当会は、2月1日、生活保護基準引き下げ訴訟に関して、全国争訟ネットと共同で、以下のとおり公開質問状を発しました。

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2016(平成28)年2月1日


法務大臣  岩城光英 殿
最高裁判所長官  寺田逸郎 殿

全国各地で提訴される集団訴訟において、元「訟務部付検事」が裁判官職務復帰後に事件担当することに強く抗議し、徹底調査を求める公開質問状


生活保護基準引き下げにNO!全国争訟ネット代表 弁護士 竹下義樹
生活保護問題対策全国会議代表幹事 尾藤廣喜



第1 はじめに~自己紹介
 生活保護問題対策全国会議は、弁護士、司法書士、研究者、支援者、生活保護ケースワーカー、マスコミ関係者、生活保護利用当事者など500名近い会員で構成し、生活保護をはじめとする社会保障制度の改善・充実を求めて活動している市民団体です。
 また、生活保護基準引き下げにNO!全国争訟ネットは、弁護士、司法書士、研究者及び支援者で構成される市民団体であり、後記集団訴訟ないしこれに先立つ審査請求運動に関する情報共有や意見交換の中核を担っています。

第2 本公開質問に至る経緯ないし理由
1 本件集団訴訟の概要

 2013年8月から2015年4月まで3回に分けて、大半(96%)の保護世帯を対象として、生活扶助基準が平均6.5%、最大10%引き下げられたことを受け、全都道府県で延べ2万人以上の生活保護利用者が審査請求を行いました。そして、2014年2月の佐賀地裁への提訴を皮切りに、全国各地で提訴が相次いでいます(以下、当該訴訟事件を総称して「本件集団訴訟」といいます。)。
 本件集団訴訟の被告は、保護変更等決定をなした実施機関の所属する行政庁(取消請求)だけでなく、保護基準引き下げを決定した国も含まれています(国家賠償請求)。本日現在、北は北海道から南は沖縄まで26の都道府県の地裁で、850人を超える原告が、本件集団訴訟に加わっているのです。
 各地の弁護団も、それぞれの地域での訴訟進行状況について情報交換・意見交換を重ね、準備を行っています。
また、本件集団訴訟の本質は、被告国の政策決定が憲法25条や生活保護法に違反しているか否か、その是非を問うものですから、個々の原告に関する被害の実態についての違いは格別、各地の訴訟において、論点の大部分は共通しています。

2 川﨑慎介裁判官の本件集団訴訟への関わり
(1)さいたま地裁における関わり
 川﨑慎介裁判官(新62期。以下、「川﨑裁判官」といいます。)は、平成22年1月16日にさいたま地裁第1民事部の左陪席として赴任した後、いわゆる「訟務部付検事」に転じ、同地裁での集団訴訟(平成26年(行ウ)第34号事件。以下、「さいたま事件」といいます。)において、被告国外8名の筆頭指定代理人として、下記の期日に出廷し、訴訟活動を行いました。
       記
2014年11月19日 第1回口頭弁論期日
2015年2月6日   進行協議期日   
2015年2月25日  第2回口頭弁論期日
2015年3月25日  進行協議期日   
(2)金沢地裁への転任ないし同地裁における関わり
川﨑裁判官は、2015年4月1日付けで金沢地裁へ着任となり、同地裁における集団訴訟(平成26年(行ウ)第8号事件。以下、「金沢事件」といいます。)において、同地裁民事部右陪席として合議体に加わり、下記の期日に出廷し、審理に加わりました。
      記
2015年5月14日  第2回口頭弁論期日
2015年8月10日  第3回口頭弁論期日
2015年11月26日 第4回口頭弁論期日

