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 2019年8月、「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準」が厚生労働省令第4号として公布されたことから、今後、無料低額宿泊所を所管する都道府県、政令市、中核市が無料低額宿泊所に関する条例を制定する動きが本格化することが見込まれています。
 制定される条例の内容によっては、無料低額宿泊所入所者の権利侵害を放置又は誘発する事態の発生も懸念されるため、当会議は、「無料低額宿泊所に関する条例制定についての意見書」を公表し、無料低額宿泊所がある50の自治体(都道府県18、政令市15、中核市17)に郵送で執行しました。



2019年11月27日


無料低額宿泊所に関する条例制定についての意見書


生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾 藤 廣 喜


 無料低額宿泊所の設置・運営基準は平成15年7月31日社援発第0731008号厚生労働省社会・援護局長通知の別紙「無料低額宿泊所の設備、運営等に関する指針」(以下「ガイドライン」という)で定められていた。
 今般、社会福祉法(以下「法」という)の規定に基づく「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準」が2019年(令和元年)8月19日に厚生労働省令第4号(以下「省令」という)として公布され、2020年(令和2年)4月1日から施行されることとなった。同省令第1条で、厚生労働省令で定める基準は、都道府県、指定都市、中核市(以下「都道府県等」という)が条例を定めるに当たって標準とすべき基準ないし参酌すべき基準であるとされている。また、2019年(令和元年)9月10日には、厚労省社会・援護局長名で「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準について(通知)」(以下「解釈通知」という)が発出されている。
 こうした動きをふまえ、今後、都道府県等において、無料低額宿泊所に関する条例を制定する動きが本格化することが見込まれるが、その内容によっては、無料低額宿泊所入所者の権利侵害を放置又は誘発する事態が懸念される。
 そこで、当会議は、都道府県等がかかる条例を制定するにあたって留意すべき諸点について、以下のとおり意見を述べる次第である。

第1 意見の趣旨
 都道府県等は、無料低額宿泊所に関する条例を制定するに当たって、以下の諸点に留意し、当該条例に明記するべきである。

1 居宅保護が原則であることに鑑み、利用者が希望すれば、居宅生活ができない場合、居宅生活によっては保護の目的を達しがたい場合を除き、居宅保護を行うこと。
2 介護保険法、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等に基づいて提供されるサービスを利用して日常生活を営むことができる場合は、「居宅生活が可能な場合」に該当し、安易に無料低額宿泊所に入所させてはならないこと。
3 保護の実施機関及び無料低額宿泊所が、無料低額宿泊所入所後も速やかに居宅へ移行できるよう支援すべきであること。
4 無料低額宿泊所の入所期間の上限(原則3か月、最大6か月)を具体的に定めること。
5 条例に定める無料低額宿泊所の職員のうち施設長の資格要件については、少なくとも、「法第19条第1項各号のいずれかに該当する者若しくは社会福祉事業等に2年以上従事した者」に限定すること。
6 条例の定める無料低額宿泊所の設備基準については、物理的水準としても居住空間として相応しい施設となるよう、居室の面積は、経過措置を設けず、少なくとも7.43平方メートル(四畳半)以上、例外なく個室とし、入居者に対し1日に1回の頻度で入浴の機会を提供しなければならないこと。
7 無料低額宿泊所が入居者の金銭管理を行ってはならないこと。
8 無届施設に対する届出勧奨を進めるとともに、最低基準を満たさない施設を無届で運営している事業者に対しては、社会福祉法72条3項に基づく事業の制限・停止命令を行い得ること。



第2 意見の理由
1 居宅生活が基本であること
(1) 居住、移転の自由、居宅保護の原則

 日本国憲法22条1項は居住、移転の自由を保障している。また、生活保護法30条1項は「生活扶助は、被保護者の居宅において行うものとする」として居宅保護の原則を定めている(同項本文)。
居宅での生活は誰もが望むものである。と同時に地域社会で自らの意思決定に基づいて生活することこそが「自立の助長」という生活保護法の目的(同法1条)を達成するためにふさわしいからである。
 2015年(平成27年)に厚生労働省社会・援護局保護課が全国の都道府県、指定都市、中核市本庁において行った「無料低額宿泊事業を行う施設に関する調査」から明らかなように、無料低額宿泊所の入所者の大多数は生活保護利用者である(届出施設537施設、入所者総数15,600人のうち生活保護利用者14,143人)。そして、無料低額宿泊所のうち要件を満たして届出を行う社会福祉住居施設の多くが日常生活支援住居施設と位置づけられ、生活保護利用者の一時的居住の場となると予想される。
 無料低額宿泊所が社会福祉住居施設、日常生活支援住居施設という位置づけに変わったとしても、そこに入所している利用者は、あくまでも例外的に施設に入っているだけであって一日も早く居宅への移行を果たせるよう支援をしなければならない人であることに変わりはない。無料低額宿泊所が社会福祉住居施設、日常生活支援住居施設と位置づけられることによって、それがあたかも住居の1つであるかのように扱われ、居宅保護の原則が後退するようなことがあってはならない。


