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2014年(平成26年)10月28日

福岡及び京都の生存権裁判最高裁判決についての声明

生活保護問題対策全国会議


1 はじめに
 最高裁判所第1小法廷は、2014年(平成26年)10月6日午後3時、北九州市在住の79歳から97歳の生活保護利用者29名が北九州市を被告として老齢加算の減額・廃止を内容とする各保護変更決定処分の取消しを求めた裁判について、各処分について違法はないとした原審福岡高等裁判所判決を維持し、原告(上告人)らの上告を棄却する判決を言い渡した。また、同小法廷は、引き続き同日午後4時、京都府下在住の89歳、85歳及び79歳の生活保譲利用者3名が京都市または城陽市を被告として同様に処分の取消し等を求めた裁判に対し、原審大阪高等裁判所判決を維持し、原告(上告人)らの上告を棄却する判決を言い渡した。

2 生存権訴訟の内容と意義
 老齢加算は70歳以上の生活保護利用者に対し、加齢に伴う特有の生活需要を満たすために1960年から支給されてきたものであるが、厚生労働大臣は2004年(平成16年)4月から減額を開始し、2006年(平成18年)4月に全廃した。その結果、京都市在住の70歳以上の生活保護利用者受給者は単身世帯で月額9万0670円の生活扶助費から1万7930円もの給付を奪われることとなった。
 原告らはそれまで、加齢に伴い全身の機能が低下し、あるいは疾病を抱えながらも、食費や被服費等を切りつめ、生活費をやりくりしながらも、社会との関わりを保ち、老後も人間らしい生活を送るため懸命の努力を続けてきた。原告らにとって老齢加算は憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」の一部として、必要不可欠なものであった。しかし、老齢加算の減額・廃止処分により、それまでかろうじて維持されてきた人間らしい生活は文字どおり破壊されたのである。
 そしてこれに対し、2005年(平成17年)4月に全国で一番初めに、老齢加算の減額廃止は生存権侵害であると声を上げ、提訴したのが京都の原告の松島松太郎さんであった。また、原告の松島さんに続いて、これまで100名を超える高齢者が全国で立ち上がり、「生存権裁判」を闘ってきた。
 高齢で生活苦を抱えながら、また、一方で加齢に伴う全身の機能の低下、さらには、疾病を抱えながら、加算が減額・廃止されるという状況の下で、裁判を闘うということ自体、大変な負担と労苦を背負い込むことになることは、誰の目にも明らかなことである。にもかかわらず、100名を超える高齢者が、全国9つの地方裁判所で提訴したことは、「自分が生きることの基盤が削られ、壊されているのに、このまま黙ってはおれない」「これがこの国の健康で文化的な最低限度の生活なのか。とても我慢できない。」という切実な思いであった。
 格差が広がり、貧困が一層深刻化する中で、最後のセーフティネットといわれる生活保護制度の役割は、それ以降もますます重要となってきている。そればかりでなく、生活保護制度は、最低賃金、年金等の他の社会保障給付の給付水準、保険料・税等の負担や就学援助制度等各種援助・助成制度などの諸制度や諸施策と連動しており、保護基準の切り下げは、最低賃金の水準、基礎年金の額などの切り下げをもたらし、ひいては、国民生活全般に極めて深刻で重大な影響を及ぼすものである。
 したがって、「生存権裁判」について、最高裁判所がどのような判断をするかは、政府の誤った老齢加算の減額・廃止と今日採られている生活保護基準切り下げ政策を根本から転換させ、国民の生存権を保障する上で重要な意義を有するものである。憲法の番人といわれる最高裁判所が、まずなすべきことは、このような原告の切実な生活実態をつぶさに見、これらの声に真摯に耳を傾け、憲法25条で保障された「健康で文化的な最低限度の生活とは何か」を市民の目線に立って、判断することであるはずである。

3 相次ぐ原告敗訴の最高裁判決とその不当性
 にもかかわらず、最高裁判所第3小法廷は、2012年(平成24年)2月28日、東京都在住の原告らの老齢加算減額・廃止処分の取り消し請求を退け、また、同年4月2日には北九州市在住の原告らについての画期的な認容判決を出した福岡高等裁判の判決を破棄差戻すという判断を下した。
 そして、本年10月6日の2つの第1小法廷判決は、「①(老齢加算の削減、廃止という)厚生労働大臣の判断に、最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続きにおける過誤、欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合、あるいは、②老齢加算の廃止に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に、被保護者の期待利益や生活への影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に、生活保護法3条、8条2項の規定に違反し、違法となるものというべきである」としながらも、「専門委員会の判断の過程及び手続き」の具体的内容について、全く恣意的に評価を下し、その判断の過程及び手法に過誤、欠落があると解すべき事情はうかがわれないとし、さらに、「老齢加算の廃止に際しての激変緩和等の措置」についても、「専門委員会の意見」の内容を恣意的に評価し、いずれも、「本件改訂に基づく生活扶助額の減額が被保護世帯の期待的利益の喪失を通じてその生活に看過し難い影響を及ぼしたものとまで評価することはできない」とした。
 この2つの判決は、貧困の中で生きる高齢者の生活の実態に目を向けず、生活保護を受けて生きる権利が憲法25条の生存権に基づく重要な権利であることを無視し、“一般低所得者”の貧困状態に合わせて生活保護基準を引き下げるという政府の誤った生活保護政策をまさに追認したものと言うほかない。人権の最後の砦であるべき最高裁判所がこのような判断を下したことは、「憲法の番人」としての職責を放棄したものと言わざるを得ない。
 よって、最高裁判所に対し、今後も次々と上告され、あるいは上告が予想される「生存権」裁判について、今一度、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を実質化する立場に立ち、高齢者の生活実態に十分に目を向け、耳を傾けたうえで、原告勝訴の判決を言い渡すことを強く求めるものである。

