「2023年度の生活保護基準額改訂(据置と一部増額)の一刻も早い実施と大幅な増額等を求める要望書」を提出しました。
1 国の対応策
当会議は、2023年度からの生活保護基準の在り方を検討した生活保護基準部会の報告書が2022年11月に出された際、また、2023年度からの生活扶助基準額の減額を見送る政府方針が2022年末に公表された際、それぞれ緊急声明を発し(2022年12月5日と同年同月21日、当会議ブログ参照)、現下の異常な物価急騰を踏まえた生活保護基準の引き上げ、低所得者の消費水準と比較する検証方法からの脱却、級地の統合についての専門的検証を求めてきた。
その後、国は、次の通り、2022年度からの生活保護基準の据え置きと一部増額の方針を示した。
2023~2024年度の生活扶助基準額の「見直し」内容
⑴ 生活保護基準部会の検証結果の反映
①夫婦子1人世帯では、2%増額。年齢・級地・世帯人員別の較差体系の見直し
②ただし、年齢別較差は2分の1を反映。第2類額の級地間の較差は設けない。
⑵ 足下の社会経済情勢を踏まえた当面の臨時的・特例的対応(2023~2024年度の2年間)
①2019年当時の消費水準(検証結果反映後)に一人当たり月額1,000円を特例的に加算
②①の措置をしても現行基準が減額となる世帯については、現行の基準額を保障
⑶ 2025年度以降の生活扶助基準額の検討
○2025年度の予算編成過程において改めて検討。上記検証結果を適切に反映の上、これまでの基準見直しにおける配慮を参考にしつつ、その時の社会経済情勢を勘案。
⑷実施時期 2023年10月 財政影響額 130億円(2023年度は60億円)
しかし、上記の国の方針は、第2次オイルショック以来の40年ぶりの物価急騰が収まらない下で、昨年来の物価高に苦しめられている生活保護世帯の厳しい生活に対処するための対応策としては、不十分というほかないため、当会議は、国に対し、改めて以下の対策を求めるものである。
2 問題点
⑴ 実施時期
実施時期が2023年10月からとされていることからすると、生活保護世帯は、同年9月迄現行基準での生活を強いられる。2022年の物価高騰(3%)について丸1年間手当されないまま、さらに半年待たされることになる。
⑵ 改訂案では現下の物価急騰には到底追いつかない
令和5年度政府経済見通し(2022年12月22日)によれば、2022年度の消費者物価は3%上昇したとされており、2023年度は1.7%の上昇が見込まれている。今後の状況も極めて厳しく、2023年値上げが予定される食品や飲料は7000品目を超える見込みである(2022年12月30日NHK)。引き上げ幅も少なくとも3%(2022年度分)+1.7%(2023年度分)=4.7%が必要となる。この点からすれば、表において、4.7%を超えるのは、夫婦子1人世帯(2級地の1)をはじめ表の27類型のうち2、3級地の5類型だけある。逆に1級地1の高齢者世帯では高齢単身世帯(65歳)、高齢夫婦世帯(75歳夫婦)、高齢単身世帯(75歳)では増額無く、若年単身世帯(50代)も増額なしとなっており保護世帯のうち8割を占める単身世帯では増額がないおそれがある。
結局、今回の改定案では、生活保護世帯の生活水準は実質的に悪化が不可避と言わざるを得ない。
⑶ 基準部会報告の反映結果と低所得者との比較方法の破綻
厚労省は、年齢格差を2分の1とした上で、標準世帯(夫婦子1人)では、標準世帯では基準額を2%アップする方針としたが、世帯類型ごとの具体化の結果、65歳高齢世帯では1級地の1で減額、75歳以上の高齢世帯は全級地で減額改定となる見込みであった。また、1級地の1が、9類型中7類型で減額となる上、増額となる2類型でも増額幅は他の2つの級地より少ない。
結局、基準部会の検証結果について年齢格差を2分の1として反映させても、生活保護世帯の半分を超える高齢者世帯と、同じく4割を占める大都市部居住世帯(1級地の1)において、引き下げとなるものであったことになる。
このことは、年金の減額などによって収入の減少が続く低所得高齢者等との比較を始めとする低所得層との比較という現行の手法が破綻していることを示すものである。
3 要望事項
そこで、当会議は、国に対し、以下の項目を要望するものである。
⑴ 改訂基準額の実施時期については、2023年10月を待たず可及的速やかに実施すること
⑵ すべての世帯に対して、最低4.7%の生活扶助基準の増額を行うこと
⑶ 低所得層の消費水準との比較による検証を止め、現行基準を維持しつつ、MIS手法などの新たな検証手法を期限を決めて早急に開発すること
【表】 世帯類型ごとの生活扶助基準額(「令和5年度厚生労働省所管予算関係」より)
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2023年2月20日
2023年度の生活保護基準額改訂(据置と一部増額)の
一刻も早い実施と大幅な増額等を求める要望書
一刻も早い実施と大幅な増額等を求める要望書
生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾 藤 廣 喜
