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「生活保護におけるケースワーク業務の外部委託化に反対し、正規公務員ケースワーカーの増員と専門性確保等を求める意見書」(案)への賛同を募集します!

生活保護のケースワーク業務の外部委託化を急ピッチで進める動きがあります。

 私たちは、同業務の外部委託化には非常に大きな問題があると考え、これに反対する意見書(案)を取りまとめました。

 何が問題かを多くの団体・個人の方々に知っていただき、思いを共有する団体や個人の方々の賛同を得たうえで、年内には意見書を正式に公表し、国に提出したいと考えています。

 意見書(案)にご賛同いただける団体・個人の方々で団体名・個人名の公表に同意いただける場合は、以下の入力フォームから必要事項をご入力いただけますよう、お願い致します(〆切り:2020年11月30日)
https://forms.gle/yuSJfBuHmTNtUQhB9




2020年●月●日


生活保護におけるケースワーク業務の外部委託化に反対し、正規公務員ケースワーカーの増員と専門性確保等を求める意見書(案)


生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾 藤 廣 喜


【目次】
第1 意見の趣旨
第2 意見の理由
1 はじめに

2 「地方公共団体等の意見」は根拠にならない

3 「福祉事務所の実施体制についての調査結果」も根拠にならない

4 外部委託化は生活保護法の基本原理(国家責任の原理)に反する

5 ケースワーク業務の外部委託化の可否と条件

(1) ケースワーク業務の外部委託化は必然的に「偽装請負」となる
(2) ケースワーク業務の外部委託が許され得る条件


6 ケースワーク業務の外部委託化は官製ワーキングプアの増産をもたらす

(1) はじめに
(2) 政策推進者の本音は福祉予算の削減
(3) 外部委託、非常勤化「先進都市」の実態


7 あるべき改革の方向性

(1) 正規公務員であるケースワーカーの増員と専門職採用の推進
(2) 調査事務、徴収事務の簡素化による事務負担の軽減



第1 意見の趣旨
1 「生活保護におけるケースワーク業務」の外部委託化は、生活保護法の基本原理である「国家責任」の原理に反し、必然的に偽装請負と官製ワーキングプアを生み出すものであるから、反対する。

2 ケースワーカーの業務過多と専門性欠如という問題への対応は、正規公務員ケースワーカーの増員と専門職採用等による専門性の確保、調査事務・徴収事務等の簡素化や効率的な生活保護システムの開発による負担軽減によって行うべきである。


第2 意見の理由
1 はじめに
 政府は、2019(令和元)年12月23日、閣議決定「令和元年の地方からの提案等に関する対応方針」において、「生活保護におけるケースワーク業務の外部委託化」について、次のとおりの方針を示した。

・福祉事務所の実施体制に関する調査結果や地方公共団体等の意見を踏まえつつ、現行制度で外部委託が可能な業務の範囲について令和2年度中に整理した上で、必要な措置を講ずる。
・現行制度で外部委託が困難な業務については、地方公共団体等の意見を踏まえつつ、外部委託を可能とすることについて検討し、令和3年度中に結論を得る。その結果について必要な措置を講ずる。


 ここには、「現行制度で外部委託が可能な業務」については、「令和2年度中」に「必要な措置を講」じ、法改正を要する業務についても、外部委託を可能とする方向で検討し、「令和3年度中に結論を得る」という、外部委託に対して積極的な方針が示されている。
 しかしながら、上記閣議決定が根拠として挙げる「福祉事務所の実施体制に関する調査結果」や「地方公共団体等の意見」は、必ずしも外部委託化の推進を根拠づける内容ではない。そもそも、ケースワーク業務の外部委託化は、生活保護法の基本原理である「国家責任の原理」に反し、必然的に偽装請負を生み出す点において、法的に許され得るものではない。
 もともと、行政の「民間委託」(外部委託)は、2000(平成12)年ごろから、行政のコスト削減とサービスの質向上を目指すという名目によって導入されるようになった。しかし、このような掛け声とは裏腹に、現実には、コストの削減が労働者の非正規化や低賃金化をもたらすとともに、専門性の欠如や職務権限を持たないことによる業務のたらいまわし、機械的処理などにより、むしろサービスの質の低下をもたらすとの指摘がなされて久しい。
 そして、コロナ禍の下、感染予防、医療・介護や雇用の保障、居住権保障、そして生活保護など、本来「公的責任」において保障すべき組織や機能が、「外部委託」・「民営化」・「統廃合」などによって、大きく後退しており、さまざまな形で機能不全を起こしていることが明らかになっている。
 今必要とされていることは、財政削減を目的とした「外部委託」や「非正規化」の推進でなく、「公的責任」の明確化・「専門性」の強化・「正規公務員」の増員であると言える。
 以下、詳述する。

