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 吉村大阪市長は、大阪市立大学が行った生活保護に関するビッグデータ分析を受けて、①生活保護受給審査特別チームの設置や②母子世帯に対する就労支援の強化を提言しています。しかし、吉村市長の提言は、上記データ分析を曲解し、いたずらに生活困窮者を追い詰めるものであるため、私たちは、本日、大阪市に意見書を提出しました。



2017年8月8日


生活保護ビッグデータ分析を曲解した
吉村大阪市長提案に関する意見書


生活保護問題対策全国会議,反貧困ネットワーク大阪,シンママ大阪応援団,野宿者ネットワーク,近畿生活保護支援法律家ネットワーク,全大阪生活と健康を守る会連合会,なにわユニオン,ユニオンぼちぼち,大阪子どもの貧困アクショングループ(CPAO),特定非営利活動法人ジョイフルさつき,一般社団法人エープラス,NPO法人多重債務による自死をなくす会コアセンター・コスモス,全国「精神病」者集団,「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラム実行委員会,怒っているぞ!障害者切りすて!全国ネットワーク,兵庫県精神障害者連絡会,生活保護支援九州・沖縄ネットワーク(以上18団体)

第1 はじめに
 大阪市と大阪市立大学公共データ解析プロジェクトチームは,本年7月7日,大阪市が保有する行政データを活用したビッグデータ分析における国内初の事例として,生活保護を対象としたデータ分析の結果を取りまとめ(以下,「本件報告書」という。),公表した。
 これを受けて,吉村洋文大阪市長は,大阪市の生活保護受給者数や金額は橋下市政の代から5年連続で減少しているとし,「更にもっと,やっぱり今後下げていくためには,どうしたらいいのかってことです。ほっとけばやっぱり増えますんでね…より厳しく,きちっとこの施策を進めていかないとすぐ広がってくるだろうな,という危機意識は持っています。」と生活保護削減の必要性を強調したうえで,①大阪市に転居してすぐの生活保護申請に対応するため受給審査の専門チームを立ち上げること,②受給期間が長期化している母子世帯に対する就労支援策を強化することを提案している(7月20日市長記者会見。大阪市HP)。
 しかし,吉村市長の上記提言は,生活困窮者が置かれている実情をリアルに把握することなく,本件報告書を曲解している。何の根拠もなく,生活保護の削減のみを目標として,いたずらに生活困窮者を追い詰めようとするものであって,到底容認できない。

第2 「生活保護目的で大阪市に転居してすぐの生活保護申請が多い」というデータなどない
1 吉村市長の発言内容
 前者の「大阪市に転居してすぐの生活保護申請」については,「生活保護を目的に大阪市に引っ越してきたとみられる人たちは平成27年度に男性受給者の19.8%,女性受給者の10.6%」といった報道がされ(7月8日NHKニュース),吉村市長は,「大阪市に入ってのすぐの生保申請については,原因をさらに分析調査し,受給審査の専門チームを立ち上げる(7月10日ツイッター)」,「大阪市に転入してすぐ生活保護を申請するケースが突出して多い。なんでだ?これを適正に審査するのは当たり前。だって大阪市民の税金を使うんだから(7月20日ツイッター)」と発言した(7月20日の市長会見でも同旨の発言をしている)。
 吉村市長の上記発言は,①生活保護受給を目的として②大阪市に転居してきてすぐ(6か月以内)に③生活保護を不適正に受給している者の割合(パーセンテージ)が④他都市と比較して突出して多いこと,⑤生活保護費が大阪市民の税金を原資としていることを前提にしている。しかしながら,以下述べるとおり,吉村市長の発言は,上記①ないし⑤のすべての点において,まったく根拠を欠いている(なお,上記NHKの報道にあるパーセンテージは,新規の保護開始数を分母にした数字のはずだが,生活保護受給者全体を分母と誤解させる不正確な報道である。)。

2 吉村市長の発言内容の問題点
 まず,①については,本件ビッグデータ分析からは何を目的に大阪にやってきたのかという「主観」は全く読み取れない。また,②について,本件報告書は,「市民日(=住民登録日)」を起点としており,「大阪市に転居してきた日」を起点としているわけではない。支援の現場感覚では,地元に住民票を残したまま仕事を求めて来阪したものの,仕事が見つからず,あるいは,しばらく仕事をしたものの失業し,やむを得ず生活保護を利用するに至る人が多い。上記の数字にはこうした人々も多数含まれていることが当然に想定される。なお,本件報告書も,受給が長引かず,「短期に廃止にいたることも多いので,必ずしも増加要因を形成しているとは言い難い。」としている。
 ③については,仮に来阪してすぐに生活保護申請をしたからといって,それ自体が不適正な生活保護受給であるということにはならない。かつて言われた大阪行きの片道切符を渡すような自治体の扱いは非難されてしかるべきであるが,そのような扱いをされた当事者についても,生活保護の要件を満たす限り保護を適用するのが当然である。また,吉村市長自身,そのような事例が最近はあまりない旨述べている(7月20日市長記者会見)。
 ④については,本件報告書も,「全国でも初めて数値としてはじき出したので,比較事例はない」と明記しているとおり,来てすぐの生活保護受給が「他都市と比較して突出して多い」という根拠は全くない。
 ⑤については,生活保護費の4分の3は国庫負担である(生活保護法75条)。残りの4分の1は地方負担ではあるが,地方交付税交付金で裏打ちされており,大阪市の「持ち出し」はごく一部に過ぎない。むしろ,保護費の大部分は国費が投入されており,そのほぼ全額が消費に回るので地域経済の活性化に役立っている面があることも見逃してはならない。