4 在日コリアンの原告の請求が「却下」されずに「棄却されたことのもつ意味
(1)はじめに

 ところで、今回の京都の3名の原告のうち、1名の原告が、在日コリアンの方であったことから、最高裁判所が、「訴えの利益」を認めるか否かが注目されていた。
 この点、最高裁判所第1小法廷判決(以下「京都第1小法廷判決」という。)は、在日コリアンの原告について、「訴えを却下」せずに、他の日本国籍の原告らともに上告を棄却した。つまり、京都第1小法廷判決は、在日コリアンの原告に保護基準の是非を争う「訴えの利益」を認めたのである。
 この結論は、2014年(平成26年)7月18日の大分の外国人生活保護裁判最高裁第2小法廷判決(以下「大分第2小法廷判決」という。)で、生活保護法に基づく保護開始申請について権利性がないとし、「訴えを却下」した結論との整合性が問題となる。当会議は、この大分第2小法廷判決について、本年7月28日付けで意見書を発表し、「厚生労働省通知に基づく行政措置としての保護費の支給についての却下や廃止に対して審査請求や訴訟で争うことができるかどうかは、上記最高裁判決の射程外であり、今後の争訟によって認められる余地が十分あ」ることを指摘したが、まさに今般の京都第1小法廷判決は、行政措置としての保護費の支給について訴訟で争うことができるという立場に最高裁判所が立つことを前提とした内容となっているのである。

(2)大分第2小法廷判決の射程範囲
 大分第2小法廷判決は、あくまで「生活保護法による保護の適用を求める申請に対する却下決定」について判断したものであり、厚生労働省通知に基づく行政措置としての保護費の支給に対する却下については、審理の対象となっていなかった(原告側は、予備的請求として厚生労働省通知に基づく行政措置としての保護を行うことも求めていたのであるが、福岡高等裁判所においては、主位的請求である生活保護法による保護を求める申請の却下処分取消請求が認容された一方、行政措置として保護費の支給を求める請求は棄却された。これに対し、行政側が主位的請求部分について上告したが、原告側は敗訴部分について(附帯)上告をしなかったため、もともとの原告の請求のうち、行政措置としての保護費の支給を求める申請に対する却下決定に対して訴訟で争えるか否かは、最高裁では審理の対象となっていなかった)。
 したがって、外国人が「生活保護法による保護に準じた行政措置」による保護費の支給を求める申請の却下や廃止に対して、審査請求しても内容を問わずに門前払いする現在の運用が正しいかどうかや、訴訟が提起できるかどうかは、前回の大分第2小法廷判決の射程外であったのである。
 そして、行政事件訴訟法第9条1項によれば、処分又は裁決の取消しの訴えは、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」であるとされている。仮に、百歩譲って生活保護法に基づく保護の受給権が認められないとしても、行政措置により事実上生活保護の対象となり得るかどうかは、申請者にとっては、まさに“生き死に”に関係する重大な「法律上の利益を有する」ところである。このような場合に、「法律上の利益がない」と判断することは、これまでの最高裁判所の判例にも明らかに反するものであるうえ、難民条約加入の際の国会審議の内容に照らして、国際的にも容認できない結果となる。
 したがって、大分第2小法廷判決によっても、この問題の決着はついておらず、今後とも行政措置としての保護について審査請求や訴訟で争うことが認められる余地は、十分残されているとの意見を当会議では述べてきたところである。

(3)京都第1小法廷判決がもつ意味
 今回の京都第1小法廷判決は、原告の国籍問題については、一審、二審とも問題にならず、最高裁でも問題になっていない。
 しかしながら、仮に、最高裁判所が、原告の国籍が日本でなければ、生活保護法による給付が一切争えない(=「訴えの利益」がない)という立場に立っていれば、もともと「訴えの利益」は職権調査事項であることからすれば、日本国籍ではない原告については、「請求を棄却」せずに「訴えを却下」すべきことになる。
 ところが、今回の京都第1小法廷判決が、日本国籍ではない原告についても、「訴えを却下」せずに「請求を棄却」したのは、最高裁判所が国籍がないことだけで直ちに「訴えを却下すべき」だと考えてはいないことを明らかに示している。つまり、最高裁判所は、生活保護基準の当否を争うことについて、日本国籍がなくても、「法律上の利益」を認め、訴えの利益があると判示しているのである。
 このように、外国人についても、(行政措置としての保護費の支給については)訴訟で争うことができることを前提とする判断を行った点において、今回の京都第1小法廷判決は重要な意味をもつものと言える。
以 上



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