3 除斥・忌避事由の存在
 裁判を受ける権利の保障(憲法32条)は、公正な審理・裁判を受ける権利の保障を含意していますが、公正な審理・裁判を保障するためには、手続の公正だけでなく、裁判所(その構成員のうちでもとりわけ裁判官)の公平が確保されなければなりません。除斥・忌避等は、このような憲法的要請を受けて、個々の事件との関係で裁判官の公平を確保し、裁判の公正に対する利用者・国民の信頼を維持するための手当の1つとされています。事件と特殊な関わりのある裁判官であっても公正な裁判をなしえないというわけではなく、そのような場合でも公正な裁判をするのがむしろ裁判官の職責です。にもかかわらず、除斥・忌避等の制度が設けられているのは、むしろ公正に関する当事者・国民の疑惑を払拭するためであって、いいかえれば裁判官の公平の外観が重視されているのです(以上、新堂幸司外編「注釈民事訴訟法(1)」311頁・有斐閣)。
 民事訴訟用23条1項5号は、除斥事由として「裁判官が事件について当事者の代理人(略)であったとき」を挙げていますが、上記の除籍・忌避制度の趣旨から、ここでいう「事件」とは、受訴裁判所における当該事件のみを意味するのではなく、これと同一のものとみられるべき紛争事件を広く含むものと解されています(名古屋高裁昭和63年7月5日決定、判例タイムズ669号270頁)。
 しかるところ、前述のとおり、さいたま事件も金沢事件も、平成25年厚生労働省告示第174号による保護変更決定及び平成26年厚生労働省告示第136号による保護変更決定の取消し、及び、生活保護基準引下げを内容とする上記告示等を発出したことについての損害賠償を求める訴訟であり、生活保護基準部会における検証結果を踏まえた調整の問題点や生活扶助相当CPIの問題点等の紛争の主たる争点は同じであり、原被告双方がほぼ同一の主張を応酬しています。したがって、さいたま事件は、頭書事件と実質的にみて同一のものとみられるべき紛争事件に該当します。
 このように実質的にみて同一のものとみられるべき事件について、川﨑裁判官は、国の指定代理人として訴訟活動を行い、その後、裁判官として審理を行うことになったのですから、民事訴訟法第23条第1項5号の「裁判官が事件について当事者の代理人であったとき」に該当し、また、民事訴訟法第24条第1項の「裁判の公正を妨げるべき事情」が認められることが明らかです。すなわち、除斥事由及び忌避事由のいずれもが存在します。
 ここで、インフルエンザなどの予防接種で死亡したり、障害を負った患者や遺族らが裁判官の忌避を申し立てた事件(名古屋高裁昭和63年7月5日決定、判例タイムズ669号270頁)では、単に法務局訟務部付検事として国の指定代理人の職務に従事していたことというだけでは裁判官の除斥事由(現行民事訴訟法23条1項5号)には該当せず、裁判官を忌避すべき事案(同法24条1項)には該当しないとされました。
 しかし、同事件は、一般的に国の指定代理人の職務に就いていたことが忌避事由としての「裁判ノ公正ヲ妨グヘキ事情」(旧民事訴訟法37条)に該当するかが争点となった事件です。これに対し、本件では紛争の主たる争点が全く同じ事件の指定代理人になっていたことが問題となっているもので、事案が全く異なります。実際、同裁判例も「(旧)民事訴訟法35条5号にいう『裁判官カ事件ニ付当事者ノ代理人・・・・・・ナリシトキ』との『事件』とは受訴裁判所に係属する具体的な個々の事件又はこれと同一のものとみられるべき紛争事件をいうものと解されるところ、本件の裁判官Aが右の本案事件等につきこれの代理人になつた形跡のないことは前記のとおりであるから、同裁判官が前記の期間同法務局訟務部付として前記の職務等に従事したことの一事をもつて、同裁判官が本案事件の審理裁判に関与することにつき実質的に(旧)民事訴訟法35条5号の事由ありということのできないこと、従つて、このことにつき(旧)同法37条の裁判の公正を妨げるべき事情ありとみることのできないことは明らかであ(る)」(括弧書き部分及び下線は執筆者による。以下同じ。)と判示しております。当該裁判官が「同一のものとみられるべき紛争事件」について被告代理人として訴訟活動を行っていた場合には、裁判の公正を妨げる極めて重大な事情があるといわなければなりません。川﨑裁判官は金沢事件からは、当然に除斥または忌避されるべきです。
 なお、川﨑裁判官がさいたま地裁において訟務部付検事として被告国外8名の指定代理人として訴訟活動を行っていたことにつき、金沢地裁における集団訴訟の弁護団が知ったのは、さいたま地裁の弁護団から訴訟の進行状況について情報提供があった、2015年12月4日のことです。したがいまして、上記第2回~第4回の口頭弁論期日には、「忌避の原因があることを知らなかったとき」(民事訴訟法24条2項但し書き)に該当します。

