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7月9日に厚労記者会で行った「生活保護の住宅扶助基準引き下げの動きに関する記者会見」の、各登壇者の発言内容です。
住宅扶助基準引き下げの問題点が分かりやすく解説されています。

共同声明については、こちらをどうぞ。
[217団体が賛同]生活保護の住宅扶助基準引き下げの動きに反対する共同声明~「健康で文化的な最低限度の住生活」の基準を変更することは許されません~




7月9日記者会見



進行:小久保哲郎さん(弁護士、生活保護問題対策全国会議事務局長)   ◆ 
本日は、社会保障審議会生活保護基準部会で検討されている住宅扶助基準の問題について、引き下げに反対する共同声明を出しましたのでご説明します。生活保護問題対策全国会議と住まいの貧困に取り組むネットワーク他216団体でこの共同声明を出したことになります。声明の内容について、稲葉さんからご説明します。


◆ 稲葉剛さん(住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人)       
 昨年8月から始まった段階的な生活扶助基準引き下げに続いて、住宅扶助基準の見直しが急ピッチで進められています。5月には16日、30日と1ヶ月に2回も生活保護基準部会が開催されました。今後、7月から基準部会の中に作業部会をつくって生活保護世帯の居住実態の調査を進め、11月に報告書のとりまとめを行う流れになっています。おそらく来年度から住宅扶助基準を引き下げる動きになると思われます。
 これに反対する共同声明を、このたび発表しました。様々な問題点があります。

 まず、生活扶助基準と同に、厚労省が「引き下げありき」の方向に議論を誘導しているのではという点です。基準部会では、財政制度等審議会の資料をがそのまま提出され、そこでは、住宅扶助基準額(4.6万円)と一般低所得世帯の家賃額(3.8万)を比較して住宅扶助基準が2割程度高いという指摘がされています。しかし、住宅扶助基準は「上限額」です。大都市部で家賃が基準額近くなることがありますが、すべての生活保護世帯の家賃がすべて上限額ということはあり得ません。にもかかわらず、この上限額と一般低所得世帯の家賃の平均額を比較して上限額が高いとするのは、ミスリーディングなのではと、基準部会の委員からも指摘されています。「引き下げありき」に議論を誘導するものではないでしょうか。

 次に、最低居住面積水準についての考え方です。基準部会の資料では、「健康で文化的な最低限度の住生活を営むことができる住宅の尺度として、住生活基本計画に定められた最低居住面積水準でよいか」とわざわざ質問し、しかもその真下に全国の民間借家の1/3は最低居住面積水準が未達成であると付記しています。さらに、最低居住面積水準以下の世帯の割合について、全国の民間借家で1/3、東京では4割を超えると、わざわざ、こういう資料を出しています。これは、明らかに、一般低所得世帯でも最低居住面積水準以下の民間借家が多いので最低居住面積水準は考慮しなくて良い、という方向に議論を誘導しているのではないかと思っています。
 そもそも、最低居住面積水準は国交省が定めたもので、2006年からは単身世帯で25㎡以上となっており、2011年に閣議決定された住生活基本計画でもこの基準以下の住宅があれば早期に解消するとなっています。国交省が定めて閣議決定されたものを、厚生労働省が有名無実化してもいいと言わんばかりの方向に議論を誘導するのは、ゆゆしき事態です。最低居住面積水準は、公営住宅や行民間住宅の改修費補助金の基準でもありますが、こうした基準をないがしろにするのは生活保護だけでなく社会全体の住まいの貧困を招くことになります。

 3つめの問題です。生活保護世帯の居住実態調査を行う作業部会での議論は非公開で、検証もできません。出てきたときには結果が決まって、その後の流れも決まっているということになるのではないでしょうか。実際には各地の福祉事務所のCWが生活保護世帯を家庭訪問して居住環境等を調査することになるのでしょうが、CWに調査の余裕があるのかという疑問の声は基準部会でも出ています。