2 「地方公共団体等の意見」は根拠にならない
 厚生労働省は、令和元年度生活保護担当指導職員ブロック会議の事前アンケートにおいて、各自治体に対し、「ケースワーク業務の一部を外部委託することや、非常勤職員が行うことについてどのように考えますか?」を照会した。その結果は、「賛成」が55(44.0%)、「反対」が33(26.4%)、「その他」が37(29.6%)であり、これが「ケースワーク業務の外部委託化」について多くの自治体が賛成していることの根拠とされる可能性がある。
 しかし、上記の質問は、ケースワーク業務の一部を「外部委託すること」と「非常勤職員が行うこと」という全く異なる2つの事項を一つの質問で問うている。これは、アンケート調査で行ってはならない、典型的なダブルバーレル質問である。
 そこで、ブロック会議資料を、「外部委託すること」と「非常勤職員が行うこと」の各賛否に分けて、詳細に検討すると、後者(非常勤職員の活用)については、賛成28(22.4%)、反対29(23.2%)、その他68(54.4%)と賛否が拮抗しているが、前者(外部委託化)については、賛成9(7.2%)、反対56(44.8%)、その他60(48.0%)と反対が賛成の6倍以上に達している 。
 すなわち、その内容を詳細に検討すれば、多くの自治体が、「ケースワーク業務の外部委託化」に賛成していることの根拠にならないだけでなく、むしろ、反対していることを裏付ける内容となっているのである。厚生労働省の上記事前アンケートの取り方と発表の仕方は、「ケースワーク業務の外部委託化」という結論に誘導するため、恣意的になされていると言わざるを得ない。

3 「福祉事務所の実施体制についての調査結果」も根拠にならない
 日本ソーシャルワーク教育学校連名(ソ教連)は、厚生労働省の委託を受けて、「福祉事務所における生活保護業務の実施体制に関する調査研究事業」を実施し、2020年3月、その「実施報告書」を発表した。
 この調査は、①生活保護業務を14区分に分解し、さらにそれらを130区分に再分解して、現業員、事務職員(正規職)、嘱託職員(非正規職)等のうち誰がその業務を担っているのかについて、全国の福祉事務所(回収数858か所)にアンケート調査するとともに、②指定都市5か所、中核市3か所、一般市4か所にヒアリング調査をしたものである。
上記①の調査から分かるのは、ほとんどの業務を現業員(ケースワーカー)が担っていること、単純な事務作業に限って福祉事務所内部の事務職員や嘱託職員が担っている場合が少なくないことだけである。また、上記②の調査から分かるのは、現在外部委託されている事業のほとんどが、「そもそも現業員が担うことを想定していない業務(例えば学習支援事業、就労準備支援事業、就労訓練事業、求人開拓業務)」であることくらいである 。
 したがって、この調査をもって、家庭訪問、面接、生活指導等の現業(ケースワーク)事務の外部委託の必要性が根拠づけられているとは到底いえない。

4 外部委託化は生活保護法の基本原理(国家責任の原理)に反する
(1) 国家責任の原理(生活保護法1条)
 生活保護法1条は、「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」と規定する。
 その趣旨について、法案審議時の逐条説明は、「日本国憲法第二十五條に定められている国民の権利は、……国家権力の積極的な関與によって実現を保障されるべき権利」であり、「右の憲法の精神からして国民の最低限度の生活の保障は、当然に国の責務であり、そのための行政事務は国家事務でなければならない。」としている 。
この「国家責任」の原理は、憲法25条から直接導かれる生活保護法の根本原理である。

