再点検すべきです。

2 扶養に関する平成26年2月14日厚生労働大臣裁決
(1)事案と裁決要旨
 扶養能力、扶養意思のある兄からの同居を条件とした扶養申出があったとしても、この申出は同居を条件とした扶養であり、請求人と兄との関係は良好とは言い難い状況の下で、処分庁が兄との同居を求めることは、「扶養義務者の側が扶養の履行と引き換えに要保護者に対してかなりの努力を必要とするような行為を要求する場合」(別冊問答集問5-9)に該当するとして、法4条1項の要件を欠くとして申請却下した原処分の運用は誤っているとして取り消しました。

(2)意義 ― 同居を条件とする扶養の強制は違法
 本件事案は、兄から請求人への事実上の障害者虐待事例(請求人は審査請求後の判定で知的障害B判定)であり、その障害ゆえに兄の期待通りに生活できないことや金銭管理能力が低いことを理由にして生活の場であるトイレ、浴室、洗面所を自由に使うこともできなくさせられ、「野たれ死にすればいい」と言われていました。すでに1年6カ月間兄とは一切の連絡がない状態ですが、請求人は兄の金銭的扶養を拒否していません。請求人は「同居による扶養」を受けることができないと主張しているのです。虐待を受けていてもなお「同居の条件」による扶養を受けるべきとし、生活保護申請は却下にするという福祉事務所の処分は、もともと保護開始要件ではない扶養を、それも同居を条件とする扶養を要件化するものです。さらに、本件のように、障害者虐待にあっている請求人に同居を求めることは虐待を容認する行為に他ならず、個人の人権、生存権を侵害するものです。本裁決が、処分庁、それを容認した審査庁の処分を取消したのは当然です。

(本稿は、吉永純先生に当会のNEWSLETTERに寄稿していただいたものです)


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