 一般低所得世帯と比較した場合に、同じ住環境であっても生活保護世帯の家賃の方が割高になるのは予想できます。生活保護には単身高齢者や障害者、ひとり親や外国籍の方が多く、様々な入居差別を受けています。家主に住宅扶助上限額なら貸すと言われたら、交渉力もない入居者は、その家賃額を飲まざるを得ません。社会的孤立の問題で、人間関係が切れ身内に保証人が頼めない場合は、さらに不利です。数字だけ見ると生活保護世帯が一般低所得世帯より割高な家賃ですが、その背景には、こういう入居差別の問題があるということを知っていただきたいです。

 しかも、現在の住宅扶助基準でも、十分な金額ではありません。東京では5万3700円、障害者や複数世帯は6万9800円となっていますが、地域によっては、これでも適切な住宅を確保するのは困難です。東京都千代田区では、住宅扶助基準では住宅が借りられないためにドヤで生活保護を受けている人が、アパートに移れないと福祉事務所に相談した結果、脱法ハウスを紹介されたということも起こっています。
 特に車椅子の障害者は、室内でも車椅子が使える物件を探すのはとても困難です。特別基準を出しても見つからない。そうすると、住宅扶助基準以上の家賃になり、実際には生活費部分を削って家賃を負担するということになります。
 また、住宅扶助基準は2人世帯から6人世帯は基準が同額です。子どもの多い世帯でも住宅扶助基準では東京ではワンルームしか借りられません。現在の住宅扶助基準は、まったく実態に合っておらず、決して高いといえません。

 住宅をめぐる現状の背景には、根本的な国の住宅政策の失敗があります。どこの地域でも公営住宅を増やさず、低所得者は民間住宅を探さざるを得ないのに、民間賃貸住宅市場は野放しで、入居差別の問題も放置されています。また、保証人の問題や貧困ビジネスの問題の規制が進んでいません。そういった民間市場の問題にメスを入れるならともかく、そこを放置したまま住宅扶助基準だけを切り下げると、生活保護世帯はますます劣悪な住居に押しやられ質の低下を招きます。健康で文化的な生活を保障するという生活保護の理念に真っ向から反するといわざるを得ません。

 私たちは、生活保護基準部会や作業部会が、きちんと、透明な形でオープンに議論することを求めていきますし、11月に検討結果をまとめるというのはあまりに拙速で撤回すべきです。そして、当事者や居住支援を行うNPO関係者、住宅問題を扱う研究者の意見を聞いて慎重に検討すべきです。
 そもそもの問題の背景に住宅政策の失敗があります。脱法ハウスやネットカフェ難民など、その時々に住宅政策の問題が社会に出てきますが、本来は国交省と厚労省が縦割りではなく一緒に「住宅政策総合本部」などをつくって、健康で文化的な最低限度の住生活をどう保障するかという観点のもと住宅政策を転換すべきではないでしょうあ。そして、住まいの貧困という問題にきちんとメスを入れていくべきです。そうした議論と並行して、生活保護の住宅扶助基準の問題も考えていくべきではないでしょうか。

 既に生活扶助基準は引き下げられています。さらに住宅扶助基準が引き下げられると、憲法25条に保障された健康で文化的な最低限度の生活が維持できなくなります。
 生活保護世帯だけでなく、社会全体に住まいの貧困を拡大させかねない、こうした動きに報道機関も警鐘を鳴らしていただきたいと思います。