(2)「国」から「実施機関」への権限の委任(生活保護法19条1項)
 生活保護法19条1項は、「都道府県知事、市長及び福祉事務所を管理する町村長」を「保護の実施機関」と位置付けている。
 その趣旨について、同法制定時の厚生省保護課長小山進次郎は、「本法の保護は、法第1条に明瞭に規定する通り、国がその責任においてなすべきものではあるが、実際上において国が直接にその直轄の出先機関を設けて行うことは、……種々の不便、不合理があって容易になし得るものではな」いので、「保護の具体的な決定、実施の権限のすべてを都道府県知事、市長及び福祉事務所を管理する町村長をして、国の機関として委任しその事務を執行、処理させることとしたものである。」 と説明している。
すなわち、まず、法19条1項は、国が都道府県知事等(保護の実施機関)に保護に関する事務を委任することを定めている。

(3)「実施機関」から「福祉事務所長」への権限の委任(生活保護法19条4項)
 次に、生活保護法19条4項は、「保護の実施機関」が、「保護の決定及び実施に関する事務の全部又は一部を、その管理に属する行政庁に限り、委任することができる。」と規定している。
 その趣旨について、小山は、「福祉事務所において行われるところの本法関係の現業業務と、保護の決定、実施の権限との行使とを有機的に一致させ、もつて本法の実施、運営の効率的能率化を期し、その円滑、適正を計るということ」と説明している 。小山は、別の個所でも、「(保護の実施機関が、)その職責である保護の決定、実施を能率的、効果的に行うためには、保護に関する現業事務を行う福祉事務所と一元的にすることが既に縷々述べて来た通り絶対的に必要」であり、「これが委任について特に第4項を設けて明確に規定されたのである。」と述べている。そして、法19条4項について、「本項は規定の形式が簡単であるに比して、その意義、効果は極めて大である。」 、「本法の保護の決定、実施についての実際的運営は、この法第19条第4項の委任の規定によってなされるものと云っても過言ではないのであって、本項は極めて重要な意義を有する」と、繰り返しその重要性を指摘している 。
 ここで重要なことは、「保護の決定及び実施」という保護事務の根幹部分と、「家庭訪問、指導指示、生活相談、各種調査」といった「現業業務」とを、表裏一体の不可分なもの(いわば「パッケージ」)として、一元的に福祉事務所に担わせることが「絶対的に必要」と、その重要性が強調されている点である。
 それは、「最低生活保障」と「自立助長」という法の目的を達成する、適正な保護の決定及び実施を行うためには、上記の日常的な現業業務を通じて被保護世帯の生活実態や生活上の需要(ニーズ)の変化を把握し、これを適時に「保護の決定及び実施」に反映させていくことが必要不可欠だからである。すなわち、全生活に関わる生活保護の8つの扶助を適正に実施し、障害者加算等の加算、冷暖房器具などの一時扶助、実施機関限りでできる50以上の特別基準を活用して、「必要即応の原則(生活保護法9条)」を具体化するためには、家庭訪問や面接によって被保護世帯の生活に直接触れ、これを迅速に保護の決定及び実施に結びつけることが必要なのである。

(4)実施機関が福祉事務所長に委任すべき事項と復委任の是非
 小山は、「福祉事務所長等に対する保護の決定、実施の権限の委任は、前述した通り福祉事務所の機能が真に発揮されることを目的としてなされるものであるから、その委任事項も福祉事務所等が事務の執行、現業の処理を通じて一貫して円滑になしうるようにその全部に及ぶべきであって、……都道府県知事又は市町村長は、管下全部の福祉事務所長等に対して、保護の決定、実施に関する事務の全部を、換言すれば、対象的にも又内容的にも一切の留保をせずに委任すべきである。……一定の事項に限ってその決定、実施の権限を留保するが如きは、何らの実益もなく、徒に事務手続を倍加し、行政系統をみだすばかりである。」と指摘し 、保護の実施機関は、一切の留保をつけずすべての保護に関する事務を丸ごと福祉事務所長に委任すべき旨強調している。
 また、小山は、次のとおり、福祉事務所長が委任された事務を第三者に復委任することは許されないことを明確に指摘している。
「委任は、本来職務権限を有する者が特に他の者にその権限を移転せしめる行為であるから、受任者は、自らその委任された事務を執行、処理すべき義務を負担するのであって、これを更に第三者に復委任することはできないというべきである。」 。
委任を受けた福祉事務所長等はその範囲の事務に関する限り、排他的、独占的にこれを処理する権限を有することとなり、内部におけると、外部に対するとを問わず自己の名と責任とにおいてこれを処理することができ、又処理すべき義務を負うこととなる。」 。
 ここでも、先に述べたとおり、円滑・適正な保護の実施のためには、保護の決定及び実施に関する事務と現業事務をパッケージとして一元的に福祉事務所長に担わせる必要がある、という考え方が貫かれているのである。