(2) 障害や困難があっても居宅生活は可能である

 経済的困難のみならず日常生活においても支援が必要だから無料低額宿泊所に入所しているのだと言われることがあるが、身体上または精神上の障害があっても居宅生活は可能である。介護保険法に基づく介護サービスや、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下「総合支援法」という)に基づく障害福祉サービスは、居宅生活を前提としたものも当然に存在する。そのほか、成年後見制度や、都道府県・指定都市社会福祉協議会が実施主体となって定期訪問や日常的金銭管理を行う日常生活自立支援事業(社会福祉法2条3項12号)等、様々な制度やサービスを用いて居宅生活を送ることが可能である。
 この点、解釈通知の第1の2(2)も、「介護保険法、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等に基づいて提供されるサービスを利用して独立して日常生活を営むことができる場合」が、「入居者が一般の居宅等において独立して日常生活を営むことができる」場合に含まれることを明記しているところである。
 したがって、かかる場合は、「居宅生活が可能な場合」に該当し、安易に無料低額宿泊所に入所させてはならないことを条例に明記すべきである。


(3) 他法の改正にみる居宅生活促進の動き

 2017年(平成29年)10月25日に施行された改正住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)では、高齢者、障害者、低額所得者等の住宅確保要配慮者に対し、民間の空き家・空き室を活用した入居を拒まない賃貸住宅の供給を促進し、併せて、入居相談や見守りなどの生活支援を充実させる方針が打ち出された。
 また、2018年(平成30年)4月1日に施行された改正総合支援法では、従前の地域移行支援・地域定着支援サービスに加え、障害者支援施設やグループホーム等から一人暮らしへの移行を希望する障害者について、本人の意思を尊重した地域生活を支援するため、一定期間、定期的な巡回訪問等の支援を行う自立生活援助というサービスを新たに創設した。
 これらは、施設ではなく居宅生活を希望する人の意思をできる限り尊重し、地域での生活を支援していこうという取り組みである。
 今回の法改正による社会福祉住居施設及び日常生活支援住居施設の創設が、これらの地域移行への動きと矛盾し、逆行する結果とならないよう留意が必要である。


(4) 入所者の居宅生活への移行支援

 省令3条3項では、無料低額宿泊所は基本的に一時的な居住の場であるとされており、同条4項では、入居者の円滑な退居のための必要な援助に努めなければならないとされている。
 したがって、仮に居宅生活ができない、あるいは、居宅生活によっては保護の目的を達しがたい、あるいは、生活保護利用者が希望した場合に該当したとして(生活保護法30条1項但書)、無料低額宿泊所に入所したとしても、保護の実施機関及び無料低額宿泊所は、入所者が可及的速やかに居宅生活に移行するための支援を行うことが重要である。



2 無料低額宿泊所は一時的な居住の場であること

 「宿泊所」とは「一時的な宿泊をさせる場所」とされている(社会福祉法令研究会編『社会福祉法の解説』96頁)。無料低額宿泊所が一時的な利用に供する場所であることは、厚生労働省も前提としていたところである(平成25年5月15日社援保発0515第2号厚生労働省社会・援護局保護課長通知、平成27年5月13日社援保発0513第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知)。
 社会福祉住居施設ないし日常生活支援住居施設という位置づけがあっても、無料低額宿泊所である以上「一時的な宿泊をさせる場所」であることに変わりはない。速やかに居宅へ移行するか、真に居宅生活が困難な場合は老人ホームやグループホーム等、必要な支援が整っている施設へ入所することが本人の利益に適うことである。
 特に日常生活支援住居施設は、生活保護施設となるため無料低額宿泊所の「一時的な利用の場」という性質は後退するようにも考えられるが、居宅保護が原則であり施設保護は例外であることを考えるならば、その利用は必要最小限にとどめるべきである。
 省令3条3項では、無料低額宿泊所は基本的に一時的な居住の場であるとされている。「一時的」の基準は必ずしも明確ではないが、生活困窮者自立支援法において、一定の住居を持たない生活困窮者に対し一時的な宿泊場所を供与する事業として法制化されている一時生活支援事業に鑑みれば、「原則3か月、最大6か月」とするのが妥当である(生活困窮者自立支援法施行規則7条参照)。



