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2012(平成24)年5月17日

白石区姉妹餓死事件をふまえて生活保護行政の改善を求める要望書


札幌市長 上 田 文 雄 様
 
                       全国「餓死」「孤立死」問題調査団
                             団長 井 上 英 夫

第1 要望の趣旨

1 生活保護の受付面接時における申請権侵害を根絶するため、以下の事項を徹底されたい。
 ① 全ての福祉事務所の窓口の誰もが手に取れる場所に生活保護申請書を
   備えおくこと。 
 ② 相談にあたって、まず最初に保護申請書を示し、生活保護は誰でも無条
   件に申請する権利があること、原則として申請に基づいて開始される
   ものであること、申請があれば原則として14日以内(例外的に30日以内)
   に要否判定をし書面による決定がなされることなどを記載した説明文書を
   交付したうえで助言、教示すること。

2 生活保護を担当するケースワーカーを増員するとともに、社会福祉士・精神保健福祉士等の資格を持つ者を福祉専門職として積極的に採用するなど生活保護事務の実施体制を強化・改善されたい。

3 白石区は当調査団に対して、姉妹孤立死事件の面接担当職員に対する詳細な事情聴取を実施し事実確認を行うことを約したが、内実ある再調査が行われるよう、同区に対する指導を行われたい。

4 姉妹孤立死事件の事実関係を徹底的に解明し、再発防止策を提言することを目的とした、弁護士、学識経験者等の第三者による事件の検証委員会を設置されたい。

5 指定都市市長会や社会保障審議会の部会などの場を通じて、国に対して、生活保護制度の充実のために必要な諸事項を要求されたい。



第2 要望の理由

1 はじめに

 2012年1月20日、札幌市白石区において、「餓死」「孤立死」した40代の姉妹が発見された。この事件は、現代社会における都市部のマンションで「餓死」「孤立死」が発生した点で衝撃的であるだけでなく、姉が3回にわたって福祉事務所に生活保護の相談に訪れているにも関わらず、生活保護の受給に至らず死亡しているという点において、極めて深刻な問題を含んでいる。
 同区においては、1987年1月にも、3人の子どもをもつ母子家庭の母親が、再三福祉事務所に保護申請をしたにもかかわらず、「働けば何とか自活できるはず」「離婚した前夫の扶養意思の有無を書面にしてもらえ」などと述べて保護申請として処理せず放置した結果、餓死するという事件が発生している。それから25年を経て、同様の悲劇が繰り返されたのは、決して突発的な事象ではなく、同区の保護行政が抱える根深い問題が象徴的に表れたものと考えられる。
 しかし、残念ながら、同区の回答や対応を見ると、本件に関する真摯な分析や反省がなされているとは到底言い難く、事の重大性を認識しないまま(あるいは故意に目をつぶり)、本質的ではない対応で事態の収拾を図ろうとしていると言わざるを得ない。
 当調査団としては、調査をふまえ、貴市に対し、以下のとおり要望をするので、意のあるところを汲んで是非とも真摯にご対応いただきたい。なお、本要望書に対して貴市がどのように対応されるかについては、6月末日までに書面で回答をいただきたい。

2 受付面接時の申請権侵害
 前述のとおり、本件では、姉が、平成22年6月、平成23年4月及び6月の3回にわたって福祉事務所に生活保護の相談に訪れているにもかかわらず、生活保護の受給に至っていない。
当該世帯の最低生活費は184,720円であるのに対し、収入は妹の障害年金月額66,008円のみである。約12万円も最低生活費を下回っているうえ、家賃・公共料金の滞納もある明らかな要保護世帯であった。白石区保護課も、2012年5月16日の当調査団との懇談の席において、当該世帯に要保護性があり申請があれば生活保護開始となった可能性が高いことを認めている。
 ところで、生活保護申請をする者は申請意思を明確に示すことすらできないこともままあるから、「申請する」という直接的な表現によらなくとも申請行為があったと認められる場合があるところ(福岡地裁小倉支部平成23年3月29日判決)、少なくとも3回目の相談時、姉は「生活していけない」と生活保護の相談を持ちかけている以上、申請行為はあったと言える。
 一般に福祉事務所職員には、生活保護の相談に訪れた者に対して、保護申請権の存在を助言・教示のうえ、申請意思を確認すべき法的義務があるが、本件の面接員は、当該世帯が要保護であることを明確に認識している以上、より高度の保護申請権の助言・教示義務、申請意思確認義務が認められる。
にもかかわらず、「高額家賃について教示。保護の要件である懸命なる求職活動を伝えた」と記録されていることからすると、①本来保護を否定する理由とはならない住宅扶助基準額を超えたアパートに居住していることを問題視し、②保護の要件でもない「懸命なる求職活動」を要件であると説明したものと推認される。
そうすると、姉から生活保護の申請があったにもかかわらず、職員は、当該世帯の要保護性の高さを十分に認識しながら、上記①②の点について法的に誤った教示・説明を行い、保護の要件を欠くものと誤信させ、保護申請を断念させたものと言える。申請権侵害があったことが明らかであり、しかも、その違法性の程度は極めて高いと言わざるを得ない。
 同様の悲劇の再発を防ぐためには、違法な申請権侵害があったことを率直に認め、二度と申請権侵害が起こらないような具体的な対応策を講じるべきであるから、要望の趣旨1項記載の通り要望する次第である。