◆ 田川英信さん(自治体職員)       
 福祉事務所に15年間いました。
 住宅扶助の特別基準ですが、〈1、2級地〉〈3級地〉に分かれています。1、2級地は中心部、3級地はいわゆる僻地です。基準額は家賃の上限額です。「単身世帯」と、「1.3倍額」は2人~6人世帯の複数世帯と車椅子等特別な設備を必要とする場合に認められており、さらに、「7人以上」という区分があります。
 もともと住宅扶助は1万3000円ですが、これでは住居が見つからないので県ごとに「特別基準」を設定することになっています。政令指定都市や中核は県より高い基準で、この金額は厚労省が決めています。住宅扶助として支給できるのは家賃本体のみであって、いわゆる共益費や管理費は含まれていません。
 職場の実感ですが、他都市の職員と住宅扶助基準の引き下げについて話をしました。今の基準でも住宅を探すのが難しいのに、これ以上下げられたらどうやって住居を確保するのか、今は基準以内の住宅でも(基準引き下げにより)基準以上の家賃になったたら転居が必要になるのか、とそんな話題になっています。
 もともと住宅扶助基準はそんなに高くありません。昔と違って基準内におさまるような家賃の安い物件はありません。古い物件は壊されていき、どんどん建て替えられています。銭湯が少なくなり、風呂付きでないと入居者がいないから風呂をつける、そうすると家賃が5万3700円にはならないのが実態です。(転居先の)家賃が基準を超えていると転居も認められず敷金も出せないので、転居先に苦労するという実態があります。
 精神科に入院していた方が退院する場合にも、なかなか部屋が見つかりません。居住環境が悪いと病気が悪くなることがあります。近隣の物音がうるさい、上の階の物音が筒抜け、隣の声がまる聞こえ、こういう物件が多いです。全部が全部そうではありませんが、居住環境としてはよくないありません。
 2人~6人までの住宅扶助基準が同じですが、23区内で基準内の物件を探してもなかなかなく、郊外の市に転居していただくこともあります。その場合にもめるのが「移管」という問題です。なぜ、そちらの区内でアパートを見つけられないのか、(郊外の市に)追いやっているんじゃないかと言うくらいの話になり、福祉事務所間のトラブルになりがちです。
 住宅扶助基準が引き下げられたら、今後いっそう、そういうことも増えるのではと懸念しています。


◆ 桑島知己さん(不動産業者)      
 (住宅扶助基準を)引き下げるところもあっていいのではと思いますが、上げるべきところもあるというのが、現場の不動産屋の意見です。
 高齢者や障害者、子育て世帯が6万9800円(1.3倍額)で物件を探すのは非常に困難です。ましてや東京中心部では、ほぼ不可能に近い状況にあります。こういった例に関しては引き上げが必要です。
 健康で文化的な住生活の基準はどこにあるのか、しっかりそういった指針があるのか、その基準の住宅が一体いくらで借りられるのか、そういったことが、おそらく厚労省はわかっていないのではないでしょうか。
 現場の不動産業者としては、脱法ハウスの問題もあるし、そういった地域の家賃相場などについては、CWが調査するのは難しいので、われわれ不動産業者が国や自治体と連携して、適正家賃がどこなのかを見直すべきと考えています。


◆ 川西浩之さん(生活保護利用者)      
 自分は東京都内に住む車椅子の者です。1日11時間弱のヘルパーの援助を受けながら生活し、室内でも車椅子を利用しています。そういう生活がかれこれ14年目になります。
 一人暮らしを始めるときに不動産屋を回りましたが、車椅子で過ごせる住宅はない、トイレや風呂に手すりをつけると壁に傷がついて修繕トラブルが発生するので貸したくない、という不動産屋がほとんどでした、10件や15件探しましたが、まったくそういう(自分に貸してくれる)家はありませんでした。公営住宅も少なく、とても引き下げに困っています。なぜ車椅子で過ごさなければいけないかという基本的な意味がわかってもらえていない。自分は脳性麻痺ですがお腹の力が弱く、車椅子でないと体が支えていられません。車椅子で過ごせない家があるということ自体、とても信じられないことです。アメリカなどの外国では車椅子で居室内で過ごすことが当たり前です。そういった、自分たちの障害の状況を理解してもらった上で、生活保護を見ていただけたらと思います。
 私は家賃が8万円を超える住宅に住んでいます。仲間の中には、ワンルームのため車椅子で中に入るのが精一杯で身動きもとれないという家に住んでいる人もいます。住宅改造の問題で寝たきりになっていたり、お風呂やベッドでリフトが必要という人も数多くいます。そういった人たちが家賃基準が下がると引っ越さなければならなくなり、どこに行っても嫌な目で見られ、後ろめたい姿になるのが目に浮かびます。不動産屋はちゃんと話を聴いてくれません。自分の場合は、ヘルパーさんに自分の要望を伝えてもらい、やっと住宅を見つけました。風呂釜を変える必要があっても、微妙な手すりの位置があってそれが違うと(風呂に)入りにくくなってしまうからと、そのままで生活しています。
 私たちの生の声を聞いて実態に即した見直しをしていただきたいです。