3 無料低額宿泊所の設備・運営基準
(1) 職員の資格要件

 省令は「無料低額宿泊所の長(以下「施設長」という。)は、法第19条第1項各号のいずれかに該当する者若しくは社会福祉事業等に2年以上従事した者又はこれらと同等以上の能力を有すると認められる者でなければならない」と規定した(6条)。これはガイドラインの定める要件と同じである。
 しかし、「これらと同等以上の能力を有すると認められる者」という判断基準は曖昧であり、資格要件を課した趣旨が没却しかねない。職員が利用者に対して適切な支援を行い、速やかに居宅移行させることが肝要であり、そのために職員とりわけ施設長の資質は担保しなければならい。
 よって、「これらと同等以上の能力を有すると認められる者」という規定は削除すべきである。


(2) 居室の床面積について

 省令は、一居室の面積は7.43平方メートル(四畳半)以上とし、地域の実情によりこれにより難い場合は、居室の床面積が1人当たり4.95平方メートル(三畳)以上確保することとしている(省令12条6項1号ハ)。これはガイドラインの基準と同じである。
 しかし、住生活基本法に基づいて2016年3月18日に定められた住生活基本計画によれば、単身者の最低居住面積水準は25平方メートルである。これと比較すると、無料低額宿泊所の基準は著しく低い。さらには、平成27年6月以前からある無料低額宿泊所の場合は3.3平方メートル(二畳)以上であれば「当分の間は」容認されるかのような基準となっている(附則3条)。そもそも、従前のガイドラインが2015年4月に改正された際にも、原則7.43平方メートル(例外4.95平方メートル)という床面積の基準に満たない施設は、段階的、計画的に基準を満たすよう整備することとされていた。それからすでに4年以上が経過している現時点においてもなお、段階的、計画的に基準を満たすことができていない施設が、この先、基準を満たせるという保証はない。
 以上から、居室の面積は少なくとも7.43平方メートル(四畳半)以上とし、経過措置は設けるべきではない。


(3) 個室について

 省令では、個室を原則とし(省令12条6項1号イ)、多人数個室及び簡易個室については3年の間に解消を図ることとするなど(附則2条)、一定の前進はみられる。しかし、経過措置が3年というのは長すぎる。
 無料低額宿泊所がときに「貧困ビジネス」と非難される主要な原因の一つが相部屋・簡易個室である。仮に2023年3月まで相部屋・簡易個室を温存する条例が制定されるとなれば、貧困ビジネス対策は「骨抜き」との批判は免れない。
 したがって、例外なく個室とし、経過措置は設けるべきではない。


(4) 入浴回数について

省令は「無料低額宿泊所は、入居者に対し1日に1回の頻度で入浴の機会を提供しなければならない。ただし、やむを得ない事情があるときは、あらかじめ、当該入居者に対し当該事情の説明を行うことにより、1週間に3回以上の頻度とすることができる」と定める(19条)。これも、ガイドラインの「入浴は、週に3回以上行うこと」という基準を踏襲したものと思われる。
 しかし、近時の夏の暑さは異常であり、真夏にも1週間に3回しか入浴できないとなると、衛生上及び健康上、多大な支障が生じる。1週間に3回の入浴しかできない施設は居住空間として不適切である。但書以下は条例に設けるべきではない。



4 金銭管理
(1) 無料低額宿泊所(社会福祉住居施設を含む)で「生活の扶助」は行えないこと

 日本弁護士連合会の2010年6月18日「『無料低額宿泊所』問題に関する意見書」で述べられているとおり、「生計困難者を無料又は低額な料金で入所させて生活の扶助を行うことを目的とする施設を経営する事業」が第一種事業であり、「生計困難者のために、無料又は低額な料金で、簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他の施設を利用させる事業」が第二種事業であって、その違いを端的に言うならば施設内で「生活の扶助」を行うかどうかである。
 施設の入所者に対して「生活の扶助」を行うことは、その入所者の人格に対して非常に大きな影響を及ぼしうるため、経営の適正化を欠くようなケースが生じれば、非常に重大な人権侵害を生ずる可能性がある。そのため、第一種事業は、事業経営の適正化を確保することが不可欠であることから、強い公的規制を行うこととされているのである(社会福祉法令研究会編『社会福祉法の解説』69頁)。
 しかるところ、本来、無料低額宿泊所(社会福祉住居施設を含む)は第二種事業であるため、「生活の扶助」を行うことはできない。この基本的な規定は今般の社会福祉法改正後も変わっていない。


