福島市の生活保護を利用している母子世帯の高校生が、せっかく給付型奨学金を受けたのに福島市が全額収入認定して保護費を減額したという鬼のようなケースで、1月16日、福島地裁が、国家賠償(各5万円の慰謝料支払い)を認める、原告勝訴の判決を言い渡しました。
奨学金の収入認定に関する厚生労働省通知の改善や、生活保護世帯の子どもの大学進学問題の社会問題化の切っ掛けともなったこの事件で、当たり前とはいえ、当事者の方の精神的苦痛を認める国賠判決が出たことには大きな意味があります。
福島市が控訴して、これ以上母子につらい思いをさせることのないよう、福島市に対して、「控訴するな!」の声を寄せていただければと思います。
<福島市HP「福島市へのご意見」>
http://www.city.fukushima.fukushima.jp/skyodo-kocho/shise/kocho/300.html
本日,福島地方裁判所(金澤秀樹裁判長)は,福島市奨学金収入認定事件(平成27年(行ウ)第6号。以下,「本件」という。)につき,原告勝訴の判決(以下,「本判決」という。)を言い渡した。
1 福島市福祉事務所長の処分の違法性及び過失
本判決は,給付型奨学金は自立更生のための恵与金(次官通知第8の3の⑶のエ)に該当し,給付型奨学金が保護費で賄うことができない費用等に使用されることを確認すれば収入認定除外されるということを前提に,次のとおり,違法性及び過失を認めた。
(1)保護費で賄えない就学費用が現実に発生した場合には,生活費に不足する結果となることが十分にありえるのであるから,給付型奨学金を収入認定することについては慎重な態度で臨むべきである。
(2)保護の実施機関としては,給付型奨学金の収入認定除外を検討することなく収入認定をした場合には,生活扶助費を割り込むおそれがあることに照らすと,被保護者に対して適切に助言するとともに,自ら調査すべき義務があった。
(3)被告福祉事務所は,本件各奨学金について収入認定除外の対象となるか否かの検討を行わず,したがって,原告Aから提出された自立更生計画書や添付資料の検討をせずに,除外認定に当たって必要な資料の追加提出等の指示もしないままに,本件各処分を行ったものであって,公務員に与えられた裁量権を逸脱したものということができ,本件各処分はいずれも国家賠償法1条1項にいう違法がある。
本判決は,生活保護法等に照らし処分が法的に違法であることを認めており,行政による違法な運用を是正し,生存権をよりよく保障しようとするものであるとともに,子どもの積極的な学びの機会を保障し子どもの貧困をなくすという観点から極めて当然かつまっとうな司法的な判断であると評価できる。福島市のみならずすべての自治体において本判決を真摯に受け止め,給付型奨学金を一方的に収入認定することがないよう求める。
2 原告らが受けた損害
本判決は,事後的に奨学金相当額を追加支給したために損害は発生していないとの福島市の主張を排斥し,次の要素に着目して,原告親子にそれぞれ5万円(計10万円)の損害の発生を認めた。
(1)奨学金が収入と認定され,生活保護費が減額されたとしても,高等学校への通学を継続しなければならないから,その結果,生活費をきりつめて困窮した生活を送らなければならなくなる。このようなことから,事後調整や追加支給は合理性がない。
(2)実際にきりつめた生活を余儀なくされ,高校就学を経済的に支えることができなくなるかもしれない母親の深刻な不安,努力して奨学金を獲得したにもかかわらず,これを事実上没収されたことにより,自らの努力を否定されるような経験をした子どもの精神的苦痛を認定し,賠償に値する損害が現に生じたことを認めた。
通常,経済的な損害が補填されれば精神的な苦痛はないとみる裁判例が多い中,本判決は,生活保護世帯の母親と子どものそれぞれの精神的苦痛に踏み込んで損害の発生を認めたもので,その点は高く評価できる。
3 最後に
原告ら,支援者及び弁護団は,福島市を含む自治体において本件と同様に奨学金を奪われるという事件が再び起こらないことを願い,闘いを継続してきた。本判決を受け,我々は次の事項を求める。
(1)子どもの貧困対策の観点から,そもそも奨学金は収入認定の対象とすべきではない。訴訟において原告らが提出した末冨芳氏の意見書にも,自立更生計画の弊害が言及されている。それにもかかわらず,その点を適法として十分な検討をしていない本判決には不十分な点がある。
奨学金の充実・拡充が検討され,実現されようとしている現在,かかる取り扱いは,法の趣旨・政府の方針とそぐわない。我々は,厚生労働省に対し,早急に生活保護実施要領を見直し,奨学金を収入認定の対象から除外するよう求める。
(2)また,福島市を含むすべての生活保護実施機関に対し,生活保護世帯の子どもが奨学金を学びのために有効かつ適時に使用することができるよう,生活保護法が掲げる自立助長の観点から適法な運用をするよう求める。
