2012(平成24)年3月12日
厚生労働大臣 小宮山洋子 殿

警察官OBの福祉事務所配置指示の撤回を求める要望書

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第1 要望の趣旨
   本年3月1日付け厚生労働省社会・援護局関係主管課長会議において,警察官OB等を福祉事務所内に
積極的に配置するよう要請した指示は直ちに撤回されたい。


第2 要望の理由
1 厚生労働省の指示内容
  厚生労働省は,2012年3月1日,社会・援護局関係主管課長会議において,「警察官OB等を福祉事務所内に配置すること」を積極的に検討するよう指示した。(以下,当日の会議資料より)

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(3)不正受給対策に関する予算事業の活用
  セーフティーネット支援対策等事業補助金の体制整備強化事業を活用し,退職した警察官OB等,警察当局と福祉部局との連携を図るための人材を雇用している自治体もある。退職した警察官OB等を福祉事務所内に配置することにより,不正受給に対する告訴等の手続きの円滑化,申請者等のうち暴力団員と疑われる者の,早期発見などの効果が期待される。そのため当該事業の導入を積極的に検討し,告訴等も含めた不正受給者対策の徹底を図っていただきたい。
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2 警察官OBの福祉事務所配置は社会福祉関係法に違反する
(1)ケースワーカー(社会福祉主事)に求められる資質
 社会福祉法第15条第6項は,福祉事務所において「現業を行う所員」については,「社会福祉主事でなければならない。」と規定する。そして,同条第4項は,「現業を行う所員」の事務として「援護,育成又は更生の措置を要する者等の家庭を訪問し,又は訪問しないでこれらの者に面接し,本人の資産,環境等を調査し,保護その他の措置の必要の有無及びその種類を判断し,本人に対し生活指導を行う等」と定めている。
 また,社会福祉法第19条は,社会福祉主事の資格として「人格が高潔で,思慮が円熟し,社会福祉の増進に熱意があり」かつ,社会福祉に関する科目を修めて大学を卒業した者等の要件を定めている。
さらに,生活保護法第21条は,「社会福祉法に定める社会福祉主事は,この法律の施行について,都道府県知事又は市町村長の事務の執行を補助するものとする。」と規定する。
上記関連法規は,社会福祉に関する科目の履修等一定の資格を有し,社会福祉の増進に熱意がある専門家を生活保護実施の担当者として配置することを求めている。
 その趣旨は,要援護者に直接接して,保護,育成,更生等を行うためには専門的な知識と技術を必要とすることから,社会福祉主事を保護の実施にあたらせることで,国民の最低生活保障を図り,併せて専門的ソーシャルワークの技術を用いた援助により社会福祉の増進を図ろうとする点にある。福祉事務所が地域福祉の推進を支援する拠点として,またセーフティネット機能を適切に発揮するためにも社会福祉主事の役割は大きい。

(2)警察官に求められる資質
 これに対し,警察法第2条第1項によれば,「警察は,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防,鎮圧及び捜査,被疑者の逮捕,交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当たることをもってその責務とする。」とされている。
 警察官OBが警察官として磨いてきた専門性は,当然のことながら,要援護者の保護,育成,更生等の専門的な知識・技術ではなく,犯罪に関する専門性である。
上記法律の条文からも,警察官と生活保護の実施担当者では,従事すべき職務や深めるべき専門分野も全く異なることは明らかである。

(3)警察官OBを福祉事務所に配置することの違法性
 社会福祉行政と警察行政とはもともとその目的,性格を全く異にしており,これを単純に一体化しては社会福祉の目的を達することができない。
 市民と直接やりとりする現業に元警察官が社会福祉主事の資格もなく従事すると,警察目的が福祉目的に先行し,結果的に市民の生存権行使を阻害する事態をもたらす危険性,保護受給者あるいは保護を受給しようとする者を犯罪者視しその人格権・生存権を侵害する危険性がある。
 したがって,社会福祉主事の資格を有しない元警察官職員を生活保護の現業業務に従事させることは生活保護法第21条,社会福祉法第15条に違反し,違法であることが明かである。

3 ますます保護行政から住民を遠ざけ,「餓死・孤立死」を増やす
(1)既に人権侵害が発生している(大阪弁護士会人権救済勧告事案)
 豊中市福祉事務所は,厚生労働省の今回の指示に先立ち,平成19年4月以降,警察官OBを嘱託職員として採用し,被保護者からのDV・多重債務等の相談業務(来客対応,電話対応を含む),家庭訪問などの「現業」業務に従事させている。
 平成21年10月,警察官OBの職員が,生活保護の支給が遅れていることについて抗議をした被保護者に対し,「虫けら」「ヤカラ(理不尽な要求をするチンピラなどタチの悪い人物を意味する関西弁)」等の暴言を発言したことについて,大阪弁護士会は,二度と同様の人格権侵害が生じないようにすることと,社会福祉主事でない警察官OBが現業を行わないことを求める人権救済の勧告を行った。

(2)止まらない「餓死」「孤立死」
 本年2月以降,札幌市白石区での40歳代姉妹の凍死・餓死,埼玉県さいたま市での60歳代の両親と30歳代の息子の餓死,東京都立川市での45歳の母親と4歳の障害児の病死・餓死,90歳代と60歳代の母娘の餓死といった痛ましい事件が連続して起き,国民を震撼させている。特に,札幌市白石区のケースは,3回も福祉事務所に生活相談に行ったのに,「懸命なる就職活動」を指示して追い返され生活保護に結びつかなかった点において問題が大きい。
 福祉事務所に警察官OBが配置され,窓口での対応等を常に行うようになれば,豊中市におけるのと同様の,市民を犯罪者視する,福祉的ではない対応が広まるおそれが強い。そうすると,ますます生活保護行政から住民を遠ざけ,孤独死・餓死者が増加することが強く危惧される。