3 担当職員の専門性の欠如
 本件の担当職員は、1回目の相談時、2回目の相談時ともに家賃や公共料金が滞納していることを聞きながら滞納の具体的状況を確認せず、預貯金等が残り少ないことを聞きながら残金額を確認せず、体調不良で退職したことを聞きながら疾病の状況や通院状況を確認していない。もっとも基本的な情報を確認することさえ怠っており、ケースワークの基本を欠いていると言わざるを得ない。
札幌市における生活保護「包括外部監査結果」(2012年3月30日)の指摘にもあるように、ケースワーカーの人員配置の見直し、専門化の推進等を進め、ケースワーカーが迅速、効果的に問題に対処できる体制作り等も進めるべきである。
 2012年3月に公表された『札幌市包括監査報告書』によれば、(1)ケースワーカーの業務量が過重になっており、扱う制度が複雑になってきているにも関わらず、(2) ケースワーカー担当経験年数が「1年未満」が23%、「1年以上3年未満」が48%と、3年未満の経験しかないケースワーカーが71%(全国63.3%)も占め、十分な経験を積むことができないことに加えて、(3)社会福祉の専門性のある職員が配置されておらず、業務が滞留し、効果的効率的な生活保護運用ができていないことが明らかになっている。
 また、この報告書には記載されていないが、札幌市は「一般事務(福祉コース)」の採用枠があり、福祉職員への一定の配慮をしているように思われるが、実際には報告書にあるように、生活保護業務の改善にはつながっていない。
 したがって、(1)ケースワーカーの増員、(2)人事異動におけるCW及び福祉業務経験者の割合の増加、(3)社会福祉の専門家(社会福祉士、心理療法士等)の採用、および他法他施策を含めた社会福祉・生活保護の研修の充実が必要である。特に、「福祉コース」採用については、社会福祉士等の有資格者等を優先的に採用し、生活保護業務の専門性に資するよう対策を図る必要がある。

4 白石区による内実ある再調査の履行確保
 白石区は、当調査団の公開質問状に対して、「白石区保護課におきましては、これまでも相談に来られた方に対しまして、生活実態を十分に聞き取り、生活保護制度の説明を行ったうえで、生活保護申請の意思を必ず確認しております。今回のケースにつきましても、白石区といたしましては通常の生活保護相談の同様の対応を行ったものと認識しております」と回答した。同区保護課は、2012年5月16日、当調査団との懇談の席においても、同様の回答をし、申請権侵害等の問題はなかったとの認識を示した。
 その根拠として、2名の担当係長から聴取をしたが記憶が曖昧で面接記録票に記載されている以上の事実関係は確認できなかったこと、一般に相談者に対して生活保護制度の説明と申請意思の確認を行っているので本件でも行っているはずであること、「高額家賃について教示」というのは、住宅扶助は基準額までしか支給されず実際の家賃との差額は生活扶助費からまかなわなければならないことなどを教示したと推測されること、「保護の要件である懸命なる求職活動を伝えた」とは、懸命なる求職活動が保護開始の要件であると伝えたものではなく、保護開始後求職活動が必要であると伝えたものと推測されることなどを挙げた。
 しかし、申請が受け付けられていない者に対して、保護開始後の注意点についての説明を行うというのは不自然であるし、「保護の要件である懸命なる求職活動」という表記からすれば、「懸命なる求職活動」が「保護の受給開始要件」であると説明したと理解するのが素直である。実際、同区保護課は、担当係長からの事情聴取内容について記録化しておらず、上記回答は、係長から確認した事実に基づくものではなく単なる「推測」に過ぎないことが露呈された。
 同区保護課は、調査団に対して、再度担当者から詳細な事情聴取を行ったうえで回答することを約した。貴市におかれても、同区が実のある再調査を実施するよう適切な指導をしていただきたい。

5 第三者検証委員会による徹底した調査の必要性
 上記のとおり、同区保護課は、調査団に対して、面接担当者に対する再調査を約したものの、同時に、「古いことであるから記憶に限界がある」と早速に予防線を張っている。
同区のこれまでの対応を見れば、同区としては「申請権侵害はなかった」という結論先にありきで具体的事実関係についてはできる限り不明確なままにしておき、現場の対応に大きな問題はなかったという形で事態の収拾を図ろうとしていると考えられる。
 同区自身による事実調査は、こうした立場から進められ、客観的事実が歪められる恐れが強い。真実を明らかにするためには、担当係長等の担当者に対する聴取を弁護士、学識経験者等の第三者が行い、中立公正な立場から検証を行うことが必要不可欠である。
 したがって、要望の趣旨4記載のとおり、事実の究明と再発防止策の提言を目的とする第三者検証委員会の設置を求めるものである。

6 生活保護制度の充実のために必要な措置の国に対する要望の必要性
 貴殿は、基本的人権の擁護と社会正義の実現をその使命とする弁護士資格をもつ首長として、公契約条例の実現などに積極的に取り組んでおられ、その姿勢については当調査団としても敬意を表している。 
ところで、生活保護制度の充実と真に適正な実施は、地方自治体の努力のみでは実現が困難な面もあり、国が必要な法改正を行い、実務運用の指針を示し、財政上の措置を講じることによって、よりよく実現することができる。
例えば、保護費の全額国庫負担を実現すること、ケースワーカーの増員のために現在「標準」数となっているケースワーカーの配置基準を以前のように「法定」数に戻すこと、ケースワーカーの専門職採用を促進するために運用指針を示すこと、保護費や人件費に関する地方交付税の算定基準を是正することなどを国に対して求めることが必要である。
 指定都市市長会の副会長であり、社会保障審議会に2012年4月設置された「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」の委員でもある貴殿が、国に対して、こうした諸要求をし、生活保護制度の充実のために積極的な役割を果たすことを当調査団としては期待するものである。

                                 以 上


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