(5)誰が保護に関する事務を担うのか
 生活保護法21条は、「社会福祉法に定める社会福祉主事は、この法律の施行について、都道府県知事又は市町村長の事務の執行を補助するものとする。」と規定する。
 社会福祉法15条1項は、福祉事務所に「指導監督を行う所員」(いわゆる査察指導員(SV))と「現業を行う所員」(いわゆるケースワーカー)を置かなければならないとし、同条6項は、それらの所員は、「社会福祉主事でなければならない。」と規定している。そして、同条4項は、「現業を行う所員」が、家庭訪問、面接、資産、環境等の調査、保護その他の措置の必要の有無及び種類の判断、生活指導等の事務(いわゆるケースワーク)をつかさどる旨定めている。
 同法19条は、現業を行う所員(ケースワーカー)の標準数を定め、同法19条は、「社会福祉主事は、都道府県知事又は市町村長の補助機関である職員とし、年齢二十年以上の者であって、人格が高潔で思慮が円熟し、社会福祉の増進に熱意があり、かつ、次の各号のいずれかに該当するもののうちから任用しなければならない。」と規定し、生活保護の現業事務について、一定の質(専門性)を備えた地方公共団体の専任有給吏員に担わせることとしている。また、同法16条は、所員1人あたりの担当世帯数の「標準数」を都市部で80世帯、郡部で65世帯と定め、所員の量の確保も求めている 。
 その趣旨について、小山は、そもそも保護事務は、「その具体的処理を掌る補助職員の判断、認定、意見等に依拠することが極めて多く、その判断の如何は国民の生存権に直接影響することでもあるから、かかる生活保護の実務に当る補助職員は、これに相応しいところの一定水準以上の学識と経験を有する者でなければならないこととし、これらの者をして生活保護事務に専念、習熟させ」るものとしたこと 、「生活保護法の実施について有効、適正にしようとするならば、この専任の職員が質的に専門的な技術を持っている者であるべきなので、……これが一歩をすすめて、専門社会福祉事業職員設置という世界の趨勢に応ずる社会福祉主事の設置にまで発展してきた」ことを指摘している 。
意見書案

(6)小括
 以上見てきたとおり、現行生活保護法は、保護に関する事務全体をパッケージとして福祉事務所長に委任し、その現場の最前線の現業については、十分な人員と専門性を備えた有給公務員である社会福祉主事に担わせることによって、国が市民の生存権を保障するという国家責任の原理を完遂しようとしている。その眼目は、保護の決定及び実施という保護事務の根幹部分と、家庭訪問、面接、調査、生活指導等の現業事務を、表裏一体の不可分なものとして、専門性のある有給公務員が一元的に担うことで、国家による生存権保障を実現しようとする点にある。
 先に述べたとおり、保護に関する事務の一部を都道府県知事等の保護の実施機関が留保することさえ許されないことからすれば、その事務の一部を民間団体や民間企業に外部委託することなど到底許されない。仮に、保護事務の外部委託を可能とする法改正が行われるとすれば、それは、現行生活保護法の根幹をなす「国家責任の原理」を掘り崩し、憲法25条の生存権保障を後退させるものとして、社会保障に関する権利の漸進的実現についての法的義務を定める国連社会権規約2条1項、9条等に違反し、違法であると解される。

5 ケースワーク業務の外部委託の可否と条件
(1)ケースワーク業務の外部委託は必然的に「偽装請負」となる
 いわゆる「偽装請負」(労働者派遣事業)に該当せず、適正な請負事業と判断されるためには、

① 当該労働者の労働力を当該事業主が自ら直接利用すること、すなわち、当該労働者の作業の遂行について、当該事業主が直接指揮監督のすべてを行うこと、
② 当該事業を自己の業務として相手方から独立して処理すること、すなわち、当該業務が当該事業主の業務として、その有する能力に基づき自己の責任の下に処理されること
が必要である(昭和61年労働省告示第37号) 。


