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 当会が、神奈川県と同県下の全市(ただし、協力を得られなかった厚木市、大和市、南足柄市を除く)の「保護のしおり」を分析・チェックしたところ、誤解を招く不適切な記載が多々見受けられました。そこで、当会は、本日、神奈川県に「小田原市『ジャンパー事件』を契機に福祉事務所への監査のあり方見直しを求める要望書」を提出しました。



2017(平成29)年10月6日

神奈川県知事 黒 岩 祐 治 殿


小田原市「ジャンパー事件」を契機に
福祉事務所への監査のあり方見直しを求める要望書

              
生活保護問題対策全国会議
                       代表幹事 尾 藤 廣 喜


第1 要望の趣旨
1 生活保護法施行事務監査は、濫給防止に偏ることなく、漏給防止の観点からも実施すること。
2 平成30年度から、貴県の上記事務監査実施計画の重点事項として、「保護のしおり」及びホームページの記載等につき、①内容が法に適合しているか(誤解を招くものとなっていないか)、②記載すべき事項が記載されているか、③記述が分かりやすいものとなっているか、④アクセスが容易であるか等の項目を加え、添付の評価一覧表を参考に記載内容の是正を求めること。

第2 理由
1 漏給防止の観点からの適切な監査を
 2017(平成29)年1月、神奈川県小田原市の福祉事務所職員らが、「保護なめんな」「不正を罰する」等生活保護利用者を威圧するような文言が記載された揃いのジャンパーを十年間着用し続けていたことが報道され問題となった。
 その後、同市が設置した「生活保護行政のあり方検討会」では、有識者らから、①申請から14日以内の決定という法定期間の不遵守、②ホームレス状態の人々に対して無料低額宿泊所のみを紹介する居宅保護原則に違反する運用、③過度に厳しい扶養調査、④「保護のしおり」の記載内容の不親切・不適切等、多くの問題点が厳しく指摘された。こうした指摘を受けて、同市は、「生活保護のしおり」を全面改訂するなど、保護行政改善の一歩を踏み出している。
 ところが,上記検討会においては、「これまで神奈川県の監査では誉めてもらっていたので混乱している」旨の同市職員の発言がみられた。また、同市職員に対するアンケートでも、「県監査の実施状況からも、現在でも CW の質については県内でもトップクラスであると思う。」、「県の施行監査結果でもわかるとおり、他市と比べてもしっかりと行っているし、ひとりひとりの意識は高いと思っている。」、「県の監査結果を確認してもらえれば一目瞭然であると思うが、県内の福祉事務所の中で保護適正実施ではトップと言っても過言ではないほどの評価を頂いている。」等の記載があり、貴県が小田原市の生活保護行政に対して高い評価を与えていたことが伺える(生活保護アンケート、自由記載欄 質問ⅢーQ5より)。
 すなわち、貴県は、長年にわたって同市の違法又は不適切な生活保護運用を見過ごし、むしろ高い評価を与えていたというのである。とすれば、今回の小田原市「ジャンパー事件」は、違法又は不適切な生活保護運用を是正すべき立場にある貴県が、「漏給(保護を必要とする人が給付を受けられないこと)防止」の観点からの適切な監査を行い得ていなかったために発生したという側面がある。
 そこで、私たちは、貴県に対し、生活保護法施行事務監査を、「濫給(保護を必要としない人が給付を受けていること)防止」に偏ることなく、「漏給防止」の観点からも実施することを求める。


2 特に「保護のしおり」について

(1)はじめに
 厚生労働省の生活保護法施行事務監査事項1(1)は、「保護の受給要件等制度の趣旨は、『保護のしおり』の活用等により、要保護者に正しく理解されるよう十分説明され、相談内容に応じた懇切丁寧な対応が行われているか」を着眼点の冒頭に掲げている。かかる監査を行うためには、その前提として、「保護のしおり」に記載されるべき事項が適切に記載されているか否かを確認することが当然に求められる。
 そこで、私たちは、貴県の事務監査実施計画の重点事項として、「保護のしおり」及びホームページの記載等につき、①内容が法に適合しているか(誤解を招くものとなっていないか)、②記載すべき事項が記載されているか、③記述が分かりやすいものとなっているか、④アクセスが容易であるか等の項目を加えることを求める。
 また、今般、上記のとおり小田原市の「保護のしおり」が大幅に改良されたのを機に、私たちは、貴県及び神奈川県下の全市に「保護のしおり」の提供を求め、回答のなかった厚木市、大和市、南足柄市を除く全自治体の「保護のしおり」について分析評価を行った。その結果、貴県を含むほとんどの自治体の「保護のしおり」に誤解を招く記載など是正を要する記載が多々見受けられた。
 そこで、私たちは、貴県に対し、添付の「保護のしおり」チェックポイント一覧表を参考として、各自治体に記載内容の是正を指導するよう求める。