4 判検交流の問題点
裁判官と検察官との相互の人事交流(いわゆる「判検交流」)は、なれ合いとの強い批判を浴び、刑事部門については平成24年に4月に廃止されたものの(http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00289.html)民事部門では継続しており、また、川﨑裁判官が金沢地裁に赴任した平成27年4月は折しも、行政改革のため2001年に廃止された法務省内の「訟務局」が14年ぶりに復活した時期です(2015年4月20日読売新聞記事)。しかしながら、全国各地で審理されている集団訴訟事件において訟務部付検事として訴訟活動を行った人物が、裁判官としての職務に復帰し、本件同様地域をまたいで当該集団訴訟事件の審理に加わることがあっては、人権保障の最後の砦としての裁判所が、被告国との間でなれ合いをしているという、強い批判を受けて当然です。

5 まとめ
 私たちは、川﨑裁判官が金沢地裁において本件集団訴訟の審理に加わったことは「裁判官が事件について当事者の代理人・・・で・・・あったとき」(民事訴訟法23条1項5号)、「裁判の公正を妨げるべき事情」(同法24条)に該当するものと確信しますが、この点については、本日申立予定の、裁判官除斥または忌避申立て事件における同地裁の審理結果に委ねるほかありません。
そこで、私たちは、裁判の公正を根底から疑わせる事態が生じたことを深く憂慮し、断固として抗議するとともに、下記事項について公開質問を行う次第です。
 ご多忙中に恐縮ですが、本質問に対する回答は、2016年(平成28)年2月29日までに、末尾記載の連絡先まで書面にていただきますようお願い致します。

第3 公開質問事項
1 いわゆる「判検交流」によって訟務部付検事となった(もと)裁判官が、全国各地の裁判所で審理されている集団訴訟事件において、一方当事者とりわけ国家ないし国家機関の指定代理人として訴訟活動を行った場合、たとえ別の裁判所であったとしても裁判官の職務復帰後当該集団訴訟事件の審理に加わることは、国民の裁判所に対する信頼を著しく害し、「判検交流」があたかも国家機関と裁判所との癒着の象徴として受け取られるおそれがあるのではないか。
この点に対する貴職らの認識ないし見解を明らかにされたい。

2 本件集団訴訟事件において、川﨑裁判官同様、いわゆる「判検交流」によって訟務部付検事として被告国の指定代理人として訴訟活動を行った後、裁判官の職務に復帰した人物は何名いるか。
全ての氏名と、指定代理人として訴訟活動を行った地域、職務に復帰した際ないし現在の所属を明らかにされたい。

3 上記のうち、復帰した裁判官の職務において本件集団訴訟を担当した人物は、川﨑裁判官の他にもいるのか。
いる場合には、全ての氏名と、担当時点の所属を明らかにされたい。

4 本件集団訴訟事件において、裁判官として事件を担当した後、いわゆる「判検交流」によって、訟務部付検事として被告国らの指定代理人として、同一または他の裁判所において訴訟活動を行った人物はいるのか。
いる場合には、全ての氏名を明らかにされたい。

5 民事事件部門における「判検交流」について、今後も継続するのか。仮に継続する場合、本件を受けて、制度設計または運用面について、何らかの見直しをするのか。

以 上



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