 4で述べたところからすると、ケースワーク業務を外部委託するには、保護の決定及び実施に関する事務と現業事務をパッケージとして福祉事務所長に委任した趣旨を害さないことが大前提とされなければならない。
 そのためには、日常的に担当ケースワーカーと外部委託先が緊密に意思疎通することが必要不可欠であり、その過程で、ケースワーカーが委託先職員に対して指揮命令を行う場面が当然生じ得る。これでは上記①及び②の条件を満たさないこととなり、ケースワーク業務(特に、家庭訪問、面接、生活指導などの現業事務の根幹部分)の外部委託は必然的に「偽装請負」にならざるを得ない。
 この点からも、ケースワーク業務の外部委託は許されないこととなる。

(2)ケースワーク業務の外部委託が許され得る条件
 上述のとおり、保護に関する事務をパッケージとして福祉事務所長に委任した趣旨が害されないのであれば、ケースワーク業務の外部委託も許されることとなるが、その条件としては、かろうじて次のようなものが考えられる。

① 適正な保護の決定及び実施は担保された上で、委託先において独立して実施できる上乗せのサービス
  現在も既に一部の自治体で行われている、子どもの学習支援、就労支援、社会保険労務士等に委託しての障害年金等の受給手続きなどは、これにあたり得る。
② 裁量の余地のない純粋な事務作業
  例えば、戸籍等を取り寄せての扶養義務者調査、課税調査、扶養義務者や金融機関等に対する照会書面の発送作業などは、これにあたり得る。しかし、こうした高度にセンシティブなプライバシー情報を取り扱う作業について、福祉事務所内部において専任の嘱託職員を雇用するのではなく、わざわざ外部の民間業者に委託することは個人情報保護の観点から抑制的でなければならず、慎重な検討が必要である 。



6 ケースワーク業務の外部委託化は官製ワーキングプアの増産をもたらす
(1)はじめに
自治体アンケート等で外部委託化に賛成する理由としては、「ケースワーカーの業務負担を軽減し、質の高いケースワークに専念できる」というものが多い。一方、支援者や当事者の立場からは、「3科目主事」と揶揄され、福祉的専門性も熱意も持ち合わせず、単に高圧的な現在のケースワーカーよりは、民間の専門職にケースワークを任せた方が「今よりまし」ではないか、という声(「よりまし」論)も聞かれる。
しかし、ケースワーク業務の外部委託化を推進しているのは、自民党と大阪府等の一部自治体であり、その「真の狙い」を見極めれば、上記のような考えは、「甘い」と言わざるを得ない。

(2)政策推進者の本音は福祉予算の削減
 まず、自民党は、2012年4月に発表した「『生活保護制度』見直しの具体策」において、「生活保護給付水準の10%引き下げ」、「医療扶助を大幅に抑制」、「現金給付から現物給付へ」といった提言とともに、「ケースワーカーを民間に委託し、ケースワーカーを稼働層支援に集中させること」を提言した。この政策に通底するのは徹底した「保護費削減策」である。
 また、2017年12月に開催された「生活保護制度に関する国と地方の協議」において、松井一郎大阪府知事は、上記の自民党提案を具体化し、常勤職員で換算していたケースワーカー標準数を非常勤や外部委託で代用可とするよう提案をした。その際の資料(8頁)では、高齢世帯への訪問回数を年2回から1回に減らすことで、現在36名のケースワーカーの平均担当世帯数を126世帯から156世帯に増やしても、なお7名が余分となるので、これを半分の給料で外部委託すれば14名の人員を稼働世帯層に集中投入できる、という門真市を例にあげたシミュレーションが示されている。
 このような外部委託化推進者の本音を見ると、外部委託化されてもケースワーカーの負担は何ら軽減されず、正規公務員の削減と引き換えに外部委託化による官製ワーキングプアが量産されることが必至である 。

(3)外部委託、非常勤化「先進都市」の実態
 既に外部委託化等が進んでいる以下の実例を見ると、上記のような懸念が決して杞憂ではないことが明らかである。
ア 外部委託化の例(東京都中野区)
 東京都中野区では、「高齢者居宅会議支援事業」として、被保護高齢者世帯(約1600世帯)の訪問業務の一部をNPO法人に業務委託し、14名の委託職員が福祉事務所に配置されている(1職員当たり114世帯)。同事業の実施要綱によれば、委託事業の内容は、「居住の実態等の状況を把握するため訪問する」(家庭訪問)や「資産、収入状況、扶養義務者の調査」、「生活保護に係る事務処理の支援」とあるが、先にも述べたとおり、本来これらの事務は、福祉事務所長の指揮監督を受けて、現業員 (ケースワーカー)が執り行うものであり(社会福祉法15条4)、外部委託は法的にも認められていない。また、調査等業務において福祉事務所から委託職員に業務指示がある場合は、労働者派遣法に違反する「偽装請負」となる可能性が高い(実際の生活保護現場において、柔軟で機動的なケースワークや連携支援を福祉事務所の直接の業務指示なしに行うことは不可能に近い)。
 他方、中野区は東京23区でもっともケースワーカーの人員体制が悪い区であり、標準定数83人配置すべきところ、57人しか配置されていない(充足率67%、26人も不足。2018年4月時点)。外部委託がケースワーカー人員不足の一時的な穴埋めとして使われている。