(2)具体的なチェックポイントと神奈川県下の自治体の保護のしおりの問題点

ア 形式面
 相談すべき場所や電話番号がわかりやすく書かれていることは最低限必要である。
 イラストや図表を利用するなどして見やすいレイアウトがなされていることも不可欠であるが、文字ばかりで一見して読む気をなくすものも少なくない。
 生活保護利用者の中には、障がいや低学歴等で漢字を読めない方も少なからずおられるので、ルビがふってあることが望ましい。

イ 制度の法的位置づけ
 憲法25条の生存権保障に基づく制度であることが記載されるべきであるが、ほとんどの自治体において言及がない。
 単なる「最低生活」ではなく「健康で文化的な生活」を保障するものであることが記載されるべきであるが、これもほとんどの自治体において言及がない。
 生活保護法1条にいう「自立の助長」の「自立」とは、「経済的自立(就労自立)」だけでなく、生活保護を利用しながらの「日常生活自立」や「社会生活自立」を意味するものである(生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書)。しかし、貴県を含めて多くの自治体が「1日も早く自分の力で生活していけるように」と経済的自立(保護から脱却すること)のみを求める誤った記載をしている。

ウ 権利と義務
 生活保護利用者の権利と義務がバランスよく記載されるべきであるが、多くの自治体が義務の記載に偏っている。不服申立て権などの重要な権利についての教示がない自治体も少なくない。
 保護開始・変更申請権の存在は極めて重要な事柄であるが、これが明記されている自治体がほとんどない。申請から決定まで原則14日の法定期間や手続きの流れさえ書かれていない自治体も多いが、これでは、どのようにして生活保護を利用すれば良いかが分からない。
 また、適正かつ自発的な申告を促すためには、申告義務の存在だけでなく、申告した場合の各種控除のメリットを教示することが不可欠である。しかし、申告義務の記載のみがあって申告した場合のメリットの教示がない自治体の方が多い。特に、不正受給の多くを占める高校生のアルバイト料の未申告については、申告しさえすれば多くの控除が認められて殆どの場合不正受給とならずに済むことを積極的に教示すべきである。これを行っている自治体もあるが、未だ少数派である。

エ 保護の要件・他法他施策
 資産保有については、預貯金、保険、不動産、自動車、バイク等を同列に列記し、いずれも同様に(保護を利用する前に)処分を要するかのごとき記載をしている自治体が多い。すぐに換金できる預貯金等以外は、処分を要する場合でも、生活保護利用後の換金で構わない(但し、その間受け取った保護費の返還が必要である)ことを明記すべきである。
 また、居住用不動産については原則保有が認められているのに、その説明がない自治体がほとんどである。また、生命保険や自動車についても例外的に認められる場合があることや、125CC以下のバイクについては原則的に保有が認められることの説明がない自治体がほとんどである。
 生活保護法4条2項にいう、親族扶養が保護に「優先」するとの表現は、最も誤解を招きやすい。扶養の期待可能性のある親族から現に仕送り等の扶養がなされた場合にその分保護費が減額されるという意味であることを正確に説明する必要がある。しかし、親族扶養が保護利用の前提条件であるとの誤解を招く記載も少なからず見受けられる。また、保護利用にあたって本人自身が常に親族に扶養を求めていかなければならないかのごとき誤解を招く記載も少なくない。生活困窮者には親族との関係が悪化している方も多いので、安心して生活保護を利用してもらえるよう、DV、70歳以上、20年以上音信不通等扶養の期待可能性がない場合には、役所からの扶養照会もされないことを積極的に記載し説明すべきである。

オ 保護の種類と内容
 保護の種類や内容について、イラスト等を利用しながらわかりやすく説明している自治体がある一方、こうした説明のない自治体もある。
 最低生活費と収入の差額が支給されることを図示して説明している自治体は多いが、就労の場合の基礎控除などまで説明している自治体は未だ少ない。
 医療については詳しい説明のある自治体とそうでない自治体がある。通院移送費については説明のない自治体が多いが、医療扶助運営容量第3-9(3)が明確に事前に周知を求めている以上、必ず記載されるべきである。治療材料費についても説明のない自治体が多い。
 貴県のしおりには、被服費、家具什器費、転居費用、住宅補修費等の一時扶助が可能であることが明記されており評価できるが、こうした記載のない自治体も少なくない。



(3)まとめ
 以上のチェックポイントは、私たちが議論を重ねて独自に設定したものである。これが唯一無二、完全無欠のものではなく、必要な情報がより正確に制度利用者に伝わるよう改善を重ねる必要があると考えているが、まずは、一つの参考意見として、各自治体に具体的な是正を求めていただきたい。
以 上


添付評価一覧表「保護のしおりチェックポイント」
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各自治体の「保護のしおり」
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