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当会は、現在、保護課長通知に端を発して各地の福祉事務所でトラブルが発生している資産申告書提出問題について、2月1日、厚生労働大臣に対して、以下のとおり、保護課長通知の撤回等を求める要望書を提出いたしました。
なお、この件についてはQ&Aパンフレットを作成して頒布する予定です。



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2016(平成27)年2月1日

厚生労働大臣 塩 崎 恭 久 殿

資産申告書に関する保護課長通知の
撤回等を求める要望書
 
             
生活保護問題対策全国会議
                       代表幹事 尾 藤 廣 喜


第1 要望の趣旨

1 生活保護利用者に対して最低年1回の資産申告を行わせるよう求める平成27年3月31日付厚生労働省社会・援護局長保護課長通知(社援保発0331第1号)は,生活保護法28条1項,60条及び61条の趣旨に反するので撤回されたい。

2 上記通知を撤回しないのであれば,通知の運用にあたって以下の諸点に留意し,生活保護利用者に対しても十分な周知説明を行うよう実施機関に周知されたい。
(1)上記通知が求める定期的な資産申告は生活保護利用者の義務ではなく,あくまでも被保護者の自発的協力を求める範囲で許容されるものであり,ましてや,保護の停廃止を前提とする生活保護法27条に基づく指導指示の対象となり得ないこと。
(2)保護費のやり繰りによって生じた預貯金等については,
① その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しない場合には保有が容認されること,
② 使用目的はある程度抽象的でも良いこと,
③ 使用目的が生活保護の趣旨目的に反することの立証責任が実施機関の側にあること,
④ 目的がない場合でも生活基盤の回復に向けた助言指導が必要であること。

第2 要望の理由
1 はじめに

 厚生労働省社会・援護局保護課長は,平成27年3月31日,実施要領の取扱いを変更する通知(社援保発0331第1号。以下,「本件通知」という。)を発した。そこでは,「被保護者の現金,預金,動産,不動産等の資産に関する申告の時期及び回数については,少なくとも12箇月ごとに行わせること」とされ,これまでは保護申請時のみに要求していた資産申告について,今後は最低年1回資産申告を求めることとされている。
これを踏まえ,各地で,生活保護利用中の者に対し,資産申告書の提出や通帳の提示等を求める運用が始まっているが,単に任意の協力を求めるにとどまらず,事実上これを強制する扱いが横行しているため,生活保護利用者の中に不安と動揺が広まっている。

2 会計検査院の指摘は金銭管理能力の不十分な被保護者に対するものである
本件通知発出の契機となった会計検査院の指摘は,「金銭の管理を委ねている救護施設入所者」及び「金銭の管理を委ねているグループホーム等入居者」の手持金に関するものである。換言すれば,金銭管理能力が不十分で,かつ,施設等に入所しているため累積金費消の必要性が類型的に乏しい被保護者の手持金に関するものである。
このような場合であっても,後述する東京都のような丁寧なケースワークが求められるところであるが,かかる会計検査院の指摘を一般の保護利用世帯(金銭管理能力があり,後述するような累積金費消の必要性があるのが通常である)の保護費の累積金にまで拡大することは明らかな過剰反応である。

