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 2020年2月、八尾市で生活保護を利用している母子が餓死するという痛ましい事件が起きました。
 調査団を結成して調査を重ね、2021年2月16日、同市に対して、「母子餓死事件をふまえて生活保護行政の改善を求める要望書」を提出したところ、八尾市からは、同年3月31日付で簡素な回答書が届きました。
 また、大阪府も八尾市に対する事務監査を実施し、これを受けて八尾市は、3月25日、大阪府に報告書を提出しています。

■令和3年2月25日付 大阪府の八尾市に対する「生活保護法施行事務監査の結果について(令和2年度)
■令和3年3月25日付 八尾市の大阪府に対する「令和2年度 生活保護法施行事務監査の措置結果について(報告)
安否確認マニュアル・辞退チェックシート

 私たちは、こうした書面を検討したうえで、2021年7月28日朝、八尾市役所の門前でチラシを配布するとともに、改めて「生活保護行政に関する意見書」を提出し、意見交換を行いました。
 意見交換において、八尾市側は、事件については内部で十分に検証していると言いながら、「確認できる事実関係を整理した書面は今つくっているところで、いつ完成するかは明確には言えない」と述べるなど、事実解明に消極的な態度に終始しました。残念ながら、事件を真摯に分析し反省する姿勢は全く見られず、このままでは第二、第三の悲劇が起きかねません。
 
■チラシ「二度と悲劇を起こさないためにもケースワーカーの増員が必要です!




2021年7月28日


母子餓死事件を踏まえた生活保護行政に関する意見書


八尾市長 大松 桂右 殿
       

八尾市母子餓死事件調査団
共同代表 井上 英夫(金沢大学名誉教授)
同    尾藤 廣喜(生活保護問題対策全国会議代表幹事)
同    矢部あづさ(八尾社会保障推進協議会会長)
 
(連絡先)530‐0047大阪市北区西天満3-14-16 西天満パークビル3号館7階
あかり法律事務所 電話06(6363)3310 FAX06(6363)3320
事務局 弁護士 小久保 哲郎



 2020年2月,貴市で生活保護を利用していた女性(当時57歳)及び同居の長男(当時24歳)が居室内において死体で発見された件(以下,「本件餓死事件」といいます。)について,当調査団が本年2月16日付で提出した要望書に対して,貴市からは令和3年3月31日付回答書による回答をいただきました。また,大阪府が貴市に対して令和3年2月25日付で通知した「生活保護法施行事務監査の結果について」に対して,貴市は,大阪府に対し,令和3年3月25日付で「令和2年度 生活保護法施行事務監査の措置結果について(報告)」を提出しました。
 当調査団は,これらの書面を検討しましたが,貴市の対応策は,本件餓死事件についての真摯な分析と反省を欠いたまま,的外れで表面的な弥縫策を列記するにとどまっています。本件のような餓死事件が発生するという事態の深刻さに対する自覚がないため,本質的な改善策とは程遠いものと言わざるを得ません。
 以下,問題点を具体的に指摘しますので,改めてご検討のうえ,対応方法について,本年8月末日までに書面にて,ご回答いただけますよう,お願い致します。


第1 本件餓死事件の事実関係解明と検証委員会設置について
1 当調査団の要望内容
 「貴市において発生した母子餓死事件の事実関係を徹底的に解明し,再発防止策を提言することを目的とした,学識経験者及び当事者等の第三者による検証委員会を設置してください。」

2 貴市の回答内容
 「内部で当該事案の事実確認を行うとともに,民生委員・児童委員と協力しながら安否確認マニュアルを作成し,組織としてしっかり対応しながら,職員自らも主体的に業務改善に取り組んでいるところであり,第三者委員会の立ち上げについては,考えておりません。」

3 評価
(1)  本件餓死事件についての真摯な反省と分析を欠いていること
 そもそも貴市は,事件発覚当初から「個人情報」を盾として本件餓死事件の事実関係の解明に消極的で,当調査団が要望書を提出した当初から,第三者による検証委員会の設置はしない旨断言するなど,事件を真摯に反省した上で再発防止策を構築するという姿勢が全く見られません。
 当調査団は,要望書において,本件餓死事件の問題点として,①長男がいるのに母親単身世帯としての保護費しか支給していなかったこと,②厚労省が示す目安の4倍である月2万円もの保護費の返還をさせていたこと,③2カ月にわたり保護費を受け取りに来なかったのに安否確認を怠ったこと,④安易かつ杜撰な「失踪」を理由とする保護廃止決定を行ったことを指摘しました。
 しかし,当調査団への回答書や大阪府への報告書を見ても,上記の諸点を問題であると自覚した上での具体的な改善策の記載は全く存在せず,大阪府への報告書では,「実施機関としての対応の統一化」「ケース診断会議による組織的検討」「訪問調査活動の充実強化及び組織的進行管理」といった表面的な対応策が列記されるにとどまっています。
 本質的な反省を欠いたまま形式を整えることに汲々としていることからすれば,様々な書類の作成や形式的な診断会議が増えることによって,より一層実質的なケースワークが行えなくなるリスクさえあります。