イ 非常勤職員化の例(大阪市)
 大阪市では、2000年より高齢者世帯については、380世帯(現在は280世帯)に対してケースワーカーは1人の配置とし、訪問嘱託員2-3名が家庭訪問をする実施体制をとった。これにより、ケースワーカーは、本来1,482人配置すべきところ1,009人しか配置されず(充足率68%、423人も不足)、高齢者世帯以外の世帯も含めて、ケースワーカー1人当たりの担当世帯は、標準数80を大幅に上回る114世帯となっている(2018年)。
 高齢者世帯において、ケースワーカーが面接・訪問を行わないため、適切なアセスメントができず、必要な支援が実施できていない。訪問嘱託員が、訪問先で一時扶助などの相談を受けても、「私はケースワーカーではないので分からない」「ケースワーカーに伝えます」という対応になってしまっている。結局、利用者にとって、実質的にケースワーカー不在という状態となり、支援の後退が明らかである。
 現状は非常勤職員という形態であるため、雇用や職員配置の責任や市民とのトラブル等の場合に対応する責任は大阪市にある。しかし、非常勤職員が行っている家庭訪問などが外部委託化されれば、大阪市はその責任を直接問われなくなってしまう恐れがあり、ケースワークの形骸化は一層、進むと言わざるを得ない 。

7 あるべき改善の方向性
 現に生じているケースワーカーの人員と専門性の不足から来る業務過多や不適切なケースワークを解消するためには、業務の外部委託ではなく、以下の方策を講じるべきである。
(1) 正規公務員であるケースワーカーの増員と専門職採用の推進
 ケースワーカーが業務過多となっているのは、社会福祉法が定める標準数(1人あたり都市部80世帯、郡部65世帯)を大幅に超える世帯数を担当していることに起因している。法制定時の理念どおり、有給公務員(正規職)のケースワーカーを当然の前提として、法的拘束力のない「標準数」を拘束力のある「法定数」に戻すとともに、担当世帯数の上限をまずは都市部60世帯、郡部40世帯程度に下げることが必要である。
 また、ケースワーカーの専門性が欠如している現状は、「専門社会福祉事業職員設置という世界の趨勢に応ずる社会福祉主事」という現行法制定時の法の理念が実現していないのであるから、社会福祉士等の資格保持者や福祉職経験者の専門職採用を進めるとともに、現職者に対しては研修を通じた資格取得の援助を行うことが必要である 。

(2) 調査事務、徴収事務の簡素化による事務負担の軽減
 ケースワーカーの業務過多の原因は、広範で厳密に過ぎる調査事務、徴収事務にも起因しているので、効率的な業務のために簡素化が必要な事務を洗い出し、事務負担の軽減を図る必要がある。例えば、次のような対応が考えられる。

① 年1回の「資産申告書」の一律徴収(2015年度より実施)を見直し、金銭管理が困難な入院・入所者等に限定して実施する。
② 扶養照会は、生活保持義務関係にあっても「扶養の期待可能性のある扶養義務者」に限って行えばよいこととし、他の実施機関や市町村への間接照会についての規定は削除すること。
③ 福祉事務所の過誤払いや、休眠口座の預金など悪意でない少額の不申告資産・収入については徴収免除可能とする。


 また、全国の福祉事務所が使用している生活保護システムは、およそ30数年前から保護費の算定を主な目的として、各自治体が個別に開発したり、既成のソフトを使用したりしてきた。AIの活用が叫ばれる今日、多くの福祉事務所が使用する生活保護システムは陳腐化しており、非効率的である。ケースワーク業務を効率化するために国が責任をもって生活保護システムの改修に取り組むべきである。

以 上



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