3 本件通知は生活保護法の趣旨に反する
生活保護法61条は,「被保護者は,収入,支出その他生計の状況について変動があったとき(略)は,すみやかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない」と規定している。これは,生計の状況に変動があった場合に限り届け出義務を課すもので,こうした変動がないにもかかわらず機械的定期的な届け出義務を課すものではない。
また,同法28条1項は,「保護の実施機関は,保護の決定若しくは実施(略)のため必要があると認めるときは,要保護者の資産および収入の状況(略),当該要保護者に対して,報告を求め(略)ることができる」と規定している。これは,具体的な必要性が認められる場合に限り調査権限を認めるもので,かかる必要性が認められない場合に一般的抽象的な調査権限を認めるものではない。
 しかるに,本件通知が生活保護利用者の任意の協力を求めるものではなく義務を課すものであるとすれば,生計の状況に変動がない被保護者に対して機械的定期的に届け出義務を課し,具体的必要性が認められない場合に一般的抽象的に調査をする点において,生活保護法61条及び同法28条1項の趣旨に反し違法であると解される。
 ところで,厚生労働省は,本件通知について,「平成26年7月に施行された改正法の第60条において,生活保護受給者の適切な家計管理を促す観点から,生活保護受給者が主体的に生計の状況を適切に把握する責務を法律上に具体的に規定し,福祉事務所が必要に応じて円滑に支援することを可能としたことを踏まえ,生活保護受給者から少なくとも年に1回の資産申告を求め,福祉事務所が預貯金等の資産の状況を適切に把握することについて,実施要領等の改正を行う」ものと説明している(平成27年3月全国生活保護主管課長会議資料3(2)イ(イ)43頁)。しかしながら,同条の改正案の審議にあたり,桝屋厚生労働副大臣(当時)は,「あくまでも受給者が主体的に取り組んでいくことが重要であって,この責務を果たさないことをもって保護の停廃止を行うというようなことは考えておりませんし,あってはならないと思っております。議員御懸念のようなことがないよう,こうした法改正の趣旨について,周知徹底を図ってまいりたいと思います。」と明確に答弁している(平成25年5月31日衆議院厚生労働委員会における中根康浩議員に対する答弁)。これを踏まえ,厚生労働省も,「健康管理や金銭管理は,あくまで受給者が主体的に取り組んでいくことが重要であるため,本規定に定める生活上の義務を果たさないことだけをもって,保護の停廃止を行うことは想定していないことに十分ご留意いただくようお願いする。」と実施機関に対し特段の留意を求めていたのである(平成26年3月3日全国生活保護主管課長会議資料33ページ,3(4))。
したがって,改正法60条が,本件課長通知が求める資産申告を生活保護利用者に義務付ける根拠になり得ないことは明らかである。
以上から,本件課長通知は,あくまで生活保護利用者の自発的協力を求める範囲で許容されるものであり,同通知を根拠として資産申告書の画一的提出等を事実上強制する運用が行われれば,生活保護法28条1項,60条及び61条に違反し違法であることとなる。本件課長通知は,実施機関がかかる違法な運用を行う契機となり,現場に無用の混乱を発生させるものであるから撤回されるべきである。少なくとも,生活保護利用者に対して自発的協力を求めることが許されるにとどまり,資産申告書の提出を義務付けるものでないことについて周知徹底するべきである。

4 資産申告書不提出の者に対して指導指示違反の停廃止を行うことは許されない
 本件通知に基づいて資産申告書の提出等を求められたにもかかわらず,協力しない生活保護利用者がいた場合,指導指示違反により保護の停廃止を行うことは許されない。その意味において,生活保護利用者は本件通知に基づく資産申告書の提出に従う法的義務があるわけではない。
 なぜなら,生活保護法62条3項による保護の停廃止の前提となる同法27条に基づく指導指示は,「被保護者の自由を尊重し,必要の最少限度に止めなければならない」とされているところ(同条2項),上記のとおり,具体的必要性が認められないにもかかわらず機械的に年1回の資産申告を求める本件通知に基づく指導指示は,生活保護法61条及び28条1項の趣旨に反し「必要の最少限度」のものとは言えないからである。ましてや,先にも述べたとおり,生活保護利用者の自発的努力を求めるに過ぎない改正法60条が法27条に基づく指導指示の根拠となり得ないことは,より一層明らかである。実施機関の側がどうしても年1回預貯金の状況を確認する必要があると考えるのであれば,協力を得られない生活保護利用者については,生活保護法29条に基づいて金融機関等に対する調査を実施すれば良い話であって,生活保護利用者からの資産申告書等の提出に固執する必要はない。
また,仮に指導指示が有効であるとしても,指示違反の程度と課される制裁の重さは比例均衡している必要があり,軽微な指示違反に対して保護の停廃止という重大な制裁を課すことは許されないこと(比例原則)からすれば,具体的必要性が認められないのに単に資産申告書等を提出しないという軽微な指示違反を理由に保護の停廃止という重大な不利益処分を課すことは比例原則に反し許されない。前述のとおり,生活保護法29条に基づく金融機関等に対する調査の結果,未申告の収入(不正受給)が発覚したとすれば,当該不正受給に対して厳正に対処すれば良いのであって,法的義務ではない年1回の資産申告書等の不提出に対する制裁等を科す必要はない。
厚生労働省は,かかる法的解釈についても,実施機関に対して十分に周知するべきである。