3 小括
 以上のとおり,吉村市長の発言は,事実の根拠を全く欠く無責任な思い付きというほかない。しかも,市長は,特別の審査チームを各区に置くのは人員上無理なので,問題の多い区には常駐させるが,その他の区は本庁にチームを置き,必要に応じて各区に派遣する旨述べている(7月20日市長会見)。しかし,こうした体制を実効的に稼働させることは実務上困難と思われる。来阪後,あるいは,住民登録後間もない申請者に対する審査をいたずらに長期化・厳格化し,生活困窮者を排斥し追い詰めるおそれが強い。「闇の北九州方式」と言われたかつての北九州市のように「水際作戦」を強化するものであって到底容認できない。

第3 母子世帯の母親に対するさらなる就労強化は母子を苦しめることになる
1 吉村市長の発言内容
 次に,吉村市長は,ひとり親世帯の生活保護利用期間が長期化している対応策として,「就労支援策の強化」を打ち出している。
 しかし,今回のビッグデータ調査では,ひとり親世帯がどのような困難を抱えて生活しているのか,なぜ生活保護利用期間が長期化しているのか,その実態については何ら明らかとなっていない。母子世帯が抱える疾病その他の就労阻害要因に何ら目を向けることなく,「就労支援の強化」といったお題目を唱えても効果は限定的であるばかりか,困難を抱えた母子世帯の母親と子どもをさらに追い詰めることとなる。

2 母子世帯が置かれている状況
(1)被保護母子世帯の7割がDV被害を受け精神疾患の割合が高い
 厚生労働省の調査(平成21年12月11日付「生活保護母子世帯調査等の暫定集計結果~一般母子世帯及び被保護母子世帯の生活実態について~」)によれば,被保護母子世帯の7割がDV被害の経験を持ち,そのうち8割の母親が精神的不調を来たし,6割の子どもがDV被害の影響を受けている(18頁)。
 被保護母子世帯のうち,病気やけがなどによる体の具合に対する自覚症状があるとする母親は72.9%に達し,一般母子世帯の37.1%の2倍に及ぶ(11頁)。現在通院をしている母親の傷病の種類についても,うつ病等の精神疾患の割合が3割と一般母子世帯の3倍に及んでいる(13頁)。
 こうした母親の精神状態へのケアを抜きに就労指導のみを強化することは,その精神状態をさらに悪化させるおそれが強い。

(2)被保護母子世帯の子どもの健康状態も悪い
 被保護母子世帯のうち,病気やけがなどによる体の具合に対する自覚症状があるとする子どもの割合は34.1%もあり,一般母子世帯の24.8%よりもかなり高い(20頁)。実際に通院している子どもの傷病の種類についてみると,「うつ病やその他こころの病気」は12.2%で,一般母子世帯の1.3%と比較すると約10倍に及んでおり,被保護母子世帯の子どもの心の病気の割合は著しく高い(22頁)。
 実務感覚からしても,被保護母子世帯の子どもは,発達障害等の障害を抱えていたり,学校でイジメにあって不登校となっているなど,母親の就労阻害要因となっていることが少なくない。こうした子どもへの支援を抜きに,いたずらに母親の就労時間を増加させることは,子どもが抱える問題をより悪化させるおそれが強い。

(3)働ける母親はすでに働いている
 上記のとおり,被保護母子世帯は,一般母子世帯の中でも特にDV被害経験やうつ病等の精神疾患等の多重の困難を抱えているにもかかわらず,42.2%が働いている(2頁)。一般母子世帯の有職率81.4%(同前2頁)と比較するとかなり低いが,職がないと回答した理由は,一般母子家庭では「健康に自信がない」とする回答が37.4%であるのに対し,被保護母子世帯は64.7%となっており(3頁),前述のとおりの精神疾患を初めとする健康状態の悪さが背景にあることがうかがえる。また,現在就業中の母親の健康状態については,被保護母子世帯では29.9%が「よくない」又は「あまりよくない」と回答しており(一般母子世帯では14.3%),健康状態が悪い中,無理をおして働いている様子がうかがわれる(6頁)。
 一方,実態により近いと思われる毎年の全数調査の結果によれば,被保護母子世帯のうちの稼働世帯の構成比は,1995(平成7)年以降一貫して5割前後(平成26年12月速報値では49.4%)で推移している。これは,高齢者世帯4.2%,傷病者・障害者世帯13.1%,その他の世帯39.3%と比較しても突出して高い。
 このように,多重の困難を抱えた被保護母子世帯のうち,働ける者は皆,かなり無理をしながら働いている。それでも生活保護から脱することができないのは,低賃金の不安定雇用にならざるを得ない現実(女性の平均賃金は男性の約7割,非正規女性社員の平均賃金は正規女性社員の7割程度)があるからである。
 十分な収入が得られる就労場所の提供なくして就労指導だけを強化しても生活保護基準を上回る収入を得ることは期待できない。

3 小括
 以上のとおり,厚生労働省の調査によれば,被保護母子世帯の7割がDV被害の経験をもち,そのうち8割の母親が精神的不調をきたしている。被保護母子世帯の母親,子どもともに健康状態が悪く,特にうつ病等心の病気の罹患率が高い。そして,働ける母親はすでに働いている。
 こうした実情を何ら考慮することなく,単純に「就労支援策の強化」のみを打ち出すことは,多重の困難(特に心の病気)を抱えた被保護母子世帯の母親と子どもをさらに追い詰め,貧困の連鎖を増幅することにつながりかねないことに思いを致すべきである。


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 生活保護問題対策全国会議 事務局長 弁護士 小久保 哲郎





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