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厚生労働大臣と生活困窮者自立支援及び生活保護部会に「大学生等への生活保護の適用についての申入書」を提出しました。



2022年10月3日

厚生労働大臣 加藤 勝信 様
社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会部会長 菊池 馨実 様

生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾 藤 廣 喜


大学生等への生活保護の適用についての申入書


 社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会(以下「部会」といいます。)における議論について、以下のとおり申し入れます。

第1 申入れの趣旨
 当事者の実情や支援者の意見を踏まえて、大学生や専門学校生等(以下「大学生等」といいます。)に対する生活保護の適用についての議論を行ってください。

第2 申入れの理由
 1 はじめに
 2022年6月3日、部会での議論が始まりました。5年に一度の部会であり、私たちはそこでの議論に注目をしていました。私達の中で特に関心が高かったのが「大学生等への生活保護の適用」に関する議論です。この問題について議論が前進するのではないかと期待をしていました。
 しかし、8月24日の部会の資料として厚生労働省のホームページに掲載された資料「社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会におけるこれまでの主な意見」は、それまでの部会の議論をまとめたものとされていますが、「大学等への進学について」という項目には以下のような意見が並んでいました。

・被保護者世帯及び一般世帯の共通の課題として、生活保護の枠組みにとらわれず、修学支援新制度等による教育施策の中で幅広く検討すべき。
・奨学金やアルバイト等で学費・生活費を賄っている学生もおり、一般世帯との均衡を考慮すべき。
・大学進学に係る生活保護の適用を認めると、相当数が保護の対象となるのではないか。
・大学進学に係る生活保護の適用については慎重に検討すべき。大学進学しなくとも活躍できる機会は多くあり、高校卒業後直ちに就職する場合の支援についても強化すべき。
・コロナ禍で困窮した大学生について一時的に生活保護を利用可能とすべきではないか。

 意見のうち4つは大学生等への生活保護の適用に消極的なものです。このような中間的なとりまとめがなされている状況を見ると、最終とりまとめにおいても大学生等への生活保護の適用については消極的な結論となるのではないかと、私達は危機感を抱き、今回の申入れを行うこととしました。

 2 虐待当事者は生活保護を必要としていること
 大学生等への生活保護の適用が必要な例として、虐待当事者がいます。
 虐待を受けていた大学生が虐待を逃れるため、自宅を出て支援団体に支援を求めた場合、現状では大学等を退学することを勧めざるを得ません。現在の生活保護の運用では、大学に在籍したまま生活保護を受給することを原則として認めていないためです。
 虐待から逃れた大学生は、自分の尊厳を守るために逃げ出したのに、それと引き換えに大学で学ぶ権利、学ぶことで開ける将来の希望を諦めなければならないのです。
 実例として、中村舞斗さん(NPO法人虐待どっとネット代表理事)の例を挙げます。中村さんは虐待から逃れ、自分でアルバイトをした上で大学に進学をしましたが、心身に不調を覚え、医療を受けるために福祉事務所で生活保護を申請しようとしました。ところが、福祉事務所のケースワーカーから「大学は贅沢品です」といわれ、申請をすることができませんでした。中村さんは絶望し、自殺未遂を図って入院し、大学を退学することになりました。
 もし、中村さんに生活保護が手を差し伸べていれば、中村さんはここまで追い詰められなかったかもしれません。ただ、今も同じように生活保護から排除されている虐待当事者は存在しています。
 現在の運用は、こういった一時的にでも支援をすべき大学生さえ、排除するものになっているのです。

 3 部会の資料にも大学等への進学を認めるよう求める意見があったこと
 2022年8月24日の部会の資料を見ると、大西連さん(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長、内閣官房孤独・孤立対策担当室 政策参与)は「生活保護を「入りやすい制度」へ移行することが必要。」とした上で「・大学等への世帯内就学の実現」をその1つとして挙げています。また、大西さんが参考資料として提出した「生活保護制度の改善および適正な実施に関する要望」では、「第1 に、保護開始時において、現に大学で就学している者が、その課程を終了するまでの間、あるいは特定の貸与金、給付金等を受けて大学で就学する場合に、その者を世帯から分離することなく、保護を行うよう、生活保護法ならびに関連する通知等の改正もしくは改訂を行うこと。
第2に、高等学校等をかつて修了した場合であっても、保護を受けながら専修学校および各種学校へ進学することが認められるよう、局長通知第 1-3 および関連する通知等の改訂を行うこと。」(11頁)を求めています。
また、一般社団法人若草プロジェクト(鵜飼参考人)からの資料には「生活保護に関して、我々が今一番困っていること 大学生が受けられないこと」と、1ページを使って大書されています。そして「私達が直面している困難なケース」として、以下のようなケースが挙げられていました。

・大学生(あるいは進学予定の高校生)
・実家で一緒に暮らす親から虐待を受けている
・本人は、実家を出たい
・親は、実家を出ることに反対している
・親からは、家を出るなら大学の学費や生活費を出さないと言われている
・貯金もない

こういった事例は、まさに上記3で伝えた状況と同じです。
このように、部会が意見を聞いた支援者も、重要な問題として大学生等が生活保護を受けられないことを問題として挙げているのです。

 4 大学等への進学も最低限度の生活の保障に含まれる段階にあること
 現在の大学等への進学率は、厚生労働省の調査では2020年の段階で全世帯では73.4%です。この数字はいわゆる浪人生を除いたもので、文部科学省の「学校基本調査」では2021年の段階で83.8%と8割を超えています。
 1970年に生活保護を受給する世帯からの高校への進学が認められましたが、このときには進学率が8割を超えたことを理由としていました。それを考えれば、すでに大学等への進学についても、生活保護制度内で認めることができるはずです。

 5 まとめ
 大学生等への生活保護の適用は、生活保護法を変えることなく、厚生労働省が通知を変更すれば実現します。
 現実に困っている当事者がいることは、支援する側に立っている私達は知っています。部会で支援者の意見を聞いた方々も理解されているはずですが、さらに当事者の声にも耳を傾けてもらいたいと考えています。
 その上で、大学生等への生活保護の適用の必要性を認め、それに一歩でも二歩でも前進するような意見をとりまとめていただくよう要望します。


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2022/10/3


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