(2)  全く的外れの「安否確認マニュアル」
 唯一上記③に対する具体策として策定された「安否確認マニュアル」は,「安否確認が取れない事態が発生した場合」に,「可能な範囲で被保護者宅の室内及び居宅の様子を窺う」,「電気メーター,ガス使用量,水道メーターをそれぞれ確認し,記録する」,「現在の状況を迅速に査察指導員に報告し,今後の対応を協議する。」等の“言わずもがな”のごく当たり前の事柄を何度も重複しながら9ページにもわたって列記する内容となっています。
 本来,安否確認を行わなければならないような深刻な事態に陥らないために日常的にどのような支援をする必要があったのかという点こそ,反省し解明しなければならないことのはずです。こうした基本的視点を欠いたまま,「安否確認マニュアル」を策定したことをもって「組織としてしっかり対応」している旨強調するのは,「最悪の死亡事例さえ回避できればよい」という前提に立っているものであり,的外れの対応というほかありません。

第2 実施体制について
1 当調査団の要望内容
 「ケースワーカーの人員を増やして「標準数」を満たすとともに,福祉専門職採用を進め,外部の専門家による研修を充実させるなどして,その専門性を強化してください。」

2 貴市の回答内容
 「生活保護制度の適正な運営を図るためにも,実施体制を整備することの必要性は十分に認識しておりますが,未だ現業員は社会福祉法に定める標準数に比して著しく不足している状況となっており,現業員の増員等については,検討してまいりたいと考えております。
 また,現業員等の研修については,さらなる充実や改善を図るため,その内容や方法等を検討して参ります。」

3 評価
(1) 却って悪化している実施体制~1人あたり133世帯、大阪府内最悪の配置数
 貴市におけるケースワーカーの人員配置については,大阪府の監査でも,平成27年には27人,平成28年と平成29年には23人,平成30年には25人,令和元年には27人の人員不足を指摘されていましたが,令和2年も27人が不足しています。
 府の監査でも,毎年,訪問計画に沿った訪問頻度が確保されていない事例,長期未訪問の事例等が指摘され,訪問実績等に何らかの問題があると判断されたケースの割合(訪問問題率)は,令和元年度で47.9パーセントに及びます。また,令和2年度の監査でも,「今回の監査において,是正改善が必要であると認められた事項については,実施体制の未整備が少なからず影響しているものと思われ,このことは,現業員及び査察指導員に対し過度の負担を強いることとなり,結果として効果的な指導援助ができず,ケースワークの停滞を招くことになります。」と指摘されているところです。
 都市部のケースワーカー一人当たりの担当ケース数の「標準数」は80世帯ですが,貴市のそれは,「標準数」を大きく上回るだけでなく,平成24年4月の120世帯から令和2年4月の128世帯へと悪化していました。これは、大阪府内の自治体で最悪の配置数です。他の中核市も、豊中市(116世帯)、高槻市(106世帯)、寝屋川市(101世帯)、東大阪市(110世帯)と、決して褒められるべき配置数ではありませんが、その中でも八尾市の担当世帯数の多さが突出していることが分かります(2020年度大阪社保協自治体キャラバン資料130頁)。
 今般の母子餓死事件をふまえて、さすがに人員増加が図られることが期待されていましたが、蓋を開けてみると、令和3年4月においては133世帯と更に悪化し、大阪府内最悪の配置数を更新している始末です。

ケースワーカー数被保護世帯数1人当たり世帯数
平成28年4月475,657120
平成29年4月475,714121
平成30年4月465,744124
平成31年4月455,797128
令和2年4月465,905128
令和3年4月45(実質)5,987133


 専門職である社会福祉士については3名から7名に増員されたことは評価できますが,肝心の担当世帯数がより悪化しているようでは,専門職が専門性を発揮して充実したケースワークを行う前提条件を欠くと言わざるを得ません。第1で述べたとおり,形式的な書類作成や会議の業務が増えることとなれば,より一層ケースワークの崩壊が進むことが危惧されます。