〒530-0047 大阪市北区西天満 3 丁目 14 番 16 号
西天満パークビル 3 号館 7 階あかり法律事務所
電話 06‐6363-3310 fax06‐6363-3320
事務局長 弁護士 小久保 哲 郎
代表幹事 尾 藤 廣 喜
〒530-0047 大阪市北区西天満 3 丁目 14 番 16 号
西天満パークビル 3 号館 7 階あかり法律事務所
電話 06‐6363-3310 fax06‐6363-3320
事務局長 弁護士 小久保 哲 郎
1 国の対応策
当会議は、2023年度からの生活保護基準の在り方を検討した生活保護基準部会の報告書が2022年11月に出された際、また、2023年度からの生活扶助基準額の減額を見送る政府方針が2022年末に公表された際、それぞれ緊急声明を発し(2022年12月5日と同年同月21日、当会議ブログ参照)、現下の異常な物価急騰を踏まえた生活保護基準の引き上げ、低所得者の消費水準と比較する検証方法からの脱却、級地の統合についての専門的検証を求めてきた。
その後、国は、次の通り、2022年度からの生活保護基準の据え置きと一部増額の方針を示した。
2023~2024年度の生活扶助基準額の「見直し」内容
⑴ 生活保護基準部会の検証結果の反映
①夫婦子1人世帯では、2%増額。年齢・級地・世帯人員別の較差体系の見直し
②ただし、年齢別較差は2分の1を反映。第2類額の級地間の較差は設けない。
⑵ 足下の社会経済情勢を踏まえた当面の臨時的・特例的対応(2023~2024年度の2年間)
①2019年当時の消費水準(検証結果反映後)に一人当たり月額1,000円を特例的に加算
②①の措置をしても現行基準が減額となる世帯については、現行の基準額を保障
⑶ 2025年度以降の生活扶助基準額の検討
○2025年度の予算編成過程において改めて検討。上記検証結果を適切に反映の上、これまでの基準見直しにおける配慮を参考にしつつ、その時の社会経済情勢を勘案。
⑷実施時期 2023年10月 財政影響額 130億円(2023年度は60億円)
しかし、上記の国の方針は、第2次オイルショック以来の40年ぶりの物価急騰が収まらない下で、昨年来の物価高に苦しめられている生活保護世帯の厳しい生活に対処するための対応策としては、不十分というほかないため、当会議は、国に対し、改めて以下の対策を求めるものである。
2 問題点
⑴ 実施時期
実施時期が2023年10月からとされていることからすると、生活保護世帯は、同年9月迄現行基準での生活を強いられる。2022年の物価高騰(3%)について丸1年間手当されないまま、さらに半年待たされることになる。
⑵ 改訂案では現下の物価急騰には到底追いつかない
令和5年度政府経済見通し(2022年12月22日)によれば、2022年度の消費者物価は3%上昇したとされており、2023年度は1.7%の上昇が見込まれている。今後の状況も極めて厳しく、2023年値上げが予定される食品や飲料は7000品目を超える見込みである(2022年12月30日NHK)。引き上げ幅も少なくとも3%(2022年度分)+1.7%(2023年度分)=4.7%が必要となる。この点からすれば、表において、4.7%を超えるのは、夫婦子1人世帯(2級地の1)をはじめ表の27類型のうち2、3級地の5類型だけある。逆に1級地1の高齢者世帯では高齢単身世帯(65歳)、高齢夫婦世帯(75歳夫婦)、高齢単身世帯(75歳)では増額無く、若年単身世帯(50代)も増額なしとなっており保護世帯のうち8割を占める単身世帯では増額がないおそれがある。
結局、今回の改定案では、生活保護世帯の生活水準は実質的に悪化が不可避と言わざるを得ない。
⑶ 基準部会報告の反映結果と低所得者との比較方法の破綻
厚労省は、年齢格差を2分の1とした上で、標準世帯(夫婦子1人)では、標準世帯では基準額を2%アップする方針としたが、世帯類型ごとの具体化の結果、65歳高齢世帯では1級地の1で減額、75歳以上の高齢世帯は全級地で減額改定となる見込みであった。また、1級地の1が、9類型中7類型で減額となる上、増額となる2類型でも増額幅は他の2つの級地より少ない。
結局、基準部会の検証結果について年齢格差を2分の1として反映させても、生活保護世帯の半分を超える高齢者世帯と、同じく4割を占める大都市部居住世帯(1級地の1)において、引き下げとなるものであったことになる。
このことは、年金の減額などによって収入の減少が続く低所得高齢者等との比較を始めとする低所得層との比較という現行の手法が破綻していることを示すものである。
3 要望事項
そこで、当会議は、国に対し、以下の項目を要望するものである。
⑴ 改訂基準額の実施時期については、2023年10月を待たず可及的速やかに実施すること
⑵ すべての世帯に対して、最低4.7%の生活扶助基準の増額を行うこと
⑶ 低所得層の消費水準との比較による検証を止め、現行基準を維持しつつ、MIS手法などの新たな検証手法を期限を決めて早急に開発すること
以上
【表】 世帯類型ごとの生活扶助基準額(「令和5年度厚生労働省所管予算関係」より)


2023/2/20