5 保護費の累積金の収入認定は原則として許されない
 本件通知に基づいて資産申告書の提出等が行われた場合,保護費をやりくりした貯蓄の存在が明らかになることが予想される。かかる預貯金の存在が判明することで保護を打ち切られるのではないかとの不安を抱く生活保護利用者も少なくない。
 しかし,現行生活保護制度上,資産の保有は認めるが購入費用までは支給されない耐久消費財(テレビ、冷蔵庫、洗濯機等)などについては,保護費のやり繰りをした累積預貯金で購入することが当然の前提とされている。また子どもの進学,就学費用で高校等就学費等の保護費で賄えない費用や大学入学にかかる費用,さらに高齢者の葬儀費用で葬祭扶助では不足する額や墓石等も同様である。不意の入院等に必要な雑費等の備えも必要である。
生活保護制度自体がこのような保護費累積金を当然の前提としている以上,累積金があることがわかっても,このような経費のための費用として保有を容認することが基本的な姿勢とされなければならない。
 このような観点から,最高裁判決を含めた裁判例(※1※2)や厚生労働省通達(※3)も,保護費を原資とした預貯金は,預貯金の目的が生活保護費支給の目的や趣旨に反するものでない限り,収入認定せず保有を認めるべきとしている。そして,秋田地裁判決(※1)は,保有目的が抽象的であっても保護の趣旨目的に反しなければ保有が容認される旨判示しており,近時,「なんとなく貯めてきた」との回答を踏まえて預貯金を収入認定して保護廃止した事案(※4)や,累積金の使途が不明であることのみをもって生活保護の趣旨目的に反するとして収入認定を行った事案(※5)について処分の取り消しを命じる裁決も言い渡されている。
 また,東京都運用事例集問8-34は,一定額を超える預貯金等の保有が判明した場合には,まずは預貯金の目的等を確認し,「保有を容認できない資産性のあるものの購入(略)や一般低所得者との均衡を失するような消費(略)に充てる目的であれば,法の趣旨を説明し目的を変更するよう指導助言すること」とし,「特に目的等がなく単に累積したものである場合」でも,「直ちにこれを収入認定することは適当でなく,まず,最低限度の生活に欠ける部分を補い,生活基盤を回復させるために使うよう指導助言する。必要に応じては,自立更生計画書等の作成を通じて累積金の費消目的を定めながら,より安定した自立の助長を促すことが望ましい」として,事案に応じた適切なケースワークを求めている(※6)。
 したがって,資産申告書等の提出を求めるに先立ち,保護費の累積金については,預貯金の目的が生活保護の趣旨目的に反しない限り収入認定されないこと,当該目的はある程度抽象的なものでも良いこと及び目的がない場合でも生活基盤の回復に向けた助言指導が必要であることを実施機関及び生活保護利用者に対して周知徹底すべきである。
以 上
 