◆安形義弘さん(全国生活と健康を守る会連合会会長)      
 住宅扶助基準の引き下げにあたっては、生活保護利用者の声を聞いていただきたいです。生活保護利用者は贅沢は言っていません。せめて、安心して住めるところに住みたい、それが踏みにじられているのです。
 住宅扶助基準には2つの大きな問題があります。1つ目は基準が低いこと、2つ目は基準内の住宅に住んでいるときに家族や介護の問題で転宅したくても、なかなか認められないことです。
 例えば、青森市内で住宅扶助基準で借りられる住居は、実際にはトイレがくみ取りである、トイレや台所が共同だとか風呂がないとか、そういった物件しかありません。
 級地の問題も大きく響いています。北海道の石狩市は、札幌に隣接していますが級地が3級地の1です。隣接している北広島や恵庭は2級地です。生活圏や住宅の家賃も同程度なのに、級地が違うために住宅扶助基準にも差が出てしまいます。
 そして、基準内であっても転居がなかなか認められません。今の生活保護制度では、真に必要なら転居が認められます。北海道に住んでいる方は、要介護1で除雪が必要なのにできません。除雪装置が入口についているような住居は住宅扶助基準を超えるような物件しかなく、引っ越せない。近所に除雪をしてもらって、ようやく生活してます。
 ネズミが出るような劣悪な住居に2年間住んでいて、ようやく転居を認めるという例もあります。家主が退去を求めているのに、家主と福祉事務所が費用を押しつけ合って結局引っ越しができない。家主によるセクハラがあって、その実情を訴えても転居させないなどの事例もあります。こういう事例は極端な例ではありません。
 劣悪な住居に住んでいるのは、生活保護を利用するまでは生活が苦しいので、どんな住居でも住まざる得ないからです。そして生活保護を受け、もう少し人間らしい住居に住みたいと思っても、転居が認められません。
 養護施設にいる高齢者がいます。老齢加算が廃止されたため、クーラーがつけられなくて熱中症になり、独りで生活できなくなりました。虫も多く出るような家ですが、それでも家で暮らしたいと言われます。ちなみに虫の駆除費用も生活保護から出るのですが、それも知らずに自己負担していました。
 昨年からの生活保護基準引き下げで、延べ2万人が苦しい実態を訴えています。
 住宅扶助基準の引き下げは、今でもひどい住宅で我慢している人たちがいるじゃないかということを言って、劣悪な住居でも我慢しろと生活保護利用者に押しつけて、そのことを梃子にして国民全体の住宅水準を低下させようという、国民的な問題でもあります。
 人権としての住宅、健康で文化的な生活ができる憲法25条で保障された生存権としての住宅は何なのか、実態に利用者の声に耳を傾けていただき、いろいろな形で報道していただければと思います。


● まとめ/尾藤廣喜さん(弁護士、生活保護問題対策全国会議代表幹事)    
 自分は手短にお話したい。日本の最低生活を考える上で最も問題なのは、居住するという権利が生存権の重要な要素であるの観点が欠落していることです。
 ヨーロッパでは、中世から住民と政府の戦いがあり、居住の保障が生存権の重要な要素であることが確立しています。しかし日本はそれが弱く、せっかく最低居住面積水準がるのに、それに基づき何が最低限度の生活として保障されるべきかという観点の議論がなありません。そこを外して劣悪な居住水準と生活保護を比較して(住宅扶助見直しを)決めようとしてる。生活扶助を下げようとしたときと、手法が同じです。
 人間にとって、どのような水準の住宅が生活上最低限度の住宅として保障されなければならないか、という議論を離れて(基準引き下げの)議論があってはなりません。今の議論の方向は間違っています。最低生活の中で住む権利をどう位置づけるのかという議論の下で、議論して欲しいということです。


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