市や都が責任を認めるには至りませんでしたが、市は、再発防止策として調査団が求めた2点、すなわち、①職員研修(森川すいめい医師による軽度知的障害者への支援の実践に関する研修)を開催するとともに(2019年1月30日実施済み)、②今後万が一にも就労指導違反を理由とする停止廃止をする際には、相談機関や取りうる手段を明記した文書を交付することを約束しました。
報告・提言書は、このような取り組みや問題点、あるべき就労指導のあり方等について提言をまとめた書面です。厚労省が数値目標の設定を指示していることから、就労指導の強化、違反を理由とする保護の停止・廃止の問題は全国でも起こっているものと思われます。
各地での取り組みの参考にもなると思いますので、ぜひお読み下さい。
■立川生活保護廃止自殺事件・調査団報告書 click!
[目次]
はじめに
第1 事件発覚の経緯と調査団の結成
1 事件発覚の経緯
2 調査団の結成と活動の概要
第2 調査団の活動より判明した事実関係
1 判明した事実の詳細
2 真相究明のために実施した調査活動
◆「立川生保廃止自殺事件」M さんの死府中緊急派遣村髙見俊司
第3 問題の所在
1 立川における就労指導・就労支援の実態
2 法的観点からの問題点の整理
3 本件の背景にある問題点~立川市の不当な廃止の目標値の設定~
4 他自治体でも明らかになった就労指導の問題点
◆立川市の生活保護の現状立川市議会議員上條彰一
第4 東京都及び立川市に対する調査団の活動と成果
1 東京都に対する申し入れ
2 記者発表
3 立川市に対する申し入れ
4 研修会の開催
5 就労指導違反による保護の停止・廃止時の文書交付の運用
6 調査団の活動を振り返って-成果と残された課題
おわりに── 実情にあわない「就労指導」「自立促進」と生活保護制度の矛盾
就労指導のあり方等に関する調査団の提言
調査団の主な活動一覧
添付資料一覧
「立川市生活保護廃止自殺事件調査団」参加団体・参加者一覧
はじめに
2015年12月、立川市で生活保護を利用されていた40代の男性(Mさん)が、就労指導に違反したとして保護を停止され、さらに廃止され、自殺するという大変痛ましい事件が起こりました。昨今の生活保護制度に対する締め付け、とりわけ厚生労働省が就労指導による自立に力を入れていることからすると、立川市に限らず、日本全国の自治体においても同種の事件が発生する危険性があります。
「立川市生活保護廃止自殺事件調査団」は、この事件の真相の究明と、同種の事件を再発させないという二つの目的のために結成されました。
調査団は本事件を記者発表し、東京都及び立川市に対して事実経過の説明と再発の防止を要請しました。事件のニュースは新聞報道やネットニュース、SNSを通じて拡散され、反響を呼びました。
しかし、東京都及び立川市は、真相を明らかにすることなく、自殺と保護廃止の因果関係を否定しています。調査団の懸命な活動にも関わらず、保護廃止に至る経緯の真相は最後まで明らかにされませんでした。それでも、調査の結果、不完全ながらも事件像が浮かび上がりました。Mさんは、懸命に働き、「自立」を目指しながらも、「軽度」の障害のために職場に定着することができずに苦悩していた青年でした。他方で、立川市の就労指導は、こうしたMさんのパーソナリティへの配慮を欠いた、画一的・形式的なものだったと感じさせるものです。調査団としては、生活保護法を逸脱する違法な就労指導があり、これがMさんを自殺に追い込んだ可能性が高いという認識に到達しました。
調査団の粘り強い活動の結果、立川市は、2019年1月30日、生活福祉課職員に対して、「軽度」の知的障害等をかかえる方への支援のあり方について、専門的な知見を有する森川すいめい医師(精神科医)の研修会を実施するに至りました。また、今後、就労指導違反を理由とする保護の廃止・停止を行なう際には、相談機関等を記載した文書を交付する運用の実施を約束しました。これらは調査団の活動の重要な成果といえ、立川市において同様の事件の再発を防止するために、一定の効果が期待できるものといえます。
調査団の活動は、上記2つの目的を十分に達成することはできなかったかもしれませんが、同種事件の再発防止、ひいては、軽度の障害をかかえた方にも寄り添った生活保護制度の確かな運用を実現するうえで、今後の取り組みの足がかりとなる成果を残すことができたのではないかと考えます。
本書面は、こうした調査団の活動報告と本件の教訓を踏まえた就労指導のあり方等に関する提言を行うものです。
Mさんのご冥福を祈りつつ、この調査団に参加した諸団体、個人、そしてこの報告書をお読みになった全ての方が、本件の教訓と成果を活かし、それぞれの持ち場でますます奮闘されることを期待します。
弁護士宇都宮健児
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