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奨学金の収入認定に関する厚生労働省通知の改善や、生活保護世帯の子どもの大学進学問題の社会問題化の切っ掛けともなったこの事件で、当たり前とはいえ、当事者の方の精神的苦痛を認める国賠判決が出たことには大きな意味があります。
福島市が控訴して、これ以上母子につらい思いをさせることのないよう、福島市に対して、「控訴するな!」の声を寄せていただければと思います。
<福島市HP「福島市へのご意見」>
http://www.city.fukushima.fukushima.jp/skyodo-kocho/shise/kocho/300.html
福島市奨学金収入認定事件の判決を受けての声明
2018年1月16日
福島市奨学金収入認定事件弁護団
本日,福島地方裁判所(金澤秀樹裁判長)は,福島市奨学金収入認定事件(平成27年(行ウ)第6号。以下,「本件」という。)につき,原告勝訴の判決(以下,「本判決」という。)を言い渡した。
1 福島市福祉事務所長の処分の違法性及び過失
本判決は,給付型奨学金は自立更生のための恵与金(次官通知第8の3の⑶のエ)に該当し,給付型奨学金が保護費で賄うことができない費用等に使用されることを確認すれば収入認定除外されるということを前提に,次のとおり,違法性及び過失を認めた。
(1)保護費で賄えない就学費用が現実に発生した場合には,生活費に不足する結果となることが十分にありえるのであるから,給付型奨学金を収入認定することについては慎重な態度で臨むべきである。
(2)保護の実施機関としては,給付型奨学金の収入認定除外を検討することなく収入認定をした場合には,生活扶助費を割り込むおそれがあることに照らすと,被保護者に対して適切に助言するとともに,自ら調査すべき義務があった。
(3)被告福祉事務所は,本件各奨学金について収入認定除外の対象となるか否かの検討を行わず,したがって,原告Aから提出された自立更生計画書や添付資料の検討をせずに,除外認定に当たって必要な資料の追加提出等の指示もしないままに,本件各処分を行ったものであって,公務員に与えられた裁量権を逸脱したものということができ,本件各処分はいずれも国家賠償法1条1項にいう違法がある。
本判決は,生活保護法等に照らし処分が法的に違法であることを認めており,行政による違法な運用を是正し,生存権をよりよく保障しようとするものであるとともに,子どもの積極的な学びの機会を保障し子どもの貧困をなくすという観点から極めて当然かつまっとうな司法的な判断であると評価できる。福島市のみならずすべての自治体において本判決を真摯に受け止め,給付型奨学金を一方的に収入認定することがないよう求める。
2 原告らが受けた損害
本判決は,事後的に奨学金相当額を追加支給したために損害は発生していないとの福島市の主張を排斥し,次の要素に着目して,原告親子にそれぞれ5万円(計10万円)の損害の発生を認めた。
(1)奨学金が収入と認定され,生活保護費が減額されたとしても,高等学校への通学を継続しなければならないから,その結果,生活費をきりつめて困窮した生活を送らなければならなくなる。このようなことから,事後調整や追加支給は合理性がない。
(2)実際にきりつめた生活を余儀なくされ,高校就学を経済的に支えることができなくなるかもしれない母親の深刻な不安,努力して奨学金を獲得したにもかかわらず,これを事実上没収されたことにより,自らの努力を否定されるような経験をした子どもの精神的苦痛を認定し,賠償に値する損害が現に生じたことを認めた。
通常,経済的な損害が補填されれば精神的な苦痛はないとみる裁判例が多い中,本判決は,生活保護世帯の母親と子どものそれぞれの精神的苦痛に踏み込んで損害の発生を認めたもので,その点は高く評価できる。
3 最後に
原告ら,支援者及び弁護団は,福島市を含む自治体において本件と同様に奨学金を奪われるという事件が再び起こらないことを願い,闘いを継続してきた。本判決を受け,我々は次の事項を求める。
(1)子どもの貧困対策の観点から,そもそも奨学金は収入認定の対象とすべきではない。訴訟において原告らが提出した末冨芳氏の意見書にも,自立更生計画の弊害が言及されている。それにもかかわらず,その点を適法として十分な検討をしていない本判決には不十分な点がある。
奨学金の充実・拡充が検討され,実現されようとしている現在,かかる取り扱いは,法の趣旨・政府の方針とそぐわない。我々は,厚生労働省に対し,早急に生活保護実施要領を見直し,奨学金を収入認定の対象から除外するよう求める。
(2)また,福島市を含むすべての生活保護実施機関に対し,生活保護世帯の子どもが奨学金を学びのために有効かつ適時に使用することができるよう,生活保護法が掲げる自立助長の観点から適法な運用をするよう求める。
以上
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