4 不正受給の実態を冷静に見ることが必要である
(1)「不正」受給の内実と発生率

  不正受給に関する報道ばかりがなされるため,生活保護=不正受給というイメージが蔓延し,あたかも生活保護利用者の大部分が不正をしているかのように捉えられていることが多い。しかし,「不正」受給の実態を質的・量的な両側面から冷静に捉えることが必要である。
  まず,質的な面でいうと,「不正」受給とされているものの中には,高校生の子どもがクラブ活動費などを捻出するためにしているアルバイト代について,申告義務があると思わずに未申告であったような場合が少なくない。こうした場合,故意ではないだけでなく,申告をしていれば,クラブ活動の費用や塾代等は教育に関する自立更生費用として収入認定除外され得る点においても,悪質であるとは言えない。
  次に,量的な面で見ると,確かに,年々不正受給の件数や金額は増大しているが,それは,受給世帯が増え保護費総額も増えていることに伴う当然の現象に過ぎない。
以下に見るとおり,件数ベース(不正受給件数÷受給世帯数),金額ベース(不正受給件数÷生活保護費総額)での発生率で見れば,前者は2%弱,後者は0.4%弱で推移していて,大幅な増加はないことをまず押さえる必要がある。
   
  平成19年度 15,979件(1.44%)  91億8299万円 (0.35%)
  平成20年度 18,623件 (1.62%) 106億1798万円 (0.39%) 
  平成21年度 19,726件(1.54%) 102億1470万円 (0.33%)
  平成22年度 25,355件(1.80%) 128億7425万円 (0.38%)

(2)若干の増加は課税調査の徹底によるもの
  確かに,平成21年度と同22年度を比較すると,「不正」受給件数・「不正」受給金額の発生率も若干ではあるが増加している。しかし,厚生労働省も指摘しているように,その要因としては,「全ケースに対する課税調査が徹底されたことが大きい」(2012年3月1日付け厚生労働省社会・援護局関係主管課長会議,保護課“自立推進・指導監査室”資料4ページ)。
  課税調査の徹底強化は,局長通知第12の3及び「課税調査の徹底及び早期実施について」(平成20年10月6日社援保発第1006001号厚生労働省・援護局保護課通知)から実施され,平成21年度からは,課税調査で収入が判明した者に対しては,「6月以降すみやかに変更処理を行う」ようにとの指示が加わった。平成23年度からは,「必要な時期に受給者全員を対象として実施するよう」にとの指示も加わり,「管外に転出された方や,保護が廃止になった方についても,課税調査が義務付け」られている。
  したがって,今後は,不正受給の件数・金額の発生率も増加していく可能性があるが,それは,課税調査の徹底強化方針という実施機関側の姿勢によって,これまで暗数となっていた不正受給が発掘されたことによる。受給者が悪質化しているなどの受給者側の事情によるものではないことに留意する必要がある。

5 不正受給対策は別の方法によって行うべき
(1)丁寧なケースワークによって不正受給は激減する
  先にも述べたとおり,「不正」受給とされるものの中には,高校生の子どものアルバイト代など申告義務があることを認識していなかったがために申告を怠っていたという,意図的でも悪質でもないものが少なくない。そして,実は,各種の収入があった場合には,申告さえすれば,先に述べた教育経費のみならず,資格取得等の生業経費や介護の経費など当該世帯の自立更生に資する費用が幅広く収入認定除外され得るのであるが,こうした制度については殆ど周知されず活用もされていない。
「不正」受給をなくすためには,ケースワーカーがきめ細やかなケースワークの中で,世帯主のみならず世帯員全員に収入の申告義務があることを被保護者に十分に理解させるとともに,当該世帯の自立更生に資する経費については積極的に収入認定除外を行うことを通じて,自発的に収入を申告させることが何よりも重要であり,これが十分になされれば,「不正」受給件数は激減するはずである。
  この点,生活保護法の立法を担当した小山進次郎も,「事務監査,特に,被保護世帯の実地調査を励行する等の方法により,不正事実の未然防止を図ることが最も重要である。」と述べている(生活保護法の解釈と運用,昭和26年12月15日改訂再発行版,823頁)。また,「生活保護実施の態度」においても,「法令に定める責務について被保護者が進んでこれを果すよう配意すること。」と述べられている(生活保護手帳2011年度版2頁)。
  そのためにも,一人のケースワーカーが100件以上ものケースを抱えるような現状を改め,基準に従った人員配置(80利用世帯に対して1名)と専門性の向上を図ることこそが重要である。

(2)悪質事案については個別に警察と連携すればよい
  一方,悪質な「不正」が疑われるケースについては,決して数が多いわけではないので,個別に所轄の警察署と十分な連携を図ることが必要であり,それで十分である。
一部の悪質な不正受給者のために,警察官OBを常時福祉事務所に配置し,一般の市民や生活保護受給者に対する相談対応にまで当たらせるというのは,明らかに行き過ぎであると言わざるを得ない。

                                           以 上


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