(2) 無料低額宿泊所と入居者は対等な契約当事者となりにくい状況があること

 無料低額宿泊所によるサービスの提供及び対価の受領は、利用者から文書で同意を得る、または入居契約とは別に契約書を作成する、ということが求められてはいるが、ほかに行く場所がなく、自力で他の居所を設定することもできない入居者(だからこそ無料低額宿泊所に来ているのである)が、施設から、金銭負担を伴うサービス(金銭管理を含む)の提供を提案されて、契約締結を拒むことが可能であるとは考えにくい。
 したがって、本来、施設側と入居者の契約の場面における力の差を考えれば、無料低額宿泊所における、入所者の金銭負担を伴うサービスの提供(生活の扶助)は禁止すべきである。省令16条が、入所者からの「基本サービス費」の受領を許容していることには問題があると言わざるを得ない。


(3) 無料低額宿泊所による入居者の金銭管理

 省令では、入居者の金銭管理について、入居者本人が行うことを原則としつつ、「金銭の適切な管理を行うことに支障がある入居者であって、無料低額宿泊所による金銭の管理を希望するもの」に対しては、入居にかかる契約とは別に金銭管理に係る契約を行うこと等を条件に、無料低額宿泊所が日常生活に係る金銭を管理することを妨げないという規定も置かれている(省令26条)。
 しかしながら、「金銭の適切な管理を行うことに支障がある」かどうかを判断するのは当該無料低額宿泊所であるから、その判断が適正になされることの担保がない。平成29年3月1日さいたま地裁判決は、生活に困窮した人を無料低額宿泊所に入所させ、生活保護を申請させて、入所者に劣悪なサービスしか提供せず、生活保護費の大半を搾取して不当な利益を得ていた事業者に対し、「生活保護法の趣旨に反し、その違法性は高い」「最低限度の生活を営む利益を侵害したものとして不法行為が成立する」として、総額約1580万円の損害賠償や支払った利用料の返還を命じた。この事案にみられるように、無料低額宿泊所が入居者の金銭管理を行うことは、生活保護費の大半を取得し、本人には少額の小遣いしか渡さないといった悪質な貧困ビジネスにつながりかねない。
 したがって、善意で入居者支援としての金銭管理を実施する無料低額宿泊所が存在するとしても、一方で悪質な貧困ビジネスの温床となっている実態がある以上、少なくとも金銭管理は例外なく禁止し、成年後見制度、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業の活用など他の手法に委ねるべきである。



5 無届施設の届出勧奨
 社会福祉法68条の2第2項は、社会福祉住居施設を設置して、第二種社会福祉事業を経営しようとするときは、その事業の開始前に、同条1項各号に掲げる事項の届出を義務付けているが、周知のとおり、無料低額宿泊所に類似する施設を無届で運営している事業者も散見される。省令、ひいては社会福祉法改正の趣旨を踏まえるならば、無届施設に対しては届出を勧奨し、規制の対象に加えていくことが重要である。
 社会福祉法72条3項は、届出をせずに第二種社会福祉事業を経営する者に対してでさえ、その事業に関し不当に営利を図り、若しくは福祉サービスの提供を受ける者の処遇につき不当の行為をしたときは、その者に対し、社会福祉事業を経営することを制限し、又はその停止を命ずることができる旨を定めている。「不当に営利」、「不当の行為」の判断基準が曖昧であることが運用上の障害になっているものの、社会福祉法68条の5第1項、同規定に基づく省令1条、2条の基準を満たさずに無料低額宿泊所を運営した場合には改善命令がなされること(社会福祉法71条)に鑑みると、最低基準を満たさない施設を運営している無届事業者に対しては、社会福祉法72条3項を適用して事業の制限・停止命令を行い得ることを明記することによって、同条項の活用を図るべきである(2010年9月13日付、大阪弁護士会「大阪府被保護者に対する住居・生活サービス等提供事業の規制に関する条例(案)に対する意見書」参照)。

以 上




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