(2) 求められる,首長をはじめとする貴市幹部の決断
 「実施体制を整備することの必要性は十分に認識しており,従前から人事担当課等に対しては現業員等の増員を強く要求してまいりました。」等の大阪府に対する報告内容も合わせ検討すると,貴市生活保護部局としては増員の必要性を十分に認識しつつも,人事担当部局の理解が得られず増員に至っていない状況がうかがえます。
 その意味では,貴市生活保護部局だけの責任ではなく,首長をはじめとする貴市幹部の理解と決断が強く求められるところです。

(3) 職員研修について
 大阪府への報告書には,「職場研修を抜本的に拡充し,現業員,査察指導員,管理職全ての職員に対して,生活保護法の制度改正及びその内容,様々な援助困難ケースへの対応経過,関係部署の業務内容等から月1回テーマを決めた上で,研修を実施します。」と記載されていることからすると,基本的に講師も含めて職場内での研修実施を想定されているようです。
 しかし,本件餓死事件に表れた貴市の対応から見ると,貴市職員が生活保護制度や保護の実施要領等に関する十分な理解をしていると評価することは困難であり,内部研修のみでは限界があると考えられます。
 法の基本理念や争訟の具体例,他の自治体における運用事例なども踏まえた外部講師による研修を行うことが強く望まれます。面談時にも申し上げたとおり,当調査団としては,研修内容の検討や講師の派遣等について協力する用意がありますので,ぜひご相談ください。

第3 組織的検討体制の確立
1 当調査団の要望内容
 「被保護者の安否不明等の重大事態が発生した場合や,保護の停廃止等の重要な判断を行う場合には,組織内で情報共有し,適時にケース診断会議を開催できるよう,組織的な検討体制を確立してください。」

2 貴市の回答内容
 「特に複雑困難な問題を有するケースについての援助方針や措置内容等について検討審査を要する場合や,安否不明など緊急的な対応が求められる場合等において,組織的な情報共有を図り,管理職を含め係長以上の職員が出席するケース診断会議等に諮り,速やかに具体的対応について,組織的検討を行う体制を確立します。」

3 評価
 組織的検討を行う体制を確立する姿勢を示されたこと自体は一歩前進ではあります。しかし,第1及び第2で指摘したとおり,本件餓死事件に関する真摯な反省を欠いたまま,人員体制はむしろ悪化し,管理職を含めて専門性を確保するための研修が担保されていない状況では,形式的な会議が増えて新たな業務負担となったり,会議をしても正しい方針が出せずにむしろ組織的に迷走を深めるおそれがあります。
 組織的検討も,人員体制の改善と専門性の確保と車の両輪で行わなければ,効果がないことが明らかであり,後者の点の改善策を緊急に講じることが求められています。

第4 辞退廃止の乱発を止めること
1 当調査団の要望内容
 「本来,極めて例外的にしか認められない辞退廃止の乱発を直ちに改めるとともに,稼働年齢層に対して保護の適用を抑制する姿勢を速やかに是正してください。」

2 貴市の回答内容
 「保護受給中の者から辞退届が提出された場合には,(略)辞退届が任意かつ真摯な意思に基づく有効なものかを確認するとともに,自立の目途を十分に聴取し,保護を廃止することで直ちに急迫した状況に陥ることのないよう留意し,組織的検討の上,決定を行っております。」

3 評価
(1) 辞退廃止の異常な多さについての振り返りと反省を欠いていること
 当調査団が要望書で問題を指摘したのは,貴市における保護廃止総数に占める「親類縁者の引取り」「他市転出」「辞退」の件数と割合の異常な多さです。これらは,いずれも要保護性の消滅が確認できていない場合であり,特に辞退廃止の異常な多さは,貴市職員側から不適切な辞退の働きかけが行われていることが強く疑われるのであり,こうした実務運用の問題の重大性に対する振り返りと反省を欠いたままでは,不適切な運用が改善されるとは到底考えられません。

(2) 全く改善されていない不適切な「辞退チェックシート」
 貴市は,「辞退チェックシート」を「改善」したとしていますが,上記のとおり,問題の本質を理解していないため,新シートも以下のとおり問題だらけです。
・そもそも「架電」による確認を可としている。
・肝心の「辞退理由」の確認がない。
・保護を継続利用する権利があることの教示をすることとされていない。
・最低生活費と今後の収入見込みの具体的金額を記入し,教示することとなっていない。保護廃止後の生活の見通しについても,その具体的内容を記載する欄がない。
 これでは,以前からの不適切な辞退廃止を温存強化することとなる恐れがあると言わざるを得ません。
 
以 上






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