 
※1 秋田地裁平成5年4月23日判決は,生活保護費で蓄えた約81万円の預貯金のうち約27万円を収入認定して保護費を減額する処分と,残額についてはその使途を弔慰の用途に限定する指導指示をしたケースについて,「収入認定を受けた収入と支給された保護費は,国が憲法,生活保護法に基づき,健康で文化的な最低限度の生活を維持するために被保護者に保有を許したものであって,こうしたものを源資とする預貯金は,被保護者が最低限度の生活を下回る生活をすることにより蓄えたものということになるから,本来,被保護者の現在の生活を,生活保護法により保障される最低限度の生活水準にまで回復させるためにこそ使用されるべきものである。したがって,このような預貯金は,収入認定してその分保護費を減額することに本来的になじまない性質のものといえる。更に,現実の生活の需要は時により差があり,ある時期において普段よりも多くの出費が予想されることは十分あり得ることであり,そのことは被保護世帯も同様であるから,保護費や収入認定を受けた収入のうち一部を預貯金の形で保有し将来の出費に備えるということもある程度是認せざるを得ないことである。」とし,「生活保護費のみ,あるいは,収入認定された収入と生活保護費のみが源資となった預貯金については,預貯金の目的が,健康で文化的な最低限度の生活の保障,自立更生という生活保護費の支給の目的ないし趣旨に反するようなものでないと認められ,かつ,国民一般の感情からして保有させることに違和感を覚える程度の高額な預貯金でない限りは,これを,収入認定せず,被保護者に保有させることが相当で,このような預貯金は法4条,8条でいう活用すべき資産,金銭等には該当しないというべきである。なお,被告は,具体的な耐久消費財の購入等預貯金の目的が相当具体的で,かつ,それが生活保護法の趣旨に反しない預貯金である場合以外は保有は許されず,将来の不時の出費に備えるという程度では足りないと主張するが,生活保護費と収入認定を受けた収入で形成された預貯金については,前記のような源資の性格からして目的がそこまで具体的でなくとも,生活保護法の目的ないし趣旨に反しないものであれば,これを保有させるべきである。」と判示している。

※2 最高裁平成16年3月16日判決(いわゆる中嶋学資保険訴訟)も,「生活保護法による保護を受けている者が同法の趣旨目的にかなった目的と態様で保護金品又はその者の金銭若しくは物品を原資としてした貯蓄等は,同法4条1項にいう「資産」又は同法(略)8条1項にいう「金銭又は物品」に当たらない。」として,上記秋田地裁の判断を追認した。

※3 実施要領問答第3の18「(預貯金の)使用目的が生活保護の趣旨目的に反しないと認められる場合については,活用すべき資産にはあたらない」。

※4 平成27年2月10日石川県知事裁決は,保護費の累積金による預貯金約150万円について「なんとなく貯めてきた」との回答を踏まえて収入認定し保護廃止した事案について,事後的に「生涯独り身であることから,将来の入院費用や介護施設入所のための保証金,階段の上り下りが困難になった時の転居費用等のためのものである」との説明がなされていることから,「累積預貯金の使途目的について新たに説明を行っていることについては(略),前審査請求に係る裁決後に判明した事実により,処分内容を検討することは可能であると認められ」,処分庁は,「新たな証言である前記の事実を踏まえ,あらためて累積預貯金の使用目的を聴取した上で処分を決定すべきであった」として保護廃止処分を取り消した。この裁決を受け,処分庁は累積金認定による保護廃止期間の保護費130万6,989円を支給した。

※5 平成27年12月7日高知県知事裁決は,転入移管前に消費した保護費の累積金の使途を確認し,使途不明金約6万円について使用目的が生活保護の趣旨目的に反するものとして収入認定した事案について,「使途不明であることのみを以て,生活保護の趣旨目的に反するとして(略)収入認定を行っている」のは,「生活保護の趣旨目的に反するとする合理的な根拠が示されていないことから,原処分には法第56条に規定する正当な理由があるとは認められない。」として,原処分を取り消し,「使用目的が生活保護の趣旨目的に反すること」の立証責任が実施機関側にあることを明らかにした。

※6 東京都運用事例集問8-34は,生活基盤の回復に向けた指導助言が必要な理由として,「保護費を繰越しして一定額を超える預貯金を保有するに至った経緯には,単に節約を図っただけでなく,食事や衣料品等の生活必需品を極度に切りつめた生活をしてきた結果当該被保護世帯はどこかに最低限度の生活に欠けるところが生じている可能性が推測される。」と説明している。なお,同問答は,「保有を容認する範囲を超えた額の基準(目安)」について,「一律に定めることは困難である。世帯の状況を把握したうえで,慎重に見極める必要がある」としつつも,「目安としては,累積金のすべてが目的のない状態であった場合,保護の停廃止の期間の考え方を用いれば,当該世帯の基準生活費の概ね6月分相当の額に達した場合と考えられる」としている点も参考になる。




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